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第1章 ポーター編
011.パーティー勧誘
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「……で、君たちから、何か話があると、ライナーから聞いたんだが」
ライナーに、リュウエン達が伝言を頼んだ、その次の週に、ゴウセルが日時を指定しての、話し合いが行われる事となった。
丁度1週間後だ。
場所は、ゴウエン商会の簡素な会議室。
流石に、リュウエン達西風旅団のメンバー全員と、ゼンを含めると、ゴウセルの執務室では狭すぎる。
会長補佐のライナーが、執事のように参加者全員それぞれに、紅茶をいれたカップを置いていく。
そして最後に、ゴウセルの右隣りの席につき、白紙のノートと筆記用具を引き寄せ、いつもの会議の時のクセで、つい開いてしまった。
だが、この会議で、わざわざメモをとるような話が、出るのだろうか、とライナー自身疑問に思ってしまう。
大事な話なのは理解しているのだが。
長方形のテーブルの長辺の中央にゴウセルが、向かい側には西風旅団のメンバーだ。
ゼンは何故か最初、西風旅団側の席に座って、ゴウセルに注意されて、ゴウセルの側、左隣りの席に座らせられた。
今、雇っているのは西風旅団なので、そちらに座るのが当然だ、と思ったようだ。
決して間違った判断ではない。
なのに、ゴウセルがそれに対し、少なからずショックを受けているのがアホのようであった。
いや、子煩悩を超えた、親馬鹿が過ぎると言うべきか。
「ゼンの事について、と聞いたんだが、それで?」
ゼンはいつも通り無表情に、出されたお茶と菓子を、遠慮なく食べて(無料だから)いたが、そこには自分の事で、会議が行われてると自覚している様子はまるでない。
「あ、はい。え~~と……」
余り年上の大人と、こういう緊張する場で、話をした事のないリュウエンは、柄にもなくアガっているようだった。
まるで、悪ガキの若い親が、学校の厳しい中年教師に、呼び出された図のようであった。
メンバー内でわざわざ会議して、話す事は決まっていたのだが、変に間があいてしまったせいで、何をどう持ち出せばいいのか、キッカケが掴めずにいた。
大事な話なので、リーダーを差し置いて話しては、とラルクスとサリサリサが迷ってる内に、変なテンションになったリュウエンは、
「ぜ、ゼン君を、俺達にください!」
ブーー!!、と紅茶を飲みかけていた全員が、含んでいたお茶を噴き出してしまった、はっきり言うと、ゴウセルとラルクス、それとアリシアであった。
可哀想に……(笑)
ライナーは身をよじって、腹を押さえ、何とか笑いをこらえようと、産まれたての小鹿の様にプルプルしていた。
ラルクスとアリシアの噴き出したお茶は、幸い無人の席を超えて、壁を濡らしていたが、ゴウセルの噴き出したお茶が、リュウエンに直撃していたのは、自業自得と言えよう。
(中略)
噴き出されたお茶の後始末を、ライナーと女性陣がしている間、気まずい空気がその場を支配していたのも当然。
上着を脱ぎ、顔を洗ってタオルで拭いているゴウセルが、憮然としているのもまた当然であった。
ゴウセルなど、まだ子供もいないのに、大事な娘を嫁に出す、仮想体験をしてしまったのだ。
恐ろしい、魔物との戦いの場で味わったのとは別種の、やたら薄気味悪く、強い恐怖に背筋が震えた!
全員が再び席につき、話の再開が始まると、西風旅団のメンバー全員が立ち上がって一斉に頭を下げた。
「「「「すみませんでした!」」」」
「なにかうちのリーダー、情緒不安定みたいですので、私が代理でお話します」
(ラルクに任せるべきな気がするけど、もう男なんてアテに出来ない!)
「別に俺はそれでも構わんよ。冷静に話を進めてくれるなら、な」
そこで、サリサリサ以外は席に座りなおす。
ゴウセルとしても、これ以上無駄な茶番で時間を浪費したくはない。
闘技会間際の今は、色々な物資の仕入れ搬入等、直接指揮したい仕事が山ほどあって、デートにさく時間等ない。
なのにデートしてるから、余計にタイムスケジュールは、おかしな事になっていた。
「ゼン君の事ですけど、ゴウセルさんは彼に、フェルズ外の街の教育機関に預けたい、との話をお聞きしているのですが、それを、やめてもらいたいのです。
リーダーは、ちょっと過激な表現をしましたが、決して間違った事を言った訳ではありません」
「しかしそれは…」
ゴウセルが言いかけるのを、サリサリサは手でさえぎる様な素振りを見せる。
「話を最後まで、お願いします。ゼン君に、ただポーターとしてうちに残って欲しい訳ではありません。
ゆくゆくはうちの、西風旅団のパーティーの、正式メンバーとして迎えたいのです。
つまり、我々が彼を、それぞれが持つ得意分野での技術で鍛えます。
決して、外の養成所で教えの内容に負けるような授業をするつもりはありません。
私達は、現役の下級冒険者です。彼と迷宮(ダンジョン)に潜りつつ、実地で鍛えていきたいと考えています。
だから、我々に、彼の将来を任せてくれませんか!」
(リュウの真似した訳じゃないけど、聞きようによってはこれもなんか求婚(プロポーズ)みたいだなぁ……)
言い終わってから、隣りに座るリーダーの肩を遠慮なくどやす。
リュウエンは、凄い勢いで立ち上がると、大声を出した。
「と、いうことですので、俺達、西風旅団創意で、彼の残留を希望します!
ポーターとしての契約も、もっとちゃんとした条件で契約をやり直したいんです!」
残りの二人も立ち上がり、同時に頭を下げる。
「「「「よろしくお願いします!!!!」」」」
先程見たばかりの光景だが、内容はまるで違う。
「そう来たか……」
ゴウセルも面白そうに、そして嬉しそうな顔をして腕を組む。
「そうなると、もうこれは俺がどうのって問題じゃなくなるな。
俺としてはあくまで後見人的な役目のつもりだが、やはり、最後は本人の意志次第だ。
ゼン!お前はどうする!」
そして隣を見る。
空席であった。
「はぁ!!」
誰もが驚いた。
先程までそこにいた筈の少年がいないのだ。驚かない訳がない。
「な、まさか転移?さらわれ……」
ライナーが素早く立ち上がり、思考を忙しくめぐらせる。
(冒険者ギルドに使いを、いや、自分が走った方が早いか)
と考え、実行に移そうと室外へのドアに向かうと、その部屋のドアが突然開き、今話題の少年が少し気まずそうに、でも何処か無表情な感じで部屋に入って来た。
そして、唖然茫然とする一同をよそに、小走りで自分に割り当てられた席へと行き、そして座る。
「……ごめん。お茶、飲み過ぎたみたいで、我慢出来なくて……」
はあぁ~~~~と、ゼン以外の全員が、深いため息をついた。
いつも冷静沈着な、ライナーでさえも、だ。
「……ゼン、お前は、空気を読むって事が出来んのか……お前の大事な話だって言うのに……。
一体全体、どこから……また、気配消して出ていったのか……どの時点、でいなくなってたんだ?」
ゴウセルはもう諦めきったのか、悟りでも開いたような、平坦な表情でゼンに聞く。
「……え、と。その。ゴウセルが、冷静に話を、とか言ってるくらい、です……」
サリサリサは、なんだか泣きたくなってきた。
感動的なメンバー勧誘の話、そのほぼ全てが、肝心のゼン本人に聞いてもらえなかったのだ。
恐ろしくダラケきった、ゆるゆる、緩慢な空気が、その場を支配していた。
これを最初からやり直すのは、あまりに辛い!
と、何故かゼンが手を上げる。
「……あの、でも、ゴウセル、ここの会議室、防音とか何か考えた方がいいのかも……」
「は……?」
「……その…隣りのトイレに、ここの部屋の音、丸聞こえ、だった」
商売をする商会の会議室としては、駄目なのだが、安普請が幸いする事もある。
「じゃあ、ちゃんと全部聞いてたの!」
全身乗り出し気味なサリサリサのテンションが怖い。
サリー、落ち着いて、とアリシアが背中を優しく撫でている。
興奮した馬をなだめている様だ。
「動作とかは分からないけど、声はちゃんと……」
だから気まずそうだったのだ!
「ゼン君、答え言ってね。みんな待ってるよ」
アリシアが親友を抑えながら、優しく尋ねる。
「あ、うん、その……この場合の授業料って……」
「金の事なんて気にするな!
これからお前が稼ぐだろう、金額を考えたら微々たるものだ。
そもそも、俺の商会で出すって話だっただろうが」
じらすゼンに、ゴウセルは笑って後押しをする。
そこでゼンは、やっと無表情にモジモジしながらも(器用?)、
「……オレ、なんかで良かったら、その、入りたい、です。『西風旅団』に……」
そして歓声が、西風旅団のメンバー全員から上がった……!
*******
オマケ
一言コメント
サ「正直、凄い疲れたわ……」
ア「サリー頑張った!偉い!」
ラ「リーダー反省してくれよ、色々台無しになる所だったぜ」
リ「スマン!反省してる!」
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