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急・異種獣人同士で子づくり!?ノァズァークのヒミツ編
16.鳩・ハト・ハート
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ノァズアークで、鳩は幸運を招く鳥だといわれている。動物の鳩はむろん大切にされているし、鳥系の獣人でも白い翼をもつ者は神官の適性があるとみなされ、神殿に勤める場合が多い。
土産物屋でも鳩をモチーフにした商品をたいてい何種類か置いているものだ。
冒険者のゴズメルは見慣れてしまっていて、意匠を凝らした壁掛けや置物と同じように飾り気のない真っ白な偽卵が並べられていることになんの違和感も持っていなかった。
が、偽卵に産卵抑制の役割があると知って、なるほどと思った。一部の神官が気を落ち着かせるために持っていた卵が神聖視された結果なのではないだろうか。
それに神殿では好感度チェックやアジリニ神への祈願を受け付けている。考えてみれば「安産のお守り」として扱われるのは自然なことではあった。
ゴズメルは気の進まなそうなリリィを急き立てた。
「新しいショーツを買ってきてあげる。トイレで着替えたら、一緒に錬成屋へ行こうよ。こんなのが欲しいですって相談すれば、レシピの相談に乗ってくれるはずだ」
「…………」
「えっ? なに?」
声が小さすぎて聞こえない。ゴズメルが耳を近づけると、リリィは「作ってもらうなら、ジーニョおじさまに依頼したいわ……」と言った。
「エッ!」
まさかのご指名に、ゴズメルは腰を抜かしそうになった。
ジーニョは鐵刑の塔に住みついた偏屈な魔道具屋だ。確かに腕はいいし、店の奥には立派な工房もあった。
ゴズメルはおそるおそる尋ねた。
「まさかあんた、ああいうジジイがタイプなの……?」
「そういう意味じゃないわ……! だって、妖精の卵って特徴的なんですもの。光るし、柔らかいし……」
リリィはもじもじと説明した。
「町の錬成屋さんを貶すわけではないけれど、ジーニョおじさまの仕事は別格だわ。それに、私が妖精族だということもすでにご存じだから」
確かに、とゴズメルは思った。
こちらの事情を知らない錬成屋に「妖精の卵に似せて偽卵を作ってくれ」と注文すること自体がリスキーだ。妖精の生き残りがいるのかと思われるかもしれないし、それを避けるために「観賞用にする」と伝えれば、きっと出来に関わってくる。
ただ、ジーニョに依頼するとなると……。
「鐵刑の塔は遠い。今回は珍しい注文だし、品物が届くまでけっこう時間がかかると思うよ。あんた、それまでオナニー我慢できるのかい?」
「…………!」
リリィは素早い瞬きをした。
「……そんなに、私が卵を生むのが嫌なの? ゴズメル」
「嫌なんじゃない。心配なんだ。あんたの体に負担がかかるし、仕事にだって影響が出てる」
「私の体とか、仕事とか、そんなの別に……」
「どうでもいいわけないだろ!」
ゴズメルは本を放り出して怒った。ぱしっと受け止めたリリィに、がみがみと説教する。
「いいか、あんたはあたしの恋人なんだから、世界一幸せに、末永く長生きしなきゃダメなんだ。仕事だって生きてくために必要だよ。敏腕受付嬢のあんたが突然死したら、冒険者協会はもう解散だ。あたしが廃業して野垂れ死んでもいいって言うのか!」
「わかった、わかったわ……」
リリィは本で頭を庇いつつうなずく。ゴズメルはフンッと鼻を鳴らした。
片づけを終えた後、イーユンの言いつけ通り鍵をかけて図書室を後にする。外はもうすっかり暗い。
リリィはそわそわと言った。
「ねえ、まだ怒っているの? 下着を返してよ、ゴズメル……」
ゴズメルは返事せず、リリィを抱き上げた。
「あっ」
腕にリリィの腰を座らせるような恰好だ。ゴズメルは「ちゃんと抱きつきな」と命令した。
「じゃないと、たゆんたゆんに揺れる乳首勃起済みおっぱいを、通りすがりにジロジロ見られることになるよ」
「やんっ……ゴズメルのいじわる……!」
だが、リリィは従った。ひしっとしがみついてプリプリした胸をゴズメルに押しつける。
(……あたし、月イチ生える体質でよかったな)
ゴズメルはしみじみと思った。もしも今、生えていたら男性器が勃起して歩くどころではなかったはずだ。こうしてリリィを家まで送ってやることもできなかっただろう。
市場通りに入った時、リリィが恥ずかしそうに言った。
「ゴズメル……私たち、目立っているんじゃないかしら」
「……そうだね。狂った牛女が美少女を攫ってると思われてるかも。手でも振って安心させてやんなよ」
「違うわよ。ゴズメルがたくましくて……素敵だから」
ゴズメルは唸った。巨女が注目を集めやすいのは確かだが、それは物珍しいからだ。
なんでも良いようにとってしまうリリィが可愛すぎて、ゴズメルは心配になってしまった。
「やっぱり、あんまり外を見るな。ほら、顔を伏せて、もっとあたしに抱きつくんだ。あんたがあたしだけのものだって、他人が見てもハッキリわかるように」
「ん……っ」
リリィは言う通りにした。ゴズメルの肩に顔を伏せ、ぎゅっとしがみつく。
ここまでしても、周囲が二人を恋人同士だと思う可能性は低い。体の大きさも違いすぎ、せいぜい酔った女友達を介抱しているくらいにしか見えていないはずだ。
それでも、ゴズメルは幸福だった。誰が何と言おうと、この瞬間、リリィは永遠にゴズメルだけのものだった。
土産物屋でも鳩をモチーフにした商品をたいてい何種類か置いているものだ。
冒険者のゴズメルは見慣れてしまっていて、意匠を凝らした壁掛けや置物と同じように飾り気のない真っ白な偽卵が並べられていることになんの違和感も持っていなかった。
が、偽卵に産卵抑制の役割があると知って、なるほどと思った。一部の神官が気を落ち着かせるために持っていた卵が神聖視された結果なのではないだろうか。
それに神殿では好感度チェックやアジリニ神への祈願を受け付けている。考えてみれば「安産のお守り」として扱われるのは自然なことではあった。
ゴズメルは気の進まなそうなリリィを急き立てた。
「新しいショーツを買ってきてあげる。トイレで着替えたら、一緒に錬成屋へ行こうよ。こんなのが欲しいですって相談すれば、レシピの相談に乗ってくれるはずだ」
「…………」
「えっ? なに?」
声が小さすぎて聞こえない。ゴズメルが耳を近づけると、リリィは「作ってもらうなら、ジーニョおじさまに依頼したいわ……」と言った。
「エッ!」
まさかのご指名に、ゴズメルは腰を抜かしそうになった。
ジーニョは鐵刑の塔に住みついた偏屈な魔道具屋だ。確かに腕はいいし、店の奥には立派な工房もあった。
ゴズメルはおそるおそる尋ねた。
「まさかあんた、ああいうジジイがタイプなの……?」
「そういう意味じゃないわ……! だって、妖精の卵って特徴的なんですもの。光るし、柔らかいし……」
リリィはもじもじと説明した。
「町の錬成屋さんを貶すわけではないけれど、ジーニョおじさまの仕事は別格だわ。それに、私が妖精族だということもすでにご存じだから」
確かに、とゴズメルは思った。
こちらの事情を知らない錬成屋に「妖精の卵に似せて偽卵を作ってくれ」と注文すること自体がリスキーだ。妖精の生き残りがいるのかと思われるかもしれないし、それを避けるために「観賞用にする」と伝えれば、きっと出来に関わってくる。
ただ、ジーニョに依頼するとなると……。
「鐵刑の塔は遠い。今回は珍しい注文だし、品物が届くまでけっこう時間がかかると思うよ。あんた、それまでオナニー我慢できるのかい?」
「…………!」
リリィは素早い瞬きをした。
「……そんなに、私が卵を生むのが嫌なの? ゴズメル」
「嫌なんじゃない。心配なんだ。あんたの体に負担がかかるし、仕事にだって影響が出てる」
「私の体とか、仕事とか、そんなの別に……」
「どうでもいいわけないだろ!」
ゴズメルは本を放り出して怒った。ぱしっと受け止めたリリィに、がみがみと説教する。
「いいか、あんたはあたしの恋人なんだから、世界一幸せに、末永く長生きしなきゃダメなんだ。仕事だって生きてくために必要だよ。敏腕受付嬢のあんたが突然死したら、冒険者協会はもう解散だ。あたしが廃業して野垂れ死んでもいいって言うのか!」
「わかった、わかったわ……」
リリィは本で頭を庇いつつうなずく。ゴズメルはフンッと鼻を鳴らした。
片づけを終えた後、イーユンの言いつけ通り鍵をかけて図書室を後にする。外はもうすっかり暗い。
リリィはそわそわと言った。
「ねえ、まだ怒っているの? 下着を返してよ、ゴズメル……」
ゴズメルは返事せず、リリィを抱き上げた。
「あっ」
腕にリリィの腰を座らせるような恰好だ。ゴズメルは「ちゃんと抱きつきな」と命令した。
「じゃないと、たゆんたゆんに揺れる乳首勃起済みおっぱいを、通りすがりにジロジロ見られることになるよ」
「やんっ……ゴズメルのいじわる……!」
だが、リリィは従った。ひしっとしがみついてプリプリした胸をゴズメルに押しつける。
(……あたし、月イチ生える体質でよかったな)
ゴズメルはしみじみと思った。もしも今、生えていたら男性器が勃起して歩くどころではなかったはずだ。こうしてリリィを家まで送ってやることもできなかっただろう。
市場通りに入った時、リリィが恥ずかしそうに言った。
「ゴズメル……私たち、目立っているんじゃないかしら」
「……そうだね。狂った牛女が美少女を攫ってると思われてるかも。手でも振って安心させてやんなよ」
「違うわよ。ゴズメルがたくましくて……素敵だから」
ゴズメルは唸った。巨女が注目を集めやすいのは確かだが、それは物珍しいからだ。
なんでも良いようにとってしまうリリィが可愛すぎて、ゴズメルは心配になってしまった。
「やっぱり、あんまり外を見るな。ほら、顔を伏せて、もっとあたしに抱きつくんだ。あんたがあたしだけのものだって、他人が見てもハッキリわかるように」
「ん……っ」
リリィは言う通りにした。ゴズメルの肩に顔を伏せ、ぎゅっとしがみつく。
ここまでしても、周囲が二人を恋人同士だと思う可能性は低い。体の大きさも違いすぎ、せいぜい酔った女友達を介抱しているくらいにしか見えていないはずだ。
それでも、ゴズメルは幸福だった。誰が何と言おうと、この瞬間、リリィは永遠にゴズメルだけのものだった。
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