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急・異種獣人同士で子づくり!?ノァズァークのヒミツ編
18.愛のメッセージ
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翌日、ゴズメルは簡単な素材採取任務を一つこなしてから冒険者協会の窓口に行った。
窓口ではリリィも作業している。だが、彼女はゴズメルを見ても、意味ありげに微笑んだだけだった。
ゴズメルはドギマギした。
あのいかにも品のよさそうな受付嬢が、昨夜自分の首にしがみついて『キスして』『抱いて』と、胸をすりつけてきたのかと思うと、めまいがする。そのことは二人だけの秘密だった。
ゴズメルは落ち着いた素振りでリリィに任務達成の報告をした。あわせて鐡刑の塔へ入る許可証を発行してもらう。
「ソロで探索するのね?」
「うん、そうだよ」
リリィは冒険者協会の仕事がある。昨夜、玄関の前で話したことを仕事として確認されるのは気恥ずかしかった。
「トロバスで移動して、まあ順当に行けば明日までには帰って来られると思う」
「……無理しないでね。ゴズメル」
「ん……」
カウンターが邪魔だ。近くに行けないことで、リリィのつやっぽい唇や、細い喉がいっそう魅力的に見える。
注視していると、リリィが恥ずかしそうに身じろぎした。服の擦れるかすかな音とともに、ふっくらした胸が揺れる。ゴズメルはごくっと唾を飲んだ。触ってはいけないと思うと、いやに触りたくなってしまう。
「ゴズメルさん! おめでとうございまーす!」
わきから話しかけられて、ゴズメルは飛び上がった。見るとナナだった。肘に下げたカゴが町の花売りのようだ。
だが、カゴの中に詰まっているのは花ではなくリボンで巻かれた書状だった。
「えっ。えっ、な、なに?」
二人の関係がバレたのかとあたふたするゴズメルに、ナナは無邪気な笑みを浮かべた。
「以前提出いただいた昇格審査の書類が無事に通りましたよっ」
ナナはにぱっと笑って、カゴを頭の上に掲げた。
「これは本部からの招待状です。準備ができたら、これを持ってシラヌイ会長と面談してくださいね」
「あっ。あーっ……!」
ゴズメルはのけぞった。そうだ、すっかり忘れていた。
昇格審査は書類選考だけでは終わらない。本部で面接と実技試験を受けなければならないのである。
本部はアルティカ以西、ノァズァークの首都・ポップルにある。鐵刑の塔とは位置的に正反対だ。
「これって、いつ行かなきゃいけないんだっけ……?」
「えーと……日程についてはシラヌイ会長と相談、ですよね? 先輩……」
「ええ、そうね……」
後輩のナナに話題を振られて、リリィは顎に手を当てた。
「ごめんなさいね、ゴズメル。それじゃ、シラヌイ会長とお話してから、改めて許可証を発行したほうがいいわ。もし今日明日中にポップルに行くことになったら、無駄になってしまうもの」
「うぇえ……」
ゴズメルは肩をがっくりと落とした。
冒険者と言えど、雇われている身である。シラヌイにすぐ行けと言われたら従わざるを得ない。そんなことになったら、リリィとの幸せランデブーが遠のいてしまうではないか。
何も知らないナナは、しっぽを波打たせてゴズメルを励ました。
「ゴズメルさん、緊張しないで大丈夫ですよ。実力は十分なんですから! 先輩もそう思いますよねっ」
「……もちろんよ。ゴズメル、自信を持って行ってらっしゃいよ」
そういう問題じゃない、とゴズメルは思ったが、リリィの小さな笑みを見て文句を飲み込んだ。我慢させられているのは、リリィも同じなのだ。
「わかった……シラヌイじいさんに相談してくる……」
リリィに見送られて、ゴズメルは窓口を後にした。ナナはカゴを持って、該当の冒険者に招待状を配って回っているらしい。階段を上りかけたゴズメルをチョコチョコと追っかけてきて「ゴズメルさん」と呼んだ。
「うん? なんだい」
口に手を当てているので屈むと、小声で「ひょっとして、先輩とケンカしてるのですか」と、囁かれた。
「えっ。どうして」
「……お、思い違いならいいのですが、先ほど先輩を、取って食うような目つきで睨んで……ませんでした?」
ゴズメルは赤面した。そんなにあからさまな顔をしていたのだろうか。
「それで、思ったんですけど……ゴズメルさんとケンカして、先輩は様子が変だったのですか?」
真相からはズレているが、ナナはなかなかの名探偵だった。ゴズメルは大きく咳払いして身を起こした。
「いやっ。それは誤解というものだ」
ナナと長く話していると、リリィがまた焼きもちを焼くかもしれない。ゴズメルは胸を張って言った。
「ケンカなんてしてない。あたしたちは仲よしだし、あんたも今日のリリィを見ただろ。とっても可愛くて、シャキシャキしてて、おいしそ……元気そうだったじゃないか」
口をすべらせたゴズメルに、ナナが「んっ?」と首をひねる。ゴズメルは慌てて付け加えた。
「リリィにも聞いてみてよ! きっとケンカなんてしてない、むしろその逆って言うから……いやでも、実は嫌がってるとかだったら悲しいな……よし、その時はあたしに教えとくれ、ナナ」
「えっと、はい、わかりました! 先輩にゴズメルさんのことを嫌いじゃないか聞いて、その反応をゴズメルさんにお伝えすればいいんですねっ」
「んっ……うん……」
変なことになってしまった。これではゴズメルがナナを使って、リリィを口説いているようではないか。
だが、こうなったら乗りかかった船だ。ゴズメルはもじもじしながら言った。
「じゃ、ついでに、そだなぁ……今日のリリィはすごく綺麗だって、伝えて……」
「それって昨日は綺麗じゃなかったって意味ですか?」
「違うっ。……なんていうのかなあ、上手く言えないんだけど、夜露を受けてキラキラ光る百合みたいに綺麗なんだよ。昨日は……開ききったバラの花みたいに、綺麗だった……」
「はぁ~……なるほど……?」
「いや、今のナシ! ナシったらナシ!」
柄にもないことを言ったゴズメルは赤くなってバツのハンドサインをした。ナナはけらけら笑った。
「ゴズメルさんって、おもしろーい!」
「んもー、笑うんじゃないよ。こっちは真面目に説明してんだからっ」
階段でキャッキャとはしゃぐ声は、二階まで届いたらしい。
二人は執務室から顔を出したシラヌイに、揃って怒られた。
「ゴズメル、ナナ! 油売ってないで仕事しろ!」
窓口ではリリィも作業している。だが、彼女はゴズメルを見ても、意味ありげに微笑んだだけだった。
ゴズメルはドギマギした。
あのいかにも品のよさそうな受付嬢が、昨夜自分の首にしがみついて『キスして』『抱いて』と、胸をすりつけてきたのかと思うと、めまいがする。そのことは二人だけの秘密だった。
ゴズメルは落ち着いた素振りでリリィに任務達成の報告をした。あわせて鐡刑の塔へ入る許可証を発行してもらう。
「ソロで探索するのね?」
「うん、そうだよ」
リリィは冒険者協会の仕事がある。昨夜、玄関の前で話したことを仕事として確認されるのは気恥ずかしかった。
「トロバスで移動して、まあ順当に行けば明日までには帰って来られると思う」
「……無理しないでね。ゴズメル」
「ん……」
カウンターが邪魔だ。近くに行けないことで、リリィのつやっぽい唇や、細い喉がいっそう魅力的に見える。
注視していると、リリィが恥ずかしそうに身じろぎした。服の擦れるかすかな音とともに、ふっくらした胸が揺れる。ゴズメルはごくっと唾を飲んだ。触ってはいけないと思うと、いやに触りたくなってしまう。
「ゴズメルさん! おめでとうございまーす!」
わきから話しかけられて、ゴズメルは飛び上がった。見るとナナだった。肘に下げたカゴが町の花売りのようだ。
だが、カゴの中に詰まっているのは花ではなくリボンで巻かれた書状だった。
「えっ。えっ、な、なに?」
二人の関係がバレたのかとあたふたするゴズメルに、ナナは無邪気な笑みを浮かべた。
「以前提出いただいた昇格審査の書類が無事に通りましたよっ」
ナナはにぱっと笑って、カゴを頭の上に掲げた。
「これは本部からの招待状です。準備ができたら、これを持ってシラヌイ会長と面談してくださいね」
「あっ。あーっ……!」
ゴズメルはのけぞった。そうだ、すっかり忘れていた。
昇格審査は書類選考だけでは終わらない。本部で面接と実技試験を受けなければならないのである。
本部はアルティカ以西、ノァズァークの首都・ポップルにある。鐵刑の塔とは位置的に正反対だ。
「これって、いつ行かなきゃいけないんだっけ……?」
「えーと……日程についてはシラヌイ会長と相談、ですよね? 先輩……」
「ええ、そうね……」
後輩のナナに話題を振られて、リリィは顎に手を当てた。
「ごめんなさいね、ゴズメル。それじゃ、シラヌイ会長とお話してから、改めて許可証を発行したほうがいいわ。もし今日明日中にポップルに行くことになったら、無駄になってしまうもの」
「うぇえ……」
ゴズメルは肩をがっくりと落とした。
冒険者と言えど、雇われている身である。シラヌイにすぐ行けと言われたら従わざるを得ない。そんなことになったら、リリィとの幸せランデブーが遠のいてしまうではないか。
何も知らないナナは、しっぽを波打たせてゴズメルを励ました。
「ゴズメルさん、緊張しないで大丈夫ですよ。実力は十分なんですから! 先輩もそう思いますよねっ」
「……もちろんよ。ゴズメル、自信を持って行ってらっしゃいよ」
そういう問題じゃない、とゴズメルは思ったが、リリィの小さな笑みを見て文句を飲み込んだ。我慢させられているのは、リリィも同じなのだ。
「わかった……シラヌイじいさんに相談してくる……」
リリィに見送られて、ゴズメルは窓口を後にした。ナナはカゴを持って、該当の冒険者に招待状を配って回っているらしい。階段を上りかけたゴズメルをチョコチョコと追っかけてきて「ゴズメルさん」と呼んだ。
「うん? なんだい」
口に手を当てているので屈むと、小声で「ひょっとして、先輩とケンカしてるのですか」と、囁かれた。
「えっ。どうして」
「……お、思い違いならいいのですが、先ほど先輩を、取って食うような目つきで睨んで……ませんでした?」
ゴズメルは赤面した。そんなにあからさまな顔をしていたのだろうか。
「それで、思ったんですけど……ゴズメルさんとケンカして、先輩は様子が変だったのですか?」
真相からはズレているが、ナナはなかなかの名探偵だった。ゴズメルは大きく咳払いして身を起こした。
「いやっ。それは誤解というものだ」
ナナと長く話していると、リリィがまた焼きもちを焼くかもしれない。ゴズメルは胸を張って言った。
「ケンカなんてしてない。あたしたちは仲よしだし、あんたも今日のリリィを見ただろ。とっても可愛くて、シャキシャキしてて、おいしそ……元気そうだったじゃないか」
口をすべらせたゴズメルに、ナナが「んっ?」と首をひねる。ゴズメルは慌てて付け加えた。
「リリィにも聞いてみてよ! きっとケンカなんてしてない、むしろその逆って言うから……いやでも、実は嫌がってるとかだったら悲しいな……よし、その時はあたしに教えとくれ、ナナ」
「えっと、はい、わかりました! 先輩にゴズメルさんのことを嫌いじゃないか聞いて、その反応をゴズメルさんにお伝えすればいいんですねっ」
「んっ……うん……」
変なことになってしまった。これではゴズメルがナナを使って、リリィを口説いているようではないか。
だが、こうなったら乗りかかった船だ。ゴズメルはもじもじしながら言った。
「じゃ、ついでに、そだなぁ……今日のリリィはすごく綺麗だって、伝えて……」
「それって昨日は綺麗じゃなかったって意味ですか?」
「違うっ。……なんていうのかなあ、上手く言えないんだけど、夜露を受けてキラキラ光る百合みたいに綺麗なんだよ。昨日は……開ききったバラの花みたいに、綺麗だった……」
「はぁ~……なるほど……?」
「いや、今のナシ! ナシったらナシ!」
柄にもないことを言ったゴズメルは赤くなってバツのハンドサインをした。ナナはけらけら笑った。
「ゴズメルさんって、おもしろーい!」
「んもー、笑うんじゃないよ。こっちは真面目に説明してんだからっ」
階段でキャッキャとはしゃぐ声は、二階まで届いたらしい。
二人は執務室から顔を出したシラヌイに、揃って怒られた。
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