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第2章 流水の弟子編

072.悪魔の壁(22)46~50(悪魔の壁・地装甲亜竜戦)

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 ※


 49階の、次への階の階段前。

 ゼン達、西風旅団はついに迷宮ボスの直前までやって来た。

 46階の野営場所からここまで来るのに、長く苦しい苦難の道のり―――ではなかったので、割愛する。特に記すべき事は起きなかった。ただ魔物と戦って勝って、戦って勝って、を繰り返しただけだ。

 時刻は昼の3時間前。ゼン達は、日の出の時間と共に起きて食事を取り、出発した。

 ある程度以上順調に進めた。その後、49階の次への階段近くの“休憩室”で長めの休憩を取った後で、ここまで来た。

 この時間なら、例えボス戦が2~3時間以上の長期戦になったとしても、余裕でフェルズの閉門時間まで戻れるだろう。“普通”のボス戦なら、の話だが。

 何らかの追加要素で『試練』の難易度が変わるとすれば、ここでしかない。

 なのに、今までの2体の階層ボスに異常が見られたが、とりあえず、今はその事を忘れて、目の前のボス戦に集中しよう、とゼンは考える。

 神の『試練』がどうとか、そんな事はゼンにとってどうでもいい事だ。ゼンが迷宮に挑む理由は、仲間と冒険者のランクを上げる、分かりやすい尺度に、迷宮が使われているからに過ぎない。

 ゼンは、ちゃんと生きていると感じられる野外の魔物との戦いの方が、余程健全で好きだ。迷宮の魔物は正しい意味での生物ではない。神の試練の為に、迷宮で敵を演じる、出来のいい人形のようなものだ。

 倒せば消えて、金と一部の素材等をランダムに吐き出す、遊戯盤の敵(駒)と景品。馬鹿馬鹿しい。吐き気がする。

 神々のお遊びにつき合う冒険者というのは―――やめよう。今はそんな事を考えている場合ではない。いかに安全確実に、このお遊びを終わらせて戻る事、それだけを考えればいい。

「じゃあ、行くか」

 西風旅団のリーダー、リュウが階段を上り始める。ゼンもその横で一緒に上る。女性陣はその後ろで、更にその後ろにラルクがしんがりをつとめる。階段が狭い訳ではないのだが、安全の為、こうして上がっている。階段は安全地帯に属するので、意味ある行為ではないが、彼等はいつもこうしていた。多少の順番の入れ替えがあっても、こうした布陣だ。

 そうして、上りつめて、階段を出る。そこにはボス部屋が―――なかった。

 そこは、先の長い、“黒い廊下”だった。

 ずっと先に、大きな扉らしきものが見える。

(あそこが、ボス部屋?)

 天井も廊下の壁も、黒い。なのに、何か灯かりが灯っている訳でもないのに、暗くはなかった。先が見通せるし、自分達も普通にお互いの姿が見える。

 凄まじいばかりの違和感。何かが違っている。間違っている。そう感じられてしまう奇妙な光景。

「中級の迷宮(ダンジョン)ってのは、随分大仰なんだな……」

 リュウが感心した様に肩をすくめて見せる。

 仲間を鼓舞しようと、似合わない仕草をしてみせたのだ。

 それが分かっているので、皆少しだけ笑って、それから彼に続き、先の扉までの道を歩き出した。

 だが、歩いても歩いても扉が近づく様子がない。遠近感が狂っている?いや、それ以前の問題だ!

「リュウさん、何かおかしい。階段まで戻ろう!」

「お、おう」

 リュウも当然異常事態に気づいている。

「みんな、一度戻るぞ!」

 女性陣を押し戻す様に、来た道を戻る。

 ゼンは、自分の不注意に歯噛みしたい思いだ。初級だろうが中級だろうが、迷宮(ダンジョン)のボス前に長い廊下のあった場所等、聞いた事もない ・・・・・・・

 けれど、あの階段から廊下に移る境界線では、吸い込まれる様に、意識なく、身体は廊下に移り、進みだしていた。

(なんだ?これは。罠なのか?でも、ボス部屋に入るまでは、魔物の出ない安全地帯な筈だ。なのに……)

 速足で廊下を戻る一行なのだが、同じくらいの距離は、もう戻っただろうと思えるのに、階段がない。行けども行けども黒い壁、だ。

 そして、先には行き止まりの壁。

(まさか、閉じ込められた?!)

 ゼンは急いで、階段があった方の壁の手をつきを探知する。塞がれたのなら、ぶち壊してでも―――

「ゼン、先にあった“扉”が、見えない!無くなった?」

「え?」

 その時、世界が前触れもなく、“ブレ”た。

 壁に手を触れていたゼンを何かの力が弾く。

「っつ……」

 弾かれても態勢を立て直し、足を踏み留めたゼンは周囲を見渡した。

 その場所は、まるで先程の廊下が、高さも、幅も、長さまでも大きく縮んで変わった様な、“黒い長方形の小部屋”。

「……今のは、転移?いや、まさか、本当にこの黒い壁が、縮んで俺達の囲みを制限した?」

 見回す全てが黒い、だが暗くない小部屋、と言うよりは、単なる箱。

「本格的に、閉じ込められた?!」

「な、なんだ、これは?!」

 Quiiiinnn~~~

 突然に何か、胸の悪くなるような気味の悪い音が鳴り響く。

 ゼン達が向かおうとしていた方の黒い壁に波紋が浮かび、中から何かがゆっくりと現れる。それは―――

「悪魔……なのか?」

 頭に角。背中からは蝙蝠の翼を生やしたそれは、悪魔に見えない事もない外見をしていた。が、顔はノッペリとして何のおうとつもない、かろうして目や口はあるが、そこに意思は感じられない。全身が黒い、悪魔っぽいだけの大男、としか見えなった。

 すぐにリュウが大剣を構えるが、その前にゼンが割り込む。

「リュウさん達は、後ろと左右の壁を警戒して!何かおかしな事があったらすぐ言って下さい!こいつの相手は、俺がします!」

 ゼンの気迫が凄まじい。それは、怒っているからだ。理不尽な迷宮の『試練』に、神という〇〇な存在に!(自主規制)

「お、おお、任せた」

 悪魔(の様なもの)が、爪を伸ばしてゼンに迫る。

 だが、なんの脅威も威圧感も感じない。

(なんだ、こいつは?)

 相手の爪を流さず、剣で普通に受ける。

(大した強さじゃない。一体、何なんだ?これは……)

 ゼンは、隙をついて相手の首を斬り飛ばした。崩れ落ちる悪魔。そして、その残骸は、黒い床に沈んで消えてしまう。

(再生もしない。首を斬っただけで死ぬ?これが……)

 Quiiiinnn~~~

 また音がして、寸分違わぬ、同じ様な“悪魔”が壁から現れる。

(また?こいつに何の意味が?たくさん倒せとでも言うのか?)

 また爪を振りかざし襲って来る。 

 それを受けたゼンは、すぐに気づく、微妙な違和感。

(こいつ、少しだけど、前より確実に、強く ・・なっている!)

 ゼンは一度剣で爪を上に弾き、みぞおちを蹴って、出て来た壁まで悪魔を退かせた。

 そして、リュウ達のところまで一足飛びに戻る。

「こっち、なにかありましたか?」

「そ、それが、な……」

 リュウが言いよどむ。

「ゼン君、左右の壁、少しづつだけど、動いてる!狭まってるよ!」

「と、アリアは言ってるんだが、黒尽くしの壁と床で、俺等にはよく分からなくてな」

 ゼンは見る。左右の壁、その位置を正確に探知する。

 ……ジリ

「凄い僅かですけど、確かに動いてる……」

「んなベタな!じゃあ、時間が経ったら俺達ペシャンコか?」

「……かもしれません」

「おい、ゼン。あの悪魔みたいなの、また来るぞ!」

「そうだ、そっちもあった。リュウさん、しばらくあいつの相手、お願いします」

「おう、任せとけ!」

「ただし!相手を倒さずに、戦闘を長引かせて。倒してしまうと、次に出るのが、前より強くなって出ます。多分、あれは1匹ずつしか出なくても、そうなる様に“設定”されている、と思います!」

「むう。そういう戦闘は苦手だが、仕方ない。やってみるか」

「アリシアは、リュウさんの治療に専念して。浄化や光の術は、使っちゃ駄目だ」

「え?え?なんで~?」

「ここの悪魔みたいなのや、黒い壁は、いかにも闇属性っぽいけど、戦ってみて分かった、そうじゃない。多分、無属性で、光は無効化、いや、もしかしたら反射するかも。単なる勘なんだけど……罠っぽいんだ」

「う~~。そうなの?」

「うん。だから、リュウさんを支えていて。その間に、対処法を考えるから」

「わかった~~」

 アリシアはリュウの後方につく。

「俺等は、なにを?」

「ごめん、ちょっと考えさせて!」

 これは、この状況は何だ。周囲は黒い壁。前は、悪魔(っぽい)のが無限にわき、左右の壁は迫ってくる。悪魔、と……壁…壁?まさか、これが、この迷宮(ダンジョン)の隠された『試練』?だから、『悪魔の壁 デモンズ・ウォール』なんて名前が?

 どうすればいい?どうすれば、この『試練』は終わる?乗り越えられる?

 時間制限のある、閉鎖空間。敵を何体倒せばいい、とか決められて?だが、あの強化の度合いを考えると、すぐに、手に負えなくなる程強くなる可能性が高い。

 悪魔の壁 デモンズ・ウォール。壁……壁?そう、なのか?この『試練』は、悪魔ではなく、“壁”がメイン?

 もし、そうなら、悪魔が湧くあの前面は、除外、床や天井は、壁とは言わない。除外。左右に迫る壁。これも動く障害だ。除外。なら、残されたのは―――

 後ろの、来た道を戻る方にある壁。これを……

「わわわ~、ごめん~」

 何か騒がしい。見ると、何か光の粒が、天井と床を激しく跳ね返って往復している。

 これは―――

 ゼンはその光の粒を、アリシアを押しのけ、掴み取る。どこかに流す事は出来ない。仕方ない。“気”で、消滅するまで握りつぶす。

「ほ、ごめんなさい。明りの魔法で、ちょっとだけ試したの……」

 アリシアが珍しく本気で落ち込んで暗い顔をしている。

「なら、実証されて良かった。分かっただろ?もし、この中で浄化や“あの”光の魔法を使ったら、逃げ場のないこの場所に充満して、死神(デスマスター)の最後の時みたいに、ここがなる。多分、誰も生き残れない……」

「うん~」

 その後ろでは、悪魔との戦闘を必死で長引かせているリュウがいる。

「俺が、何とかここから出る方法考えるから、もう早まった真似しないで」

 そしてゼンは、後ろの壁に急ぎ移動して、“気”で探知する。ある、絶対ある筈だ。

 センは回想する。師匠であるラザンとの修行を。

 『いいか、ゼン。この世の硬いもの、岩でも金属でも、いや、人でも生き物でも、そこを突けば全体が崩れる、弱い“目”というものがある』

 そこさえつけば、とラザンは自らが座っていた大岩を、剣の鞘で小突く。すると、大岩はまるで大きな力で叩かれでもした様に崩れてしまった。

 でも師匠、これは、神が創った壁で……!これ、か?これ、なのか?いや、迷ってる暇なんてない!これしかない!

 ゼンは、部屋の中央に待機していた二人の所に一足飛びに戻ると、

「あの、後ろの壁に、弱い所、と言っていいか分かりませんが、が1個所あります。そこを破壊して、脱出しましょう。

 ラルクさんとサリサは、一点集中で、そこに全力攻撃して欲しいんです。俺も合わせて剣で攻撃しますから」

「弱い所って、何処だ?黒い壁だし、どこがどこだか分からんぞ」

「俺が、“気”で印(しるし)つけましたから、そこに」

「ゼン、私、無理!」

 サリサが青い顔で弱音をもらす。

「え?」

「私の術は、広範囲とか、大雑把なのが多いの。そうなると、こんな狭い場所じゃ、跳ね返る余波とかも凄いし、一点集中とかは……」

「氷の槍とか、ああいうのでいいんじゃないの?」

「あれは、そんなに破壊力ないから……」

 ゼンは考える。今は、出来得る力全てで挑まなければ……!

「……ラルクさんの使う、弓矢をサリサが造って、それをラルクさんが全力で討つ、なら出来るんじゃ?」

「出来るのか?それ?」

「多分。元々、普通の弓矢も討てますし、理屈上は。弓矢造る見本を見せてあげて下さい」

 その間にも、ジリジリ左右の壁は狭まっている。時間とともに速くなっている?

「分かった、やってみる」

 サリサは、ラルクの手順を見て、作り方を覚えた。ラルクは弓の補助を受けてその矢を造るが、サリサは完全自力だ。それでも、見ただけで、その構造、構成まで分かるのがサリサなのだ。

 自分が今持てる全ての力を凝縮して……!

 造られたその弓矢は、力がはち切れんばかりに脈動して、怖いぐらいだった。

「これ、ちゃんと討てるのか?なんか途中で爆発しそうなんだが……」

 ラルクは恐る恐る受け取り、弓につがえる。

「その位置から討って下さい。破片とか飛ぶかもしれませんから。なるべく俺が抑えますけど」

<俺達もやるぞ。同調(シンクロ)だ。ゾート!>

<それって、奥の手だったのでは?>

<あたしのがいいですの!>

 リャンカが驚きを、ミンシャが不満の声をあげる。

<死んだら奥の手とか言っていられるか。ミンシャは待機。悪いが、色々あるんだよ>

 ゼンは壁の近くまで戻る。その横を、弓矢は通り過ぎる事になるだろう。

「ゼン、行くぞ!」

「はい!」

<主(あるじ)、同調(シンクロ)は何割まで?>

<全部だ。全力でいく!>

 ラルクはイチイバルスを引き搾り、自分も力を、“気”を込める。

「最大出力、一点集中、【必中必殺】!!」

 それは、突然言葉になった、ラルクのスキル技だった。
 
 ゼンの横、彼のつけた印(しるし)に吸い込まれる様に、その矢が命中する。

 その瞬間、ゼンはゾートと魂を重ねる。

 使う技は、自分が知る一番強い、師匠が使っていた技。自分はまだ出来ない技、だが、やる!真似るんだ!

「『虚空』……二連っ!!!」

 弓矢が当たった、その瞬間のその位置に、斬撃を重ねる。一度では足りない、自分の技は師匠の域にはいかないのだから!
 
 全身で循環させ、練り上げた“気”を、一気に剣へと収束し、解放する!

 Zugaaaaan!

 ゼンのすぐ近くで物凄い爆音がする。空間が震える。破片や余波等は、ゼンの“気”の鎧で弾かれる。

 全ての力が重なった時の光と、破片舞う粉塵がおさまったそこには、変わらず黒い壁があった。

 まさか?あれだけの力で、傷ひとつ―――、風が、ゼンの頬をかすめた。

 そうか、まだだ!

<ボンガ、同調(シンクロ)!>

<は、はい!ゼン様!>

 身体をその場で回転、もう一度、“気”を集めて―――剣の柄に集中!

「『激流』!!があぁっ!!」

 雄叫び共に、柄を使って思いっきり打撃する!

 ボコっと抜ける感触。抜けた!だがしかし、小さい。これを、広げる?

 再度、力を使おうとして、思いとどまる。“相談しなさいよね!”

 成り行きを、息を殺して見守っていた二人の所まで戻る。

「サリサ、あの穴を、せめて人が通れるぐらいに広げて欲しいんだ」

「え?私?だって ―――」

「余波や破片は、俺がどうにかする!だから!……俺は、残念だけど、守りのが得意なんだ……。壊すのよりは……」

 ラルクは今ので不得意なんか!とツッコミたいのを我慢した。

 サリサは弱音を吐き、自分を頼ってくれたゼンに、全身全霊で応えたいと思った。

「わ、分かったわ。やってみる。あの穴をともかく破壊すればいいのよね!」

「うん。俺、もう少ししたら、動けなくなるから」

「なにそれ?遺言みたいな不吉な―――」

「違う。今、従魔の力も借りて、無理したんだ。その反動が来る。十分経ったら、一日、いや、二人使ったから、丸二日は、衰弱して動けなくなる。だから、早く……」

「わ、分かった、もう黙って休んでなさい!」

 サリサは考える。あの穴を、効果的に広げる、その呪文を……。

「……行くわよ。ゼンも準備して!」

「了解……」

 サリサが口の中で呪文を唱える。また登録していない、オリジナル呪文(スペル)だ。

 サリサの前に、岩の槍が現れる。余り使っていない、『岩の槍 ロック・ランス』の様だが、何か別要素があるのか。

「……行け!」

 岩の槍が、轟音をあげて、回転しながら突き進む。込められた魔力の量が凄いのか、周囲の空気が振動でビリビリ震えている。

 最初はゆっくりだった槍は、最後には物凄い速度になって、とうとうゼンが空けた穴に突き刺さり、そのまま突破するかに見えたが、途中で止まる。

 しかし、サリサの術は、これからが本番だった。

「『爆裂(ブレイク)』!」

 サリサが向けた手を握り、最後の段階を起動する最大級に込められた魔力が、内部で爆発し―――

 先程ゼンが技を使った時と同じ、いや、それ以上の爆音!岩の槍の爆発は、凄まじい物だった。壁全てが破壊されたのでは?と思えるぐらいの爆発。

 その余波、岩や壁の破片、そして魔力の嵐の様なものが、こちら側に戻って来る。

 ゼンは前に出て、剣を、月を描くように丸く振り、そしてその芯となる。前方に突き出された剣を中心に、剣を頂点とした円錐のような結界が出来上がる。

「『円流』」

 余波、岩や壁の破片、魔力、その全てが、円形の膜の流れにそって、上に下に、左に右に、流され天井や床、未だ迫っている左右の壁に当たる。

「すっげ……。こっちに何も来ないぜ……」

 完全な守りだ。ゼンが得意と言うのも分かる気がする。

 そして、壁の穴は……先程よりは、広がっていた。人一人が何とか通れるぐらい?

「なんだ?壁ごと壊れるかと思ったのによ!」

 ラルクの文句は分かるが、どうやらあれ以上は壊れない様になっているのかもしれない。

「それでも、なんとか出れます。ラルクさん、先に出て、サリサに手を貸してやって!

 俺は、リュウさん達を連れてきます!」

「わ、分かった。急げよ。かなり左右の壁が迫ってる!」

 迫った分、かなり狭い、奇妙な部屋になっている。最早単なる通路だ。

「リュウさん、もういいです。出ましょう!アリシアも、あの穴に行って!」

「うん~~」

 ゼンは狭い中を、アリシアとすれ違ってリュウの所まで行く。

 剣を爪を合わせている所に割り込み、蹴るが、先程の様に吹っ飛ばなかった。

「すまん、2、3体、勢いで倒しちまってな」

「分かりました、とにかく出ましょう、リュウさんには、ちょっと狭いかもしれませんが、頑張ってくぐって!」

 ゼンは今度は大きく気を込めて、柄で悪魔の腹を殴り、足をすくって倒す。

「今のうちに!壁が来る!」

 もう人がやっと一人分の狭さだ。リュウは後ろの壁まで走り、穴に頭を通し、肩を通し、結構器用に潜り抜ける。

「っつつつ。かなりギリギリだ。ゼンも来い!」

「はい!」

 悪魔がしつこい。場所が狭いせいで戦いにくくなっている。

「仕方ない」

 首を斬り、悪魔を倒す、出て来る時間差を利用して―――

 『流歩』で高速移動。小柄なゼンだ。穴は楽々くぐれる。

 半身以上くぐったその身体が、急に戻される!悪魔がゼンの足を掴み、部屋に戻そうとしているのだ!凄い力だ。倒したせいで、また強くなっているのだ。

「掴まれ、ゼン!」

 リュウが、ゼンの身体をガッシリ掴み引っ張る。女子達も、ほとんど意味はないが、一緒に引っ張っている。

 ゼンの全身がこちら側に来て、足が出たところで、ラルクがウィンディアでゼンの足首をガッシリ掴んでいた悪魔の手を断ち斬る。

 ゼンを引っ張っていたリュウと女子がその力をそのまま受けて勢いよく転がる。

 悪魔も、部屋の奥へ同様に転がって行ったであろう。そのスペースがあれば。

 最早、その黒い部屋は、正面から見ると、幅の狭い、線に近いものになっていた。

 横から見ると、黒い長方形なのが分かる。それが、今まで閉じ込めらていた部屋の長さだ。

 限りなく細まり、黒い線になるその前に、中でブシュっと何かが潰される音がした。

 そして黒い線は、その太さをどんどん細らせ、最後には、消えた。

 何も残っていないその場は、まるで何もなかったように平和で―――はなかった。

Guoooooooo!

 その場所に、轟く咆哮。

 見れば、部屋の中央にはアース・アーマー・ザウルス 地装甲亜竜、これが唸り声をあげているのだ。

 気づけば、そこは50階のボス部屋の中だった。

「な、なんだ、こりゃあ!」

 窮地を脱したかと思えば、抜けた場所はボス部屋だ。こんなひどい、詐欺まがいの『試練』が許されるのか?

<ミンシャ、後何分だ?>

<さ、三分ですの!ゾートとボンガはもうダウンしてますの!>

「三分で、充分。リュウさん、俺、あのデカ物斬ったら、もう動けないから、後を頼みます。サリサ、説明よろしく」

 そして駆ける。『流歩』を、全速の全速、目では追えないぐらい速い領域に持って行き、その速度を使って、更に前へ跳躍。全身で“気”を纏い、回転する一本の剣となる。

「『激流螺旋』……」

 ゼンが通り過ぎたその後に、アース・アーマー・ザウルス 地装甲亜竜の身体は縦に断ち斬られていた。完全に真っ二つに分かれた身体が、左右に別れ轟音をあげて倒れる。

 そして、迷宮(ダンジョン)のボスを倒したゼンも、その場に倒れ伏す。まるで相討ちになったかのようだが、ゼンは限界時間が来て、倒れただけだった。

 それからの事は、すぐに決着がついた。

 限界まで魔術を使い、サリサは消耗していた。リュウもそれなりに消耗していたが、怪我はない。アリシアに随時治癒してもらっていたからだ。

 なので、メインの前衛は健在。向こうにいるのは、迷宮ボスに付き従う4匹のラプトルという、2足歩行の亜竜。

 本来、迷宮ボスの部下や眷属は、ボスがあってこそ、その圧倒的な存在を背景として、存分に力を振るえる存在なのだ。ボスが先にやられてしまえば、二線級の群れに過ぎない。

 リュウが魔剣を振るい炎の刃を、氷の氷柱(つらら)を放ち、アリシアが光弾を振りまき、ラルクが矢で急所を狙う。

 それだけでかなりのダメージを稼げる。

 ラルクはすぐゼンの側に駆け寄り、今は無力なゼンが攻撃にさらされない様に護衛(ガード)する。

 弱った敵に、リュウとアリシアが、魔剣で、ソラス・ロッドで、接近戦をしかけてとどめを刺した。

 こうして、なんだかんだとあったが、西風旅団は初の中級迷宮を、ついに制覇(クリア)してしまったのだった。

 
*******
オマケ

ゾ「……」
ボ「……」
ミ「う~~、羨ましいですの!悔しいですの!」
リ「仕方ないでしょ。私達には私達の役割があるのよ」
ミ「でも、ご主人様と同調(シンクロ)したかったですの!」
リ「気持ちは、分かるけどね」
セ「ボクとかだと、余り意味ないんだよね……」
ガ「術を全力で使う時も、あるやもしれぬ……」
ル「む~~。しんくろ~~、や!お?」
ミ「掛け声だけじゃ無理ですの」
リ「大きくなったら、出来るかもしれないわよ」
ル「おおきなるお~~~!」
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