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急・異種獣人同士で子づくり!?ノァズァークのヒミツ編
10.涙
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「リリィ、どうしてここに」
「……ナナが、図書室へ行ったと言うから」
あたふたするゴズメルを、リリィは静かに見つめ返した。
「ねえゴズメル、あなたにとって私ってなに?」
「えっ……」
重い質問に、ゴズメルは思わず顎をひく。
(どうしよう)
遠回しに責められているような気がする。ほったらかしにされてリリィは怒っているのだ。きっとそうだ。
「ご、ごめ……」
「なぜ謝るの?」
謝罪を封じられたゴズメルは舌を噛んだ。
なんだか爆発物だらけのダンジョンに放り込まれてしまったような気がする。
だらだらと冷や汗をかいているゴズメルを見て、リリィはぽつりと言った。
「謝るってことは、じゃあ、やっぱりそうなの……?」
(そ、『そう』って、なんだ???)
考えなしに羽のある女に手を出して都合が悪くなったら放り出す、いわゆるクズなのか、という意味だろうか。
そう思うと、口角を下げてうなだれているリリィが途轍もなく怒っているように見える。なにか言わなくてはならない。だが、何を。ゴズメルは両手でふわふわとロクロを回しながら言った。
「いや、あの、つまり、あたしも何ぶん勉強不足というかね、羽のあるなしに関わらず、おつきあいというのも初めてでありまして、これから、ちょっとずつすり合わせを……」
言い終えるより先に、リリィはワッと泣き出した。
「や……やっぱり、そうだったのだわ! あなたはこんな翅のある女のことなんて好きじゃなかった!」
「へっ」
「わ、私、恥ずかしいわ……! あなたが気を遣って言ったこと、なにもかも本気にしたりして……!」
ゴズメルは事の重大さに気がついて真っ青になった。
出ていこうとするリリィを、ゴズメルはしがみついて止めた。
「待って待って、今のは言葉のすれちがいで」
「やめて! もう優しい嘘はたくさんよ!」
リリィは叫んだ。
「あなたは私にずっと気を遣ってたんだわ……。当然よね、レベルアップ素材の採取を手伝うなんて、私が恩着せがましくふるまったんだもの。あんなに優しくしてくれたのだって、仕方なくそうしたのだとなぜ気がつかなかったのかしら」
リリィの言いように、ゴズメルは驚いてしまった。あんなに想いを通わせて、身も心も愛し合った日々は嘘だったのだろうか? リリィはオセロのようにこれまでのすべてをひっくり返そうとしているのだ。
「私、すっかりうぬぼれて……あんなに気味悪い、卵まで……」
「ちょっと! なに言ってんだ。気味悪くなんて……」
「うそつき!」
はっきりと罵られた衝撃で、ゴズメルは自分の角にヒビが入った気がした。
「私が卵を産んだとたんに、あなた急によそよそしくなったじゃないの。わざとらしく仕事ばっかり入れて……わかってるんだから、あなた……あなたって結局、猫族の女の子が好きなのでしょう!?」
「えっ、えぇっ……!?」
「ええ、わかるわ……ナナは優しくて、いい子だもの……。耳と尻尾がふわふわだものね。素直だし、私みたいに面倒くさくなくて……きっとお似合いだと思うわ……」
「リリィ! ちょっといい加減にしな。なにをバカなことを」
「あら、なによ。怒るの……? そうよね、私みたいな羽虫にあれこれ口を出されたくないわよね。わかってる、私だってちゃんとわかってるのよ。喋れば喋るほど嫉妬してるみたいで、みっともないって……」
「…………リリィ」
ずるずるとしゃがみこんだリリィは、ドアノブに縋りつくようにして泣いているのだった。
ゴズメルは肩を掴んでた手を緩めた。「かわいそうに」とつぶやき、優しく腕をさすってやる。
リリィはびくっと肩を震わせたが、顔を伏せたままジッと動かなかった。
泣く女性を慰めるのはクズではないはずだ、とゴズメルは自分に言い聞かせた。
「あたしが能天気に冒険しているあいだ、あんたはずっと一人で苦しんでたんだね。それは本当にすまなかった。……でもね、いくらなんでも疑心暗鬼になりすぎだよ」
リリィの頬からボタボタと涙が滴り、制服のスカートを濡らす。ゴズメルは手の甲で拭ってやりながら言った。
「心変わりなんてするわけない。あたしの大切な恋人の翅や、産んでくれた卵を、悪く言うのはやめとくれ」
「…………」
「あたしの言うこと、信じられない? どうしたら信じてくれる?」
ゴズメルの質問に、リリィの目が泳いだ。
「…………だって……」
「うん? なに、なんでも言いな。知ってるだろ、あたしは察しが悪いんだ」
「……っ、ナ、ナナに大好きって言われて、あなた、あんなに嬉しそうに笑って……」
下唇を噛んだリリィの目に、また涙が盛り上がる。
「わたしのことは、すごく面倒くさそうにして、はっきり返事もしてくれなくて」
「……ええっと……面倒くさそうに見えた?」
「うー……っ、なにを笑ってるのよっ」
「ンン……面目ない……」
涙目の上目遣いで怒られる。もちろんゴズメルは反省している。そのはずなのだが、だんだんと口がニヤけはじめるのを止めることができなかった。
「……ナナが、図書室へ行ったと言うから」
あたふたするゴズメルを、リリィは静かに見つめ返した。
「ねえゴズメル、あなたにとって私ってなに?」
「えっ……」
重い質問に、ゴズメルは思わず顎をひく。
(どうしよう)
遠回しに責められているような気がする。ほったらかしにされてリリィは怒っているのだ。きっとそうだ。
「ご、ごめ……」
「なぜ謝るの?」
謝罪を封じられたゴズメルは舌を噛んだ。
なんだか爆発物だらけのダンジョンに放り込まれてしまったような気がする。
だらだらと冷や汗をかいているゴズメルを見て、リリィはぽつりと言った。
「謝るってことは、じゃあ、やっぱりそうなの……?」
(そ、『そう』って、なんだ???)
考えなしに羽のある女に手を出して都合が悪くなったら放り出す、いわゆるクズなのか、という意味だろうか。
そう思うと、口角を下げてうなだれているリリィが途轍もなく怒っているように見える。なにか言わなくてはならない。だが、何を。ゴズメルは両手でふわふわとロクロを回しながら言った。
「いや、あの、つまり、あたしも何ぶん勉強不足というかね、羽のあるなしに関わらず、おつきあいというのも初めてでありまして、これから、ちょっとずつすり合わせを……」
言い終えるより先に、リリィはワッと泣き出した。
「や……やっぱり、そうだったのだわ! あなたはこんな翅のある女のことなんて好きじゃなかった!」
「へっ」
「わ、私、恥ずかしいわ……! あなたが気を遣って言ったこと、なにもかも本気にしたりして……!」
ゴズメルは事の重大さに気がついて真っ青になった。
出ていこうとするリリィを、ゴズメルはしがみついて止めた。
「待って待って、今のは言葉のすれちがいで」
「やめて! もう優しい嘘はたくさんよ!」
リリィは叫んだ。
「あなたは私にずっと気を遣ってたんだわ……。当然よね、レベルアップ素材の採取を手伝うなんて、私が恩着せがましくふるまったんだもの。あんなに優しくしてくれたのだって、仕方なくそうしたのだとなぜ気がつかなかったのかしら」
リリィの言いように、ゴズメルは驚いてしまった。あんなに想いを通わせて、身も心も愛し合った日々は嘘だったのだろうか? リリィはオセロのようにこれまでのすべてをひっくり返そうとしているのだ。
「私、すっかりうぬぼれて……あんなに気味悪い、卵まで……」
「ちょっと! なに言ってんだ。気味悪くなんて……」
「うそつき!」
はっきりと罵られた衝撃で、ゴズメルは自分の角にヒビが入った気がした。
「私が卵を産んだとたんに、あなた急によそよそしくなったじゃないの。わざとらしく仕事ばっかり入れて……わかってるんだから、あなた……あなたって結局、猫族の女の子が好きなのでしょう!?」
「えっ、えぇっ……!?」
「ええ、わかるわ……ナナは優しくて、いい子だもの……。耳と尻尾がふわふわだものね。素直だし、私みたいに面倒くさくなくて……きっとお似合いだと思うわ……」
「リリィ! ちょっといい加減にしな。なにをバカなことを」
「あら、なによ。怒るの……? そうよね、私みたいな羽虫にあれこれ口を出されたくないわよね。わかってる、私だってちゃんとわかってるのよ。喋れば喋るほど嫉妬してるみたいで、みっともないって……」
「…………リリィ」
ずるずるとしゃがみこんだリリィは、ドアノブに縋りつくようにして泣いているのだった。
ゴズメルは肩を掴んでた手を緩めた。「かわいそうに」とつぶやき、優しく腕をさすってやる。
リリィはびくっと肩を震わせたが、顔を伏せたままジッと動かなかった。
泣く女性を慰めるのはクズではないはずだ、とゴズメルは自分に言い聞かせた。
「あたしが能天気に冒険しているあいだ、あんたはずっと一人で苦しんでたんだね。それは本当にすまなかった。……でもね、いくらなんでも疑心暗鬼になりすぎだよ」
リリィの頬からボタボタと涙が滴り、制服のスカートを濡らす。ゴズメルは手の甲で拭ってやりながら言った。
「心変わりなんてするわけない。あたしの大切な恋人の翅や、産んでくれた卵を、悪く言うのはやめとくれ」
「…………」
「あたしの言うこと、信じられない? どうしたら信じてくれる?」
ゴズメルの質問に、リリィの目が泳いだ。
「…………だって……」
「うん? なに、なんでも言いな。知ってるだろ、あたしは察しが悪いんだ」
「……っ、ナ、ナナに大好きって言われて、あなた、あんなに嬉しそうに笑って……」
下唇を噛んだリリィの目に、また涙が盛り上がる。
「わたしのことは、すごく面倒くさそうにして、はっきり返事もしてくれなくて」
「……ええっと……面倒くさそうに見えた?」
「うー……っ、なにを笑ってるのよっ」
「ンン……面目ない……」
涙目の上目遣いで怒られる。もちろんゴズメルは反省している。そのはずなのだが、だんだんと口がニヤけはじめるのを止めることができなかった。
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