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急・異種獣人同士で子づくり!?ノァズァークのヒミツ編
6.人生の墓場!?
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昼すぎ、アルティカの町に戻ってきたゴズメルは、冒険者協会の前に立っていた。
遠征任務が終わったのだから、早く受付に報告書を提出して報酬をもらいに行くべきなのだが、中に入る勇気が出ないのである。
受付には、おそらくリリィがいる。あの満月の夜、介抱してからろくに顔を合わせていないのだ。
会うのが怖い。脳内に、酒場で言われた言葉がよみがえる。
『女性に……殊に羽を持つ女性になれなれしく接するようなヤツは、例外なくみんなクズなのです!』
ごんっ。ゴズメルは冒険者協会の塀に頭突きをした。
そうすることで気を落ち着けたいのだが、痛みよりも混乱のほうが勝ってしまう。
(クズにはなりたくない……リリィが心配だ……あんまり話しかけたら体に良くないのかも……いやでも、仕事だし……あ、あたしってリリィと、普段どうやって話してたっけ……!?)
繰り返し頭をぶつけて思い出そうとするゴズメルに、背後から「おい、牛女!」と声をかけてくる者がいた。
びっくりして振り向くと、キースだった。キースは灰色の耳を不機嫌そうに立てて言った。
「働きすぎてとうとう気が狂ったのか? そんなに頭突きして、闘牛にでも転職すんのかよ」
「あ、あぁ……」
正論すぎて、返す言葉もない。ゴズメルはノロノロと壁から頭を離した。
気づかないうちに道ゆくひとの注目を集めてしまっていたようで、恥ずかしいったらない。何も言い返さずにうなだれているゴズメルに、キースは吐く真似をした。
「おえー。なんだおまえ、おとなしくてキモチワルイな。用がないならどっか行けよ」
「いや、用はあるけど……あんた、足はもういいの? よかったね」
杖をついていないのに目を留めたゴズメルに、キースは偉そうに胸を張ってみせた。
「まあな。ふふん、痛くないようにリリィが回復魔法をかけてくれたんだ。あの娘はゼッタイ俺に気があるぜ」
「……ア?」
打って変わってゴズメルの声が低くなる。影の差した顔に見下ろされ、キースは縮み上がった。
「な、な、なんだよ……! ブランカに言いつけようってのかっ?」
ブランカはキースの嫁だ。キースには不釣り合いなしとやかな狼族の女性で、白銀の毛並みが美しい。
ゴズメルはハッとした。
そうだ、キースは妻帯者で、そのうえ、子供もいるのだ。
「おい、キース……」
ゴズメルはゆらりとキースに距離を詰め、彼の襟首をがしっと掴んだ。怯えたキースは尻尾を立てて牙を剥く。
「よ、寄るなっ! なんだよ、俺とやろうってのか!」
「結婚って、どう? どんな感じ?」
「はぁっ?」
「やっぱ、付き合ってるうちに子供欲しいな~、結婚しよ~って自然と思うもんなの? それってブランカが異種族でもそうだったと思う? ねえもしもブランカが男だったら、あんた結婚した? ねえねえねえねえ」
「うわわわわ、なんなんだよ、いきなり……」
異様な剣幕で質問攻めにされて、キースは目をシロクロさせた。
だが、不意に眉間に皺を寄せたかと思うと、べしっとゴズメルの手をはたき落とした。
「なんだぁ!? いいトシして男がいないからって焦ってんのか、おまえ……言っとくけどなあ、結婚なんて人生の墓場だぞ!」
人生の墓場。よく聞くワードだが、この状況で言われると頭に突き刺さってくる。
衝撃のあまり、ゴズメルはにわかに冷静さを取り戻した。
確かに、キースがリリィにちょっかいをかけているのは、かねてから不思議に思っていた。
熱心に口説き落としたはずのブランカを、なぜ放っておくのかと思うのだ。
ぽかんとしているゴズメルに向かって、キースはため息をついた。
「ちょっと来い」と言って、冒険者協会の裏までゴズメルを引っ張っていく。チャリや貨物車を停める場所になっていて、ちょっとした休憩所があるのだ。
キースは無人のベンチにどすっと座って「子供なんか作ったせいでブランカは変わっちまった」と吐き捨てた。
「あんた、そんな言い方……!」
ゴズメルはさすがに黙っておけなかった。
ブランカはゴズメルにとっても元同僚だ。数回だが、キースと三人でパーティを組んだこともある。
だがキースは発言を撤回しなかった。
「うるさい、事実だ。だって外から帰ってきた俺のことを、バイキンみたいに扱うんだぞ」
「えー……っ?」
「俺だって、体の調子が悪いんだろうと思って色々と気を遣ったよ。でも、部屋をテープで区切られてさ、こっから先は入って来るなとか、いちいちバカにしてるみたいなため息つかれると嫌んなる」
「ま、マジか……」
ゴズメルはなんと返せばいいのかわからなかった。
もちろんキースの話だけを鵜呑みにするわけにはいかない。ブランカは話には聞いたことのあるマタニティブルーというやつなのかもしれない。それに、彼女がつれないからといってキースが浮気をしていい理由にはならないはずだ。
だが、今のゴズメルはキースの主張を放り捨てることなどできなかった。ひょっとしたらキースは、自分の未来の姿かもしれないのだ。
もしもリリィにバイキン扱いされてしまったらと想像するだけで、ゴズメルは悲しくなってしまう。
遠征任務が終わったのだから、早く受付に報告書を提出して報酬をもらいに行くべきなのだが、中に入る勇気が出ないのである。
受付には、おそらくリリィがいる。あの満月の夜、介抱してからろくに顔を合わせていないのだ。
会うのが怖い。脳内に、酒場で言われた言葉がよみがえる。
『女性に……殊に羽を持つ女性になれなれしく接するようなヤツは、例外なくみんなクズなのです!』
ごんっ。ゴズメルは冒険者協会の塀に頭突きをした。
そうすることで気を落ち着けたいのだが、痛みよりも混乱のほうが勝ってしまう。
(クズにはなりたくない……リリィが心配だ……あんまり話しかけたら体に良くないのかも……いやでも、仕事だし……あ、あたしってリリィと、普段どうやって話してたっけ……!?)
繰り返し頭をぶつけて思い出そうとするゴズメルに、背後から「おい、牛女!」と声をかけてくる者がいた。
びっくりして振り向くと、キースだった。キースは灰色の耳を不機嫌そうに立てて言った。
「働きすぎてとうとう気が狂ったのか? そんなに頭突きして、闘牛にでも転職すんのかよ」
「あ、あぁ……」
正論すぎて、返す言葉もない。ゴズメルはノロノロと壁から頭を離した。
気づかないうちに道ゆくひとの注目を集めてしまっていたようで、恥ずかしいったらない。何も言い返さずにうなだれているゴズメルに、キースは吐く真似をした。
「おえー。なんだおまえ、おとなしくてキモチワルイな。用がないならどっか行けよ」
「いや、用はあるけど……あんた、足はもういいの? よかったね」
杖をついていないのに目を留めたゴズメルに、キースは偉そうに胸を張ってみせた。
「まあな。ふふん、痛くないようにリリィが回復魔法をかけてくれたんだ。あの娘はゼッタイ俺に気があるぜ」
「……ア?」
打って変わってゴズメルの声が低くなる。影の差した顔に見下ろされ、キースは縮み上がった。
「な、な、なんだよ……! ブランカに言いつけようってのかっ?」
ブランカはキースの嫁だ。キースには不釣り合いなしとやかな狼族の女性で、白銀の毛並みが美しい。
ゴズメルはハッとした。
そうだ、キースは妻帯者で、そのうえ、子供もいるのだ。
「おい、キース……」
ゴズメルはゆらりとキースに距離を詰め、彼の襟首をがしっと掴んだ。怯えたキースは尻尾を立てて牙を剥く。
「よ、寄るなっ! なんだよ、俺とやろうってのか!」
「結婚って、どう? どんな感じ?」
「はぁっ?」
「やっぱ、付き合ってるうちに子供欲しいな~、結婚しよ~って自然と思うもんなの? それってブランカが異種族でもそうだったと思う? ねえもしもブランカが男だったら、あんた結婚した? ねえねえねえねえ」
「うわわわわ、なんなんだよ、いきなり……」
異様な剣幕で質問攻めにされて、キースは目をシロクロさせた。
だが、不意に眉間に皺を寄せたかと思うと、べしっとゴズメルの手をはたき落とした。
「なんだぁ!? いいトシして男がいないからって焦ってんのか、おまえ……言っとくけどなあ、結婚なんて人生の墓場だぞ!」
人生の墓場。よく聞くワードだが、この状況で言われると頭に突き刺さってくる。
衝撃のあまり、ゴズメルはにわかに冷静さを取り戻した。
確かに、キースがリリィにちょっかいをかけているのは、かねてから不思議に思っていた。
熱心に口説き落としたはずのブランカを、なぜ放っておくのかと思うのだ。
ぽかんとしているゴズメルに向かって、キースはため息をついた。
「ちょっと来い」と言って、冒険者協会の裏までゴズメルを引っ張っていく。チャリや貨物車を停める場所になっていて、ちょっとした休憩所があるのだ。
キースは無人のベンチにどすっと座って「子供なんか作ったせいでブランカは変わっちまった」と吐き捨てた。
「あんた、そんな言い方……!」
ゴズメルはさすがに黙っておけなかった。
ブランカはゴズメルにとっても元同僚だ。数回だが、キースと三人でパーティを組んだこともある。
だがキースは発言を撤回しなかった。
「うるさい、事実だ。だって外から帰ってきた俺のことを、バイキンみたいに扱うんだぞ」
「えー……っ?」
「俺だって、体の調子が悪いんだろうと思って色々と気を遣ったよ。でも、部屋をテープで区切られてさ、こっから先は入って来るなとか、いちいちバカにしてるみたいなため息つかれると嫌んなる」
「ま、マジか……」
ゴズメルはなんと返せばいいのかわからなかった。
もちろんキースの話だけを鵜呑みにするわけにはいかない。ブランカは話には聞いたことのあるマタニティブルーというやつなのかもしれない。それに、彼女がつれないからといってキースが浮気をしていい理由にはならないはずだ。
だが、今のゴズメルはキースの主張を放り捨てることなどできなかった。ひょっとしたらキースは、自分の未来の姿かもしれないのだ。
もしもリリィにバイキン扱いされてしまったらと想像するだけで、ゴズメルは悲しくなってしまう。
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