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第17話 幸せって長くは続かないらしい
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その日僕はいつものようにサルサと別れて診療所に出勤していた。
小さな診療所のベッドにシャノが爆睡している。
シャノは前日の夜、僕と別れてから娼館に行くと息巻いており、この熟睡っぷりを見る限りきっと天にも昇る気分を味わったのだろう。
ただベッドは何かあった時に使うかもしれないため僕はシャノを何とか裏口近くの床に放る。
誰かが裏口から入ったら暗くてちょうど踏むくらいの位置である。
不可抗力だねしょうがない。
最近力も付いてきた気がする。
腕相撲誰にも勝てないけどね。
診療所を開いて数時間。
今月の売上と上納金の計算、消毒用の酒や包帯、ポーションや聖水などで使った経費を計算していく。
僕はもちろん治癒魔術、たまに治癒魔法で患者を治すが前処理や後処理でどうしてもポーションや聖水が必要になる。例えば床に散らばった血の掃除、解毒後の栄養剤代わり。用途は様々だ。
ちなみに僕は貯金をしておらず自分で使う分以外のお金は全てサルサに渡している。
別に裏切られたっていいのだ。
僕は裏切られるならサルサがいい。
そのくらい彼女には救われている自覚がある。
安心して眠れるのも彼女のおかげ。
今のところ僕が返せるものはお金以外に思い浮かばない。
こうして1日が過ぎていく。
今日は4人の患者が来た。
服飾士のお姉さんは機械に手を突っ込んでしまい指から先がズタズタに。
冒険者のお兄さんは指の怪我を放置して、朝起きたら手全体が真っ黒になり慌ててお金を持って駆け込んできた。
うん、壊死してる、じゃあ切断するね。
あとの2人はファミリーの構成員。
名前はゴジとグエイラ。
もう重傷も重傷だった。
しっかりと消毒と処置を済ませ今は奥で寝かせてる。
傷口塞がないまま下水道を通って来たらしく破傷風の危険性もある。
暫くは休ませないと。
そんな感じで静かな1日を過ごしていた。
ただ今日はきっと運が無かった。
最近幸せなことばかりで勘違いしていた。
僕はそういう運命の下にある人間なんだってことを忘れていたんだ。
診療所の扉が破られた音がした。
たまにいるよね、扉を壊す荒くれ者。
はぁシャノに修理手伝って貰わなきゃ、なんて考えてた。
振り向くとそこには親分がいた。
いや、確かに僕の魔力感知が親分と言っているだけで目の前にいるのはまるで獰猛な牛のような何かだった。
あれか、獣化ってスキルかな?牛もあるのかーなんて思考を僕は巡らせていたはず。
あれ?何で僕壁にもたれかかっているんだ?
それに耳も聞こえないし片方……あれ?どっちだ?あ、右目か、右目が見えない……自分の身体を見下ろすと血だらけだった。
「ふぇ?」
直後尋常ではない痛みに襲われる。
「へへっ、そうだよなぁ
お前、治るんだもんなぁ」
と笑うラスラトの顔は僕には人には見えなかった。
もっとこう、恐ろしくて残忍な何かだ。
段々と僕の脳みそが嫌な記憶に支配される。
逃げなきゃと身体は分かっているのに震えて手足が動かない。
思考もどんどん鈍化していき考えが纏まらなくなる。
そこからは親分の独壇場。
リンチの始まりだ。
まずは残った目を潰された。
最初はお腹に蹴り…………背中……今度は足かな?………
身体がとにかく痛くて、熱くて熱くて………耳も聞こえない。
逃げようにも方向が分からずどこに行けばいいか分からない。
ただ真っ暗な闇の中で、色んな方向から痛みがやってくる。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!もうしないから!ごめんなさい!」
僕はもう必死で叫んだ。
なんというか本能で叫んだ。
何を言ってもこういう暴力は止まないってことを知っているはずなのに僕は叫ばずにはいられなかった。
急にプチュっと音がした。
いや正確には僕は今耳が聞こえていないから音なんてするわけが無い。
身体の感覚だ。
あ、そっか。
お腹に穴が空いたのか。
身体の中から熱いものが流れ出る感覚。
別に初めてじゃないけれどこんなに深いは初めてだ。
また頭に衝撃……あれ?右足の感覚が無いなぁ……なくなっちゃったかなぁ?
段々と、でも着実に僕が壊れていくのが分かった。
あれ……ちゃんと再生できるかな…血がなくなっちゃう………はやく治さなきゃ………ぼくいつもどうやってたっけ……思考が回らない………脳みそ大丈夫かなぁ………
……皮膚を切り裂かれるってこんな感じかぁ………いつも治してる冒険者、こんな恐怖に耐えてたのかぁ……凄いなぁ……………
切られて裂かれて、治していくうちからまた切られて………お腹の中ぐちゃぐちゃにされて………やめてよ……サルサと一緒に食べた朝食出ちゃうじゃん…………
痛覚なんてもうないから、まるで煮込まれたカレーの中でじゃがいもが崩れていくような、ちょっと幸せな気持ち………スプーンでパカりと割れるかんじ……コロコロ…コロコロって転がしてプチュって潰す………お野菜をお玉でお鍋に押し付けて溶かすような………
そういうばカレーって作ったこと無かったなぁ……香辛料とか見たことないけど……今度挑戦してみよ………コンドってなんだっけ?……………ナンダッケ?……
もうこのまま死んじゃってもいいかもしれない………この数ヶ月楽しかったし………ホントに幸せだった……十分だなぁ……こんな終わり方でも僕は神様に感謝してるんだ………サルサ怒るかなぁ……怒るよねぇ……でも仕方がないんだから許して……シャノは無事かな?……
でも……………………でもでもでもでもでもでもでも…………
やっぱり生きたいなぁ………そうだよね?ぼく………だってさ、また僕はあの家に帰りたい。
帰って掃除してサルサの帰りを待つんだ。
一緒にご飯を食べて………一緒の布団で寝るんだ。
一晩中抱きつかれるのはちょっと邪魔だけど、外が寒いんだから仕方がない。
それで朝起きていつもみたいに買い出しに行ってご飯作って……
ふふっ……僕なんかには過ぎた幸せだなぁ…………僕が生きたいなんて……………
小さな診療所のベッドにシャノが爆睡している。
シャノは前日の夜、僕と別れてから娼館に行くと息巻いており、この熟睡っぷりを見る限りきっと天にも昇る気分を味わったのだろう。
ただベッドは何かあった時に使うかもしれないため僕はシャノを何とか裏口近くの床に放る。
誰かが裏口から入ったら暗くてちょうど踏むくらいの位置である。
不可抗力だねしょうがない。
最近力も付いてきた気がする。
腕相撲誰にも勝てないけどね。
診療所を開いて数時間。
今月の売上と上納金の計算、消毒用の酒や包帯、ポーションや聖水などで使った経費を計算していく。
僕はもちろん治癒魔術、たまに治癒魔法で患者を治すが前処理や後処理でどうしてもポーションや聖水が必要になる。例えば床に散らばった血の掃除、解毒後の栄養剤代わり。用途は様々だ。
ちなみに僕は貯金をしておらず自分で使う分以外のお金は全てサルサに渡している。
別に裏切られたっていいのだ。
僕は裏切られるならサルサがいい。
そのくらい彼女には救われている自覚がある。
安心して眠れるのも彼女のおかげ。
今のところ僕が返せるものはお金以外に思い浮かばない。
こうして1日が過ぎていく。
今日は4人の患者が来た。
服飾士のお姉さんは機械に手を突っ込んでしまい指から先がズタズタに。
冒険者のお兄さんは指の怪我を放置して、朝起きたら手全体が真っ黒になり慌ててお金を持って駆け込んできた。
うん、壊死してる、じゃあ切断するね。
あとの2人はファミリーの構成員。
名前はゴジとグエイラ。
もう重傷も重傷だった。
しっかりと消毒と処置を済ませ今は奥で寝かせてる。
傷口塞がないまま下水道を通って来たらしく破傷風の危険性もある。
暫くは休ませないと。
そんな感じで静かな1日を過ごしていた。
ただ今日はきっと運が無かった。
最近幸せなことばかりで勘違いしていた。
僕はそういう運命の下にある人間なんだってことを忘れていたんだ。
診療所の扉が破られた音がした。
たまにいるよね、扉を壊す荒くれ者。
はぁシャノに修理手伝って貰わなきゃ、なんて考えてた。
振り向くとそこには親分がいた。
いや、確かに僕の魔力感知が親分と言っているだけで目の前にいるのはまるで獰猛な牛のような何かだった。
あれか、獣化ってスキルかな?牛もあるのかーなんて思考を僕は巡らせていたはず。
あれ?何で僕壁にもたれかかっているんだ?
それに耳も聞こえないし片方……あれ?どっちだ?あ、右目か、右目が見えない……自分の身体を見下ろすと血だらけだった。
「ふぇ?」
直後尋常ではない痛みに襲われる。
「へへっ、そうだよなぁ
お前、治るんだもんなぁ」
と笑うラスラトの顔は僕には人には見えなかった。
もっとこう、恐ろしくて残忍な何かだ。
段々と僕の脳みそが嫌な記憶に支配される。
逃げなきゃと身体は分かっているのに震えて手足が動かない。
思考もどんどん鈍化していき考えが纏まらなくなる。
そこからは親分の独壇場。
リンチの始まりだ。
まずは残った目を潰された。
最初はお腹に蹴り…………背中……今度は足かな?………
身体がとにかく痛くて、熱くて熱くて………耳も聞こえない。
逃げようにも方向が分からずどこに行けばいいか分からない。
ただ真っ暗な闇の中で、色んな方向から痛みがやってくる。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!もうしないから!ごめんなさい!」
僕はもう必死で叫んだ。
なんというか本能で叫んだ。
何を言ってもこういう暴力は止まないってことを知っているはずなのに僕は叫ばずにはいられなかった。
急にプチュっと音がした。
いや正確には僕は今耳が聞こえていないから音なんてするわけが無い。
身体の感覚だ。
あ、そっか。
お腹に穴が空いたのか。
身体の中から熱いものが流れ出る感覚。
別に初めてじゃないけれどこんなに深いは初めてだ。
また頭に衝撃……あれ?右足の感覚が無いなぁ……なくなっちゃったかなぁ?
段々と、でも着実に僕が壊れていくのが分かった。
あれ……ちゃんと再生できるかな…血がなくなっちゃう………はやく治さなきゃ………ぼくいつもどうやってたっけ……思考が回らない………脳みそ大丈夫かなぁ………
……皮膚を切り裂かれるってこんな感じかぁ………いつも治してる冒険者、こんな恐怖に耐えてたのかぁ……凄いなぁ……………
切られて裂かれて、治していくうちからまた切られて………お腹の中ぐちゃぐちゃにされて………やめてよ……サルサと一緒に食べた朝食出ちゃうじゃん…………
痛覚なんてもうないから、まるで煮込まれたカレーの中でじゃがいもが崩れていくような、ちょっと幸せな気持ち………スプーンでパカりと割れるかんじ……コロコロ…コロコロって転がしてプチュって潰す………お野菜をお玉でお鍋に押し付けて溶かすような………
そういうばカレーって作ったこと無かったなぁ……香辛料とか見たことないけど……今度挑戦してみよ………コンドってなんだっけ?……………ナンダッケ?……
もうこのまま死んじゃってもいいかもしれない………この数ヶ月楽しかったし………ホントに幸せだった……十分だなぁ……こんな終わり方でも僕は神様に感謝してるんだ………サルサ怒るかなぁ……怒るよねぇ……でも仕方がないんだから許して……シャノは無事かな?……
でも……………………でもでもでもでもでもでもでも…………
やっぱり生きたいなぁ………そうだよね?ぼく………だってさ、また僕はあの家に帰りたい。
帰って掃除してサルサの帰りを待つんだ。
一緒にご飯を食べて………一緒の布団で寝るんだ。
一晩中抱きつかれるのはちょっと邪魔だけど、外が寒いんだから仕方がない。
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