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破・隷属の首輪+5でダンジョンクリア編
16.I like you.
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体当たりな愛の告白に、ゴズメルはノックアウトされた。そんなことを言われたのは生まれてはじめてだったからだ。
これまで流行りの恋物語やラブソング、ひとから恋バナを聞くことはあっても、フーンすごいなぁドラマチックだなぁとしか思わなかったのに。
だがリリィは、このほっそりした妖精族の女の子ときたら、白い素肌を隠すことさえせず「どうか私を好きになって!」と、奴隷のゴズメルに訴えてくるのだ。どうして心を動かさずにいられるだろう?
自尊心や慎みを打ちやって愛を求めるリリィの姿に、ゴズメルはすっかり圧倒されてしまった。
自分はこれほどまでに誰かに好きになってもらおうとしたことがあっただろうか? たとえば親とか兄弟とか、友達に。
いや、ない。ゴズメルにははっきりとそのことがわかる。
強さこそすべてであるミノタウロスの里で、ゴズメルはレベル3止まりのみそっかすだった。ひとからの愛については最初から期待するでもなく、漠然と諦めていたのだ。
だからびっくりしてしまった。そして無性に嬉しかった。
驚いたことに、リリィは本気でゴズメルのことを好きらしいのだ。
(ええっ、なんで? セックスが盛り上がった勢いで言ってるわけじゃなくて? お、お嬢様は他のヤツよりあたしがいいのか……あたしじゃなきゃ嫌なんだ……こんなに泣いちまうくらい、あたしのこと好きなんだぁ……!)
肩を震わせて泣いているリリィが、ゴズメルは愛しくてたまらなかった。
「な、泣かないでください、お嬢様……」
キスが好きなんじゃないとは言っていたが、あんなに求めてくるのだから、別に嫌いなわけではないだろう。ゴズメルはかわいそうなお嬢様に、優しく口づけた。唇にキスして、目尻を濡らす涙も吸って差し上げる。
「あたしもっ……その、好きですよ……お嬢様のこと……」
気恥ずかしくて、蚊の鳴くような声しか出せない。リリィはすごいとゴズメルは改めて思った。そのひとに愛を伝えることは、りんごやカレーなどを好きだと言うのとはまったく違うことなのだ。
ゴズメルはとてもではないがリリィのように堂々と「好き!」とは言えなかった。
いま奴隷だから余計そう思うのだろうが、自分のようなみっともないミノタウロス族のメスが、お嬢様に好意を寄せているなんて、かえって迷惑なんじゃないかという気がしてならないのだ。
それでも想いに応えようと勇気を振り絞って言ったのだが、リリィはますます泣いてしまった。
「首輪の力を使ってあなたにそんなことを言わせるなんて、私はなんて心根の卑しい人間なのかしら……!」
(えぇーっ……!)
奴隷のゴズメルが言うことを信じてくれないのである!
リリィはあくまで現実的だった。手のひらで涙を拭い、首を横に振る。
「本当にもう、一人で子供のように取り乱して、私は何をしてるのかしら。恥ずかしい。……ごめんなさい、こんな女のたわごとは気にしないでちょうだい」
ゴズメルの手をきゅっと握って、リリィはそう言った。気にするなと命令されてしまえばゴズメルは、口をとざすほかない。
リリィはアイテムボックスを開き『布の服』を装備した。村人などが着る簡易的な初期装備だ。防御力は低いが、裸で歩き回るよりはましという判断なのだろう。
問題があるとしたら、翅が服を貫通してきらきら光っていることだが。
「うーん、なんとかならないかしら。魔物を引き寄せてしまって危険だし……あ、そうだわ!」
いいことを思いついた、とでもいうようにリリィはゴズメルを振り向いた。
素朴な村娘のように愛らしいお嬢様に、ゴズメルはどきりとする。
「ゴズメル、私を奴隷にしてくれないかしら?」
「へっ? ええっ?」
また何を言い出すのかと慌てるゴズメルの首輪に、リリィは指を軽くひっかけた。
「あなたがこの首輪を私に譲ってくれたらいいのよ、ゴズメル」
「えーっ、と……?」
「わからない? 命令を聞くのが難しい時は、なんて言うんだった?」
「あ、あー!『ヌンチャクヒップホップ』!」
リリィは可愛いうえに賢いお嬢様だった。
セーフワードで首輪の着用者と管理者を入れ替え直せば、ゴズメルの命令ひとつで翅を封印できるというわけだ。
「ご主人様、ありがとうございます!」
首輪をつけたリリィはニコッと笑ってみせた。これで二人は元通り、安心して魔道具屋を目指せる。
(って、違うっ! 元通りなんて……このままで済ませていいわけないだろ……!!)
首輪から解放されたゴズメルは、リリィの告白を忘れることなどできなかった。
気丈に振舞っているが、リリィの頬には涙の痕が残り、目は赤くなってしまっている。
(かわいそうに、あたしがモゴモゴとはっきりしない返事をしたばっかりに、リリィは自分が失恋したと思ってるんだ。あたしに気を遣わせないように無理して明るくふるまったりして……)
魔物避けの結界を解除しながら、ゴズメルは気が気ではなかった。
自分を好きだと言ってくれたリリィの気持ちが、今しも変わってしまうんじゃないかと思うのだ。
ゴズメルは自分の言動を悔やんだ。『奴隷だから言ってるんじゃありません! あたしも好きなんです!』と言えてさえいれば、今頃リリィは恋人になってくれていたかもしれないのだ。
自信の無さのあまりチャンスを逃してしまったことが、つくづく悔やまれる。
ふりかえればゴズメルは、いつだってリリィに夢中だった。
抱きたいとか、彼女だったらいいのにとか、可愛い、好きだと、本当はずっと想いつづけてきたのに。
(今、好きだって言ったら……いや違う。リリィは奴隷として従ってくれるだろうけど、そんなのはだめだ。そうか、リリィもこんな気分だったんだろうか……)
ゴズメルは決意した。
魔道具屋を脅迫してでも、新しい魔封じのアミュレットを手に入れるのだ。
(そうすれば隷属の首輪からリリィを解放してやれる。だから、そしたらあたしからリリィに、ちゃんと、こ、こ、告白すりゅ……!)
奴隷の時もたいがい恥ずかしかったが、主人側に回ってみると理性が働く分、いっそう羞恥心を刺激される。
だが同じくらいドキドキして、希望に胸を躍らせていた。
「リリィ! こっから先はもう戦闘は極力回避だ! ダッシュで魔道具屋へ行こう!」
「えっ? は、はい」
リリィを抱き上げるゴズメルの勢いときたら、まるで猛牛のようだった。すでに借金のことなど頭にない。
リリィが彼女になってくれたらと思うと、めくるめく妄想が止まらないのである!
これまで流行りの恋物語やラブソング、ひとから恋バナを聞くことはあっても、フーンすごいなぁドラマチックだなぁとしか思わなかったのに。
だがリリィは、このほっそりした妖精族の女の子ときたら、白い素肌を隠すことさえせず「どうか私を好きになって!」と、奴隷のゴズメルに訴えてくるのだ。どうして心を動かさずにいられるだろう?
自尊心や慎みを打ちやって愛を求めるリリィの姿に、ゴズメルはすっかり圧倒されてしまった。
自分はこれほどまでに誰かに好きになってもらおうとしたことがあっただろうか? たとえば親とか兄弟とか、友達に。
いや、ない。ゴズメルにははっきりとそのことがわかる。
強さこそすべてであるミノタウロスの里で、ゴズメルはレベル3止まりのみそっかすだった。ひとからの愛については最初から期待するでもなく、漠然と諦めていたのだ。
だからびっくりしてしまった。そして無性に嬉しかった。
驚いたことに、リリィは本気でゴズメルのことを好きらしいのだ。
(ええっ、なんで? セックスが盛り上がった勢いで言ってるわけじゃなくて? お、お嬢様は他のヤツよりあたしがいいのか……あたしじゃなきゃ嫌なんだ……こんなに泣いちまうくらい、あたしのこと好きなんだぁ……!)
肩を震わせて泣いているリリィが、ゴズメルは愛しくてたまらなかった。
「な、泣かないでください、お嬢様……」
キスが好きなんじゃないとは言っていたが、あんなに求めてくるのだから、別に嫌いなわけではないだろう。ゴズメルはかわいそうなお嬢様に、優しく口づけた。唇にキスして、目尻を濡らす涙も吸って差し上げる。
「あたしもっ……その、好きですよ……お嬢様のこと……」
気恥ずかしくて、蚊の鳴くような声しか出せない。リリィはすごいとゴズメルは改めて思った。そのひとに愛を伝えることは、りんごやカレーなどを好きだと言うのとはまったく違うことなのだ。
ゴズメルはとてもではないがリリィのように堂々と「好き!」とは言えなかった。
いま奴隷だから余計そう思うのだろうが、自分のようなみっともないミノタウロス族のメスが、お嬢様に好意を寄せているなんて、かえって迷惑なんじゃないかという気がしてならないのだ。
それでも想いに応えようと勇気を振り絞って言ったのだが、リリィはますます泣いてしまった。
「首輪の力を使ってあなたにそんなことを言わせるなんて、私はなんて心根の卑しい人間なのかしら……!」
(えぇーっ……!)
奴隷のゴズメルが言うことを信じてくれないのである!
リリィはあくまで現実的だった。手のひらで涙を拭い、首を横に振る。
「本当にもう、一人で子供のように取り乱して、私は何をしてるのかしら。恥ずかしい。……ごめんなさい、こんな女のたわごとは気にしないでちょうだい」
ゴズメルの手をきゅっと握って、リリィはそう言った。気にするなと命令されてしまえばゴズメルは、口をとざすほかない。
リリィはアイテムボックスを開き『布の服』を装備した。村人などが着る簡易的な初期装備だ。防御力は低いが、裸で歩き回るよりはましという判断なのだろう。
問題があるとしたら、翅が服を貫通してきらきら光っていることだが。
「うーん、なんとかならないかしら。魔物を引き寄せてしまって危険だし……あ、そうだわ!」
いいことを思いついた、とでもいうようにリリィはゴズメルを振り向いた。
素朴な村娘のように愛らしいお嬢様に、ゴズメルはどきりとする。
「ゴズメル、私を奴隷にしてくれないかしら?」
「へっ? ええっ?」
また何を言い出すのかと慌てるゴズメルの首輪に、リリィは指を軽くひっかけた。
「あなたがこの首輪を私に譲ってくれたらいいのよ、ゴズメル」
「えーっ、と……?」
「わからない? 命令を聞くのが難しい時は、なんて言うんだった?」
「あ、あー!『ヌンチャクヒップホップ』!」
リリィは可愛いうえに賢いお嬢様だった。
セーフワードで首輪の着用者と管理者を入れ替え直せば、ゴズメルの命令ひとつで翅を封印できるというわけだ。
「ご主人様、ありがとうございます!」
首輪をつけたリリィはニコッと笑ってみせた。これで二人は元通り、安心して魔道具屋を目指せる。
(って、違うっ! 元通りなんて……このままで済ませていいわけないだろ……!!)
首輪から解放されたゴズメルは、リリィの告白を忘れることなどできなかった。
気丈に振舞っているが、リリィの頬には涙の痕が残り、目は赤くなってしまっている。
(かわいそうに、あたしがモゴモゴとはっきりしない返事をしたばっかりに、リリィは自分が失恋したと思ってるんだ。あたしに気を遣わせないように無理して明るくふるまったりして……)
魔物避けの結界を解除しながら、ゴズメルは気が気ではなかった。
自分を好きだと言ってくれたリリィの気持ちが、今しも変わってしまうんじゃないかと思うのだ。
ゴズメルは自分の言動を悔やんだ。『奴隷だから言ってるんじゃありません! あたしも好きなんです!』と言えてさえいれば、今頃リリィは恋人になってくれていたかもしれないのだ。
自信の無さのあまりチャンスを逃してしまったことが、つくづく悔やまれる。
ふりかえればゴズメルは、いつだってリリィに夢中だった。
抱きたいとか、彼女だったらいいのにとか、可愛い、好きだと、本当はずっと想いつづけてきたのに。
(今、好きだって言ったら……いや違う。リリィは奴隷として従ってくれるだろうけど、そんなのはだめだ。そうか、リリィもこんな気分だったんだろうか……)
ゴズメルは決意した。
魔道具屋を脅迫してでも、新しい魔封じのアミュレットを手に入れるのだ。
(そうすれば隷属の首輪からリリィを解放してやれる。だから、そしたらあたしからリリィに、ちゃんと、こ、こ、告白すりゅ……!)
奴隷の時もたいがい恥ずかしかったが、主人側に回ってみると理性が働く分、いっそう羞恥心を刺激される。
だが同じくらいドキドキして、希望に胸を躍らせていた。
「リリィ! こっから先はもう戦闘は極力回避だ! ダッシュで魔道具屋へ行こう!」
「えっ? は、はい」
リリィを抱き上げるゴズメルの勢いときたら、まるで猛牛のようだった。すでに借金のことなど頭にない。
リリィが彼女になってくれたらと思うと、めくるめく妄想が止まらないのである!
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