【完結】元婚約者の対応

柊谷

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元婚約者の対応

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第1話

「シャーリー様!助けてくださいっ!」


 談話室で寛いでいたところに急に話しかけてきたのは、公爵令嬢のミレーユ様でした。


「まあ、今度はどうされましたの?」


 あまりの勢いに、周りの方々もびっくりしていらっしゃいます。彼女の護衛ですら呆気にとられています。


「一週間前に殿下に贈られたドレスを今日着ていたんですよ。そ、そしたら、剥き出しの肩を執拗に撫でてくるんです…なんとか我慢していたら、服の下にまで手を入れてきて…」


 なんだ、そんなことですか。肩から力が抜けました。


「まあ、そうでしょうね。あの殿下なら」


 私に対しても、度々そういうことをしようとしてきましたもの。なんとか毎回頑張ってかわしましたが。元婚約者の私にすらよくやってきてましたから。


「えっ?!殿下ってそういう方なんですか!?」


「ええ、そういう方ですよ?ご存知なかったんですか?」


 だとしたら浅慮と言うほかありませんが、殿下は彼女のそういうところを気に入られたのかもしれませんわね。


 どうやら殿下は巨乳至上主義だったらしく、ミレーユ様が婚約者に決まってからずっとミレーユ様(の特大サイズの胸)に夢中なのです。


 ミレーユ様が近くにいる時、常にそのおっぱいに視線をロックオンしていらっしゃるのは、皆の知るところです。


 ミレーユとの初夜を一日千秋の思いで待ち望んでいるであろう殿下が、再度私の婚約者になることに首を縦に振ることはないでしょう。


「でも私、性欲の強すぎる殿方ってちょっと苦手で…シャーリー様もう一度殿下の婚約者になりませんか?」


 心底嫌そうにご自分の肩を抱いていらっしゃいますが、苦手なものを他人に押し付けないでいただきたいです。


「でも以前は殿下のことを好きだと言ってらしたじゃないですか」


「だって以前の殿下は理知的で紳士的で格好よかったんですもの…」


 あー…他人のおっぱいと思って理性を総動員して紳士的に振舞ってたのが、自分のものになるおっぱいだと思ったらタガが外れちゃったんですね、きっと。


 ミレーユ様のおっぱいは、噂で聞いた騎士団ジョーク曰く「町一つと交換できるおっぱい」ですもんね。


 わからなくもありません。


「とにかく、まずは殿下とお話なさってください」


 さすがに殿下の婚約者を又変えるのは難しい。そう言って、ミレーユ様の護衛に目配せをしました。


 常識のある護衛のようで、彼はミレーユ様の腕をとって、部屋からの退出を促しました。


「そうですよ、お嬢様。まずは殿下とお話されませんと。こんな大事なことを「ちょっとお喋りがしたいから」だなんて言って家を抜け出されては困ります」


 護衛の彼の顔は心底困り果てた様子です。


「知りませんよ!あんなエロオヤジみたいな!しかも人前で!」


 あらあら。


「ふふっ、可愛らしい恋人に浮かれていらっしゃるのでしょう。仕方のない方ですわね」


 相手が自分でないのであれば、気が楽です。思わず笑みがこぼれてしまいます。


「笑いごとじゃないです。なんとか言ってくださいよ!」


「私が?殿下に?何故?」


 言われたことが理解できずに首を傾げました。


「だってシャーリー様の言うことなら殿下聞くじゃないですか!」


 ああ、それは当時は婚約者だったからですよ。


「それは昔のことですわ。私と殿下は婚約を解消したのですもの。殿下に意見するだなんて恐れ多いこと、もうできませんわ」


「そんな…」


「別によろしいじゃありませんか。恋人なのでしょう?仲睦まじくて微笑ましいですわ」


 年相応にいちゃいちゃするカップル、いいじゃありませんか。


「よくないですよ!人前で胸揉まれたんですよ!?」


「あら、まあ…」


 想像以上でした。


 殿下ったら随分はしゃいでいらっしゃいますのね。


「私にはどうとも」


 できないですし、今さらそんなこと言われても困ります。ミレーユ様がご自分で殿下の恋人になることを選ばれたのですから。


「殿下もストレスが溜まっていらっしゃるのでしょう。癒して差し上げるのも恋人の役目ではないかしら?」


 私は婚約者ではあっても恋人ではなかったので、よくわかりませんが。


「だからってあんな痴女みたいな真似…」


 そんなにひどかったのでしょうか。もしかしたら


「殿下は人に見られるのがお好みなのかもしれませんわね?」


 つい、思ったことを口にしてしまったら、ミレーユ様は青くなりました。


「そんな…」


 ふらふらとして倒れそうでしたので、護衛の彼に支えてもらってます。目が虚ろですわね、お可哀想に。


 …ミレーユ様がお役目を代わってくださって本当によかったわ。


「まあ、そのうち慣れますわ」


 多分。


「無理です。なんとかしてください~」


 泣きながら抱きついて来ましたが、それこそ無理です。


「一介の貴族の娘が殿下に意見などできませんわ。首が飛んでしまいかねませんもの」


 殿下はお年頃ですからね。邪魔をするなんて自殺行為です。


「私、いったいどうしたら…」


 そうですわね。


「気がすむまで付き合って差し上げたらいいんじゃないかしら?」


 強く出るのも難しいのでしょう。そうなるとあとは受け入れるのみです。


「そんな…」


「大丈夫ですわ」


 泣きじゃくる姿が気の毒だったので安心させるようににっこり笑うと、彼女は縋るように私を見つめました。


「どれだけ恥ずかしい思いをしても、それで死ぬことや痛い思いをすることはありませんもの」


「いやー!!!!!!!」



 彼女は私のドレスの胸元を掴んで号泣してしまいました。いったい何を想像したのでしょうか。



 彼女はその後、護衛の彼に連れていかれました。おそらく殿下のところでしょう。



 めでたしめでたし
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