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破・隷属の首輪+5でダンジョンクリア編
2.そこになければないですね!!
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子どもを作るには、ふたりの好感度とアジリニ神への祈願が不可欠だ。
神殿に行けば自分の好感度は確かめられる。1~10まであり、お互い10に達していれば祈願を行えるそうだ。
ゴズメルは祈願をしたいと思ったことがないので、話に聞いたことしかないのだが、好感度チェックは意外とクジを引くような感覚らしい。
日にちや自分の体調によってバラつきがあり、「けっこう好きだと思ってたけど、まだ3か」とか「単なる腐れ縁だと思ってたのに10いってる……!」など、驚かされることも多いそうだ。
で、これを二人同じタイミングで10にするのが難しい。
何回も神殿に通わなければならないし、お互いの好感度を比較してトラブルが起きたりもする。この面倒な課題を乗り越えた愛情たっぷりなカップルからのみ、アジリニ神は祈願を受け付ける。
とはいえ、システムの想定するユーザーと現実は往々にして食い違うものだ。中にはキースのように身重の妻がいるのに浮気心を起こしてしまう者もいる。
しかしそのキースでさえやり遂げた過程をなにもかもすっとばして、勢いだけで「孕ませる」などと言ってしまったのは、我ながらどうかしているとしか言いようがない。ゴズメルは一人でもじもじと反省した。
(と、とにかくだ。今は早くリリィの体を元に戻してやらなきゃ)
街中でしゃがみこんだゴズメルが急に立ち上がるのは、周囲のひとびとにとっては山が立ったり座ったりするようなものだ。大いに注目を集めてしまったゴズメルは、そそくさと市場の入口へ逃げ込んだ。
市場は様々な店がごちゃっと集まった大きな通りだ。
食料や武器、防具、魔道具、値段のつかないゴミから超高級品までなんでも揃うが、屋台や露店、看板を出していない店も多く、とにかくごった返している。
ゴズメルは入口に近いところから、魔道具屋を二軒回った。
どちらも冒険者としてよく利用している馴染みの店だ。ゴズメルは冒険者協会づてに魔道具の原料となる素材を卸したこともある。
ところが、だ。
「これと同じものが欲しいんだけど」
そう言ってゴズメルが出したアミュレットの破片を、「どれどれ」と見たとたん、店の態度はがらりと変わった。
「こういったお取引はうちではしておりませんのでお引き取りください」
言葉こそ違うが、どちらの店もゴズメルを警戒するかのように声を固くして、退店を促してくる。
ゴズメルは大いに困惑した。
(どういうことだ? 魔封じのアミュレットは、修行中の冒険者だって使うはずだ。そんなに特別なものじゃないはずだけど……)
首をひねりながら入った三軒目で、その答えは明らかになった。
「あちゃー……ゴズメル、さすがにこれはウチでも扱ってない。レギュレーション違反だもん」
「えっ!?」
三軒目は、正確には魔道具屋ではない。古い武器や魔道具を取り扱う骨とう品屋だ。
薄暗い店内と、訳ありのユーズド品ばかり取り扱っている関係で怪しい店に思われがちだが、主人のミックは片眼鏡の似合う気のいいコボルト族だ。
彼は犬とも爬虫類ともつかない緑色のぺらぺらした耳を揺らしながら説明した。
「戦後しばらくして、この手の魔道具の規制が厳しくなったからなぁ」
「で、でも魔封じのアミュレットって普通に売ってるじゃないか」
「だから、これはレギュレーション適用前の骨とう品なんだ。魔道具屋なら触っただけでわかるぞ。強制力が強すぎるんだ。弱体無効とか特防スキル持ちの純種ならともかく、一般人がこんなの付けたら魔力が歪んで死んじまうよ」
「ええーっ……!」
「まったく、とんだ厄ネタを持ってきたな。売っても買っても重いペナルティが課せられるんだぞ」
「ペナルティまであるの!?」
「うん、店側は即営業停止、おまえは冒険者パスを没収、そのうえでアジリニ神に莫大な寄進を積むってとこだナ」
「ひええ」
ゴズメルは青ざめた。前二軒での魔道具屋の対応が思い出される。あとで謝りに行かなければならない。
だが、それはそれ、これはこれだ。リリィの様子を思い出すと、ゴズメルは引き下がるわけにはいかなかった。
「ど……どうにかならないもんかなぁ、ミック……」
「どうにかって……おまえさんは俺に心中を持ち掛けているのか?」
「いや、必ずしも同じ商品じゃなくて構わないんだ。これと同程度……じゃダメだな、もうちょっと魔力を抑制する効果のある、代わりになるようなもの。用意できない?」
「この非合法アミュレットでも抑えきれないって……いったい、どんな凶悪犯を相手にしているんだ……」
ミックは討伐依頼で使うものとばかり思っているようだ。
まさか受付嬢に使うとは口が裂けても言えない。
ゴズメルが黙っていると、ミックは「うーん……」と唸ってアミュレットの破片をつまみあげる。
「まぁ、方法がない、わけではない」
「本当かい!?」
ぱぁっと顔を輝かせたゴズメルに、ミックは「待ってな」と、バックヤードへ入って行った。
少ししてミックが、ごとっと音を立ててカウンターに置いたのは、見るからに重そうな金属製の首輪だった。
神殿に行けば自分の好感度は確かめられる。1~10まであり、お互い10に達していれば祈願を行えるそうだ。
ゴズメルは祈願をしたいと思ったことがないので、話に聞いたことしかないのだが、好感度チェックは意外とクジを引くような感覚らしい。
日にちや自分の体調によってバラつきがあり、「けっこう好きだと思ってたけど、まだ3か」とか「単なる腐れ縁だと思ってたのに10いってる……!」など、驚かされることも多いそうだ。
で、これを二人同じタイミングで10にするのが難しい。
何回も神殿に通わなければならないし、お互いの好感度を比較してトラブルが起きたりもする。この面倒な課題を乗り越えた愛情たっぷりなカップルからのみ、アジリニ神は祈願を受け付ける。
とはいえ、システムの想定するユーザーと現実は往々にして食い違うものだ。中にはキースのように身重の妻がいるのに浮気心を起こしてしまう者もいる。
しかしそのキースでさえやり遂げた過程をなにもかもすっとばして、勢いだけで「孕ませる」などと言ってしまったのは、我ながらどうかしているとしか言いようがない。ゴズメルは一人でもじもじと反省した。
(と、とにかくだ。今は早くリリィの体を元に戻してやらなきゃ)
街中でしゃがみこんだゴズメルが急に立ち上がるのは、周囲のひとびとにとっては山が立ったり座ったりするようなものだ。大いに注目を集めてしまったゴズメルは、そそくさと市場の入口へ逃げ込んだ。
市場は様々な店がごちゃっと集まった大きな通りだ。
食料や武器、防具、魔道具、値段のつかないゴミから超高級品までなんでも揃うが、屋台や露店、看板を出していない店も多く、とにかくごった返している。
ゴズメルは入口に近いところから、魔道具屋を二軒回った。
どちらも冒険者としてよく利用している馴染みの店だ。ゴズメルは冒険者協会づてに魔道具の原料となる素材を卸したこともある。
ところが、だ。
「これと同じものが欲しいんだけど」
そう言ってゴズメルが出したアミュレットの破片を、「どれどれ」と見たとたん、店の態度はがらりと変わった。
「こういったお取引はうちではしておりませんのでお引き取りください」
言葉こそ違うが、どちらの店もゴズメルを警戒するかのように声を固くして、退店を促してくる。
ゴズメルは大いに困惑した。
(どういうことだ? 魔封じのアミュレットは、修行中の冒険者だって使うはずだ。そんなに特別なものじゃないはずだけど……)
首をひねりながら入った三軒目で、その答えは明らかになった。
「あちゃー……ゴズメル、さすがにこれはウチでも扱ってない。レギュレーション違反だもん」
「えっ!?」
三軒目は、正確には魔道具屋ではない。古い武器や魔道具を取り扱う骨とう品屋だ。
薄暗い店内と、訳ありのユーズド品ばかり取り扱っている関係で怪しい店に思われがちだが、主人のミックは片眼鏡の似合う気のいいコボルト族だ。
彼は犬とも爬虫類ともつかない緑色のぺらぺらした耳を揺らしながら説明した。
「戦後しばらくして、この手の魔道具の規制が厳しくなったからなぁ」
「で、でも魔封じのアミュレットって普通に売ってるじゃないか」
「だから、これはレギュレーション適用前の骨とう品なんだ。魔道具屋なら触っただけでわかるぞ。強制力が強すぎるんだ。弱体無効とか特防スキル持ちの純種ならともかく、一般人がこんなの付けたら魔力が歪んで死んじまうよ」
「ええーっ……!」
「まったく、とんだ厄ネタを持ってきたな。売っても買っても重いペナルティが課せられるんだぞ」
「ペナルティまであるの!?」
「うん、店側は即営業停止、おまえは冒険者パスを没収、そのうえでアジリニ神に莫大な寄進を積むってとこだナ」
「ひええ」
ゴズメルは青ざめた。前二軒での魔道具屋の対応が思い出される。あとで謝りに行かなければならない。
だが、それはそれ、これはこれだ。リリィの様子を思い出すと、ゴズメルは引き下がるわけにはいかなかった。
「ど……どうにかならないもんかなぁ、ミック……」
「どうにかって……おまえさんは俺に心中を持ち掛けているのか?」
「いや、必ずしも同じ商品じゃなくて構わないんだ。これと同程度……じゃダメだな、もうちょっと魔力を抑制する効果のある、代わりになるようなもの。用意できない?」
「この非合法アミュレットでも抑えきれないって……いったい、どんな凶悪犯を相手にしているんだ……」
ミックは討伐依頼で使うものとばかり思っているようだ。
まさか受付嬢に使うとは口が裂けても言えない。
ゴズメルが黙っていると、ミックは「うーん……」と唸ってアミュレットの破片をつまみあげる。
「まぁ、方法がない、わけではない」
「本当かい!?」
ぱぁっと顔を輝かせたゴズメルに、ミックは「待ってな」と、バックヤードへ入って行った。
少ししてミックが、ごとっと音を立ててカウンターに置いたのは、見るからに重そうな金属製の首輪だった。
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