1 / 2
1
しおりを挟む
「━━……以上の罪により、フェシリア・ミシュリーヌを国外追放とするっ!」
屋敷で仕事を片付けていたらいきなり王城に呼ばれ、その城の主たる国王にそんなことを言われてしまった。
……けれど、待って欲しい。わたしはそんな罪を犯していない。所謂濡れ衣というやつだろう。
「ふん。反論もしないということは事実だと認めるのだな」
「………」
反論したところで、この処遇は変わらないのだろう。ならば、言うだけ無駄である。まぁそもそも、わたしが反論することは許されない。自分はそういう立場の存在だからだ。
「おいっ!連れて行けっ!」
「「はっ!」」
2人の兵士から両腕を固定され、そのまま謁見の間から連れ出される。
正直この国に未練はないが、仕事を残してきたことは少し罪悪感がある。だが、優秀な妹がいるので、そちらはおそらく問題ではないだろう。
ここでわたしについて話をしよう。
わたしの名前はフェシリア・ミシュリーヌ。ミシュリーヌ公爵家の令嬢である。だが、本来はそうではない。ミシュリーヌ公爵家の分家出身だ。
だが今は本家に籍がある。それは何故か。理由は簡単。子供ができなかったからである。故に跡継ぎとしてわたしは連れていかれた。
もっとも、わたしが籍を移して2年後には戸籍上は妹となる存在が本家に産まれたのだが。結果として、わたしは用済み、言い換えれば邪魔な存在となった。
それでもわたしは分家に戻されることは無かった。いや、出来なかったと言った方がいいかもしれない。
その理由としては、わたしの国のあり方に問題があったからだ。
わたしが住む国は人間至上主義であり、獣人……所謂、亜人を排斥する。
わたしも産まれた時は人間だった。だが……10歳くらいだっただろうか? 獣人としての特徴が現れてしまったのだ。
調べたところ、どうやら隔世遺伝というものらしかった。けれど、それはつまり祖先に獣人がいたということを示す。それにより、わたしの本来の家は潰された。
本来であればわたしも貴族では居られないのだが、妹が必死に庇ってくれたおかげで残ることが出来た。名目上は妹の侍女兼護衛で、だが実際には自由が認められた。
……もっとも、良い目では見られなかったが。
一応成人とされる15歳まではなんとか生き、学園へ通い、仕事を貰っていた。主に経理の仕事だ。その他には外交とか……まぁ、良い目では見られなくとも、結構な仕事を与えられた。……押し付けられたとも言うが。
そのせいで日々仕事に追われ、基本屋敷に引き篭る、もしくは国にいなかった。それが原因で今回のようなことになったのだろうとは想像に容易い。アリバイが無いのだ。まぁ、もしあったとしても、わたしの味方は妹しかいない。ただ一人だけの証言は、多数の虚偽の証言に埋められる。
「はぁ…」
思わずため息が出る。それを追放されることに対する不満だと思ったのか、兵士が歩みを早める。
……だが、問題は無い。獣人の身体能力を舐めないでもらいたいものだ。
そもそも今の兵士さえも振りほどくことは容易であるが、さらに面倒事になりそうなのでやらない。
「これに乗れ」
兵士にそう言われ乗せられたのは、粗末な馬車。装飾品などは無い、正に唯の木の箱だ。
わたしを連れてきた兵士はそのまま踵を返して去っていった。……けれど少し歩いてから1人の兵士が引き返して来た。
「なにか?」
「…これを」
周りの目を気にしながら、1枚のカードを差し出してきた。それが何か分からないほど、わたしは世間知らずではない。
「何故、個人カードを…」
個人カード。それは身元を証明する為のもので、それさえあれば何処出身で現在の住んでいる場所。そして本名まで分かる。取り扱いには気を付けなければならない代物だ。
「これが貴方様の新しい戸籍になります」
「新しい、戸籍?」
どういうことかと問い詰めようと思ったが、それよりも先に兵士は足早に去ってしまった。まぁ、こんなものを渡しているところを見られれば大問題であるので、その対応は間違っていない。間違ってないけどさ……せめて誰からとか教えて欲しかった。
「はぁ…」
「出しても宜しいでしょうか?」
ため息をついていると、馬車の御者さんからそう声をかけられた。
「あ、お願いします」
「かしこまりました」
……さっきから色々とおかしい。そもそもわたしは罪人で、御者さんがこうも丁寧な対応をする訳が無い。
「……ん?」
貰った個人カードを触っていると、後ろに小さな紙が引っ付いていることに気が付いた。破かないように慎重に剥がし、開く。
『わたしもすぐ行くから』
たったそれだけの文。けれど、それだけでわたしには分かった。分かって、しまった。
「…………はぁぁぁ…」
思わず深いため息をついてしまう。
「……後で文句……言えないなぁ…」
一連の行為は、叱るに叱れない。あの子がこの行為に及んだのは、全てわたしの為であり、その行為をさせてしまったのはわたしのせいでもあるからだ。
ガタゴトと馬車に揺られながら、わたしは後から来るであろう自分の妹へどう対応すべきかをうんうんと唸り続けるのだった。
屋敷で仕事を片付けていたらいきなり王城に呼ばれ、その城の主たる国王にそんなことを言われてしまった。
……けれど、待って欲しい。わたしはそんな罪を犯していない。所謂濡れ衣というやつだろう。
「ふん。反論もしないということは事実だと認めるのだな」
「………」
反論したところで、この処遇は変わらないのだろう。ならば、言うだけ無駄である。まぁそもそも、わたしが反論することは許されない。自分はそういう立場の存在だからだ。
「おいっ!連れて行けっ!」
「「はっ!」」
2人の兵士から両腕を固定され、そのまま謁見の間から連れ出される。
正直この国に未練はないが、仕事を残してきたことは少し罪悪感がある。だが、優秀な妹がいるので、そちらはおそらく問題ではないだろう。
ここでわたしについて話をしよう。
わたしの名前はフェシリア・ミシュリーヌ。ミシュリーヌ公爵家の令嬢である。だが、本来はそうではない。ミシュリーヌ公爵家の分家出身だ。
だが今は本家に籍がある。それは何故か。理由は簡単。子供ができなかったからである。故に跡継ぎとしてわたしは連れていかれた。
もっとも、わたしが籍を移して2年後には戸籍上は妹となる存在が本家に産まれたのだが。結果として、わたしは用済み、言い換えれば邪魔な存在となった。
それでもわたしは分家に戻されることは無かった。いや、出来なかったと言った方がいいかもしれない。
その理由としては、わたしの国のあり方に問題があったからだ。
わたしが住む国は人間至上主義であり、獣人……所謂、亜人を排斥する。
わたしも産まれた時は人間だった。だが……10歳くらいだっただろうか? 獣人としての特徴が現れてしまったのだ。
調べたところ、どうやら隔世遺伝というものらしかった。けれど、それはつまり祖先に獣人がいたということを示す。それにより、わたしの本来の家は潰された。
本来であればわたしも貴族では居られないのだが、妹が必死に庇ってくれたおかげで残ることが出来た。名目上は妹の侍女兼護衛で、だが実際には自由が認められた。
……もっとも、良い目では見られなかったが。
一応成人とされる15歳まではなんとか生き、学園へ通い、仕事を貰っていた。主に経理の仕事だ。その他には外交とか……まぁ、良い目では見られなくとも、結構な仕事を与えられた。……押し付けられたとも言うが。
そのせいで日々仕事に追われ、基本屋敷に引き篭る、もしくは国にいなかった。それが原因で今回のようなことになったのだろうとは想像に容易い。アリバイが無いのだ。まぁ、もしあったとしても、わたしの味方は妹しかいない。ただ一人だけの証言は、多数の虚偽の証言に埋められる。
「はぁ…」
思わずため息が出る。それを追放されることに対する不満だと思ったのか、兵士が歩みを早める。
……だが、問題は無い。獣人の身体能力を舐めないでもらいたいものだ。
そもそも今の兵士さえも振りほどくことは容易であるが、さらに面倒事になりそうなのでやらない。
「これに乗れ」
兵士にそう言われ乗せられたのは、粗末な馬車。装飾品などは無い、正に唯の木の箱だ。
わたしを連れてきた兵士はそのまま踵を返して去っていった。……けれど少し歩いてから1人の兵士が引き返して来た。
「なにか?」
「…これを」
周りの目を気にしながら、1枚のカードを差し出してきた。それが何か分からないほど、わたしは世間知らずではない。
「何故、個人カードを…」
個人カード。それは身元を証明する為のもので、それさえあれば何処出身で現在の住んでいる場所。そして本名まで分かる。取り扱いには気を付けなければならない代物だ。
「これが貴方様の新しい戸籍になります」
「新しい、戸籍?」
どういうことかと問い詰めようと思ったが、それよりも先に兵士は足早に去ってしまった。まぁ、こんなものを渡しているところを見られれば大問題であるので、その対応は間違っていない。間違ってないけどさ……せめて誰からとか教えて欲しかった。
「はぁ…」
「出しても宜しいでしょうか?」
ため息をついていると、馬車の御者さんからそう声をかけられた。
「あ、お願いします」
「かしこまりました」
……さっきから色々とおかしい。そもそもわたしは罪人で、御者さんがこうも丁寧な対応をする訳が無い。
「……ん?」
貰った個人カードを触っていると、後ろに小さな紙が引っ付いていることに気が付いた。破かないように慎重に剥がし、開く。
『わたしもすぐ行くから』
たったそれだけの文。けれど、それだけでわたしには分かった。分かって、しまった。
「…………はぁぁぁ…」
思わず深いため息をついてしまう。
「……後で文句……言えないなぁ…」
一連の行為は、叱るに叱れない。あの子がこの行為に及んだのは、全てわたしの為であり、その行為をさせてしまったのはわたしのせいでもあるからだ。
ガタゴトと馬車に揺られながら、わたしは後から来るであろう自分の妹へどう対応すべきかをうんうんと唸り続けるのだった。
10
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
【完結】召喚されて聖力がないと追い出された私のスキルは家具職人でした。
佳
ファンタジー
結城依子は、この度異世界のとある国に召喚されました。
呼ばれた先で鑑定を受けると、聖女として呼ばれたのに聖力がありませんでした。
そうと知ったその国の王子は、依子を城から追い出します。
異世界で街に放り出された依子は、優しい人たちと出会い、そこで生活することになります。
パン屋で働き、家具職人スキルを使って恩返し計画!
異世界でも頑張って前向きに過ごす依子だったが、ひょんなことから実は聖力があるのではないかということになり……。
※他サイトにも掲載中。
※基本は異世界ファンタジーです。
※恋愛要素もガッツリ入ります。
※シリアスとは無縁です。
※第二章構想中!
異世界召喚された巫女は異世界と引き換えに日本に帰還する
白雪の雫
ファンタジー
何となく思い付いた話なので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合展開です。
聖女として召喚された巫女にして退魔師なヒロインが、今回の召喚に関わった人間を除いた命を使って元の世界へと戻る話です。
私、平凡ですので……。~求婚してきた将軍さまは、バツ3のイケメンでした~
玉響なつめ
ファンタジー
転生したけど、平凡なセリナ。
平凡に生まれて平凡に生きて、このまま平凡にいくんだろうと思ったある日唐突に求婚された。
それが噂のバツ3将軍。
しかも前の奥さんたちは行方不明ときたもんだ。
求婚されたセリナの困惑とは裏腹に、トントン拍子に話は進む。
果たして彼女は幸せな結婚生活を送れるのか?
※小説家になろう。でも公開しています
嘘つきと呼ばれた精霊使いの私
ゆるぽ
ファンタジー
私の村には精霊の愛し子がいた、私にも精霊使いとしての才能があったのに誰も信じてくれなかった。愛し子についている精霊王さえも。真実を述べたのに信じてもらえず嘘つきと呼ばれた少女が幸せになるまでの物語。
追放された公爵令嬢はモフモフ精霊と契約し、山でスローライフを満喫しようとするが、追放の真相を知り復讐を開始する
もぐすけ
恋愛
リッチモンド公爵家で発生した火災により、当主夫妻が焼死した。家督の第一継承者である長女のグレースは、失意のなか、リチャードという調査官にはめられ、火事の原因を作り出したことにされてしまった。その結果、家督を叔母に奪われ、王子との婚約も破棄され、山に追放になってしまう。
だが、山に行く前に教会で16歳の精霊儀式を行ったところ、最強の妖精がグレースに降下し、グレースの運命は上向いて行く
【完結】お見合いに現れたのは、昨日一緒に食事をした上司でした
楠結衣
恋愛
王立医務局の調剤師として働くローズ。自分の仕事にやりがいを持っているが、行き遅れになることを家族から心配されて休日はお見合いする日々を過ごしている。
仕事量が多い連休明けは、なぜか上司のレオナルド様と二人きりで仕事をすることを不思議に思ったローズはレオナルドに質問しようとするとはぐらかされてしまう。さらに夕食を一緒にしようと誘われて……。
◇表紙のイラストは、ありま氷炎さまに描いていただきました♪
◇全三話予約投稿済みです
山に捨てられた令嬢! 私のスキルは結界なのに、王都がどうなっても、もう知りません!
甘い秋空
恋愛
婚約を破棄されて、山に捨てられました! 私のスキルは結界なので、私を王都の外に出せば、王都は結界が無くなりますよ? もう、どうなっても知りませんから! え? 助けに来たのは・・・
失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~
紅月シン
ファンタジー
聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。
いや嘘だ。
本当は不満でいっぱいだった。
食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。
だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。
しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。
そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。
二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。
だが彼女は知らなかった。
三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。
知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。
※完結しました。
※小説家になろう様にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる