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第5章

感謝って大切ですよね

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 結論から言うと……案外すんなり治療院へと入ることができた。多分猫の手も借りたいほど人手が足りていないからだろうね。それと、サーニャさんがエルフだってことも理由だろう。一概に子供として扱えないから。

『で、どうするんですか?』

 サーニャさんがリュクサックの中にいる私に龍語で話しかけてきた。正直ここまで簡単に入れるとは思ってなかったからなぁ…ちょっと予定変更。

『ひとまずサーニャさんは、私が渡すポーションを患者に施してください』

『わかりました』

 私が用意しているポーションは、この呪いを治す為のものではない。そんなことしたら、わざわざ龍になってまでここに来た意味が無い。
 なので用意したのは、ただの体力回復用のポーション。この呪いのせいで落ちてしまった体力を戻さないといけないからね。


『はい。サーニャさん』

『……どうも』

 リュックサックからサーニャさんにポーションを手渡す。全部のポーションは私の無限収納庫インベントリに入っているからね。こうするしかない。
 ………サーニャさんが「(いけない…マリーナ様が可愛すぎる)」とか言ってたのは、聞かなかったことにする。

『さぁってと。私もやることやりますかね』

 リュックサックがなるべく動かないようにしながら、中で翼を広げる。そして、翼に神力を行き渡らせていく。おぉ…なんか、変な感じ。翼が温かい。

『マリーナ様。ポーションを』

『あ、はいはい』

 神力を流しつつサーニャさんにポーションを手渡す。
 ……それ以外何もする事ないし、翼が温かいせいでちょっと寝ちゃいそうなんだけど。

『……寝ないで下さいね?』

『わ、分かってます』

 うつらうつら舟を漕いでいたら、サーニャさんに注意されてしまった。
 ちゃんとしよう。うん。

 ーーーーーーー

 マリーナ様から運んでくれと言われた時は少し躊躇してしまいましたが……もともとマリーナ様は人を助けるべく行動しているのですから、そこで躊躇してはいけませんでした。今となっては、少し後悔しています。

「…多いですね」

 治療院を見渡す。所狭しとベットが並べられ、その全てに人が横たわっている。マリーナ様が本気を出せばすぐに助けられるのでしょうが、あの方は謙虚ですからね。こうして回りくどい手段を……まぁ、それも私のためであることはわかるのですがね。
 マリーナ様の正体が明らかになってしまえば、マリーナ様と共にいる私も注目を集めてしまう。だからマリーナ様は、力を示さないのでしょう。

「…私は、お役に立てているのでしょうか」

 そんな言葉が思わず口から零れてしまった。しかし、それは私の本心でもありました。
 私は、マリーナ様のお役に立てているのだろうか。
 私は、マリーナ様の迷惑にしかなっていないのでは無いか、と。

『…サーニャさん』

 少し俯きがちでいると、突然私の名前を呼ぶマリーナ様の声が聞こえた。見ると、倒してあるリュックサックの口から、少しだけマリーナ様が顔を出していた。
 ………言ってはダメなんでしょうが、正直とても可愛いです。

『…別にダメという訳でもないですよ。可愛いと言われて悪い気はしませんし』

『…っ!すいません』

『いいですよ、別に。それより役に立てているか、と言いましたね』

『…聞こえていたんですね』

 そう言えば、マリーナ様はとても耳が良かったですね……。

『はい。…私の答えとしては、とても助かっていますよ』

『…本当ですか?』

『もちろんです』

 ポーションを手渡されたので、治療を行いつつマリーナ様の言葉に耳を傾ける。

『こうして私がひっそりと人を助けることができるのも、サーニャさんのおかげですし』

『…そう、ですか』

 …私は、マリーナ様の方を向きません。いや、向けません。だって、今の顔をマリーナ様には見せられませんから。
 ……ちゃんと、お役に立てているのですね。

『サーニャさん。ポーション零してます』

「あ」

 ついつい手元が狂ってしまいました。急いで零したポーションを拭き取り、患者さんの治療を再開する。
 今度は、ちゃんと専念しましょう。

 ーーーーーーー

 私の役に立てているか。それが、サーニャさんの悩みだったのか……
 正直、とても役には立っていると思うのだけれど、サーニャさんとしてはまだまだだと思っていたんだね。今度からは、ちゃんと感謝とかを伝えておかないとね。

 それはそうと、ハク。現在の治療段階は?

『6割方、完了しています。このペースですと、日没までには』

 りょーかい。ひとまず呪いの解呪が完了した後に、似た症状を起こす私の呪いを掛けておくよう、ハクに頼んでおく。私だったら忘れそうなんだもん…。

 なんでハクにそんなことを頼んだかと言うと、私たちが疑われないようにするための伏線。
 もちろんこの呪いが命に関わることはない。言うなれば、はったりのようなもの。私たちがこの治療院を去ってから2、3日ほどで解呪する予定。
 ……その間に、元凶を叩く。このままでは、増える一方なのだから。









 そして、日没。あれやこれや考え事をしていたせいで、ハクの予定時間よりも少し遅れてしまった。まぁ、誤差の範囲内だ。
 ……ただ、1つ問題が発生した。

『サーニャさーん』

「すぅ、すぅ…」

 椅子に座り、心地よさそうに寝息を立てるサーニャさん。疲れたのだろうけれど、宿に戻る前にここで寝るとは思わなかった。
 幸いと言っていいのか、他の治療にあたっていた人達も同じように寝落ちしていたので、私はリュックサックから這い出て、サーニャさんの肩へと登った。そして、頬をペチペチと叩く。

 ペチペチ。

 ペチペチ。

「うぅん……あ、れ?マリーナ様…?」

 やっと目を覚ました。

『宿に戻りますよ』

「あ、はい。すいません……」

『疲れていたのでしょうから、仕方ないことです。謝る必要はありませんよ』

 私はリュックサックへと戻る。そしてサーニャさんがそのリュックサックを背負い、治療院を後にした。
 宣言通り、宿に戻ったらしっかりと感謝して、褒めないとね。













 ……この時、マリーナは気が付かなかった。暗くなった治療院に一人、立ち尽くす人の姿があったことを……。

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