彼女と彼の、微妙な関係?

千里志朗

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18.水族館風ミニ・デート(1)

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 ※(沙理砂視点)


「こっちですよ」

 全君は、学校から駅へ行く表通りからは外れる横道に私を案内する。

 余り寄り道をしない私は、一つ道を外れるだけで、もうその先何があるのかまるで分からない。

 表通りより狭い、車道と歩道の区別もない裏道は、知らない風景のせいか、何だか危険で不潔な印象すらある。

 大袈裟に言うと、裏の組織が違法な取引に使う場所、みたいな?

 まあ、そんなのは世間知らずな私の、色眼鏡を通して見える妄想に近い印象でしかなく、表通りを一つ外れただけの通りなのだから、大声をあげればそちらにもすぐ聞こえる、実際は安全な普通の場所でしかないのよね。

 全君は、その裏通りの角に位置する、暗いガラスの目立つビルを指して言った。

「そこです。水族館……みたいな所です」

「え?水族館なんて、ここら辺にあったかな?」

 余り寄り道しないから不案内とはいえ、いくら何でもそんな大きな遊興施設があれば、それを知らない訳はない。誌愛だって、そんな遊び場所があれば、私達を引っ張って寄り道しても不思議はないのだから。

 実際、時々私達は買物や買い食いに付き合わされている。

 夕飯前なのにいくらでも食べる男子や、見かけによらず大食いな誌愛と違って私はそんなに入らないので、飲み物以外ではただ見ているだけだけど。

 そのビルに近づくと、周りには四角いタライに、適量の水と、亀やトカゲみたいな小さな生き物をいれたものがあって、それを世話する店員や、談笑しながらそれを見物している私達と同じ高校の高校生に、東側の高校の子達もいた。

 そして、入り口から見える魚の泳ぐ水槽の数々。

「……えー、と。水の生き物専門のペットショップ、よね?」

 私は少し考えて恐る恐る、多分正解だろう答えを口にした。

「正解です。爬虫類とかもいます。サリサ先輩は、トカゲとか蛇は大丈夫ですか?」

「あ、うん。見るだけなら。触るとかはちょっと怖いから駄目よ」

「なら大丈夫ですね。小型のワニとかもいますよ。ペット用で」

「え!そういうのって、大人になると大きくなったりしないの?」

「多分、小型でそれ以上大きくならない種だったと思いますけど。

 でも、夜店とかで取れる緑亀とか金魚も、ちゃんと餌をやって生き続けると、驚く程大きくなったりしますよね」

 そうなのだ。まさかワニがそうだと、下水道に逃げて巨大化したワニが、とかパニック映画みたいな展開になってしまうからそれはないのだろう。

「そう!しあが、金魚とか今も飼っているけど、あれ、ギョっとするぐらいに大きくなるのよね。まるで鯉(コイ)か何かみたいに」

「……そう、ですね。ギョっとは、上手くかけてますね」

 全君はプっと吹き出して、苦笑いしながら言う。

「え?……あ!今の、駄洒落じゃないから!」

 本当に!

「あ、はい。無意識なら、それはそれで凄いと思いますけど」

「………」

 全君、結構意地悪?ニコニコ笑って、皮肉じゃないとは思うけど……。うぅぅ……。

「ともかく、入ってみましょうか」

 全君は、私の手を取ってその店の店内に引っ張って行く。

 三階くらいまで暗いガラス張りの店内は、その印象のまま、店内は水族館の様に、余り明るい照明はつけずに、少し暗い場所だった。

 色々な魚、主に熱帯魚だと思われる水槽がガラス張りの店内にずらりと壁の様に並び、色とりどりな魚を泳がせている。どういう造りなのか分からないけれど、水槽の上や下の方に専用の照明がついているのか、水槽の中を明るく照らしていて、中の魚がよく見える様になっている。

 水槽にはそれぞれ、その水槽にいる魚の名前や特徴などが書かれたプレートが、水槽の下の方の隅につけられている。何故か値札はない。

 中にも水槽が並んでいるけれど、なんだか随分と余裕のある配置で、本当に水族館の様に広々としていて、人が四人人ぐらい横に並んでいける位の通路になっていた。

「……他のペットショップに行った時と、かなり印象が違うような……?」

 普通はもっと、値札がやたら貼られていて、買ってくれ、と自己主張していた。店内ももっとゴチャゴチャと色々並んでいて狭かった記憶がある。

「このお店、ビルのオーナーが経営していて、利益度外視で、学生達が楽しめる無料の水族館みたいな場所を目指して作ったんだそうです」

「へー、どおりで。……全君は、なんでこんな目立たない場所のお店知ってるの?その、オーナーのお話とかも」

「あー、僕は、行く先々に何があるのか、行って確かめる、地図のマッピング配置を調べて見て楽しむような癖がありまして、高校に入学してから最初の内は僕も電車を使っていたので、通学路の周囲と、駅の周辺施設なんかは歩き回って調べてたんです。

 オーナーの話は、最初来た時、店の作りに疑問があったので、店員の人に聞いて知りました。でも、ネットで検索すると、お店紹介でその辺の話は書いてありましたよ」

 全君は何でもない事の様に笑って言うけれど、コミュ症気味の私には、その積極性やコミュ強な会話の上手さ、人当たりの良さなどは私には皆無だ。

 つくづく、年下とはいえ、自分みたいなインキャには勿体ない好人物な気がする。やっぱり、私からお断りを入れた方がいいんじゃないだろうか……?

「ふ~ん……。ところでその、そろそろ手を離して欲しいのだけど……」

 私は、店に入る時にガッチリ掴まれた手を持ち上げて、なるべく気を悪くしない様に愛想笑いしながら言ってみた。

「あ、はい!すみません、つい……」

 全君も笑って手を離してくれたけど、ついって、どういう意味のつい、なんだろうか……?

 それから、私達の水族館?風なペットショップの見物が始まった。








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【キャラ紹介】

女主人公:黒河 沙理砂

自称ごく普通の女子高生。母親がスペイン出身のゴージャス美人で、その血を継いで容姿は黒髪美人だが、性格は平凡な父親似。過去のトラウマから男性全般が苦手。


男主人公:神無月 全

高校一年生だが、背の高くない沙理砂よりも低く、小さい印象がある。

バスケ部所属。その小ささに似合わぬ活躍から、三年女子を中心としたファンクラブがある。本人は迷惑にしか思っていない。

物語冒頭で沙理砂に告白している。


白鳳院 誌愛

沙理砂の幼馴染で一番の親友。北欧出身の(実は)貴族の母を持つ。白鳳院家も日本で有数の名家でお金持ち。使用人やメイド等が当り前にいる。

本人は輝く様な銀髪で、容姿も美人。普段おっとりぽよぽよ天然不思議系美少女だが、実はキャラを演じているらしい。

心に傷を持つ沙理砂を大事にしていて過保護状態。

沙理砂に相応しい相手か、全を厳しく審査している。


宇迦野 瀬里亜

全のバスケ部先輩、風早ラルクの恋人。

可愛く愛くるしく小動物チック。

こちらでも、家の都合で別の全寮制お嬢様学園に進学した為、出番はかなりないと思われ。いとあわれなり。名前を日本名にするのに少し変更。
デート回入れました。


滝沢 龍

誌愛の恋人。母はモンゴル。
長身、体格もいい。ゴリラ・ダンク。
爽やか好青年、じゃない、まだ少年か。


風早ラルク(ランドルフォ)

瀬里亜の恋人。ラルクは愛称で、ランドルフォが本名。
3ポイントシューター。狙い撃つぜ!

母はイタリア系。ラテンの血が騒ぐ?




苗字を、向こうのキャラの特性に合わせて考えたので、余り普通な苗字が少ないかもです。

後書きキャラ表は、某氏の作品に影響を受けて(^ー^)ノ
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