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マンゴーの願いジルの望み
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深夜1時。ここは、堂島さくらが住むマンションから500メートルほど北側にある畑である。ジャガイモの白い花がチラチラと咲いている。
ハツカネズミの竜眼からの連絡で、もぐらのマンゴーが待っているはずだ。
「あんたらがざくろといちごっていう姉弟猫かい?」
「マンゴー隊長?」
「そうだ。わざわざ来てもらってすまねえな!」
「依頼内容は竜眼からお聞きしました。親友のジルさんと言う犬を助けてあげたいと・・」
「あんなババア親友でも何でもないやい!いっつも俺たちの穴をぶっ壊しやがって!」
ざくろは薄い青い目を半分閉じてだまってマンゴーの話を聞いている。
隣に座って聞いていたいちごは、長々と悪態を吐き続けるマンゴーにいいかげんしびれを切らして口を開きかけるとざくろがそっと前足を抑えて首を振った。
(ちゃんと聞いてあげて。彼の心が伝わってくるの)
「・・・すまねえな、文句ばっかだな俺。・・・前に一回、俺の息子が人間のモグラ捕りの罠にかかって危なかったところをアイツの探し物能力で見つけてもらった借りがあるんだ。別にアイツに頼まれたわけじゃない。でも何とかしてやりたいんだ。」
静かに半目を閉じて聞いていたざくろがマンゴーの目を見て言った。
「マンゴー隊長、ご依頼をお受けする前に大事な話があります。竜眼からお聞きかと存じますが、私にできることは自然の声を聴き天の意思に従い依頼主の方をしかるべきところへ誘導することだけです。天の意思によってはあなたの願いとは真逆の結果になることもございます。マンゴー隊長はともかくジル様の思いはいかがです?」
マンゴーはしばらく黙っていたがやがて口を開いた。
「ジルの家じゃなくてこんなとこにお前さんたちを呼び出したのはよ、ジルの耳に入れたくない話があってな。実は・・・」
ジルの家では、彼女を子犬から可愛がって世話をしてくれていた椿(つばき)という女の子がいたが、両親が別居することになり母親と一緒に出て行ってしまったのだと言う。
残された父親がジルを手放そう、あわよくば処分したいとあちこちで話しているらしい。
「!!!」
いちごとざくろは息をのんだ。
「ヒトとはそういうモノです。ではマンゴー隊長はジル様の運命をわれわれに任せていただけるということで構いませんね?」
「ああ、人間に殺されるくらいならどんな運命でも俺がつきあうぜ。それが地獄の道行きでもな」
「承知しました。ではジル様のもとへお連れいただきましょう」
※※※
ジルの家は畑のすぐ近くだった。
マンゴーが事前に掘ってあったトンネルですぐに到着した。
さざんかの生垣で囲まれた庭に犬小屋があり白と黒のぶち模様のある犬が横たわっていた。
首輪には鎖がつながっていた。
「おいジル!連れてきたぜ!例の姉弟猫をよ!」
もぐらのマンゴーが声をかけると、ジルと呼ばれたぶち模様の犬がけだるそうに顔だけを上げこちらを見た。
やつれからか、目の周りのたるみが目立つ。
「あなたさまが・・・。竜眼が言っていた探偵さんですか?」
「竜眼はいったいどういう宣伝してんだよ!」キーッと頭のてっぺんの毛を逆立てていちごは怒っている。
「先ほど、マンゴー隊長からご依頼をお聞きしました。どんな結果になりましても後悔なさいませんか?」
「ええ。だめでもともとでございます。それに私はもう・・・」暗い光がその目に宿った。
暗い目の光を見逃さなかったざくろは依頼を受けることにした。
ざくろの右の耳は生まれつき聞こえない。
しかし、その代わりに自然の声を聴き天の意思を視る力が宿っている。
「ご依頼をお受け致しましょう」
そう言うと薄い青い目を半分閉じた。右の耳に集中する。
何かを必死に考えるような耳を傾けるようなそぶりを見せ、目をカッと見開くと瞳がルビー色に光っていた。
ジルに近寄ろうとしたその時、
「ねえねえお姉ちゃん!なんか居るよ?」
「え?ちょっといちご邪魔しないで・・ええ!?」
ジルの腕の間から全身にトゲが生えた不思議な丸っこい生き物が2匹ひょっこり顔を出したのだった。
「ちょ、誰???」
「あ!お邪魔してまーす!!アタシ達にはお構いなくやっちゃってくださいな」
「え、え~ッと。とりあえずそこをどいてもらって・・・そうそうそっち行ってて。お姉ちゃん続けて!」
「え、ええそうね。」
ざくろはジルの全身を包む霧を視た。薄い青色に色づいているが悪い感じはしなかった。
全身を舐めるのは大変だったが、いくつかの患部を確かめるといちごの隣に戻ってしばらく目を閉じて何かを考えていた。
「マンゴー隊長、ジル様とだけ話をさせてくださいませんか。そこのトゲ団子もどっか行ってて」
「トゲ団子じゃないやい!俺たちはアムールハリネズミって言うんだ。ジルの友達だぜ」
「ともだちイイイイ?てめえらいっつもジルの餌をぬすんでるだけじゃねえか」
シューシュー泡をふいているトゲ団子2匹にマンゴーは憎らし気に言った。
「まあまあまあ、みなさん落ち着いて」
いちごは、まだシューシュー噴いてるトゲ団子たちとマンゴー隊長を生垣の後ろまで連れていくとハアッとため息をついた。
「ほんと割に合わない、竜眼の仕事」
ハツカネズミの竜眼からの連絡で、もぐらのマンゴーが待っているはずだ。
「あんたらがざくろといちごっていう姉弟猫かい?」
「マンゴー隊長?」
「そうだ。わざわざ来てもらってすまねえな!」
「依頼内容は竜眼からお聞きしました。親友のジルさんと言う犬を助けてあげたいと・・」
「あんなババア親友でも何でもないやい!いっつも俺たちの穴をぶっ壊しやがって!」
ざくろは薄い青い目を半分閉じてだまってマンゴーの話を聞いている。
隣に座って聞いていたいちごは、長々と悪態を吐き続けるマンゴーにいいかげんしびれを切らして口を開きかけるとざくろがそっと前足を抑えて首を振った。
(ちゃんと聞いてあげて。彼の心が伝わってくるの)
「・・・すまねえな、文句ばっかだな俺。・・・前に一回、俺の息子が人間のモグラ捕りの罠にかかって危なかったところをアイツの探し物能力で見つけてもらった借りがあるんだ。別にアイツに頼まれたわけじゃない。でも何とかしてやりたいんだ。」
静かに半目を閉じて聞いていたざくろがマンゴーの目を見て言った。
「マンゴー隊長、ご依頼をお受けする前に大事な話があります。竜眼からお聞きかと存じますが、私にできることは自然の声を聴き天の意思に従い依頼主の方をしかるべきところへ誘導することだけです。天の意思によってはあなたの願いとは真逆の結果になることもございます。マンゴー隊長はともかくジル様の思いはいかがです?」
マンゴーはしばらく黙っていたがやがて口を開いた。
「ジルの家じゃなくてこんなとこにお前さんたちを呼び出したのはよ、ジルの耳に入れたくない話があってな。実は・・・」
ジルの家では、彼女を子犬から可愛がって世話をしてくれていた椿(つばき)という女の子がいたが、両親が別居することになり母親と一緒に出て行ってしまったのだと言う。
残された父親がジルを手放そう、あわよくば処分したいとあちこちで話しているらしい。
「!!!」
いちごとざくろは息をのんだ。
「ヒトとはそういうモノです。ではマンゴー隊長はジル様の運命をわれわれに任せていただけるということで構いませんね?」
「ああ、人間に殺されるくらいならどんな運命でも俺がつきあうぜ。それが地獄の道行きでもな」
「承知しました。ではジル様のもとへお連れいただきましょう」
※※※
ジルの家は畑のすぐ近くだった。
マンゴーが事前に掘ってあったトンネルですぐに到着した。
さざんかの生垣で囲まれた庭に犬小屋があり白と黒のぶち模様のある犬が横たわっていた。
首輪には鎖がつながっていた。
「おいジル!連れてきたぜ!例の姉弟猫をよ!」
もぐらのマンゴーが声をかけると、ジルと呼ばれたぶち模様の犬がけだるそうに顔だけを上げこちらを見た。
やつれからか、目の周りのたるみが目立つ。
「あなたさまが・・・。竜眼が言っていた探偵さんですか?」
「竜眼はいったいどういう宣伝してんだよ!」キーッと頭のてっぺんの毛を逆立てていちごは怒っている。
「先ほど、マンゴー隊長からご依頼をお聞きしました。どんな結果になりましても後悔なさいませんか?」
「ええ。だめでもともとでございます。それに私はもう・・・」暗い光がその目に宿った。
暗い目の光を見逃さなかったざくろは依頼を受けることにした。
ざくろの右の耳は生まれつき聞こえない。
しかし、その代わりに自然の声を聴き天の意思を視る力が宿っている。
「ご依頼をお受け致しましょう」
そう言うと薄い青い目を半分閉じた。右の耳に集中する。
何かを必死に考えるような耳を傾けるようなそぶりを見せ、目をカッと見開くと瞳がルビー色に光っていた。
ジルに近寄ろうとしたその時、
「ねえねえお姉ちゃん!なんか居るよ?」
「え?ちょっといちご邪魔しないで・・ええ!?」
ジルの腕の間から全身にトゲが生えた不思議な丸っこい生き物が2匹ひょっこり顔を出したのだった。
「ちょ、誰???」
「あ!お邪魔してまーす!!アタシ達にはお構いなくやっちゃってくださいな」
「え、え~ッと。とりあえずそこをどいてもらって・・・そうそうそっち行ってて。お姉ちゃん続けて!」
「え、ええそうね。」
ざくろはジルの全身を包む霧を視た。薄い青色に色づいているが悪い感じはしなかった。
全身を舐めるのは大変だったが、いくつかの患部を確かめるといちごの隣に戻ってしばらく目を閉じて何かを考えていた。
「マンゴー隊長、ジル様とだけ話をさせてくださいませんか。そこのトゲ団子もどっか行ってて」
「トゲ団子じゃないやい!俺たちはアムールハリネズミって言うんだ。ジルの友達だぜ」
「ともだちイイイイ?てめえらいっつもジルの餌をぬすんでるだけじゃねえか」
シューシュー泡をふいているトゲ団子2匹にマンゴーは憎らし気に言った。
「まあまあまあ、みなさん落ち着いて」
いちごは、まだシューシュー噴いてるトゲ団子たちとマンゴー隊長を生垣の後ろまで連れていくとハアッとため息をついた。
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