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しおりを挟む「ボクはね、思うのだよ。1万人に及ぶ若き消費衝動を湛えた学校という閉鎖空間において、商売をする権利を購買部が独占するのは不当であるとね!」
そう話すのは、一般的な男子高校生の身長である俺の肩ほどの身長に短めに切り揃えられたボーイッシュな髪型、そして身長に見合わない暴力的な胸部を持った女子生徒だった。もう少し、お淑やか路線や可愛い路線を極めれば学校のアイドルだって夢でないはずなのに、この人には淑やかさやら可愛さが決定的に欠如している。
そんな彼女の名前は遊佐ミナミ。俺が不本意ながら働いているミナミ商店の店長だ。そしてこのミナミ商店は生徒会の認可を得ずに学校内で商業活動をしている。ミナミの才覚によって今まで現場を抑えられることなく乗り切っているが、もし見つかれば放校処分も覚悟しなければいけないようなことを俺たちはやっている。
「そう思うなら生徒会なりなんなりに働きかければいいんじゃないか?」
そう提案してみたのは、放校処分にならない手段があるならそれに越したことはないと思ったからであった。
「後輩くんよ、分かってないよ!この問題はとおっても根深いんだ!ボクが正攻法でミナミ商店の営業許可を取得できたとしてだよ!一体何年かかるんだい?その間にどれだけの金儲けのチャンスが失われるか!それがキミに分かっているのかい?このボクの魂の叫びが!」
「落ち着いてください、先輩」
「そうだね、冷静さを失っては商機を逃しかねない」
いや、めんどくさいから落ち着けって意味だったんだけど。
そもそも、こんな忘れられた階段の最上階のさらに上、閉鎖された屋上への入り口に『ミナミ商店』という立札を立てただけの店に商機なんてものがあるとは思えない。
「あと正規の出店許可を取っちゃたら、違法な商売が出来なくなるじゃないカ。そんなのボクはいやだよ」
「違法な商売する気満々じゃねえか、どの口が独占が不当だってほざくんだ?」
「違法といえばさ、最近一部の違法物資の売り上げが落ちているね」
部下としての些細な反抗を完全にスルーしたミナミは帳簿をめくりながらそう言った。
そう、ミナミ商店では違法な物資も取り扱っている。むしろ主要な商材と言ってもいい。
当然違法物資と言っても外の世界の法で罰されるようなものは取り扱っていない。あくまで学校内での所持が禁じられている物資だ。学校の校則は厳しく、全寮制ゆえに抜け道も少ない。そんな中でミナミ商店は外部との交易に成功し、違法物資を販売している。
「何が減ってるんだ?」
「チューイングガム」
「そいつは痛手だな」
ミナミに命じられて売人をやっているので、チューイングガムの売れ行きが落ちている深刻さはよく分かった。あれは単価は少ないが、嵩張らないので隠しやすい。だが、使用後の処分方法が雑になりやすく発覚がしやすいのが欠点だ。売り捌く相手は慎重に選ばなくてはいけない。
「ねえ、横領とかしてないよな?」
ミナミがジト目を向けてきた。
「そんなことするわけないだろ!そりゃ、もう少し給料上げてくれとか思ってるが、それで横領とサボタージュとか、密告とかするわけないだろ!」
「そんなにスラスラ妨害手段が出てくるあたり検討したことはあったようだな」
まあ、検討くらいは。こちとら脅されて協力されているわけなので。
「とにかく、チューイングガムの販売が落ちている理由に心当たりはあるか?」
「飽きたんじゃないか?」
とりあえず思いついたことを言ってみた。相手は人間だ、飽きることだってある。もしかしたら、合法の代替品を見つけたのかもしれない。
「そんなわけあるか。いいか、ガムってやつはめっちゃくっちゃ依存性が強いんだ。だからこそ安定的なキャッシュマシンとして発覚リスクを抱えてまで販売を続けていたんだ!つまり、ガムの売り上げが下がるっていうのは異常事態なんだよ!わかるのか?おい!」
ミナミが俺の襟を掴んで持ち上げようとするが、いかせん迫力不足であった。いや、一部の迫力はとても素晴らしいものがあったが威圧できるような性質のものではなかった。
「分かった、分かったから。ガムが重要な商材っていうのは理解している」
「じゃあ、真面目に考えろ」
ミナミはそのままドサリと床にあぐらをかいた。
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