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第50話

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  *

「ツクヨミ」

 日本神話の月の神が現れる。

 ツクヨミはアマテラス、スサノオと並ぶ三貴子みはしらのうずのみこのなかの神の一体であり、月を神格化した、夜を統べる神であると考えられている。

 月のような色の髪をした《彼女》はツクヨミを呼び出すと姿を消した。

 それは瞬間的なものだったから状況がつかめない。

 気がつけば、綿里さんの唱えた氷精霊セルシウスは粉々に砕け散り、綿里さんも傷だらけの重傷を負っていた。

「綿里さん!」

「わたしは、もう、ダメ……」

 綿里さんの意識は朦朧としている。

「あの……布佐良さんには近づいてはダメ…………される」

「えっ、なんで……月子に? なにをされるだって」

「ごめん……あなたの味方に、なれなくて」

 綿里さんは、亡くなった。

 意識の消失と同時に綿里さんの体は消えていく。

 いったい《誰》が、こんなことを……。

「私の存在には、まだ気づかないか?」

「えっ?」

 月のように輝く黄色い髪を持つ西洋風の《彼女》がいる。

「キミは……誰だ?」

「私はヴィジョン・マインディング」

「ヴィジョン・マインディング?」

「キミの精神を管理する者だ」

「どういうことさ……なにがしたいんだよ!?」

「キミを、守りたいだけだよ」

《彼女》は、僕のいる空間を歪めていく。

「この空間での時間を終わらせる。まもなく、もとの場所に転移させられるであろう。では、また……」

《彼女》の存在が消えていく。

「空間が、もとに戻っていく……」

《影》の討伐が完了したことにより、僕は僕の部屋に戻った。

  *

「……武尊」

 気がつくと黄色い髪をした彼女……布佐良月子がいた。

「大丈夫?」

「ああ、うん……」

 自分の部屋を見回す。

 彼女がいない。

「そういえば、綿里さんは?」

「ん? 綿里さんって?」

「えっ? 綿里さん、この部屋にいなかった?」

「いや、いなかったけど? どうしたの? なんか……武尊、変だよ」

「あれ……いなかった、っけ?」

 どういうことだ……?

 綿里さんは、この部屋にいたはずなのに……。

 そうだ。

 あのとき、《彼女》によって綿里さんは……消えたんだ。

 でも、確かに彼女は、ここにいたはずなのに……どうして?

 どうして僕の友達は、次々と消えていくのだろう……?

 もう、なにもかも失いたくなかった。

 綿里さんがいなくなった世界線で、なぜか月子は僕の部屋にいて、もしかしたら《彼女》によって月子の記憶が操作されているのだとしたら、それは残酷なことだと思う。

  *

「綿里未雪さんですが、現在、行方不明となっています。警察に捜査を進めてもらっていますが、まだ見つかっていません。私たちにできることは、彼女の無事を祈ることです。とにかく彼女が早く、このクラスに戻ってくることを願いましょう」

 一年A組の先生の朝礼により、綿里さんが行方不明になっていることを知る僕たち。

 綿里さんは、この世界からも消失したようだった。

 これから僕は、どのように《影》と戦っていけばいいのだろうか?

 まだ答えを見いだせないでいる。
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