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破・隷属の首輪+5でダンジョンクリア編
15.リリィの気持ち
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ガチャン!と重い首輪がゴズメルの喉に嵌るのと同時に、リリィの背中に翅が出現する。解き放たれた光の翅の眩さにゴズメルは目を奪われた。
リリィの息に合わせて、美しい模様が淡く明滅している。あまりにも神々しい姿を前にしたゴズメルは、ごく自然に(あたしのお嬢様だ)と思ってしまった。その思考に逆らおうとすると首輪が締まる感じがして、妙に息苦しい。
なぜリリィがへりくだった態度をとり続けていたのか、ゴズメルにもやっとわかった。単純に、気持ちがいいのだ。自分は奴隷で、相手が主人だと思うと途端に息がしやすくなる。
「ゴズメル……」
ぽやんとしているゴズメルの頬を、リリィはそっと撫でた。お嬢様に触られていると思うと、ゴズメルの尻尾は勝手に動いてしまう。筆のような先端が目いっぱいふくらんで、細い尾がビュンビュンと上下に風を切る。
頭はうまく働かないのに体がそわそわしてしょうがない。ゴズメルは早く命令されたかった。
本当は細い首や肩に噛みつきたくて仕方ないのだが、それも我慢している。お嬢様に良い奴隷だと思われたいからだ。早く命令に服従して、褒められたい。そうすればもっと気持ちよくなれる気がするのだ。
もじもじと正座して命令待ちするゴズメルに、リリィはぽつりと言った。
「あなたって奴隷の側になると、とても無口になるのね……」
ゴズメルの尻尾は迷った。喋れということだろうか? でも、何を? ゴズメルは口で失敗したくなかった。滅多なことを言ってお嬢様に不愉快な思いをさせたくない。
ますます口が重くなるゴズメルを、リリィは「かわいい」と言って抱きしめた。
「本当はこんなにも大人しいあなたに、どれほど無理させてしまっていたのか……」
別に無理をさせられてきたつもりはないが、お嬢様がそう言うならそうなのかなあとゴズメルは考えた。どちらかというと、今のほうが不自由な気がするのだが。
やはり鱗粉の影響は少なからず受けるようで、抱き着いてくるリリィの体は火照っていた。いくら耐性がついたといっても、しっとりと濡れた胸をこうも無防備に押し付けられると、ゴズメルのほうもむらむらする。
お嬢様にも考えがあるのだろうし、奴隷の身で指図するのはおかしいので黙っているが、いつまでもこんな所に留まっていないで早く移動したほうがいいのではないだろうか。あるいはせっかく近くにあることだし、この綺麗な耳をちょっとくらい舐めてみてもバチはあたらないのではないか……。
良からぬことを考えている時に、急に「わかってるのよ」と言われて、ゴズメルはギクッとした。
だが、リリィは自分に向かって言い聞かせているだけのようだ。
「私だってわかってるの。あなたが自分の身を犠牲にして、私の呪いを解いてくれたんだもの。早く何か着て、魔道具屋さんを探さなくっちゃ。だけど……だけど、あなたがなんでも私の言うことを聞いてくれるなんて、なんだか夢のようで……」
「……!?」
「ゴズメル……」
リリィは甘い溜息をついて、ゴズメルに命令した。
「わ……私を……私を、ギュッと抱きしめなさい。ゴズメル」
(ええっ!?)
今さら何を言ってんだとゴズメルは思った。階段に連れてくる時だってゴズメルはリリィを抱っこして移動したのだ。だが、改めて命令されると、必要に迫られてもいないのに、恋人でもない相手、それもお嬢様を抱きしめるなんて、恐ろしくいかがわしい要求をされているような気がしてくる。
そしてたとえそれがどんなことだとしても、命令されれば服従するのが奴隷というものだ。
ゴズメルがこわごわと従うと、リリィはその耳元で「もっと」「もっと強くよ」と重ねて命令した。とんでもない話だ。ミノタウロス族のゴズメルが力加減を間違えたら、最悪リリィは死んでしまう。
やっと満足してもらえたかと思うと今度は「キスして!」と言われる。それも額や頬ではだめだった。どうしても唇がよく、しかも酸欠になるくらい深く舌を入れて欲しがる。
リリィはとてもわがままなお嬢様だった。
いや、もしかしたら奴隷の時からその傾向はあったのかもしれないが。
「ゴズメル、もっと……お願い……」
お嬢様に切ない声でねだられると、ゴズメルのほうもつい熱が入ってしまう。背中を抱く腕に力を籠め、ぴったりと付けた唇の中で舌を合わせる。
リリィの睫毛に水晶のような涙が滲む。苦しいのかとゴズメルが顔を離そうとしても、リリィは服を掴んで吸い付いてきた。
「んっ、らぇ、ごじゅめう、もっとぉ……」
だらしなく口を開いたまま舌を絡ませあう。ハァハァとつく息の合間に、濡れた音が立った。リリィの全身はまるで火の玉のように熱くなっていて、ゴズメルの奴隷としての矜持を溶かしてしまう。なんだか勘違いしてしまいそうになるのだ。
「お……お嬢様は……そんなにキスが、お好きなんで?」
おずおずと問いかけた唇はすぐに奪われてしまった。して、して、と言わんばかりに唇を一生懸命にペロペロと舐められて、ゴズメルは自分が甘いアメになったような気がした。
ただでさえ可愛いご主人様にこんなに密着されては、気がおかしくなりそうだ。ゴズメルは奴隷の分際で思い上がりたくなかった。とうとう、ちゅっと唇でスタンプを押すようにリリィの口を塞いでしまう。
ゴズメルが示したおしまいの合図に、リリィの息が、喉でぐっとつっかえる。
ゆっくりと顔を離してみると、リリィは泣いていた。はらはらと涙をこぼしながら、ゴズメルに命令する。
「お願いだから、私のことをもっと好きになって。ゴズメル」
それはもはや命令ではなく、懇願だった。
「私が好きなのはキスではなく、あなたよ。ほかのひとなんて嫌。あなたのことが好きなの。私はこんなにあなたのことが好きなのに、どうしてあなたはそうじゃないの? どうして私を突き放して、他の知らないひととなんかくっつけようとするのよ……!」
リリィの息に合わせて、美しい模様が淡く明滅している。あまりにも神々しい姿を前にしたゴズメルは、ごく自然に(あたしのお嬢様だ)と思ってしまった。その思考に逆らおうとすると首輪が締まる感じがして、妙に息苦しい。
なぜリリィがへりくだった態度をとり続けていたのか、ゴズメルにもやっとわかった。単純に、気持ちがいいのだ。自分は奴隷で、相手が主人だと思うと途端に息がしやすくなる。
「ゴズメル……」
ぽやんとしているゴズメルの頬を、リリィはそっと撫でた。お嬢様に触られていると思うと、ゴズメルの尻尾は勝手に動いてしまう。筆のような先端が目いっぱいふくらんで、細い尾がビュンビュンと上下に風を切る。
頭はうまく働かないのに体がそわそわしてしょうがない。ゴズメルは早く命令されたかった。
本当は細い首や肩に噛みつきたくて仕方ないのだが、それも我慢している。お嬢様に良い奴隷だと思われたいからだ。早く命令に服従して、褒められたい。そうすればもっと気持ちよくなれる気がするのだ。
もじもじと正座して命令待ちするゴズメルに、リリィはぽつりと言った。
「あなたって奴隷の側になると、とても無口になるのね……」
ゴズメルの尻尾は迷った。喋れということだろうか? でも、何を? ゴズメルは口で失敗したくなかった。滅多なことを言ってお嬢様に不愉快な思いをさせたくない。
ますます口が重くなるゴズメルを、リリィは「かわいい」と言って抱きしめた。
「本当はこんなにも大人しいあなたに、どれほど無理させてしまっていたのか……」
別に無理をさせられてきたつもりはないが、お嬢様がそう言うならそうなのかなあとゴズメルは考えた。どちらかというと、今のほうが不自由な気がするのだが。
やはり鱗粉の影響は少なからず受けるようで、抱き着いてくるリリィの体は火照っていた。いくら耐性がついたといっても、しっとりと濡れた胸をこうも無防備に押し付けられると、ゴズメルのほうもむらむらする。
お嬢様にも考えがあるのだろうし、奴隷の身で指図するのはおかしいので黙っているが、いつまでもこんな所に留まっていないで早く移動したほうがいいのではないだろうか。あるいはせっかく近くにあることだし、この綺麗な耳をちょっとくらい舐めてみてもバチはあたらないのではないか……。
良からぬことを考えている時に、急に「わかってるのよ」と言われて、ゴズメルはギクッとした。
だが、リリィは自分に向かって言い聞かせているだけのようだ。
「私だってわかってるの。あなたが自分の身を犠牲にして、私の呪いを解いてくれたんだもの。早く何か着て、魔道具屋さんを探さなくっちゃ。だけど……だけど、あなたがなんでも私の言うことを聞いてくれるなんて、なんだか夢のようで……」
「……!?」
「ゴズメル……」
リリィは甘い溜息をついて、ゴズメルに命令した。
「わ……私を……私を、ギュッと抱きしめなさい。ゴズメル」
(ええっ!?)
今さら何を言ってんだとゴズメルは思った。階段に連れてくる時だってゴズメルはリリィを抱っこして移動したのだ。だが、改めて命令されると、必要に迫られてもいないのに、恋人でもない相手、それもお嬢様を抱きしめるなんて、恐ろしくいかがわしい要求をされているような気がしてくる。
そしてたとえそれがどんなことだとしても、命令されれば服従するのが奴隷というものだ。
ゴズメルがこわごわと従うと、リリィはその耳元で「もっと」「もっと強くよ」と重ねて命令した。とんでもない話だ。ミノタウロス族のゴズメルが力加減を間違えたら、最悪リリィは死んでしまう。
やっと満足してもらえたかと思うと今度は「キスして!」と言われる。それも額や頬ではだめだった。どうしても唇がよく、しかも酸欠になるくらい深く舌を入れて欲しがる。
リリィはとてもわがままなお嬢様だった。
いや、もしかしたら奴隷の時からその傾向はあったのかもしれないが。
「ゴズメル、もっと……お願い……」
お嬢様に切ない声でねだられると、ゴズメルのほうもつい熱が入ってしまう。背中を抱く腕に力を籠め、ぴったりと付けた唇の中で舌を合わせる。
リリィの睫毛に水晶のような涙が滲む。苦しいのかとゴズメルが顔を離そうとしても、リリィは服を掴んで吸い付いてきた。
「んっ、らぇ、ごじゅめう、もっとぉ……」
だらしなく口を開いたまま舌を絡ませあう。ハァハァとつく息の合間に、濡れた音が立った。リリィの全身はまるで火の玉のように熱くなっていて、ゴズメルの奴隷としての矜持を溶かしてしまう。なんだか勘違いしてしまいそうになるのだ。
「お……お嬢様は……そんなにキスが、お好きなんで?」
おずおずと問いかけた唇はすぐに奪われてしまった。して、して、と言わんばかりに唇を一生懸命にペロペロと舐められて、ゴズメルは自分が甘いアメになったような気がした。
ただでさえ可愛いご主人様にこんなに密着されては、気がおかしくなりそうだ。ゴズメルは奴隷の分際で思い上がりたくなかった。とうとう、ちゅっと唇でスタンプを押すようにリリィの口を塞いでしまう。
ゴズメルが示したおしまいの合図に、リリィの息が、喉でぐっとつっかえる。
ゆっくりと顔を離してみると、リリィは泣いていた。はらはらと涙をこぼしながら、ゴズメルに命令する。
「お願いだから、私のことをもっと好きになって。ゴズメル」
それはもはや命令ではなく、懇願だった。
「私が好きなのはキスではなく、あなたよ。ほかのひとなんて嫌。あなたのことが好きなの。私はこんなにあなたのことが好きなのに、どうしてあなたはそうじゃないの? どうして私を突き放して、他の知らないひととなんかくっつけようとするのよ……!」
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