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第6章
思わぬ躓き
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門から外に出てしばらく道なりに進んだと思えば途中で道を逸れ、人気がない開けた場所で2人が立ち止まった。
わたしはレジーナさんに気付かれないように近くの林に身を潜める。
「ここでするのですか?」
「はい。本当なら王都内で訓練場を借りるほうが良かったのですけれど、サーニャさんがどれだけの魔法を使えるのか分からなかったので、今回は万が一に備えて外でした方が良いと思いまして」
「なるほど…確かに王都で魔法を暴発させる訳にはいきませんからね」
風に乗って二人の会話がするりと耳に入ってくる。
サーニャさんの魔法の威力がどれほどのものなのかはわたしにも分からないが、加護の影響を鑑みるとレジーナさんの懸念はあながち間違ってないんだろうと予想する。
「まず基本事項の確認なんですが、サーニャさんは魔力循環は日頃からなさっていますか?」
「あっ…えっと、前まではやっていたんですが最近はあまりできてないですね…」
サーニャさんの言葉に1人頷く。そもそも最近は魔力循環できるような暇が無かったものね。
「では今日はそこから始めましょうか。魔力循環は魔法を扱う上での準備運動のようなものですから」
へぇー…あれ、とそこで唐突に疑問が浮かぶ。それならわたしも最近魔力循環してないのだけれどそれは大丈夫なのか、と。
『神龍であるマリーナ様は世界の魔力を循環させる機構の一つでもありますので、言い換えれば常に無意識で魔力循環を行っています。ですので意識的に行う必要性はあまりありません』
…わぁお。
「今までやっていた魔力循環の方法は体内の魔力に意識を集中して、意識的に魔力を動かして体全体に魔力を広げて馴染ませる方法なのですが、合っていますか?」
「はい、その方法で合っていますよ。10分ほどやってみましょうか」
その言葉を聞いて、サーニャさんが意識を集中するかのように目を閉じた。その様子をレジーナさんはジーッと見つめている。おそらく魔力を目に集めて魔力の流れを視ているのだろうと思い至る。
わたしも見てみようと神眼を通して魔力を視る。すると魔力の流れが紅い光の筋として見ることが出来た。
サーニャさんの身体の中心に集まっていた強い紅い光が少しずつ細やかな筋になり、循環し始める。
──ん? 不味いかも?
綺麗な筋を描いていた魔力が、次第に歪み始めた。これにはレジーナさんも気付いたようで、慌てた様子でサーニャさんに呼びかける。
「サーニャさん!? 一旦止めてください!!」
「ふえっ!?」
……もっと不味いことになったかもしれない。いきなり大きな声で制止された影響でさらに魔力が制御を外れ目に見えて不安定になり始める。
プレナも急ぎ結界を展開し始めるが、それだけで治まる域を既に越えてしまっている。
これには流石にわたしも傍観している訳にはいかないので、遠隔で地を伝いサーニャさんの魔力に干渉する。
「うわぁ……ひとまずわたしが吸収しておこう」
溢れた魔力のあまりの多さに口の端が引き攣るのを自覚しつつ、逃す場所もないのでわたし自身に魔力を封じ込める。他者の魔力は安易に多量を受け入れると気分が悪くなるが、これくらいならわたしにとっては許容範囲内だ。
「大丈夫ですか!?」
「は、はい。なんとか」
ひとまずは暴走する1歩手前で止められたことに安堵の息を吐く。念の為付いて来ておいて本当に良かったと思う。
「まさか魔力循環の段階で躓くとは…」
「す、すいません」
「いえ、謝る必要はありませんよ。最初は基礎中の基礎である魔力循環は軽く触りだけと考えていたのですが、これだと本当に最初からやったほうが良さそうですね」
すいません、とまたサーニャさんが言いながら身を縮ませるのが遠目からでもよく分かった。
「ひとまず魔力循環を補助ありでやってみましょうか。末端までは広げず、身体の中心辺りだけで循環させてみましょう」
そう言いながらレジーナさんがサーニャさんの両手を取り、自身の魔力を呼び水としてサーニャさんの魔力を循環させていく。
すると流石と言うべきか。先程まで暴走しかけたことが重くのしかかり不安げに揺れていた紅い光が、少しずつ安定を取り戻していくのが目に視えて分かる。
クルクルとサーニャさんの中心で回っていた光は、次第にその大きさを増し、身体全体が光に包まれたような状態へと推移していく。
「──はい。これくらいで大丈夫でしょう。如何ですか?」
「…なんだか、今までやっていた魔力循環後より身体がポカポカする気がします」
「それが正しく、満遍なく循環出来た証左ですよ」
2人の頬が上気したように赤く染まっているのを見るあたり、かなり体温が上昇したように思われる。
「今回やってみて思いましたが、できる限り毎日5分でもいいので魔力循環は行った方が良いかと。魔力があまり上手く動かせていない印象があります」
「うぅ…」
どうやら自覚があるようだ。
「魔力が多い方ほど全体量を把握し制御することが難しく、苦手と感じると聞いたことがあります。それが苦手という状態から改善しないのは、先程のように暴走させかねない為、満足に鍛錬できないからだとも。その点サーニャさんはマリーナ様がおられますからその万が一が起こり得ないので、存分に鍛錬することができると思います」
…なんだか過大評価を受けている気がする。いやまぁ目の前でもちろん暴走なんてさせないけども。
「わたし自身もこれから先予定がどうなるか分かりませんが、時間の許す限りご相談に乗らせていただきますよ」
「宜しくお願いします…!!」
初期の頃よりだいぶ打ち解けているようでほっと息を吐く。このまま鍛錬が続けばサーニャさんも隣で戦うことが出来るようになりそうだと1人喜ぶ。
───まぁ、戦わせるつもりなんて微塵も無いのだけれど。最終わたし1人だけが汚名を被ればいい。これはサーニャさんに任せる訳にはいかない、わたし1人の問題だ。
わたしはレジーナさんに気付かれないように近くの林に身を潜める。
「ここでするのですか?」
「はい。本当なら王都内で訓練場を借りるほうが良かったのですけれど、サーニャさんがどれだけの魔法を使えるのか分からなかったので、今回は万が一に備えて外でした方が良いと思いまして」
「なるほど…確かに王都で魔法を暴発させる訳にはいきませんからね」
風に乗って二人の会話がするりと耳に入ってくる。
サーニャさんの魔法の威力がどれほどのものなのかはわたしにも分からないが、加護の影響を鑑みるとレジーナさんの懸念はあながち間違ってないんだろうと予想する。
「まず基本事項の確認なんですが、サーニャさんは魔力循環は日頃からなさっていますか?」
「あっ…えっと、前まではやっていたんですが最近はあまりできてないですね…」
サーニャさんの言葉に1人頷く。そもそも最近は魔力循環できるような暇が無かったものね。
「では今日はそこから始めましょうか。魔力循環は魔法を扱う上での準備運動のようなものですから」
へぇー…あれ、とそこで唐突に疑問が浮かぶ。それならわたしも最近魔力循環してないのだけれどそれは大丈夫なのか、と。
『神龍であるマリーナ様は世界の魔力を循環させる機構の一つでもありますので、言い換えれば常に無意識で魔力循環を行っています。ですので意識的に行う必要性はあまりありません』
…わぁお。
「今までやっていた魔力循環の方法は体内の魔力に意識を集中して、意識的に魔力を動かして体全体に魔力を広げて馴染ませる方法なのですが、合っていますか?」
「はい、その方法で合っていますよ。10分ほどやってみましょうか」
その言葉を聞いて、サーニャさんが意識を集中するかのように目を閉じた。その様子をレジーナさんはジーッと見つめている。おそらく魔力を目に集めて魔力の流れを視ているのだろうと思い至る。
わたしも見てみようと神眼を通して魔力を視る。すると魔力の流れが紅い光の筋として見ることが出来た。
サーニャさんの身体の中心に集まっていた強い紅い光が少しずつ細やかな筋になり、循環し始める。
──ん? 不味いかも?
綺麗な筋を描いていた魔力が、次第に歪み始めた。これにはレジーナさんも気付いたようで、慌てた様子でサーニャさんに呼びかける。
「サーニャさん!? 一旦止めてください!!」
「ふえっ!?」
……もっと不味いことになったかもしれない。いきなり大きな声で制止された影響でさらに魔力が制御を外れ目に見えて不安定になり始める。
プレナも急ぎ結界を展開し始めるが、それだけで治まる域を既に越えてしまっている。
これには流石にわたしも傍観している訳にはいかないので、遠隔で地を伝いサーニャさんの魔力に干渉する。
「うわぁ……ひとまずわたしが吸収しておこう」
溢れた魔力のあまりの多さに口の端が引き攣るのを自覚しつつ、逃す場所もないのでわたし自身に魔力を封じ込める。他者の魔力は安易に多量を受け入れると気分が悪くなるが、これくらいならわたしにとっては許容範囲内だ。
「大丈夫ですか!?」
「は、はい。なんとか」
ひとまずは暴走する1歩手前で止められたことに安堵の息を吐く。念の為付いて来ておいて本当に良かったと思う。
「まさか魔力循環の段階で躓くとは…」
「す、すいません」
「いえ、謝る必要はありませんよ。最初は基礎中の基礎である魔力循環は軽く触りだけと考えていたのですが、これだと本当に最初からやったほうが良さそうですね」
すいません、とまたサーニャさんが言いながら身を縮ませるのが遠目からでもよく分かった。
「ひとまず魔力循環を補助ありでやってみましょうか。末端までは広げず、身体の中心辺りだけで循環させてみましょう」
そう言いながらレジーナさんがサーニャさんの両手を取り、自身の魔力を呼び水としてサーニャさんの魔力を循環させていく。
すると流石と言うべきか。先程まで暴走しかけたことが重くのしかかり不安げに揺れていた紅い光が、少しずつ安定を取り戻していくのが目に視えて分かる。
クルクルとサーニャさんの中心で回っていた光は、次第にその大きさを増し、身体全体が光に包まれたような状態へと推移していく。
「──はい。これくらいで大丈夫でしょう。如何ですか?」
「…なんだか、今までやっていた魔力循環後より身体がポカポカする気がします」
「それが正しく、満遍なく循環出来た証左ですよ」
2人の頬が上気したように赤く染まっているのを見るあたり、かなり体温が上昇したように思われる。
「今回やってみて思いましたが、できる限り毎日5分でもいいので魔力循環は行った方が良いかと。魔力があまり上手く動かせていない印象があります」
「うぅ…」
どうやら自覚があるようだ。
「魔力が多い方ほど全体量を把握し制御することが難しく、苦手と感じると聞いたことがあります。それが苦手という状態から改善しないのは、先程のように暴走させかねない為、満足に鍛錬できないからだとも。その点サーニャさんはマリーナ様がおられますからその万が一が起こり得ないので、存分に鍛錬することができると思います」
…なんだか過大評価を受けている気がする。いやまぁ目の前でもちろん暴走なんてさせないけども。
「わたし自身もこれから先予定がどうなるか分かりませんが、時間の許す限りご相談に乗らせていただきますよ」
「宜しくお願いします…!!」
初期の頃よりだいぶ打ち解けているようでほっと息を吐く。このまま鍛錬が続けばサーニャさんも隣で戦うことが出来るようになりそうだと1人喜ぶ。
───まぁ、戦わせるつもりなんて微塵も無いのだけれど。最終わたし1人だけが汚名を被ればいい。これはサーニャさんに任せる訳にはいかない、わたし1人の問題だ。
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