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急・異種獣人同士で子づくり!?ノァズァークのヒミツ編
5.ぐるぐるゴズメル
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それからというもの、ゴズメルはずっと考え込んでしまっている。
寝ても覚めてもずっと、手のひらから卵の感触が消えないのだ。
温かく光り、脈打って、あっという間に水に変わってしまった。
リリィは無精卵かのような言い方をしていたが、本当にそうだったのだろうか? ゴズメルの射精を受けてリリィが卵を宿したのではなく?
(リリィとあたしの、赤ちゃん……)
あの夜のことを思うと、顔が急激に熱くなって、胸の奥がじんわりと熱くなって、なぜか涙まで出そうになる。
ゴズメルは嬉しいのに切なくて、なによりとても怖かった。リリィが死んでしまうかと思ったのだ。たとえ無精卵でも、卵を産むことは母体にとって大変な負担になる。時にはお腹に卵を詰まらせて死んでしまうこともあるという。
冒険者協会にも鳥系の獣人が何人かいるが、彼らは一様に紳士的で、女性からは一歩距離をひいている。
彼らは異性に気安く接することは相手の命にかかわるという認識でいるのだった。
『そりゃあ僕らの中にも身勝手にふるまうオスはいますよ』
前に酒場で一緒に飲んだ時、彼は背中の翼を大きくふくらませて言った。
『だけど節度を守らないのは有翼種の恥というものだ。いいですか、覚えておいてください、ミス・ゴズメル。女性に……殊に羽を持つ女性になれなれしく接するようなヤツは、例外なくみんなクズなのです!』
(ふぇええ……あたしってクズだったのかあ……!)
記憶の中の彼に、ゴズメルは返す言葉もない。いやちゃんと覚えてはいたのだがリリィは妖精で、いや妖精が卵生であることも一応知識としては持っていたが、とにかく初めての彼女にすっかり浮かれていて、こみあげてくる性欲を押しとどめることができなかった。
孕ませたい、自分だけのものにしたいとはしょっちゅう思った。
だが、それが現実に起こりうるとなると、話が変わってくる。ことはリリィの命にかかわるのだ。気安くセックスして無精卵を生ませるわけにはいかない。なら別れるか。ありえない。
では、祈願して正式に結婚するのか――。
(月に一度しか生えない、こんなに考えなしのあたしが、父親に、なる……?)
ゴズメルはミノタウロスの里にいる、強くて恐ろしい父のことを思い浮かべてゾッとした。とてもではないが、あんなふうにはなれないし、なりたくない。
そして最大の懸念事項は、二人が結ばれると、リリィの純粋な妖精族の血が絶えてしまうということだった。
ゴズメルは雑種が新天地に行けないなどという迷信を信じてはいない。里には優秀な兄が何人もいるし、自分のミノタウロス族の血が途絶えることはなんとも思わない。
だが、妖精族は他のどの種族とも違う。絶滅したといわれているほど希少で、種族値とバフスキルもすばらしい。
そのうえ、リリィの翅は――本人は絶対に認めないだろうが――信じられないほど美しいのだ。
異種族同士の交配で生まれた子供は種族の身体的特徴が失われる。それは平均化されるということでもあって、たとえばミノタウロス族であれば、力加減を間違えて食器を割ったりする心配がなくなる、そういうポジティブな点もあるのだが、失われた形質が再び戻ってくる可能性はゼロに等しい。
ゴズメルは、自分のせいでこの世から美しいものが失われてしまうなんて、考えたくもなかった。かといって、リリィに妖精族の男と結ばれてほしいわけでもない。
(そりゃ、いつかは考えなきゃいけないことかもしれないけど、まだ付き合って一か月しか経ってないのに、結婚とか子供とか、そんな難しいこと、あたしわかんないよ~!)
ぐるぐる目になったゴズメルは、すっかりキャパオーバーしてしまい……どうしたかというと、仕事に逃避した。もともとあれこれ考えるより、体を動かすほうが性に合っているのだ。
任務に次ぐ任務、ちょうど新人冒険者のレベルアップ素材採取も数件重なり、アルティカの町を何日か離れた。
寝ても覚めてもずっと、手のひらから卵の感触が消えないのだ。
温かく光り、脈打って、あっという間に水に変わってしまった。
リリィは無精卵かのような言い方をしていたが、本当にそうだったのだろうか? ゴズメルの射精を受けてリリィが卵を宿したのではなく?
(リリィとあたしの、赤ちゃん……)
あの夜のことを思うと、顔が急激に熱くなって、胸の奥がじんわりと熱くなって、なぜか涙まで出そうになる。
ゴズメルは嬉しいのに切なくて、なによりとても怖かった。リリィが死んでしまうかと思ったのだ。たとえ無精卵でも、卵を産むことは母体にとって大変な負担になる。時にはお腹に卵を詰まらせて死んでしまうこともあるという。
冒険者協会にも鳥系の獣人が何人かいるが、彼らは一様に紳士的で、女性からは一歩距離をひいている。
彼らは異性に気安く接することは相手の命にかかわるという認識でいるのだった。
『そりゃあ僕らの中にも身勝手にふるまうオスはいますよ』
前に酒場で一緒に飲んだ時、彼は背中の翼を大きくふくらませて言った。
『だけど節度を守らないのは有翼種の恥というものだ。いいですか、覚えておいてください、ミス・ゴズメル。女性に……殊に羽を持つ女性になれなれしく接するようなヤツは、例外なくみんなクズなのです!』
(ふぇええ……あたしってクズだったのかあ……!)
記憶の中の彼に、ゴズメルは返す言葉もない。いやちゃんと覚えてはいたのだがリリィは妖精で、いや妖精が卵生であることも一応知識としては持っていたが、とにかく初めての彼女にすっかり浮かれていて、こみあげてくる性欲を押しとどめることができなかった。
孕ませたい、自分だけのものにしたいとはしょっちゅう思った。
だが、それが現実に起こりうるとなると、話が変わってくる。ことはリリィの命にかかわるのだ。気安くセックスして無精卵を生ませるわけにはいかない。なら別れるか。ありえない。
では、祈願して正式に結婚するのか――。
(月に一度しか生えない、こんなに考えなしのあたしが、父親に、なる……?)
ゴズメルはミノタウロスの里にいる、強くて恐ろしい父のことを思い浮かべてゾッとした。とてもではないが、あんなふうにはなれないし、なりたくない。
そして最大の懸念事項は、二人が結ばれると、リリィの純粋な妖精族の血が絶えてしまうということだった。
ゴズメルは雑種が新天地に行けないなどという迷信を信じてはいない。里には優秀な兄が何人もいるし、自分のミノタウロス族の血が途絶えることはなんとも思わない。
だが、妖精族は他のどの種族とも違う。絶滅したといわれているほど希少で、種族値とバフスキルもすばらしい。
そのうえ、リリィの翅は――本人は絶対に認めないだろうが――信じられないほど美しいのだ。
異種族同士の交配で生まれた子供は種族の身体的特徴が失われる。それは平均化されるということでもあって、たとえばミノタウロス族であれば、力加減を間違えて食器を割ったりする心配がなくなる、そういうポジティブな点もあるのだが、失われた形質が再び戻ってくる可能性はゼロに等しい。
ゴズメルは、自分のせいでこの世から美しいものが失われてしまうなんて、考えたくもなかった。かといって、リリィに妖精族の男と結ばれてほしいわけでもない。
(そりゃ、いつかは考えなきゃいけないことかもしれないけど、まだ付き合って一か月しか経ってないのに、結婚とか子供とか、そんな難しいこと、あたしわかんないよ~!)
ぐるぐる目になったゴズメルは、すっかりキャパオーバーしてしまい……どうしたかというと、仕事に逃避した。もともとあれこれ考えるより、体を動かすほうが性に合っているのだ。
任務に次ぐ任務、ちょうど新人冒険者のレベルアップ素材採取も数件重なり、アルティカの町を何日か離れた。
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