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二歳になっても発語がない、しゃべらない長男①〜二歳を過ぎてもしゃべらない
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うちの長男は発語が遅かった。
「遅かった」と書くと、二歳前後にはせめて単語の一つや二つくらいはしゃべっていたのだろうと思われそうだが、そんなレベルではない。
二歳を過ぎても言える単語ゼロ、「まま」も「まんま」さえも発音できなかったのである。
親は普通、子どもがしゃべり出すのを楽しみに待つものである。はじめての言葉は何であるか、平均より遅いか早いか、などなど。
私も長男が一歳を過ぎた頃から今か今かと彼の発語を待ちわびていた。
ところがどっこい。
一歳を一ヶ月過ぎても三ヶ月過ぎても、話し始める予兆を全く見せなかったのである。一歳半検診でももちろん一切話さない(特に再検査などにはならなかったが)。
ただ「あー」とか「あっあー」とか、興味のあるものを指差しつつ喃語を繰り返すのみ。
とうとう二歳を迎えたが、状況は全く変わらず。長男は生後二ヶ月で寝返り、半年でつかまり立ち、十ヶ月で歩行を開始するなど、他の発達は順調と思っていただけに、悩みは大きかった。
二歳といえばネットの子育て情報によると、よその平均的なお子様は数百種類の語彙を用いて二語文を操っているらしいというのに……。
我が市では一歳半健診の次は三歳健診と、二歳児の時点では行政に相談もできない。
代わりに私は空いた時間を使っての情報収集に余念がなかった。
「発語 遅い」などで検索すると、関連情報は星の数ほど出てくる。が、子どもの発語のことで悩んでいる人々の経験談やお悩み相談を読んでも、「一歳半なのに単語を三つしか言えないので心配しました」とか、「二歳を過ぎたのに二語分がなかなか出ないんですけどどうすればいいですか」とか、長男に比べると「はぁ?! むしろ順調なんじゃね?」と言いたくなるようなものばかりだった。
今の時代、スマホで情報が簡単に集まることは良し悪しがあると思い知った次第である。
ところで長男の発語が遅すぎる件について、ふと思い出すことがあった。彼を産んだ病院が完全母乳育児をゴリゴリに推奨する医院だったことだ。
私の母乳の出が悪かったばかりに(入院期間中、結局一滴も出なかった。退院の翌日にやっと出たのでなんとか初乳だけは飲ませることができた)、長男は腹を減らして常に泣いていた。
母乳推奨の上に完全母子同室、さらには大部屋だったため、私の方もストレスが凄まじかった。同室の人々に迷惑をかけたくないため夜も寝ずに息子を抱えて廊下を行ったり来たりしていた。結局、五泊の入院期間中の睡眠時間は、合計しても六時間に満たないのではないだろうか。決して大袈裟に言っているわけではない。
大部屋といえど同室の産婦同士でキャッキャうふふと会話が弾むわけではなく、私も含め四人ともカーテンを閉め切り完全に没交渉であったのだが、他の赤子は静かなのに我が息子だけがずっと泣いていた。腕をブンブン振り回して号泣しているのである。
それもそのはずで、助産師たちに「赤ちゃんは三日分の弁当を持って生まれてくる」とかいう真偽不明な言葉をかけられ、母乳が出るまでミルクを全然与えられなかったのである。白湯さえも、文字通り一滴もである。
事前に母乳育児に熱心な病院だと調べてはいたが、まさかここまでとは思わなかった。
とうとう長男の血糖値が下がりまくり、これはヤバいということでやっと数ミリのミルクを貰うことができた。実に四日目の出来事である。数ミリなので全然足りないのは言うまでもないが、それでも少しは腹が満たされたのか、はじめて息子は二時間ほどすやすやと眠った。
丸三日以上も飲まず食わずの我が息子が不憫で不憫で……。
当時のことを思い出すと今でも胃がキリキリするのである。
ちなみに次男の時も同じ医院で出産した。「長男の時にノイローゼ寸前でした」と強く言って早めにミルクをもらおう、そして個室を希望しようと覚悟しての入院であった。できれば他院で産みたかったが、田舎なので他に選択肢がないのである。
二人目だからとの期待も虚しく長男出産時と同じく母乳は出ず、二日目からミルクを支給された。苦情が出たのかよく知らんがずいぶん緩くなったものである。良かった、良かった。
回想が長くなった。つまり何を言いたいのかというと、「出生直後に血糖値が下がった影響で脳に異常が生じたのではないか」という可能性である。
おそらくそういう事実は無かっただろう。しかしあれだけの地獄を経験した上で長男の発語がなく、ほとんどノイローゼ状態になっていたのだから、当時は「あれのせい……私があそこで産んだばっかりに……」と泣きたい気持ちでいっぱいいっぱいであった。
すっかり脱線してしまった。話を戻す。
これは専門的な機関に診てもらう必要があるのでは、と私は焦った。噂に聞く「療育」というものを一刻も早く受ける必要があるのではないか、と。
結論からいうと、いろいろなネットのページで頻繁に目にした「療育は早ければ早いほど良い」という言葉は、私にとって呪いの言葉となったたのである。
続く。
「遅かった」と書くと、二歳前後にはせめて単語の一つや二つくらいはしゃべっていたのだろうと思われそうだが、そんなレベルではない。
二歳を過ぎても言える単語ゼロ、「まま」も「まんま」さえも発音できなかったのである。
親は普通、子どもがしゃべり出すのを楽しみに待つものである。はじめての言葉は何であるか、平均より遅いか早いか、などなど。
私も長男が一歳を過ぎた頃から今か今かと彼の発語を待ちわびていた。
ところがどっこい。
一歳を一ヶ月過ぎても三ヶ月過ぎても、話し始める予兆を全く見せなかったのである。一歳半検診でももちろん一切話さない(特に再検査などにはならなかったが)。
ただ「あー」とか「あっあー」とか、興味のあるものを指差しつつ喃語を繰り返すのみ。
とうとう二歳を迎えたが、状況は全く変わらず。長男は生後二ヶ月で寝返り、半年でつかまり立ち、十ヶ月で歩行を開始するなど、他の発達は順調と思っていただけに、悩みは大きかった。
二歳といえばネットの子育て情報によると、よその平均的なお子様は数百種類の語彙を用いて二語文を操っているらしいというのに……。
我が市では一歳半健診の次は三歳健診と、二歳児の時点では行政に相談もできない。
代わりに私は空いた時間を使っての情報収集に余念がなかった。
「発語 遅い」などで検索すると、関連情報は星の数ほど出てくる。が、子どもの発語のことで悩んでいる人々の経験談やお悩み相談を読んでも、「一歳半なのに単語を三つしか言えないので心配しました」とか、「二歳を過ぎたのに二語分がなかなか出ないんですけどどうすればいいですか」とか、長男に比べると「はぁ?! むしろ順調なんじゃね?」と言いたくなるようなものばかりだった。
今の時代、スマホで情報が簡単に集まることは良し悪しがあると思い知った次第である。
ところで長男の発語が遅すぎる件について、ふと思い出すことがあった。彼を産んだ病院が完全母乳育児をゴリゴリに推奨する医院だったことだ。
私の母乳の出が悪かったばかりに(入院期間中、結局一滴も出なかった。退院の翌日にやっと出たのでなんとか初乳だけは飲ませることができた)、長男は腹を減らして常に泣いていた。
母乳推奨の上に完全母子同室、さらには大部屋だったため、私の方もストレスが凄まじかった。同室の人々に迷惑をかけたくないため夜も寝ずに息子を抱えて廊下を行ったり来たりしていた。結局、五泊の入院期間中の睡眠時間は、合計しても六時間に満たないのではないだろうか。決して大袈裟に言っているわけではない。
大部屋といえど同室の産婦同士でキャッキャうふふと会話が弾むわけではなく、私も含め四人ともカーテンを閉め切り完全に没交渉であったのだが、他の赤子は静かなのに我が息子だけがずっと泣いていた。腕をブンブン振り回して号泣しているのである。
それもそのはずで、助産師たちに「赤ちゃんは三日分の弁当を持って生まれてくる」とかいう真偽不明な言葉をかけられ、母乳が出るまでミルクを全然与えられなかったのである。白湯さえも、文字通り一滴もである。
事前に母乳育児に熱心な病院だと調べてはいたが、まさかここまでとは思わなかった。
とうとう長男の血糖値が下がりまくり、これはヤバいということでやっと数ミリのミルクを貰うことができた。実に四日目の出来事である。数ミリなので全然足りないのは言うまでもないが、それでも少しは腹が満たされたのか、はじめて息子は二時間ほどすやすやと眠った。
丸三日以上も飲まず食わずの我が息子が不憫で不憫で……。
当時のことを思い出すと今でも胃がキリキリするのである。
ちなみに次男の時も同じ医院で出産した。「長男の時にノイローゼ寸前でした」と強く言って早めにミルクをもらおう、そして個室を希望しようと覚悟しての入院であった。できれば他院で産みたかったが、田舎なので他に選択肢がないのである。
二人目だからとの期待も虚しく長男出産時と同じく母乳は出ず、二日目からミルクを支給された。苦情が出たのかよく知らんがずいぶん緩くなったものである。良かった、良かった。
回想が長くなった。つまり何を言いたいのかというと、「出生直後に血糖値が下がった影響で脳に異常が生じたのではないか」という可能性である。
おそらくそういう事実は無かっただろう。しかしあれだけの地獄を経験した上で長男の発語がなく、ほとんどノイローゼ状態になっていたのだから、当時は「あれのせい……私があそこで産んだばっかりに……」と泣きたい気持ちでいっぱいいっぱいであった。
すっかり脱線してしまった。話を戻す。
これは専門的な機関に診てもらう必要があるのでは、と私は焦った。噂に聞く「療育」というものを一刻も早く受ける必要があるのではないか、と。
結論からいうと、いろいろなネットのページで頻繁に目にした「療育は早ければ早いほど良い」という言葉は、私にとって呪いの言葉となったたのである。
続く。
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