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急・異種獣人同士で子づくり!?ノァズァークのヒミツ編
8.すれちがい
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ゴズメルの行動に、列全体からブーイングが上がる。
「やめるのはそっちだゴズメル」
「そうだ! おまえもリリィの手を握りたいなら順番に並べ!」
「あぁ、今がチャンスだったのに!」
どうもリリィの色気が、キース以外の冒険者も惹きつけてしまっているらしい。
キースから『俺に気がある』と言われた時は、何を世迷言をと思ったゴズメルだったが、今のやりとりを見て、これではそう勘違いしても無理はないように感じた。
いつもの穏やかだが隙のない、凛としたリリィはどこへいってしまったのだろう。今の彼女はひどくぼんやりしていて、やけに艶っぽい。
ちょうど受付の昼休憩が終わるタイミングだった。
「はーい、お待ちの方、こちらへどうぞ~」
他の窓口が一斉に開く。並んでいた冒険者たちは渋々といった様子で列を離れた。
「ゴズメル……」
ホッとしたのも束の間だった。リリィがゴズメルの袖をきゅっと掴んでいる。
「お帰りなさい。遠征任務、大変だったのでしょう……?」
「あぁ、う、うん……」
返事すると、伏せられていた大きな瞳が、ちらっとゴズメルを見る。
彼女の瞳は、まるで星空を湛えた湖だった。きらきらとうるうるして、まるでゴズメル以外はなにも見えていないかのようだ。
「会いたかったわ……」
先ほどのぼんやりした様子とは何かが違う。暗闇を怖がる子供みたいに、ゴズメルの袖をぎゅうっと強く握りしめている。
(あっ……あれっ……リリィって、こんなに可愛かったっけ……?)
今すぐ抱きしめてキスしたくなってしまうほどだ。
庇護欲なのか、支配欲なのかはわからない。
どうして自分がリリィから距離をとろうとしていたのか、ゴズメルはさっぱりわからなくなってしまった。
だってこんなに可愛い。綺麗で、一途で、切実で……こんなに可愛い恋人を、どうしてほったらかしにしていたのだろう。誰にも触られたくないし、見せたくないのだ。宝箱の中に鍵をかけて大事にしまっておきたい。
「リリィ先輩! 引き継ぎますから休憩どうぞ」
受付のカウンターを挟んで見つめあっていたところに、わきから声をかけてきたのはナナだ。
リリィはほかの受付嬢と入れ替わりに休憩に入るらしい。
ナナはゴズメルの姿を認めると、猫目をぱぁっと大きくした。
「ゴズメルさん、お帰りなさーい! 報酬の受け取りですか?」
「うん、そうだよ」
首をかしげるのと一緒にハテナのかたちに曲がる尻尾が可愛らしい。ゴズメルはなんだかホッとした。
しっかりしろ、と自分に言い聞かせる。ここは職場だ。
働いているリリィに劣情をもよおすなんて、先ほどの男たちと変わらないではないか。
「じゃあナナにお願いするよ。依頼の件数が多いけど、大丈夫かな?」
ゴズメルがそう言うと、リリィが『えっ』という顔になる。
カウンターからサッと手を引いたゴズメルは、そっちを見ていなかった。
後ずさったリリィをさえぎるように、ナナがぴょーんとカウンターに飛びついたからだ。
「うわぁ~っ、本当にたくさん……!」
「時間かかってもいいよ、あたし書類関係ニガテだからさ、一緒にチェックしてくれるだけでも有難いんだ」
「うーっ新人にお優しい……ゴズメルさん好きです! ありがとうございます……!」
「ハハハ、そりゃ光栄だ」
ゴズメルは適当に返しながら、小走りに去っていくリリィの背中を見た。
後輩に仕事をとられたようで嫌だったのだろうか? だが、ゴズメルはリリィをこれ以上カウンターに立たせておきたくはなかった。自分の後ろにはキースがちゃっかり並んでいるからだ。仕事の遅いナナと交代したとたん嫌な顔をして、別の列に並びなおしている。
「……ナナ」
「はいっ?」
「リリィは、最近どう? なんか様子に変わったところとか無かった?」
「お気づきになられましたか……?」
端末から顔を上げたナナは、苦し気な表情を浮かべていた。
「最近の先輩は、なんだか心が遠くにあるみたいなのです。声をかけても反応が遅れることもあって、私たちもみんな心配しているのですが、なにも話してくださいません」
「か……体の調子が、悪いのかな……」
「わかりません。だけど、私……」
ナナはゴズメルをちらっと見て、声を小さくした。
「実は、先輩がひとりで更衣室で泣いているのを見たのです。私はかわいそうで見ていられませんでした。どうしたのかと慌ててお聞きしたのですが、大丈夫の一点張りで……」
リリィはナナにとって指導係にあたる。面倒見のいい先輩を慕う気持ちは人一倍強いのだろう。
しゅんと垂れた猫耳をにわかに大きくして、ナナはカウンターに身を乗り出した。
「あのっ、ゴズメルさんは、先輩と仲がいいですよね。何かご存じないですか? 先輩の雰囲気が変わったのは、ちょうどゴズメルさんが遠征に出られた頃からなのです」
「やめるのはそっちだゴズメル」
「そうだ! おまえもリリィの手を握りたいなら順番に並べ!」
「あぁ、今がチャンスだったのに!」
どうもリリィの色気が、キース以外の冒険者も惹きつけてしまっているらしい。
キースから『俺に気がある』と言われた時は、何を世迷言をと思ったゴズメルだったが、今のやりとりを見て、これではそう勘違いしても無理はないように感じた。
いつもの穏やかだが隙のない、凛としたリリィはどこへいってしまったのだろう。今の彼女はひどくぼんやりしていて、やけに艶っぽい。
ちょうど受付の昼休憩が終わるタイミングだった。
「はーい、お待ちの方、こちらへどうぞ~」
他の窓口が一斉に開く。並んでいた冒険者たちは渋々といった様子で列を離れた。
「ゴズメル……」
ホッとしたのも束の間だった。リリィがゴズメルの袖をきゅっと掴んでいる。
「お帰りなさい。遠征任務、大変だったのでしょう……?」
「あぁ、う、うん……」
返事すると、伏せられていた大きな瞳が、ちらっとゴズメルを見る。
彼女の瞳は、まるで星空を湛えた湖だった。きらきらとうるうるして、まるでゴズメル以外はなにも見えていないかのようだ。
「会いたかったわ……」
先ほどのぼんやりした様子とは何かが違う。暗闇を怖がる子供みたいに、ゴズメルの袖をぎゅうっと強く握りしめている。
(あっ……あれっ……リリィって、こんなに可愛かったっけ……?)
今すぐ抱きしめてキスしたくなってしまうほどだ。
庇護欲なのか、支配欲なのかはわからない。
どうして自分がリリィから距離をとろうとしていたのか、ゴズメルはさっぱりわからなくなってしまった。
だってこんなに可愛い。綺麗で、一途で、切実で……こんなに可愛い恋人を、どうしてほったらかしにしていたのだろう。誰にも触られたくないし、見せたくないのだ。宝箱の中に鍵をかけて大事にしまっておきたい。
「リリィ先輩! 引き継ぎますから休憩どうぞ」
受付のカウンターを挟んで見つめあっていたところに、わきから声をかけてきたのはナナだ。
リリィはほかの受付嬢と入れ替わりに休憩に入るらしい。
ナナはゴズメルの姿を認めると、猫目をぱぁっと大きくした。
「ゴズメルさん、お帰りなさーい! 報酬の受け取りですか?」
「うん、そうだよ」
首をかしげるのと一緒にハテナのかたちに曲がる尻尾が可愛らしい。ゴズメルはなんだかホッとした。
しっかりしろ、と自分に言い聞かせる。ここは職場だ。
働いているリリィに劣情をもよおすなんて、先ほどの男たちと変わらないではないか。
「じゃあナナにお願いするよ。依頼の件数が多いけど、大丈夫かな?」
ゴズメルがそう言うと、リリィが『えっ』という顔になる。
カウンターからサッと手を引いたゴズメルは、そっちを見ていなかった。
後ずさったリリィをさえぎるように、ナナがぴょーんとカウンターに飛びついたからだ。
「うわぁ~っ、本当にたくさん……!」
「時間かかってもいいよ、あたし書類関係ニガテだからさ、一緒にチェックしてくれるだけでも有難いんだ」
「うーっ新人にお優しい……ゴズメルさん好きです! ありがとうございます……!」
「ハハハ、そりゃ光栄だ」
ゴズメルは適当に返しながら、小走りに去っていくリリィの背中を見た。
後輩に仕事をとられたようで嫌だったのだろうか? だが、ゴズメルはリリィをこれ以上カウンターに立たせておきたくはなかった。自分の後ろにはキースがちゃっかり並んでいるからだ。仕事の遅いナナと交代したとたん嫌な顔をして、別の列に並びなおしている。
「……ナナ」
「はいっ?」
「リリィは、最近どう? なんか様子に変わったところとか無かった?」
「お気づきになられましたか……?」
端末から顔を上げたナナは、苦し気な表情を浮かべていた。
「最近の先輩は、なんだか心が遠くにあるみたいなのです。声をかけても反応が遅れることもあって、私たちもみんな心配しているのですが、なにも話してくださいません」
「か……体の調子が、悪いのかな……」
「わかりません。だけど、私……」
ナナはゴズメルをちらっと見て、声を小さくした。
「実は、先輩がひとりで更衣室で泣いているのを見たのです。私はかわいそうで見ていられませんでした。どうしたのかと慌ててお聞きしたのですが、大丈夫の一点張りで……」
リリィはナナにとって指導係にあたる。面倒見のいい先輩を慕う気持ちは人一倍強いのだろう。
しゅんと垂れた猫耳をにわかに大きくして、ナナはカウンターに身を乗り出した。
「あのっ、ゴズメルさんは、先輩と仲がいいですよね。何かご存じないですか? 先輩の雰囲気が変わったのは、ちょうどゴズメルさんが遠征に出られた頃からなのです」
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