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1部1章 ポーター編

幕間13.5話 有名ごぶすれ的な話

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 迷宮の階段を昇りながら、ゼンは、つくづくこの迷宮(ダンジョン)という、不思議空間について考える。

 見え上げる程の大岩だからといって、このように広い迷宮が、内部にあるのはそもそもおかしい。

 広さもそうだが高さも。

 十階という高さは、あの外から見た大岩の大きさを、当たり前に越えている。

 前にアリシアに講義してもらった、中が別空間だというのは、本当に納得の理不尽さだ。

 それに、そもそも広いとはいえ、こんな密閉空間に魔物が常に一定数いるのも、明らかにおかしい。

 彼等は、何を食料として生きているのか。

 仮に、倒した冒険者の肉を食っているとしても、このロックゲート岩の門は稼ぎの少ない、フェルズの冒険者からは、避けられ気味の不人気迷宮だ。

 今現在、ここを攻略しているのは、西風旅団を除くと、わずかに2パーティーしか探索に来ていないと、前に素材や魔石の買い取りをしてくれた、ギルド職員が言っていた。

 実際、その2パーティーと遭遇した事は、一度もないのだが、仮にそのパーティーに数人の被害者がいて、魔物に食料としての肉を提供していたとしても、このそれなりに広大な(他の迷宮はもっと広いらしい)迷宮(ダンジョン)を、まかなえる量の食料とならないのは明白だ。

 それとも、魔物は共食いしたり、あるいは違う種の魔物を捕食している?

 ギルドでは、そんな話聞いた事もない。

 飲み水だって、どうしているというのか。

 スラムで、飲料水の確保に苦労していたゼンとしては、とても気になる話なのだ。

 いつものように、安全地帯で休憩に入った仲間達(この単語が使える様になったのを、ゼンは密かに喜んでいた)に尋ねると、何故か笑われた。

 馬鹿にしている訳ではなく、微笑ましい、といった様子だ。

「ゼンは面白い事、気にするんだな。学者肌というか……」

「まあ、常識とは違う場所だから、常識的な知識を持っている人には、気になってもおかしくないでしょ」

「探求心を持つのはいい事だ。冒険者を目指してるんだから、それはそれでいいのさ」

「うんうん。ゼン君は、今や冒険者見習いだからね。色々講義していかないと」

 と、一通りの感想が出た後で、ゼンの疑問への授業が始まる。

 教師役は、今回、冒険者養成所卒業生のラルクスだ。

「つまり、迷宮内の魔物は、正しい意味では、もう生き物じゃないのさ。

 外にいる魔物とは、見た目同じでも、まったく別物。

 攻撃方法とかは同じだが、形と中身が同じ実体のある影、とでも表現するのが正しいのか、だから食事も排泄もなし。

 それに交尾して、子供を産んで増える訳でもない」

「ふむう……」

 ゼンはその意味を、頭の中でよく考え、理解しようとしている。

「ちょっと、そういう話はまだ早いんじゃない?」

「?オレ、分かるよ。スラムはひどい所だから、女の人は基本、住居している廃屋の外には、なるべく出ない出さない。

 別に詳しく描写しないけど、基本、ひどい目に合うからね」

 聞いたサリサリサや、顔を赤くしてうつむいているアリシアよりも、余程ゼンの方が大人であった。

「そういう話のついでだ。

 女の冒険者は、外での冒険よりも迷宮(ダンジョン)の探索の方を好む。何故か分かるか?」

「……素材の剥ぎ取りとかで血を見ないで済むし、面倒な作業がないからじゃなかった?」

「それは、基本男も女も一緒だ。

 理由は、ゴブリンやオークなんかが代表的な例かな」

「……?」

「ゼンは知らないか。オークやゴブリンには男……オスしか生まれない。

 そういう種族の魔物なんだ。

 それが、自分の一族を増やすのにどうするかと言うと、他種族のメスの腹を借りる……いや、こんな生ぬるい表現じゃダメか。

 つまり、他の人種(ひとしゅ)族のメス……女をさらって、巣に持ち帰り監禁して、……で増やすのさ」

 ラルクスも、女性陣の目が怖い。直接的な描写は避けた。

 ゼンは、普通に感心して頷いている。

「だから、人種(ひとしゅ)族はどこの者でも、このての魔物を見つけたら、絶対殲滅対象だ。

 洞窟に巣を作ったり、集落を作っていたりしたら最悪だ。

 見つけ次第、ギルドに連絡が行って、大規模な討伐隊が組まれる。

 俺達も最初……この話はいいか。

 ともかく、そうして殲滅して、その巣なり村なりを調べると、そこにはほぼ絶対、女が何人か捕まっている、”養殖所”がある。

 当然救助するが、大抵正気じゃなくなっている。

 これは、教会で記憶消去や改変をして、なんとか癒すんだが、それはそれとして」

 余り気分のいい話ではない。早々に切り上げる。

「で、迷宮(ダンジョン)の話に戻ると、ここみたいな『試練』の迷宮(ダンジョン)内にいる、オークやゴブリンは……このロックゲート岩の門に丁度2種族ともいるが……は、女を襲ったりさらったりもしない。

 そういう意味で、女性には安全なのは迷宮(ダンジョン)なのさ。と言っても、攻撃して来ない訳じゃないが」

 ラルクスは、わざとらしく肩をすくめてみせる。

「だがそれは、迷宮(ダンジョン)では、種族的特徴を使っての戦略、作戦は使えない、と言う事にもなる。

 外でなら、女の匂いをオトリにして罠に追い込んだり、とか色々手があるんだが、迷宮(ダンジョン)では、もう正攻法で戦うしかない、と、こっちは余談か」

「そうなんだ。全然知らなかった」

 ゼンは、ただただ感心するばかりだ。

「覚えておいて損はない、どころじゃない……冒険者の必須知識だな。

 外で、こういう特徴の魔物を見つけたら、そいつが子供で可哀想、とかいう、無意味で頭からっぽな感情論で見逃したりしたら駄目だ。

 赤子だろうと卵だろうと全部つぶす。

 これは、冒険者の絶対義務だな……。

 これぐらいでこの話はやめるから、そんなににらむなよ。リーダー何か言ってくれ……」

「ああ、うん。二人とも仕方ないだろう。

 これ本当に必須条件だぞ。

 J級……最下級から始めるなら、筆記の試験で必ず出る問題だ」

「でも、ねぇ……」

 顔を見合わせて、嫌な顔をする二人。

 二人は美人であるだけに、こういう話には過敏なのかもしれない。

「アリシアだっていつか、リュウさんの子供産むんでしょ?

 二人の家族計画に口出す人は、いないんだろうけど……」

 ゼンがポロっと、とんでもない話を口にする。

「な、なななななな何言ってるのかな、ゼン君は!」

 アリシアは、真っ赤な顔をして立ち上がると、普段ほとんど使わない金属製の戦棍(メイス)を取り出し、ゼンに対して、鋭い突きを繰り出し始めた。

 もうどうやら、完全に我を忘れているらしい(笑)。

 ゼンも立ち上がり、素早く避けているが、かなりの速度で身体の近くをかすめていく、魔物を殺傷する為につくられた凶器に、珍しく冷や汗を隠せないでいる。

「…あの……オレ、何か…怒らせ…る事、言った?」

「ももももっもう、この子ってば、オマセさんなんだから!」

 アリシは、基本神術による回復、補助がメインの役をになっているが、それは決して、武器による近接戦闘が出来ないわけではない。

 むしろそちらも成績優秀で、そこら辺をうろつく雑魚モンスター程度なら、軽く撲殺出来る実力の持ち主だった。

「誰か、そろそろ止めないと、あの子に、殺人の前科がつく事になるわよ……」

 サリサリサは、普通に腕力のない魔術師なので、下手に止めに入って、親友に殺されたくはない。

 ゼンだからこそ躱(かわ)せているが、普通なら、よくて重症コースだ。

「あ、ああ……、そうか、ちょっといきなり過ぎて、呆気にとられてしまった……」

 やっとリュウエンとラルクスが、ジリジリと背後から、アリシアを止めようと動き出したが、その二人もかなり冷や汗が止まらない、見事な連続突きだ。

「あの娘(こ)って、恋愛事でからかうの、NGなのよね。

 すぐに頭に血が昇って、とんでもない事やらかすから。

 そういえば、ゼンに話していなかったわね……」

 サリサさん、事前に話してやって下さい。

 主人公最大の危機です……。


 そんなこんなで、西風旅団とゼンの迷宮探索は、楽しく(?)進むのであった。


*******
オマケ
リ「な、なんとか止められた……」
ラ「なんでお前の彼女は、攻撃面まで優秀なんだよ、やめてくれ……」
サ「さ、落ち着いた?水でも飲んで、深呼吸して」
ア「う、うん~。もしかして、なんか変な事した?カアっとすると、記憶飛ぶ時あって、困る~~」

(困るのはアリシア以外の全員だ!と心の中で3人は激しくツッコんだ)

ゼ「……」(黙って、顔にある擦り傷を拭いている)
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