彼女と彼の、微妙な関係?

千里志朗

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11.黒河 沙理砂の憂鬱(2)

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 ※(沙理砂視点)


「……つまりあんたは、親友の繊細な過去を、まだよく知りもしない下級生に初回からベラベラ明かしてしまったって言うの?!」

「うん、そうだよ~」

 私は、誌愛の余りにもあっけらかんとした態度に、二の句が継げず固まってしまった。

「……そりゃあ、いつか明かすときが来るかもしれないけど、それは私の許可が下りて、ある程度あの子と親しくなってから、少しづつ明かして行こう、とかって細心の気遣いを払おうとは思わないの?」

「うん~。でも、あの子いい子みたいだし、一途で真摯で真剣で、とっても信用の置ける子じゃないかな~」

「それは、(そんな印象受けなくもないけど)どんな根拠があって言ってるの?」

 私は自分の内心を隠して誌愛に聞く。

「私、しあちゃんの第六勘さぁ~~★」

 また誌愛が、バチコーンと変なポーズをとって、擬音のするウィンクを私にかます。かまさんでいいから!

「……確かに、しあの勘が、ほぼ百発百中なのは認めるけどさ~、それでも時と場合をわきまえてよ!」

 この子は本当に不思議な子で、慣れない土地に皆で遊びに出かけ、道に迷った時、明らかにヤの字がつく職業としか思えない強面のオジサンに道を尋ね、そのまま案内してもらった前科?がある。

 結局オジサンは、単に強面なだけの、人の好いオジサンで、その時のレジャーは結果的に大成功だったのだけど、私を始め、他の男嫌いではない幼馴染達まで戦々恐々、ずっと生きた心地がしなかった。

 かように、誌愛の行動はぶっ飛んでいるのだが、その勘はほぼ正しい。外れたのを見た事がないくらいだ。

「一応、私にとっての大事な話なんだし、勘頼りで話を進ませて欲しくないな……」

 あやふや過ぎる。何かもっと確かな指針が欲しい。

「もう、さりーってば我が侭さん?」

 そう言って誌愛は私の頬をぷにぷにと指で突っつく。

「……やめなさい。そう言えば、あの子がいつ私を好きになった、とかって聞いた?」

「あ、そーだそーだ、それがありました。あのねぇ、ぜん君がさりーを初めて見かけたのは私達が中学二年の夏、バスケットの県大会会場だったんだってさ~」

「え~と、それってりゅう達が、前年度の全国大会優勝のエリート校と、決勝戦で前半補欠出して来て、結構いい勝負した大会だっけ?」

「そうそう。三年の時は、その試合の事で警戒されて、最初からレギュラー出して来て、二人を潰しにかかって来たから、前の年よりもボロ負けだったんだよね~」

 私は、試合自体は見ていないけど、その成り行きぐらいは知っている。

「あの大会の観客で来てたんだ」

「うん。そこで、試合の盛り上がりと関係なく目立つ、一人退屈そうで、つまらなそうな影のある美少女を見つけてしまったのね~」

「……私、そんなに目立ってた?」

 何となく、悪い事をしたみたいで罰が悪い。

「目立ってた。ついでに浮いてたよ~。さりー、バスケに興味、なかったもんね」

「しょうがないじゃない。あんな、身体の大きい男と男の汗臭いぶつかり合いなんて、私には毒みたいなものなんだから……」

「うん、それは分かってる~。でも、だから他の人とは違って見えたのも、仕方ないね」

「そうよ。で、それがなんで、好きとか嫌いとかになる訳?」

「最初は、強豪相手に頑張るりゅう君達を見て、バスケに興味を持つようになったらしいんだけど、試合を追って見に来るたびに、憂いのある、謎の美少女がどうしても気になって、その内、バスケよりもさりーへの興味の方が大きくなっちゃったんだって。

 あぁ~、麗しの君よ、私が側にいれば、そんな寂しそうな顔、悲しそうな顔をさせたりはしなだろう~。その孤独を癒し、ずっと隣りで一緒に歩いて行こう~~」

「……それって本当?」

 私は、何だか満更でもなくて、ニヤけそうな口元を抑えるのに精一杯だった。後半の気取った言葉は誌愛の余計な子芝居だと分かってはいたのだけれど。

「うん。だって、そう言ってたもん。まあ後半は、私が言外の言葉を読み取った脚色だけど。

 それに、決定的だったのは、私達が高校に進学した後ね」

「??高校に入って、何か変わったかしら?」

「さりー、それ本気のボケ?私はツッコまないからね。

 『風早ラルク』の表向きの恋人になった事でしょーが!」

「あ……、あーっ、そっか!」

 忘れてた……いや、忘れてた訳はない。ただ、表向きの偽りな身分?なだけに、私にはハッキリ言って、その自覚はなかった。……いや、薄かったのだ。

「そうだよ。中学時代は、さりーに恋人はいませんでした。それが、高校に入ってからは……。

 ぜん君は、その噂を聞いて、自分のモヤモヤが恋愛感情だって自覚した、って言ってたよ」

「あちゃ~、そうなるんだ……」

 気になっていた女の子に恋人が、と聞けば、それはそうなってもおかしくないんだよね……。

「だから、高校進学もギリギリまで悩んでたって言ってたよ」

「え?なんで?」

「ボケ2回。尊敬する先輩のいる高校でバスケをしてみたい、だけどそこには、自分の想い人と熱々の恋人関係な先輩がいるのです。報われぬ片思いを隠してただ悲恋の道を行くのか、それとも先輩から想い人を奪う略奪愛を試(こころ)みるのか、どちらを選んでも、楽しい高校生活になるとは思えないよね?

 だからいっそ、全然違う高校に進学して、バスケの事も忘れて、ただ破れた初恋を良き思い出として、この先の人生を歩むか、とまさに重大な選択を強いられたのですよ」

 誌愛は懇切丁寧に、ドヤ顔で説明して下さる。

「……じゃあどうして、私達の高校に進学する事にしたの?」

「それも簡単。彼は中学時代から、応援席の私達の様子を見てたのです。ラルクの恋人が本当は誰か、なんて、その頃は隠してないし、大体の予想はつくでしょ。

 だからぜん君は、何かの事情があって、偽装恋人を演じているだけの筈、と実は大当たりな予想を立てて、それに一縷の望みを託して進学したんだってさ」

「……そう、なん、だ……」

 なんか、考えていたよりもずっと真剣で、重い……。その苦悩の一年を、彼はどうやって乗り越えて来たのだろうか。きっと長い一年だった筈だ。

 単に、ラルクと瀬里亜(せりあ)が中学卒業で別れ、高校入学を期に私と付き合い始めた、なんて可能性の考えだって、彼の立場からならば、あった筈だ。私側からはあり得ないのだけど、彼は私達の事情や人間関係を知らない。

 だから、“一縷の望み”なのだ。

 本当に、なんだか申し訳なくなって来る。そんなに真剣に、私一人の事を、想ってくれている人がいるだなんて……。

 我知らず、赤面してしまう。

「さりー、愛されてるねぇ~、ひゅ~ひゅ~♪」

「……茶化さないでよ」

「でも、同情なんかでつき合ったりしたら駄目だよ。同情から芽生える恋も、あるかもしれないけどさ」

 急に誌愛は真面目な顔をして、真に有用な助言をして来る。

「……そうね」

 真剣だから、長いから、苦しんだから、そんな理由で相手に合わせてお付き合いをOKしても、それはきっと同じような恋にはならないだろうから。

「でも変な話だよね。一昔前は、一人の人をただ一途に思い続けて、待ち続ける純愛を、至高の物のように考えられていた筈なのに、それを『重い』とか『ストーカー』とかで悪く言って片付けてしまうようになってるんだもの」

「……時代の変化なのかしらね。ただまあ、本当に行き過ぎて迷惑行為な『ストーカー』もいるみたいだけど」

 まあこの恋愛論議は余談。

「それで、しあの判定としては、彼は私の“練習相手”として、合格なの?」

「一応はね。まだあの、おっかないファンクラブの事があるから、それをどうするかによるかなぁ~」

「……そうね。もし私と彼が、恋人にせよ友達にせよ、付き合い始めた、とか知ったら、あのお姉さま方の攻撃は、もっと更に本格化してしまうものね。

 でも、彼にそれがどうにか出来るものなの?」

 もう生徒会にすら解散命令を出されていると、今日のしあの話から聞いていた。

「何とかしてもらわないと、まともに付き合う事なんて出来ないでしょ?ラルクの本当の恋人が誰か、は公言してもらうとしても、そっちはぜん君の問題でもあるんだから」

「……勝手に出来たファンクラブの行動にまで、本人が責任持てる事じゃないでしょうに」

「それをどうするか、で、あの子の本気度が計れるかもよ~。返事をするまで、あの子のリアクション待ちかな~」

「……もう充分本気度は伝わってる気がするけど」

 今の片思い、高校の選択の事なんかを聞いてしまうと。

「それはそれとして、ちゃんと考えた?私が出した“宿題”」

 誌愛が突然、微妙に怪しい視線で私を見てくる。

「―――分かってる。私だって、ずっとこのまま皆に甘えたままでいられない事ぐらい、ずっと考えていたわよ」

「およよ。私が出した“宿題”の一部分しか分からなかったのかね?出来の悪い生徒だ~」

 誌愛は気取った仕草で、ありもしない髭を撫でるフリをして私を非難する。

「なによ。自分の心に正直に、まっすぐ向き合った結果がそれじゃないの?」

「う~ん。抽象的過ぎた?じゃあ、そのままズバリ言うけど、さりー、ぜん君に告白してもらって、余り嫌な感じじゃなかったから、男嫌いのリハビリ練習相手うんぬん抜きに、好意があるなら普通につき合ってもいいんじゃない?って話」

 一瞬、頭が真っ白になった。

「………はぁ?!わ、わわわ私が、誰になにをっど、どう好意だだって!」

「さりー、噛みまくりだよ?」

「しあが急に変な事、言うからでしょーがっ!」

 不意打ちで脇腹くすぐられた様な、嫌な感じだ。

「あれ?あれ?自覚なし?重傷ですねぇ~。お薬を処方したい所ですが、この病には草津の湯でも治せないんですよ~」

「しぃあぁ~~~!!」

 私は、誌愛に飛び掛かって、脇腹をこちょこちょとくすぐりやり返した。

「わ、さりー、それ反則~!ぎぶぎぶ~~」

 私は親友とじゃれ合って、ともかくその場を誤魔化すしかなかったのだった……。










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【キャラ紹介】
女主人公:黒河(くろかわ) 沙理砂(さりさ)
自称ごく普通の女子高生。母親がスペイン出身のゴージャス美人で、その血を継いで容姿は黒髪美人だが、性格は平凡な父親似。過去のトラウマから男性全般が苦手。

男主人公:神無月(かんなづき) 全(ぜん)
高校一年生だが、背の高くない沙理砂よりも低く、小さい印象がある。
バスケ部所属。その小ささに似合わぬ活躍から、三年女子を中心としたファンクラブがある。本人は迷惑にしか思っていない。
物語冒頭で沙理砂に告白している。

白鳳院(はくほういん) 誌愛(しあ)
沙理砂の幼馴染で一番の親友。北欧出身の(実は)貴族の母を持つ。白鳳院家も日本で有数の名家でお金持ち。使用人やメイド等が当り前にいる。
本人は輝く様な銀髪(プラチナブロンド)で、容姿も美人。普段おっとりぽよぽよ天然不思議系美少女だが、実はキャラを演じているらしい。
心に傷を持つ沙理砂を大事にしていて過保護状態。
沙理砂に相応しい相手か、全を厳しく審査している。

宇迦野(うかの) 瀬里亜(せりあ)
全のバスケ部先輩、風早ラルクの恋人。
可愛く愛くるしく小動物チック。
こちらでも、家の都合で別の全寮制お嬢様学園に進学した為、出番はかなりないと思われ。いとあわれなり。名前を日本名にするのに少し変更。

滝沢(たきざわ) 龍(りゅう)
誌愛の恋人。母はモンゴル。

風早(かぜはや)ラルク(ランドルフォ)
瀬里亜の恋人。ラルクは愛称で、ランドルフォが本名。
母はイタリア人。


苗字を、向こうのキャラの特性に合わせて考えたので、余り普通な苗字が少ないかもです。
後書きキャラ表は、某氏の作品に影響を受けて(^ー^)ノ
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