2 / 4
妹と本屋に来たワケ
しおりを挟む
地域有数の売り場面積を誇る書店を目の前にして、俺たち兄妹は言い争いをしていた。
「なんで?私が持ってればいいでしょ?」
「なぜそうなる。ここは年長者たる俺が持っていればいいだろ。荷物は男が持つのが常識だ」
我ながら苦しい言い訳である。悪手だな、と直感した。
「たかだかカード一枚で何言ってるの?そんな言い訳するのは怪しい。貸して」
俺たちは、図書カードの奪い合いをしていた。叔父さんも兄妹に1枚ずつ渡せばいいものを、5000円分の図書カード一枚を渡してきて、「二人で好きなものを買ってきなさい」と曰う。図書カードは外見からでは残高がわからない仕組みになっている。よってどちらかが勝手に使ってもわからないわけだ。
おかげで本屋を前にどちらが図書カードを持つかで言い争っている。
「だいたいお前、別行動中に2500円以上買う気だろ」
「あんたこそ、ちょろまかすつもりでしょ」
さすが兄妹、考えることは同じだ。しかし、俺にも譲れないものがある。最たるものがお金だ。
「わかった。二人で回ろう。そうすればどちらかがちょろまかすことはできない」
俺の提案を聞いた妹は、黙って考えていた。きっと妹の脳内では兄と買い物をする気恥ずかしさと2500円を天秤にかけているはずだ。そして兄としての直感では妹は金を優先する。
「・・・で・・・る」
「なんだ?」
「だ・か・ら。二人で回るってんでしょ。さっさと行く!」
勝った。俺たちは兄妹だ。プライドよりも大切にするものも同じだ。つまり金のためなら兄妹で買い物をするのも恥ずかしくない。
「お前の本を先に選んでもいいぞ」
「優しいの気持ち悪い」
「別に、最初に待つのも後で待つのも同じだろ。で、何買うんだ?」
「なんだっていいでしょ」
「どうせついて行くんだから教えろよ」
「黙ってついてくればいいじゃん」
言われた通り黙ってついて行くことにした。階段を2階分上がり、それまでのフロアと比べてカラフルなフロアにたどり着いた。
「漫画か?」
「・・・」
無視された。妹はそのまままっすぐ最も目がチカチカする領域。具体的にはピンク色の比率がとても高い本棚に迷いのない足取りで進んだ。
慌てて追いかけて、本棚のカテゴリーを確認する。
少女漫画・BL
せめて前者であってくれ。
「おい、これってどっちなんだ?」
だめだ。妹は完全に集中しきっている。周囲からどう見えるのかを全く気にせずに本棚の前にしゃがみ込み、足元の本を凝視していた。こうなってはどんな言葉も耳には入らない。
今のうちに、普段言えないことを言っておこうかとも思ったが、そこは兄の情けでやめておいた。
しかし、本を選ぶのは時間がかかる。かれこれ2時間はたったが、まだ妹は本を選び終えていない。今なら自分の本を探しに行ってもバレないと思うが、集中が解けた時に俺がいないで濡れ衣を着せられるのは困るので少女漫画・BLのコーナーで妹が本を選ぶのを見守っていた。
しかし、何もしないのも暇である。
初めは、本の背表紙を眺めていた。少女漫画もBL本も普段は読まないので興味深い。
面白そうなタイトルの本があったので、本棚から抜き取り表紙の絵を確認してみた。なるほど、そういう絵をしているのか。あらすじも確認する。ちょっと面白そうかもしれない。帯にもそそられる文句が書かれているし。
そして漫画コーナーには試し読み用の小冊子が吊るされている。
本の背表紙を眺め出してから、試し読みの小冊子を片っ端から読み漁るようになるまで時間は掛からなかった。
「決めた!」
妹は買う本を決めたらしい。カゴに入れられた本のラインナップをチラ見すると2500円ギリギリいっぱいを攻めるために考えられたラインナップであった。なんでわかるかって?それは秘密だ。
「私は決めたよ。次どこ行くの?」
「もう会計でいいぞ」
「なんで?もしかして勝手に別行動したの?図書カードちょろまかしてないよね?」
全く妹は疑り深い。
「いいか。俺は誓ってこの本棚の前から動いていない。これがその証拠だ」
俺は自身が選んだ本が入ったカゴを突き出した。そこには少女漫画が2500円分入っていた。
やめろ、妹よ。そんな目で兄を見るな。
「これ、私が持ってるから買わなくていいよ。貸すから」
「そうか、じゃあこっちを買おう」
俺は迷いなく。別の漫画をカゴに入れた。このコーナーにある本ならあらすじと価格は全て頭に入っている。
「会計に行くぞ」
俺一人で買い物に来ていたら少女漫画満載のカゴで会計をするのは気恥ずかしかっただろうが、今は妹がいる。妹が会計をすれば少女漫画が大好きな妹と付き添いの兄という構図が作れる。我ながら完璧だ。
「こっちが私ので、これが兄のです」
妹が同一会計なのに必要のない解説をしながらカゴをカウンターに乗せた。アルバイトのお姉さんが微妙な表情をしている(気がする)。
「お支払いはいかがいたしましょう?」
「図書カードでお願いします」
すかさず叔父さんからもらった図書カードを差し出す。店員さんは慣れた手つきで図書カードを機械にかざした。
「図書カード残高568円です残りのお支払いはいかがいたしますか?」
このとき、兄妹の心は一つになった。
「「あの叔父。許すまじ」」
「なんで?私が持ってればいいでしょ?」
「なぜそうなる。ここは年長者たる俺が持っていればいいだろ。荷物は男が持つのが常識だ」
我ながら苦しい言い訳である。悪手だな、と直感した。
「たかだかカード一枚で何言ってるの?そんな言い訳するのは怪しい。貸して」
俺たちは、図書カードの奪い合いをしていた。叔父さんも兄妹に1枚ずつ渡せばいいものを、5000円分の図書カード一枚を渡してきて、「二人で好きなものを買ってきなさい」と曰う。図書カードは外見からでは残高がわからない仕組みになっている。よってどちらかが勝手に使ってもわからないわけだ。
おかげで本屋を前にどちらが図書カードを持つかで言い争っている。
「だいたいお前、別行動中に2500円以上買う気だろ」
「あんたこそ、ちょろまかすつもりでしょ」
さすが兄妹、考えることは同じだ。しかし、俺にも譲れないものがある。最たるものがお金だ。
「わかった。二人で回ろう。そうすればどちらかがちょろまかすことはできない」
俺の提案を聞いた妹は、黙って考えていた。きっと妹の脳内では兄と買い物をする気恥ずかしさと2500円を天秤にかけているはずだ。そして兄としての直感では妹は金を優先する。
「・・・で・・・る」
「なんだ?」
「だ・か・ら。二人で回るってんでしょ。さっさと行く!」
勝った。俺たちは兄妹だ。プライドよりも大切にするものも同じだ。つまり金のためなら兄妹で買い物をするのも恥ずかしくない。
「お前の本を先に選んでもいいぞ」
「優しいの気持ち悪い」
「別に、最初に待つのも後で待つのも同じだろ。で、何買うんだ?」
「なんだっていいでしょ」
「どうせついて行くんだから教えろよ」
「黙ってついてくればいいじゃん」
言われた通り黙ってついて行くことにした。階段を2階分上がり、それまでのフロアと比べてカラフルなフロアにたどり着いた。
「漫画か?」
「・・・」
無視された。妹はそのまままっすぐ最も目がチカチカする領域。具体的にはピンク色の比率がとても高い本棚に迷いのない足取りで進んだ。
慌てて追いかけて、本棚のカテゴリーを確認する。
少女漫画・BL
せめて前者であってくれ。
「おい、これってどっちなんだ?」
だめだ。妹は完全に集中しきっている。周囲からどう見えるのかを全く気にせずに本棚の前にしゃがみ込み、足元の本を凝視していた。こうなってはどんな言葉も耳には入らない。
今のうちに、普段言えないことを言っておこうかとも思ったが、そこは兄の情けでやめておいた。
しかし、本を選ぶのは時間がかかる。かれこれ2時間はたったが、まだ妹は本を選び終えていない。今なら自分の本を探しに行ってもバレないと思うが、集中が解けた時に俺がいないで濡れ衣を着せられるのは困るので少女漫画・BLのコーナーで妹が本を選ぶのを見守っていた。
しかし、何もしないのも暇である。
初めは、本の背表紙を眺めていた。少女漫画もBL本も普段は読まないので興味深い。
面白そうなタイトルの本があったので、本棚から抜き取り表紙の絵を確認してみた。なるほど、そういう絵をしているのか。あらすじも確認する。ちょっと面白そうかもしれない。帯にもそそられる文句が書かれているし。
そして漫画コーナーには試し読み用の小冊子が吊るされている。
本の背表紙を眺め出してから、試し読みの小冊子を片っ端から読み漁るようになるまで時間は掛からなかった。
「決めた!」
妹は買う本を決めたらしい。カゴに入れられた本のラインナップをチラ見すると2500円ギリギリいっぱいを攻めるために考えられたラインナップであった。なんでわかるかって?それは秘密だ。
「私は決めたよ。次どこ行くの?」
「もう会計でいいぞ」
「なんで?もしかして勝手に別行動したの?図書カードちょろまかしてないよね?」
全く妹は疑り深い。
「いいか。俺は誓ってこの本棚の前から動いていない。これがその証拠だ」
俺は自身が選んだ本が入ったカゴを突き出した。そこには少女漫画が2500円分入っていた。
やめろ、妹よ。そんな目で兄を見るな。
「これ、私が持ってるから買わなくていいよ。貸すから」
「そうか、じゃあこっちを買おう」
俺は迷いなく。別の漫画をカゴに入れた。このコーナーにある本ならあらすじと価格は全て頭に入っている。
「会計に行くぞ」
俺一人で買い物に来ていたら少女漫画満載のカゴで会計をするのは気恥ずかしかっただろうが、今は妹がいる。妹が会計をすれば少女漫画が大好きな妹と付き添いの兄という構図が作れる。我ながら完璧だ。
「こっちが私ので、これが兄のです」
妹が同一会計なのに必要のない解説をしながらカゴをカウンターに乗せた。アルバイトのお姉さんが微妙な表情をしている(気がする)。
「お支払いはいかがいたしましょう?」
「図書カードでお願いします」
すかさず叔父さんからもらった図書カードを差し出す。店員さんは慣れた手つきで図書カードを機械にかざした。
「図書カード残高568円です残りのお支払いはいかがいたしますか?」
このとき、兄妹の心は一つになった。
「「あの叔父。許すまじ」」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
乙男女じぇねれーしょん
ムラハチ
青春
見知らぬ街でセーラー服を着るはめになったほぼニートのおじさんが、『乙男女《おつとめ》じぇねれーしょん』というアイドルグループに加入し、神戸を舞台に事件に巻き込まれながらトップアイドルを目指す青春群像劇! 怪しいおじさん達の周りで巻き起こる少女誘拐事件、そして消えた3億円の行方は……。
小説家になろうは現在休止中。

モブが公園で泣いていた少女にハンカチを渡したら、なぜか友達になりました~彼女の可愛いところを知っている男子はこの世で俺だけ~
くまたに
青春
冷姫と呼ばれる美少女と友達になった。
初めての異性の友達と、新しいことに沢山挑戦してみることに。
そんな中彼女が見せる幸せそうに笑う表情を知っている男子は、恐らくモブ一人。
冷姫とモブによる砂糖のように甘い日々は誰にもバレることなく隠し通すことができるのか!
カクヨム・小説家になろうでも記載しています!


可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~
蒼田
青春
人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。
目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。
しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。
事故から助けることで始まる活発少女との関係。
愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。
愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。
故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。
*本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。
冬の水葬
束原ミヤコ
青春
夕霧七瀬(ユウギリナナセ)は、一つ年上の幼なじみ、凪蓮水(ナギハスミ)が好き。
凪が高校生になってから疎遠になってしまっていたけれど、ずっと好きだった。
高校一年生になった夕霧は、凪と同じ高校に通えることを楽しみにしていた。
美術部の凪を追いかけて美術部に入り、気安い幼なじみの間柄に戻ることができたと思っていた――
けれど、そのときにはすでに、凪の心には消えない傷ができてしまっていた。
ある女性に捕らわれた凪と、それを追いかける夕霧の、繰り返す冬の話。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる