16 / 16
強者
しおりを挟むジャイアントオークが吠えた。
その咆哮は、弱者が強者に対して行う威嚇ではなく、強者が弱者に対して行う蹂躙開始の宣言であった。
ジャイアントオークが両手を地面についた。
ジャイアントオークの右後ろ足が地面を掻いた。
ジャイアントオークが首を下げ、堅い頭部を正面に向けた。
ジャイアントオークが突進の準備を整えた。
その間フレイは眺めていることしかできなかった。
そして、ジャイアントオークが緩慢に、しかしその巨体からすれば驚くべき加速でフレイに突進を仕掛けた。
(やばい)
そう思った時にはフレイの体は宙に舞っていた。骨という骨を折られなかったのはギリギリで体に染みついた受け身がとれたからであったがそれすら完璧とはほど遠いかった。
(やっぱり知覚が追いつかない)
ジャイアントオークの突進をもろに受けてなお、ふらふらと立ち上がったフレイに対して、そばで見ていた冒険者と観客が歓声をあげた。
一方のフレイを吹き飛ばしたジャイアントオークはフレイの生死を確認しようともせず勝利の雄叫びをあげていた。
この怪物にとって、これは生きるために行う狩ではなく衝動によって行うスポーツであるのだろう。
スポーツとして敵を狩るのに相手の生死を確かめる必要はない、殺し損ねたとしても圧倒的な実力差で再びねじ伏せるだけなのだから。
1つめの獲物を沈めた怪物は次の獲物を探す。
そして、獲物の中で一番でかいメス個体に狙いを定めた。
怪物にとっての不幸は、足りない頭脳故に相手の実力を正確に計ることができないことであった。
先ほどと同じように、下半身に力をためて突進を仕掛けた。「ほ~。それなりに鍛えてるじゃないか」
何が起きたか把握できない怪物が聞いたのは、本来であれば吹き飛んでいるはずの獲物が自分の頭を掴みながら発した声だった。
そして、次の瞬間遅まきながら本能が危険を察知して飛び退こうとするがアリーザがそれを許さなかった。
「逃げるんじゃないよ。あんたの獲物はあっちだよ」
そう言うと、怪物の頭を無理矢理ひねってフレイの方を向かせるとそのまま頭から手を離して怪物の尻を蹴り飛ばした。
怪物はつんのめりながらも指示された方向に走り出した。
だが、その走りは今までのような狩る側の突進ではなく強者から逃げるために走りであった。
だが、突進される側にとって、その違いは意味を持たない。
フレイは再び宙を舞った。
地面にたたきつけられたフレイは、再び立ち上がろうとするがすぐには立ち上がれなかった。
獲物が地面に落ちたのを見た怪物は三度突進をかけようとしたが、かなわなかった。
背後から近寄ったアリーザが怪物の首に腕を絡めて動きを封じていた。
「どうしたんだい?なんで武器をとらないんだい?」
訓練用フィールドには四隅に予備の武器がおいてある。ジャイアントオークに並の武器が有効かはともかく生身で戦うよりはましであろう。
「私、武器とか持てないんです!」
フレイが叫んだ。
「甘ったれたこと言ってんじゃないよ。あんた死ぬよ!」
「でも、無理なものは無理なんです!」
「あっそ。じゃあ死にな」
アリーザは再び怪物をけしかけた。
0
お気に入りに追加
1
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
【R18】異世界なら彼女の母親とラブラブでもいいよね!
SoftCareer
ファンタジー
幼なじみの彼女の母親と二人っきりで、期せずして異世界に飛ばされてしまった主人公が、
帰還の方法を模索しながら、その母親や異世界の人達との絆を深めていくというストーリーです。
性的描写のガイドラインに抵触してカクヨムから、R-18のミッドナイトノベルズに引っ越して、
お陰様で好評をいただきましたので、こちらにもお世話になれればとやって参りました。
(こちらとミッドナイトノベルズでの同時掲載です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる