ぼっち主婦の日常とか。

筑前煮

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風呂苦痛

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 使い魔の背を撫でながら、ラルフは再び語り出す。

 最初に向かったのは、海が見える村。魚の漁のために朝早く起きて、船に乗っていく村人たちはたくましく見えたこと、次の目的地は両親が支援している孤児院のある山奥の村。

 そこでは子どもたちと村人たちが一緒に畑仕事をしたり、料理をしたりと生きるためのことを教えていた。

「一回だけ、旅の途中で両親にあったよ。ついこの前なんだけどね」
「びっくりしてたんじゃない?」
「うん。思いっきり抱きしめられた」

 そのことを思い出したのか、ラルフの目がやさしく細められる。

 両親たちとゆっくり話したのはとても久しぶりのことで、とても楽しかったと微笑む姿を見て、アシュリンの心が和む。

 とはいえ、普段あまり話さないから、なにから話せばいいのかわからなかったとラルフは後頭部をかいた。

「にゃんでも話せばいいにゃー。親子にゃんだから」

 今までずっと黙って歩いていたノワールがアシュリンの足元から、ラルフに声をかけた。彼はノワールに視線を落として目を丸くし、じっとノワールを見つめる。

「会話が続かにゃくても、いいにゃ。ただ『会話したい』という気持ちが大事にゃ」

 ノワールはぴょんとアシュリンの肩に跳んだ。そして目線をラルフに移し、ぷにぷにの肉球を見せた。

 思わず、ツンと肉球をつつくラルフ。シャー! と怒られたので、肩をすくめる。

「会話したい気持ち、かぁ」
「ラルフが旅に出て、きっとさびしいだろうしね。でも、お互いなにを話せばいいのかわからないみたいな感じなのかも?」
「それはあるかも。……そうだね、今度会ったら、ちょっといろいろ話してみるよ」

 アシュリンとノワールはこくりとうなずいた。

 きっと、次に会うときにはたくさんの会話を楽しめるだろう、と考えながらワクワクと胸がおどった。だって、それは素敵なことだと思うから。

 アシュリンがにまにまと口元を動かしていると、ラルフとルプトゥムが視線をわしてくすりと笑い声を上げる。

「アシュリンたちのことも話していい?」
「いいよー」
『もちろんです!』

 黙っていた本がいきなりしゃべりだした。

 本はアシュリンとラルフを囲うようにくるくると動き回り、どこか興奮こうふんしたように声を張り上げる。

『ボーイ・ミーツ・ガール! 青春ですね!』
「なにそれ?」
「少年が少女に出会うこと……だっけ?」
「それじゃあラルフが主人公になっちゃわない?」

 人差し指を口元に添え、ムムムとうなるアシュリンにラルフは本に視線を送る。本はくるくると回り続けていた。

『自分の人生、自分が主人公ですよ!』
「それはそうかもしれないけどー……」

 むぅ、と唇をとがらせるアシュリンをたしなめるように、ノワールが肉球を頬に押し付ける。

「それぞれの人生があるんだにゃー」
「にゃー」

 ぷにぷにの肉球に頬をゆるませるアシュリン。気持ちを持ち直したのか、ノワールの鳴き真似をした。
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