91 / 130
第5章
市場の攻防
しおりを挟む
宿のお姉さんとしばらく雑談をした後、私たちは街中へと繰り出していた。
「どこへ行くのです?」
「ひとまず市場でも、と」
お姉さんとの会話で、オススメの市場を聞いていたのだ。今日はそこに行こうと思う。
しばらくサーニャさんと手を繋いで、人が多い街中を歩いて市場へと向かっていると、やはりと言ったらいいのか……大多数から暖かい目で見られていた。
『逆に言えば、人情味に溢れているいい場所なのでは?』
まぁ、ねぇ……
「マリーナ様。どうやらここのようですよ?」
「みたいですね」
とりあえず沢山の暖かい目線に晒されながらも、お姉さんがオススメしていた市場へと到着した。
一目見ただけでオススメされたのが良く分かる。所狭しと店が並び、そのどれもが多くの人で賑わっていた。
「凄いですね…」
「はい…」
ガドールでもここまでの賑わいはなかった。とりあえずはぐれないようにサーニャさんと手を固く繋ぎ、その人混みへと足を踏み入れる。
「おやお使いかい?偉いねぇ…」
……うん。確かにそうとしか見えないよね。話しかけてきたのは、野菜をゴザの上に並べて売り物をするおばあさんだった。
「こんにちは、見ていいですか?」
「あぁ、いいよ。好きなだけ見ておくれ」
積み上がっていたのは、キャロにハーキュ。キュパリーズ……と、じゃがいも。名前はこちらでも変わらない。
探してはいたけれど、まさかここで売っているとは…
「これ買っていいですか?」
私はとりあえずじゃがいもを指さして聞く。
「これかい?売っている身でいうことじゃあないが、あまり美味しくはないよ?」
お、おう…まさかぶっちゃけるとは思わなかったよ。でもやっぱりこちらではあまり人気ではないのね。
「マリーナ様、それ食べるのですか?」
心配そうな様子でサーニャさんが聞いてくる。ふむ…
「サーニャさん、まさかあたったことが…?」
「うっ!…恥ずかしながら…はい」
やっぱりか。なら、心配したりするのも頷ける。
「大丈夫ですよ。適切な処理さえすれば」
「そうなのですか?」
「お嬢ちゃん。ちょいとその話ワシも聞いて良いかの?」
「はい。えっとですね…」
私は売るために積み上がっているじゃがいもを1つ手に取る。
「ここを見てください」
私が指さしたのは、表面が少し窪んたところ。そこからちょっとだけ緑色の芽が見える。
「これは……芽ですか?」
「はい。じゃがいもはこの芽に毒があるんです」
「毒かい?」
「はい。せいぜいお腹を壊すくらいのものですが……。なので、これさえ取り除いて調理すれば、問題なく食べれますよ」
「そうだったのかい……いやぁ、博識だねぇ。いい事知ったよ。ほれ、全部持ってきな」
「わわっ!」
おばあさんからありったけのじゃがいもを押し付けられる。
「あ、ありがとうございます…おいくらですか?」
「いいんだよ代金なんて」
「え、でも……」
「なら、情報料とでも思いな」
おばあさんは曲げるつもりはないらしい。はぁ…
「…では、これは貰います。…が、こっちは買いますからね?」
私はキャロとハーキュを指さす。
「ははっ。分かったよ。全部で1000くらいかねぇ」
「安すぎますっ!」
キャロは5本。ハーキュは4個。全部で2000前後はあるはずだ。
「売価を決めるのは勝手じゃろう?」
「うぅ…」
「ほれ」
「……分かりましたよ。1000リシアですね」
私は1枚の金貨を手渡しつつ……こっそりと転移魔法でおばあさんのポケットへと、もう1枚の金貨を忍び込ませた。
ふっふっふ。これはバレまい。
「確かに。じゃあオマケにこれもやろう」
そう言っておばあさんは後ろにあった木の箱を引っ張ってきて、その中身を見せてきた。中にギッシリと入っていたのは、丸いオレンジ色の物体。酸っぱそうな香りが私の鼻を刺激する。これは……
「これはオーレという果物じゃ。酸っぱくて売れんくて困ってのう…腐らせるだけじゃから、オマケに貰ってくれんか?」
香りからそうじゃないかとは思っていたけれど、やっぱりオレンジだった。
………でもさぁ、
「………気づいてますよね」
「はて。なんのことやら」
おばあさんがニッコリと笑う。はぁ……私は降参の意味を込めて両手を上げる。
「はっは。久しぶりに楽しんだわい」
「………」
《どうしたの、主様?》
「どうかしましたか?」
1人と1匹が首を傾げるのが視界に入る。どうやら私とおばあさんの水面下の攻防には気づいていないようだ。
「……なんでもないです」
「そうじゃの。ちょっと楽しんだだけじゃ」
……一方的に遊ばれていた気がする。
とりあえずおばあさんから買ったもの全てを無限収納庫へと収納する。
「負けた……」
「はっは。安く買えたのだからいいじゃろう」
「でもこちらから値切るのとは違いますよ…こう、申し訳なさとか」
「優しいのう。…そこに付け込まれぬよう、ちゃんと主を護るのじゃぞ」
「っ!……はい。分かっています」
どうやら最後の言葉は、サーニャさんへと向けられたものだったようだ。主を護る……まぁ、主とも呼べるかな。私はサーニャさんからそう呼ばれたくはないけど。
「でも、どうして……」
「様付けで呼んどるじゃろう。それに立ち位置が従者のそれじゃ」
「…良く見てますね…」
「歳をとるとどうしても色々と目につくものでのう。まぁ、そう気付かれたくないのなら、呼び方でも変えるべきじゃな」
そうか……確かに貴族とかに間違われても困る。困るけど……
「……私がマリーナ様を呼び捨てにすることはできません。絶 対 に、したくないです」
「ですよねぇ……」
あの依頼の時やガドールにいた時はまだ良かったんだけど……私がサーニャさんのお父さんを助けたことにより、もう尊敬というか崇拝というか……そんな感情を持っているんだよね。だからもうさん付けでは呼びたくないらしい。
「はっはっは。まぁ人前で呼ばなければ問題あるまい」
「だ、そうですが?」
「……善処します」
そこは断言して欲しい……
「どこへ行くのです?」
「ひとまず市場でも、と」
お姉さんとの会話で、オススメの市場を聞いていたのだ。今日はそこに行こうと思う。
しばらくサーニャさんと手を繋いで、人が多い街中を歩いて市場へと向かっていると、やはりと言ったらいいのか……大多数から暖かい目で見られていた。
『逆に言えば、人情味に溢れているいい場所なのでは?』
まぁ、ねぇ……
「マリーナ様。どうやらここのようですよ?」
「みたいですね」
とりあえず沢山の暖かい目線に晒されながらも、お姉さんがオススメしていた市場へと到着した。
一目見ただけでオススメされたのが良く分かる。所狭しと店が並び、そのどれもが多くの人で賑わっていた。
「凄いですね…」
「はい…」
ガドールでもここまでの賑わいはなかった。とりあえずはぐれないようにサーニャさんと手を固く繋ぎ、その人混みへと足を踏み入れる。
「おやお使いかい?偉いねぇ…」
……うん。確かにそうとしか見えないよね。話しかけてきたのは、野菜をゴザの上に並べて売り物をするおばあさんだった。
「こんにちは、見ていいですか?」
「あぁ、いいよ。好きなだけ見ておくれ」
積み上がっていたのは、キャロにハーキュ。キュパリーズ……と、じゃがいも。名前はこちらでも変わらない。
探してはいたけれど、まさかここで売っているとは…
「これ買っていいですか?」
私はとりあえずじゃがいもを指さして聞く。
「これかい?売っている身でいうことじゃあないが、あまり美味しくはないよ?」
お、おう…まさかぶっちゃけるとは思わなかったよ。でもやっぱりこちらではあまり人気ではないのね。
「マリーナ様、それ食べるのですか?」
心配そうな様子でサーニャさんが聞いてくる。ふむ…
「サーニャさん、まさかあたったことが…?」
「うっ!…恥ずかしながら…はい」
やっぱりか。なら、心配したりするのも頷ける。
「大丈夫ですよ。適切な処理さえすれば」
「そうなのですか?」
「お嬢ちゃん。ちょいとその話ワシも聞いて良いかの?」
「はい。えっとですね…」
私は売るために積み上がっているじゃがいもを1つ手に取る。
「ここを見てください」
私が指さしたのは、表面が少し窪んたところ。そこからちょっとだけ緑色の芽が見える。
「これは……芽ですか?」
「はい。じゃがいもはこの芽に毒があるんです」
「毒かい?」
「はい。せいぜいお腹を壊すくらいのものですが……。なので、これさえ取り除いて調理すれば、問題なく食べれますよ」
「そうだったのかい……いやぁ、博識だねぇ。いい事知ったよ。ほれ、全部持ってきな」
「わわっ!」
おばあさんからありったけのじゃがいもを押し付けられる。
「あ、ありがとうございます…おいくらですか?」
「いいんだよ代金なんて」
「え、でも……」
「なら、情報料とでも思いな」
おばあさんは曲げるつもりはないらしい。はぁ…
「…では、これは貰います。…が、こっちは買いますからね?」
私はキャロとハーキュを指さす。
「ははっ。分かったよ。全部で1000くらいかねぇ」
「安すぎますっ!」
キャロは5本。ハーキュは4個。全部で2000前後はあるはずだ。
「売価を決めるのは勝手じゃろう?」
「うぅ…」
「ほれ」
「……分かりましたよ。1000リシアですね」
私は1枚の金貨を手渡しつつ……こっそりと転移魔法でおばあさんのポケットへと、もう1枚の金貨を忍び込ませた。
ふっふっふ。これはバレまい。
「確かに。じゃあオマケにこれもやろう」
そう言っておばあさんは後ろにあった木の箱を引っ張ってきて、その中身を見せてきた。中にギッシリと入っていたのは、丸いオレンジ色の物体。酸っぱそうな香りが私の鼻を刺激する。これは……
「これはオーレという果物じゃ。酸っぱくて売れんくて困ってのう…腐らせるだけじゃから、オマケに貰ってくれんか?」
香りからそうじゃないかとは思っていたけれど、やっぱりオレンジだった。
………でもさぁ、
「………気づいてますよね」
「はて。なんのことやら」
おばあさんがニッコリと笑う。はぁ……私は降参の意味を込めて両手を上げる。
「はっは。久しぶりに楽しんだわい」
「………」
《どうしたの、主様?》
「どうかしましたか?」
1人と1匹が首を傾げるのが視界に入る。どうやら私とおばあさんの水面下の攻防には気づいていないようだ。
「……なんでもないです」
「そうじゃの。ちょっと楽しんだだけじゃ」
……一方的に遊ばれていた気がする。
とりあえずおばあさんから買ったもの全てを無限収納庫へと収納する。
「負けた……」
「はっは。安く買えたのだからいいじゃろう」
「でもこちらから値切るのとは違いますよ…こう、申し訳なさとか」
「優しいのう。…そこに付け込まれぬよう、ちゃんと主を護るのじゃぞ」
「っ!……はい。分かっています」
どうやら最後の言葉は、サーニャさんへと向けられたものだったようだ。主を護る……まぁ、主とも呼べるかな。私はサーニャさんからそう呼ばれたくはないけど。
「でも、どうして……」
「様付けで呼んどるじゃろう。それに立ち位置が従者のそれじゃ」
「…良く見てますね…」
「歳をとるとどうしても色々と目につくものでのう。まぁ、そう気付かれたくないのなら、呼び方でも変えるべきじゃな」
そうか……確かに貴族とかに間違われても困る。困るけど……
「……私がマリーナ様を呼び捨てにすることはできません。絶 対 に、したくないです」
「ですよねぇ……」
あの依頼の時やガドールにいた時はまだ良かったんだけど……私がサーニャさんのお父さんを助けたことにより、もう尊敬というか崇拝というか……そんな感情を持っているんだよね。だからもうさん付けでは呼びたくないらしい。
「はっはっは。まぁ人前で呼ばなければ問題あるまい」
「だ、そうですが?」
「……善処します」
そこは断言して欲しい……
応援ありがとうございます!
1
お気に入りに追加
408
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる