昨日へのメッセージ

池堂海都

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昨日へのメッセージ
「私は昨日のあなたにメッセージを送ることができます」
「そいつはおかしい。俺は昨日何もメッセージを受け取っていない。つまりあんたは嘘つきだ」
 突然話しかけて生きた男に対してなぜわざわざ反論をしたのかはうまく思い出せない。
 たまたまかもしれないし、そうなるように運命がきめられていたのかもしれない。
 初歩的なタイムパラドックスの反論をされた男は、その反論をあらかじめ予期していたようで、特に慌てることなく言葉をつないできた。
「そんなに変なことではありません。あなたはメッセージを結局送らないことに決めたのかもしれない。もしくはメッセージを受け取ったことに気づかなかったか、メッセージを受け取ったという記憶を失った可能性もあります」
 男の反論に対して俺は自分でも意外なことに納得感を覚えていた。
「メッセージに気づかなかったり、受け取ったとしても記憶を失ったとしよう。その場合、メッセージを送ったことになるのか?」
「あなたの御懸念はごもっともです。メッセージが通常の自然パターンと見分けがつかない形になっていた場合、メッセージが届いていたと主張するのは困難でしょう。記憶を失う件についても同様です」
 ここで、おとこは人差し指を顔の前に差し出して「しかし」とつないだ。
「ご心配は無用です。メッセージは手紙の形で昨日のあなたの元へ届けられます。暗号化などはされません。そして、手紙を読んだあとであなたは記憶を失いますがメッセージを受け取っていればしたであろう行動は無意識に行われます」
「つまり、俺の意識レベルでは矛盾は発生しない、もしくは発生していないように認識できるということか」
「理解が早くて助かります。では、昨日のあなたに送るメッセージを決めていただけますか?」
「待ってくれ、まだ確認したいことがある」
「いいでしょう。時間ならたっぷりあります」
 男にせかしてくる様子はなかったので、時間をかけて確認したいことを整理した。
「もし、俺が明日家から一歩も出なくなるようなメッセージを送ったらどうなる?」
「そうしたら、私があなたのご自宅を訪問します」
「でも、ここは自宅じゃない」
 男がにやりと笑った。
「本当にそうですか?」
「なにを言っているん……」
「あなたは今、どこにいますか?」
 分からなかった。自分が今どこにいるのか。どうやってここまで来たのかも思い出すことができなかった。
 だが、その前の記憶はある。
 その中から、普段であればとらないような不自然な行動を思い出す。そのときに、何を考えていたかも考えた。
「分かった。メッセージを決めよう」

 昨日の朝、目覚めたらまたすべての記憶を取り戻すのだろう。 そして、またループから抜ける方法を探すのだろう。
 昨日の俺がメッセージの内容を理解してループ脱出の方法を見つけてくれることを祈っている。

  
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