彼女と彼の、微妙な関係?

千里志朗

文字の大きさ
上 下
5 / 32

05.告白のその後(2)

しおりを挟む


 ※


 最寄りの駅から徒歩約十五分。普通に近い筈なのに、一人で通って来た帰宅の道は、1時間以上歩いていた様な錯覚を覚えるくらいの疲労感を、私に覚えさせていた。

(……考えてみると、しあ達抜きに一人で帰って来たのって、高校入学してから初めてじゃないかなぁ……?)

 それだけ自分が、幼馴染達に頼り切った生活を、今まで意識せずに送って来た事が、切実に実感出来てしまった。

 私の幼馴染四人。

 白鳳院(はくほういん) 誌愛(しあ)と、別の全寮制お嬢様学園に進学した宇迦野(うかの) 瀬里亜(せりあ)。後、誌愛の恋人の滝沢(たきざわ) 龍(りゅう)と瀬里亜の恋人の、風早(かぜはや)ラルク。(ラルクは勝手に名乗っている愛称で、本当はランドルフォって名前なんだけど、彼はそれが気にいらず、好きなバンドから取った愛称で普段から通している)

 瀬里亜だけ別の学校で、他は一緒。男どもはバスケ部に在籍中だけど、私には余り関係……なくないか。特に、今日の出来事の後では……。

 幸い、帰り道の途中、誰一人にも声をかけられずに帰って来れたけど、歩いて来ただけなのに、息は乱れ、軽く眩暈すらする。思わず玄関先でへたり込んでしまう。

 私の過去のトラウマから男性全般に苦手意識がある。別に、話しかけられたりしなければ、どうと言う事もないのだけれど、一人で歩くと決まって……。

(自分の部屋まで戻るのも面倒……)

 取り合えず、カバンから携帯を出して見て見ると、どうやらあれからすぐに返信してくれたらしい誌愛からのメールと、ラインにも私を心配するコメントが沢山上がっていた。

(ともかく、普通にちゃんと帰れた事を知らせておかないと……)

「無事帰宅、っと……」

 疲れた身体に鞭打って立ち上がり、二階の自室に戻るとゆったりとした部屋着に着替える。少し汗をかいたから、本当はシャワーでも浴びたいとこだけど、多分この様子だとまもなく誌愛が……。

 机に置いた携帯の画面に、次々と誌愛の返信が受信されたそのすぐ後に、玄関の開き締めされた音、それに続いて階段を駆け上がって来るけたたましい気配がする。

(着くの早過ぎ。もしかして、電車一本遅れただけで来たのかな?)

「さりー、ひっどぉ~い!どうして待っててくれなかったの~?」

 部屋に入るなり、開口一番に私、黒川(くろかわ) 沙理砂(さりさ)の一番の親友、輝く銀髪(プラチナブロンド)に蒼い瞳の誌愛が、大声でまくし立てて来る。

 玄関の合鍵を渡してあるとはいえ、勝手知ったる他人の家、とばかりにズカズカ上がり込み、ノックもなしに部屋に入って来るのはどうなんだろう……?

 大層な苗字から分かる様に、誌愛の家はかなりの名家でお金持ち。使用人すらいるくらいだ。

(そのせいで感覚が、うちみたいな中流の庶民とは違うのかなぁ?)

 素朴な疑問を覚えるが、立派で恰幅のいい伯父さんと、おっとり上品な小母さんの事を思い浮かべると、なんだか違う気がする。誌愛はどこか独特でズレているのだ。それは彼女の輝く魅力によって、短所の様には感じられないが、困った事に確実に普通とは違う。

「だって、しあはりゅう達の練習終わるまで待っていたかったでしょ?」

 私は机の椅子に座って、携帯の電源を切る。節約癖は、貧乏性の習慣の様な物だ。

「それは、そうだけどさぁ~~」

 ぷくぅ、と可愛く頬を膨らませて誌愛は不満を現わして来る。荷物はその場にドサっと落として。

「……帰り道、平気だったの?顔が少し紅くて熱っぽそうだよ~。疲れたんでしょ~?横になって休んだら~?」

 汗を拭いて息を整えておいたのに、親友は鋭く私の体調を見抜いてしまう。それが嬉しくて、でも余計な世話をかけてしまう自分が、情けなくて悲しい。

「……もうある程度平気かな、と思ったんだけど、ね」

 誌愛は私のベッドに遠慮なく座ると、枕を寄せて自分がその位置にズレる。

 そしてポンポンと自分の腿を叩いて私をにこやかに手招きする。

(すっかり保護者気取りなんだから……)

 それでも私もあえて逆らわずに、ベッドに寝転んでその膝枕に頭を乗せた。

(あ~、今日はやっぱり色々あり過ぎて疲れてるんだ。このまま寝てしまいそう……)

 親友の暖かでな腿の感触に、いたわる様に軽く柔らかく撫でて来る手のぬくもりが、疲れた身体に心地良い。

「それで、急に相談とか何があったの~~?」

 誌愛がいつもの間延びした声で尋ねて来るのは、目をつぶった私が本当に寝てしまうのを防ぐ為だろう。大事な話だ。私も気を取り直して、落ちかかる意識に抵抗して目を明けた。

「あー、うん。何から話していいかな……」

 一番の本題は勿論、告白の事だけど、その前にも色々過程があったのだ。

「……そう言えば、学校の方でも変な事があったよぉ~~。あの、一年の子のふぁんくらぶやっているグループの子達が、みんな体育館脇で倒れてたの~。貧血、なのかなぁ。先生たちが、ガス漏れとか伝染病じゃないか、って騒いで、救急車を呼びそうになってた。

 でもすぐに全員が目を覚まして、自分達は平気だから、って~。保険医の先生も診察して、目立った異常はないからって、それでおさまったんだけど~」

 言葉を選びかねていた私に、場を持たせる為か教えてくれた事は、はからずも私の相談に繋がっていた。

「あ、それもあったんだ。私、その場にいたから知ってるよ。え、と……あの子、なんて名前だったっけ?」

「どの子~?」

「そのファンクラブのお目当て、バッタみたいなバスケ部一年の、背の低い子」

「あ~、ぜん君のことかぁ。神無月(かんなづき) 全(ぜん)君。名前、覚えていないのぉ~?あんな目立つ子なのにぃ」

 多分、聞いた事はある筈だけど、私は男子全般に興味がない。覚えているのは学校内だと、かろうじて先生の名前ぐらいだけだろうか。

(告白してくれた子の名前すら、今やっと分かるなんて……)

 自分でも呆れ果てる無関心さだ。

「……あのね、しあはりゅう以外見てないから気が付かなかったんだろうけど、私今日、その神無月君とやらのファンクラブに目をつけられて、あの体育館脇、校舎との間でどん詰まりの場所に呼び出されて連れてかれて、脅されて……」

 え?え?と誌愛が目を丸くして驚いている。基本、誌愛は夢中になると周りが見えなくなるタイプで、龍達の応援をしている時はその典型だ。

「そこに、その神無月君が来て、助けてくれて……」

 あれは、一体どうやったのだろうか?

 人で壁を作り、他から見えない状況を作って、あの怖いお姉さま方は、業務用みたいなデッカいカッターナイフからチャキチャキと専用のであろう大きな刃を伸ばして私の頬に、脅しなのか本気なのか近づけて来たその時、壁を蹴る様な音がしたと思ったら、魔法みたいに私とそのファンクラブの間に、上から割り込む様に彼が降って来ていた。

「その後、告白された……」

 色々照れ臭いのと、私自身状況をうまく飲み込めていないので、途中は割愛して、あった事だけを報告した。









***************
ドカン、と楽屋落ち。剣恋パラレルなのでした。
学園なんたら、とか?
基本、向こう知らなくても、普通の恋愛ものとして書いているので、初見で大丈夫、な筈です。
キャラの性格が違う感じな人もいますが、こちらの世界での生い立ちとかでそうなっている、とご理解下さい。
しおりを挟む

処理中です...