上 下
104 / 130
第5章

信じることは

しおりを挟む
 ……ここはどこだろうか。
 真っ暗なような…白いような。よく分からない空間。でもここは……そうだ。前に来たことがある。前にグランパパに会った夢の中によく似ている。

「ここは……っ!」

 風景が次々に流れていく。
 時には森の中。
 時には空の上。
 時には村。
 時には……

「これは……記憶、か」

 そうだ。これは記憶だ。恐らく……天人族あまびとぞくのもの。
 楽しげな記憶。嬉しい記憶。そして……

「……絶望」

 嘲笑。蔑み。裏切り。

「……誰も、助けてはくれなかった」

 は助けが欲しかった。変わりゆく自分を救って欲しくて。
 でも誰一人、助けてはくれなかった。皆恐れ、皆裏切り、皆逃げた。

「……だから、呑まれた」

 絶望に。怒りに。悲しみに。


『……ダレ』

 突然記憶が途切れ、真っ暗な空間へと変化する。そして、微かに声が聞こえた。

『……ダレ』

「あなたを助けに来たの」

『……ミンナソウ』

『ダレモ、ソウ』

『タスケナンテ、クレナイ』

「そんなことない。本当に助けに来たんだよ」

『ウソダ!!』

 口調が突然強くなる。その声は……彼女の気持ち全てを物語っているような気がした。
 信じたくて。でも裏切られて。だから信じられなくて。

「……大丈夫。あなただって、本当は分かっているんでしょう?」

『…………』

 本当は分かっているはずだ。……信じることが出来る人だっているってことを。
 でも彼女の絶望は根深い。そのことを、信じることが出来ない。

「……おいで」

 だから知って欲しいんだ。もう一度。

「……信じて」

 信じてもらえることの、喜びを。

『…………ウソダ』

「本当だよ」

 暗闇にモヤが多くなり、私の体を包む。しかし、私から生まれる光に当てられ、消滅していく。覇気の効果だ。

「…照らすから」

 あなたの事を。

「…護るから」

 どんなことがあっても。

「…助けるから」

 絶望の淵から。

「…おいで」

『………』

 暗闇に1つの小さな光の粒が零れ落ちた。

『…ホント?』

「本当」

『…シンジテ、イイノ?』

「信じて、欲しいな」

 ふよふよと不安げに、それでも確実に私のほうへと近付いてくる。

「あなたの願い。気持ち。望み。それは、何?」

『……タスケテ。ワタシヲ…!』

「…よく、言えました」

 ギュッと優しく、それでも強く、小さくとも胸に抱きしめる。すると、私の周りから黒いモヤが晴れ始め、白いような空間へと変わっていった。

「さぁ、帰ろう」

 私は残った暗闇に向け、刀を振るった。













「……戻ってきたね」

 閉じていた目を開けると、確かにさっきまでいた森の中に立っていた。もう、あの化け物の姿はない。
 ………いや、化け物存在はいた。

「うぅ…」

 真っ白な翼を背に持つ、綺麗な女性が横たわっていた。間違いない。彼女だ。

「まさか本当に助けられるとは……」

 物凄く確証のない賭けだったからね。正直、救えなければそのまま倒していた。そのほうが、彼女にとっても幸せだっただろうから。

「まぁ、その判断はできる限りしたくはなかったけどね…」

 呑まれた存在とはいえ、人だ。しかも野盗とかではなく、普通の人。前世の感覚が残っている身からすれば、それは避けたい。
 え、野盗も人なのにどうなんだって?あれは人じゃないと思ってるから。人の言葉を話す獣だ。だから躊躇などない。

「……とりあえず」

 女性の傍により、状態を確認する。

 ┠ステータス┨────────────────

 名前:レジーナ・シュテルグ
 種族:天人族
 年齢:18
 レベル:76
 職業:治癒師
 ステータス:魔力 28840 HP 5680(弱体化:2000)
 魔法:治癒Ⅷ 風属性Ⅷ 水属性Ⅴ 光属性Ⅴ 
 ユニークスキル:天人の護り
 スキル:魔力制御Ⅴ 魔力操作Ⅴ 飛翔Ⅴ 料理Ⅳ 索敵Ⅲ 状態異常耐性Ⅲ
 称号:天空ノ愛子 追放者 元魔族 神龍に救われた者 


 ────────────────────────

 …………うーんとね。色々と突っ込みたいとこはあるんだけど、とりあえず体調は大丈夫そうだね。弱体化とか書かれているけど、大して問題は無いだろう。
 問題は称号のとこだ。

 天空ノ愛子:天空そらに愛された者。天空を翔ける時、気候に恵まれる。

 …愛子とか書いてるからなんだろうと思って身構えたけど、大した効果はなかった。

 追放者:街、村、群れから追放された者。

 …多分、呪詛に侵された時に取った称号だろう。となると、彼女が帰るところはもう……。

 元魔族:魔族から他の種族へと変化した、本来ならば有り得ない存在。

 …やっぱり前例がないんだね。でも呪詛に侵されると魔族化するのか…

 神龍に救われた者:神龍に命、またはココロを救われた者。神龍と弱いながらも繋がりを持っている。

 …ちょっと後半は初耳だなぁ?

『契約に近いものが行われましたからね』

 …なるほど。でも盟約ほど強いものではないのね。名前も呼んでないから。

「はぁ…まぁ、これからのことを考えれば、良かったのかな」

 彼女はこれから先、どこへ向かうのか。それは私には分からないし、決められない。彼女自身が決めることだ。助けた以上、手助けはするつもりだけどね。そのときこれがあれば理由になるし。

「うぅ………あ、れ?ここは……」

「目が覚めましたか?」

 女性…レジーナさんが目を開けるが、その顔には困惑の色が見えた。記憶が混乱しているのだろう。

「私…何して……あなたは……」

「あなたの…レジーナさんの味方ですよ」

「私の名前……それにその声……」

「今は、ゆっくり休んでください」

 このまま混乱させるのは不味いので、ひとまず眠ってもらう。
 ………宿に直接転移するか。後で私だけ門から入り直そう。








しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

孤独な王女は隣国の王子と幸せになります

恋愛 / 完結 24h.ポイント:106pt お気に入り:3,742

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:9,054pt お気に入り:8,239

リンの異世界満喫ライフ

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:418pt お気に入り:3,406

笑い方を忘れた令嬢

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:219

【第2章開始】あなた達は誰ですか?

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:546pt お気に入り:9,704

処理中です...