ミナミ商店は今日も無許可で営業中

池堂海都

文字の大きさ
上 下
4 / 9

4

しおりを挟む
メッセージにあった通り、ミナミは行きつけの喫茶店にいた。
「遅い!ボクを待たせるとはいい度胸だね!」
「メッセージが来て一直線に来たんだが」
「そこはあのタイミングでボクからメッセージがくることを予想して動くのがいい部下ってもんでしょ?」
 典型的なブラック上司っぷりのミナミの手元に置かれたオレンジジュースはまだ口が付けられていなかった。
「先輩も今来たところなんじゃないですか?」
「うるさい!」
 やはりブラック上司だ。
 カウンターでコーヒーを注文し、席に着くとミナミは「首尾はどうだった?」と尋ねてきた。
「報告がなかったってことは、つまりそういうことです」
「でも、知らせがないのは良い知らせっていうし」
「俺は報告はします。売人は現れませんでした」
 ミナミはオレンジジュースをストローで吸い取り「だろうね」とつぶやいた。
「予想していたんですか?」
「可能性の一つとしてね。でもこれで売人の正体は大きく絞り込めた」
 マスターがコーヒーを運んできた。すでに夕方なのにカフェイン飲料を注文したことを少し後悔するが、口をつける。苦い。ミナミがオレンジジュースだからと見栄を張ったのが良くなかった。
「まず、売人が現れなかったことは2通りの解釈ができる。
 つまり、売人側に問題があった場合と買い手に問題があった場合だ」
「売り手の問題はわかる。何かトラブルがあった場合だ。でもこの場合ならメールに何かしら連絡が来るだろう。でも、買い手の問題っていうのはなんだ?」
 思った以上に苦かったコーヒーにミルクを垂らした。
「買い手の問題っていうのは、言い換えると売り手が『この相手には売る事はできない』と買い手、つまりキミが判断されたということだ」
 つまり、出禁を食らったってことか。
「俺は別に問題を起こしてないぞ」
「ボクとつるんでいる時点で相当だと思うけどね」
 お前がいうな。しかし、言っていることはもっともだ。
「でも、あいつらだって同じことしてるんだから出禁にすることはないと思うけどな」
「だからこそ、だよ。怪しいじゃないか。同業者が客として現れるなんて。ボクならソッコウで逃げ出すね」
 そうか、そういうことか。ミナミが最初に言った「絞り込めた」の意味がわかってきた。売人は俺がミナミの手下としてチューイングガムを捌いていることを知っている。
「おい、俺だって足がつかないように捌いてるぞ。一体誰なら俺が売人をやってるって知ってるんだよ」
「そうだね、まずボクは知っている」
「まさかの自作自演?」
 状況を整理すればあり得なくもない。
「まさか、いくらキミに払う分け前を渋ったとしても危険を冒してそんな事はしないさ」
「じゃあ誰だよ」
「そうだね、客は外していいかな。売人の正体を気にする客はいない。彼らにとってガムはただの嗜好品だ」
「そうだな。それに何度もいうが俺も取引には最新の注意を払っている。放校処分は嫌だからな」
「キミの保身にかける情熱に関しては信頼しているよ。だけど、取引をずっと監視している人物もしくは組織があったらどうだろう?現場は抑えられなくても、取引現場周辺によく現れる人物としてキミのことをマークしていてもおかしくない」
「まさか、風紀委員会?」
「厳密には風紀委員会の実働部隊である風紀委員会強制執行班だね。と、ここまでがボクの推測なんだけどどう思う?情報屋」
 ミナミがここにいないはずの人物に話しかけた。いや、俺がいないと思っていた人物と言った方がいい。なぜなら黒いフードを被った得体の知れない人物は、いつの間にか同じテーブルについていたからだ。
 その手元には大きなパフェが置かれていた。
「アタシは情報屋だ。ここの情報に対して判断を下さない」
「ま、情報屋としてはそうだろうね」
 情報屋は黙ってパフェを口に運んでいた。一回にスプーンで掬う量は少ないがペースが凄まじい。見ている間にもパフェの山は低くなっていった。
「で、一つ頼みたいことがあるんだけど」
「それは、情報屋としてのアタシに?」
「どうだろうね」
 情報屋が俺を一瞥した。いや、目元が隠れているので見られたかどうかはわからない。
「悪い、今日はもう帰ってくれ。ここの支払いはボクがしておくから」
 驚いた。守銭奴のミナミが支払いを持つなんて天地開闢以来初めてのことではないか?
「人ばらいか?」
 ミナミはあいまいに微笑んだ。素直に従っておいた方がいいだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

鷹鷲高校執事科

三石成
青春
経済社会が崩壊した後に、貴族制度が生まれた近未来。 東京都内に広大な敷地を持つ全寮制の鷹鷲高校には、貴族の子息が所属する帝王科と、そんな貴族に仕える、優秀な執事を育成するための執事科が設立されている。 物語の中心となるのは、鷹鷲高校男子部の三年生。 各々に悩みや望みを抱えた彼らは、高校三年生という貴重な一年間で、学校の行事や事件を通して、生涯の主人と執事を見つけていく。 表紙イラスト:燈実 黙(@off_the_lamp)

「南風の頃に」~ノダケンとその仲間達~

kitamitio
青春
合格するはずのなかった札幌の超難関高に入学してしまった野球少年の野田賢治は、野球部員たちの執拗な勧誘を逃れ陸上部に入部する。北海道の海沿いの田舎町で育った彼は仲間たちの優秀さに引け目を感じる生活を送っていたが、長年続けて来た野球との違いに戸惑いながらも陸上競技にのめりこんでいく。「自主自律」を校訓とする私服の学校に敢えて詰襟の学生服を着ていくことで自分自身の存在を主張しようとしていた野田賢治。それでも新しい仲間が広がっていく中で少しずつ変わっていくものがあった。そして、隠していた野田賢治自身の過去について少しずつ知らされていく……。

【完結】ぽっちゃり好きの望まない青春

mazecco
青春
◆◆◆第6回ライト文芸大賞 奨励賞受賞作◆◆◆ 人ってさ、テンプレから外れた人を仕分けるのが好きだよね。 イケメンとか、金持ちとか、デブとか、なんとかかんとか。 そんなものに俺はもう振り回されたくないから、友だちなんかいらないって思ってる。 俺じゃなくて俺の顔と財布ばっかり見て喋るヤツらと話してると虚しくなってくるんだもん。 誰もほんとの俺のことなんか見てないんだから。 どうせみんな、俺がぽっちゃり好きの陰キャだって知ったら離れていくに決まってる。 そう思ってたのに…… どうしてみんな俺を放っておいてくれないんだよ! ※ラブコメ風ですがこの小説は友情物語です※

冬の水葬

束原ミヤコ
青春
夕霧七瀬(ユウギリナナセ)は、一つ年上の幼なじみ、凪蓮水(ナギハスミ)が好き。 凪が高校生になってから疎遠になってしまっていたけれど、ずっと好きだった。 高校一年生になった夕霧は、凪と同じ高校に通えることを楽しみにしていた。 美術部の凪を追いかけて美術部に入り、気安い幼なじみの間柄に戻ることができたと思っていた―― けれど、そのときにはすでに、凪の心には消えない傷ができてしまっていた。 ある女性に捕らわれた凪と、それを追いかける夕霧の、繰り返す冬の話。

5年A組の三学期。

ポケっこ
青春
狂いの5年A組も三学期。5Aでは一日に一回何か可笑しな出来事が起こる。そんな5Aを盛り切りする咲希先生と生徒達の日常を描いた物語。

月並みニジゲン

urada shuro
青春
「僕には、涙の色が見える」  特殊な能力を持っていることを公言しては、同級生から変わり者扱いをされてきた少年、  鈍条崎ルチカ(にびじょうさきるちか)。  高校では、素敵な出会いがあるといいな。  そんな希望を抱え、迎えた入学式。  ルチカには願いどおり、ある少女との出会いが訪れる。  はじめて自分の能力を信じてくれたその少女は、ルチカも知らない、特別な色を持っていた。 ※完結しています。読んで下さった皆様、どうもありがとうございました。 ※他サイト様にも、同小説を投稿しています。

無敵のイエスマン

春海
青春
主人公の赤崎智也は、イエスマンを貫いて人間関係を完璧に築き上げ、他生徒の誰からも敵視されることなく高校生活を送っていた。敵がいない、敵無し、つまり無敵のイエスマンだ。赤崎は小学生の頃に、いじめられていた初恋の女の子をかばったことで、代わりに自分がいじめられ、二度とあんな目に遭いたくないと思い、無敵のイエスマンという人格を作り上げた。しかし、赤崎は自分がかばった女の子と再会し、彼女は赤崎の人格を変えようとする。そして、赤崎と彼女の勝負が始まる。赤崎が無敵のイエスマンを続けられるか、彼女が無敵のイエスマンである赤崎を変えられるか。これは、無敵のイエスマンの悲哀と恋と救いの物語。

処理中です...