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第1章

1ー2 実地調査

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 エレナは今日、ギルドを休み森へと向かっていた。

「おや?エレナちゃんじゃないか。どうしたんだい?」

 そうエレナに話しかけてきたのは、門番をしている兵の男だ。
 この領地は外壁があり、それぞれの方角に門が存在する。その門を警備し、来る人、出る人を監視するのが彼の役目だ。

「すこし、実地調査に」
「実地調査かい?いくら有能な受付嬢だからってキツくないかい?」

 エレナはこの領地でかなりの有名人だったりする。その理由としては、彼女がもたらした料理などだ。

 エレナは先祖返りの吸血鬼であるが故に、今までの先祖返りの吸血鬼の記憶を継承している。その中にはこの世界の記憶ではないものまであった。そのため、彼女がもたらした料理は今までになかったものだったりする。巷では食の伝道師なんて呼ばれていたり。

 そして男がエレナを心配する理由は、そういうところを含め、受付嬢としても、とても有能であること。それと、もうひとつある。

「大丈夫ですよ。こう見えてもあなたより歳上ですよ」

 そう、エレナは先祖返りの吸血鬼であるが故に、成長が止まってしまっているのだ。そのため成人とされる15歳より幼く見えてしまう。だが、彼女はれっきとした成人であり、今いる門番の兵より歳上だったりする。
 …女性が年齢を言うものではないと思うが。

「え、嘘?!ほ、ほんとに?!」

 驚くのも無理はない。なにせエレナはその男を見上げているのだから。

「ほんとですよ。あんまり言わないでくださいよ?」
「も、もちろんだ!い、いや、もちろんです…」
「ふふふっ。別にいつも通りにしてもらって構いませんよ」

 彼女自身この反応を楽しんでいる節があり、教えたとしても、いつも通り接してもらうように頼んでいるのだ。

「じゃあ行っていいですか?」
「あ、その前にこの水晶に触れてくれるかい?エレナ……さん」

 そう言って差し出してきたのは丸い透明な水晶だった。これも魔道具の1種で、犯罪歴などを調べるものだ。無いなら緑。あるけど、大丈夫なのは黄。完璧にアウトなのは赤に光る。
 エレナが水晶に触れると、緑色に光った。

「うん、問題ないね。じゃあ気をつけて」
「はい。ありがとうございます」

 その言葉を最後に、目で捉えられない速さでエレナは門を後にした。

「…は?!」
「安心しな。お前の目が狂った訳じゃない」

 驚いている男の肩を叩いたのは、彼の上司にあたる人だ。

「入ったばっかだから知らねぇだろうが、あの人はこの領地で間違いなく1番強い」
「え?!いや、ほんとですか?」
「ああ。信じらんねぇなら、模擬戦してみるか?ちょうど5日後にその予定が入ってるぞ」

 実は、彼女が第6階級であるとは知られていないが、その強さは知られており、時々兵の詰所で模擬戦をやったりしているのだ。

「え、模擬戦…ですか?」
「ああ。心配要らねぇよ。死にゃあしねぇ」
「…は?!」
「はははっ!まぁそんときに分かるよ」

 ガハハっと笑いながら彼の上司は自分の持ち場へと戻った。

「死なないって…」

 どうゆう事だ?と思いながら、彼は自分の仕事に戻るのだった。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

「さぁ~ってと」

 エレナは門番と別れてから、僅か1分足らずで調査する森に到着していた。

「うーん…なんか変」

 エレナは言葉では現せない、違和感を感じた。

「なに?この違和感…」

 ザワザワと胸騒ぎを感じながら、エレナは気配察知を展開しながら森を進むことにした。

 スキル【気配察知】Lv10
 魔力を薄く広げ、気配を探知する。Lvにより索敵範囲が異なる。

 スキルとは、技能を具現化したようなものだ。そしてLvが存在し、Lv10が最高だ。

 気配察知をしながら森を進むと、エレナはその違和感の正体に気づいた。

「魔物が…いない?」

 そう、魔物が全くいないのだ。本来ならこの森には魔物が多く生息している。だからこそその素材で作られた道具、武器がキュリソーネ領の自慢といってもいい。

「となるとこれは…」

 エレナは気配察知の範囲を広げる。するとこの森にはいるはずのない存在があった。

「…この規模の盗賊・・は1日やそこらでできないはず」

 そう、盗賊団だ。実はエレナは、日頃から隠れてこの森にある盗賊団の拠点を全て潰していたのだ。だからこそ、この森にはありえない存在。その規模は100人以上。前に見回りをしたのは3日前。その後にできたということになる。

「明らかに怪しいよね…」

 魔物の消滅、大規模の盗賊団。エレナは、どう考えても繋がっているとしか思えなかった。

「…召喚サモンクロ」

 エレナは自身の従魔を召喚した。従魔とは主従関係を結んだ魔物のこと。
 エレナの目の前の地面に青白い魔法陣が展開され、黒い鳥が現れた。

『主よ。何用だ?』
「ちょっと偵察してきて欲しいの」
『偵察か。して報酬は?』 
「うーん…じゃあブラッシング」
『すぐに終わらせてくる!』

 そう言って、クロと呼ばれた黒い鳥は飛び立って行った。エレナの従魔は数多くいるのだが、その多くはモフモフの魔物で、例に漏れずクロもモフモフの毛並みを持っている。そのため彼らの1番のご褒美がブラッシングなのだ。特にエレナのブラッシングは中毒性がある…らしい。

「そこまで張り切らなくてもいいと思うけど…」

 エレナは苦笑しつつ、クロの帰りを待つのだった。
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