上 下
90 / 130
第5章

私の願い

しおりを挟む
「で、姉妹ちゃんは泊まりかしら?」

 本当は姉妹でもなんでもないんだけど、否定しても本当はどういう関係なのか説明することが出来ないからね……もうこのままいこう。
 あ、ちなみにプレナは影の中だよ。宿によっては従魔がダメなところもあるからね。そういう場所では、従魔を影に入れておくのがマナーらしい。

「はい。ザーズさんからの紹介で…」

「あら、ザーズから?隅に置けないわねぇ。こんなに可愛い子達を捕まえるなんて」

「か、可愛い……」

 あ、サーニャさんが照れてる。そんなに可愛いとかって言われた事ないのかな?
 ……え、私?私はお世辞で照れるほどの初心ではありませんので。

『……………はぁ』

 なんでため息!?

「そうねぇ…本来2人で銀貨10枚だけど、特別に5枚でいいわよ」

 宿のお姉さんがそう言う。半額って結構凄くない?

「いいんですか?」

「いいのよ。それにあなた達みたいな可愛い子から高いお金は取れないわ」

 ……多分、可愛い=小さい、だろうなぁ……まぁ、否定はしないけど。

「じゃあ、これで」

 サーニャさんが、私から受けった5枚の銀貨をカウンターの上に置く。

「はい、確かに。あ、食事はどうする?」

 サーニャさんが私に意見を求めるように目線を向ける。
 今はちょうどお昼時。どうしようかな……うん。王都にどんな店があるか分からないし、ここで食べてしまおう。その意味を込めて、軽く頷いた。

「…じゃあ、貰えますか?」

「ええ、もちろん。好きなテーブルに座って、楽しみに待っていてね」

 宿の造りは何処も同じような感じなのだろうか……全く変わらない。まぁ、いちいち何が何処にあるのか覚えるの面倒だから、寧ろ願ったり叶ったりだけど。


 近くのテーブル席に座って待っていると……

「お待たせ。さぁ、召し上がれ」

 受付をしたお姉さんが料理を持ってきてくれた。
 受付から接客まで全部1人か……ちょっと大変そうだね。

「ありがとうございます。大変ですね」

「そんな事ないわ。好きでやってるんだもの。さぁ、冷めないうちにどうぞ」

 本当に好きなんだなぁ、と分かる笑顔を浮かべて、お姉さんは他のお客さんの接客へと向かった。

「いい宿ですね」

「ええ、本当に」

 サーニャさんの言葉に相槌を打つ。

「…食べましょうか」

「はい」

 お姉さんが持ってきたのは、スープとパン。昼食にしては質素かもしれないけれど、スープには具が沢山入っていて食べ応えがあり、十分だった。

「美味しいです…なんでしょうか、味に深みがあるというか…」

 それは私も思ったこと。じっくりと煮込んで作られたことがよく分かる。正直あまり味には期待していなかったのだけれど、お世辞抜きに美味しかった。

「気に入って貰えたようね」

 接客が終わったのか、エプロンを外したお姉さんが私たちの方へと近付いてくる。その手には、コップが3つ。

「はい。サービスの果汁よ」

「わぁ!ありがとうございます!」

 サーニャさんが笑顔でお礼する。ふむ。甘いもの好きか。

「ありがとうございます。何の果汁ですか?」

「ポアの実よ。嫌いだった?」

「いえ。大丈夫です」

 果汁は今まで飲んだことはなかったのだけれど……さっぱりとした甘さで、とても美味しかった。

「ふぅ。私も休憩」

 私たちのテーブルの空いている席に座り、お姉さんが一息つく。

「お疲れ様です」

「………あなた、一体何歳なの?見た目に見合わないほど言葉遣いが丁寧だけど…」

 まぁ、その質問は来るよねぇ……

「5歳ですが?」

「……5歳、ねぇ…まぁ、そう言うことにしとくわ」

 しとくって……一応この世界では5歳だよ。…精神年齢は17くらいだけど。

「?どうかしました?」

 ……サーニャさん、果汁に夢中で聞いてなかったな。

「なんでもないですよ」

「そうですか」

 そのままコクコクと果汁を飲むのを再開するサーニャさん。余程甘いもの好きか…今度お菓子でも作ってみようかな?

「……なんだか、立場みたいなの分かった気がするわ」

 思わずといった様子でお姉さんが呟いた。
 うーん。悪い人ではないし、口は固いだろうから、別に話してもいいかな。

「まぁ、旅での基本の意思決定は私がやってますから。交渉事はサーニャさんに任せてます」

「……やっぱり、それは見た目が理由?」

「はい。私はエルフではないですからね。どうしても舐められてしまうんですよ」

「確かにねぇ……でも、どうして2人だけで旅を?」

「明確な理由はないですよ。強いて言うなら……世界を楽しみたい、ですかね」

「…楽しみたい、かぁ…それもいいかしらね。私はここが好きだからここに居るけど、色々な所を旅するのも面白そうね」

 口調からして、お姉さんは生まれも育ちもここなのかな。

「それにしてもさん付けってことは、関係が少し硬そうね」

「あー……でも、そこまでですよ?」

 私としてはタメ口をサーニャさんに使いたくはない。歳上だし。
 けれど、サーニャさんはサーニャさんで丁寧な口調が固定してるからね……傍から見れば、かなり距離感のある関係に見えるのかな。

「まぁ、ギクシャクしてるよりはマシよね」

「そうですね」

 ギクシャクした関係で一緒に旅をしたいとは思わない。だってそんなの楽しくないんだもの。だから、サーニャさんとは仲良くしたいし、一緒に笑い合いたいと思う。
 未だ格の違いから、少し萎縮してしまっていたり、自分の意見を押し込んでしまっていることがあるけれど、いつかは慣れて、軽口を叩きあえるような関係になれるといいな……。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転生!ハイハイからの倍人生

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。 まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。 ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。 転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。 それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

異世界でタロと一緒に冒険者生活を始めました

ももがぶ
ファンタジー
俺「佐々木光太」二十六歳はある日気付けばタロに導かれ異世界へ来てしまった。 会社から帰宅してタロと一緒に散歩していたハズが気が付けば異世界で魔法をぶっ放していた。 タロは喋るし、俺は十二歳になりましたと言われるし、これからどうなるんだろう。

神の手違い転生。悪と理不尽と運命を無双します!

yoshikazu
ファンタジー
橘 涼太。高校1年生。突然の交通事故で命を落としてしまう。 しかしそれは神のミスによるものだった。 神は橘 涼太の魂を神界に呼び謝罪する。その時、神は橘 涼太を気に入ってしまう。 そして橘 涼太に提案をする。 『魔法と剣の世界に転生してみないか?』と。 橘 涼太は快く承諾して記憶を消されて転生先へと旅立ちミハエルとなる。 しかし神は転生先のステータスの平均設定を勘違いして気付いた時には100倍の設定になっていた。 さらにミハエルは〈光の加護〉を受けておりステータスが合わせて1000倍になりスキルも数と質がパワーアップしていたのだ。 これは神の手違いでミハエルがとてつもないステータスとスキルを提げて世の中の悪と理不尽と運命に立ち向かう物語である。

はずれスキル『模倣』で廃村スローライフ!

さとう
ファンタジー
異世界にクラス丸ごと召喚され、一人一つずつスキルを与えられたけど……俺、有馬慧(ありまけい)のスキルは『模倣』でした。おかげで、クラスのカースト上位連中が持つ『勇者』や『聖女』や『賢者』をコピーしまくったが……自分たちが活躍できないとの理由でカースト上位連中にハメられ、なんと追放されてしまう。 しかも、追放先はとっくの昔に滅んだ廃村……しかもしかも、せっかくコピーしたスキルは初期化されてしまった。 とりあえず、廃村でしばらく暮らすことを決意したのだが、俺に前に『女神の遣い』とかいう猫が現れこう言った。 『女神様、あんたに頼みたいことあるんだって』 これは……異世界召喚の真実を知った俺、有馬慧が送る廃村スローライフ。そして、魔王討伐とかやってるクラスメイトたちがいかに小さいことで騒いでいるのかを知る物語。

~僕の異世界冒険記~異世界冒険始めました。

破滅の女神
ファンタジー
18歳の誕生日…先月死んだ、おじぃちゃんから1冊の本が届いた。 小さい頃の思い出で1ページ目に『この本は異世界冒険記、あなたの物語です。』と書かれてるだけで後は真っ白だった本だと思い出す。 本の表紙にはドラゴンが描かれており、指輪が付属されていた。 お遊び気分で指輪をはめて本を開くと、そこには2ページ目に短い文章が書き加えられていた。 その文章とは『さぁ、あなたの物語の始まりです。』と…。 次の瞬間、僕は気を失い、異世界冒険の旅が始まったのだった…。 本作品は『カクヨム』で掲載している物を『アルファポリス』用に少しだけ修正した物となります。

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

前世は最悪だったのに神の世界に行ったら神々全員&転生先の家族から溺愛されて幸せ!?しかも最強➕契約した者、創られた者は過保護すぎ!他者も!?

a.m.
ファンタジー
主人公柳沢 尊(やなぎさわ たける)は最悪な人生だった・・耐えられず心が壊れ自殺してしまう。 気が付くと神の世界にいた。 そして目の前には、多数の神々いて「柳沢尊よ、幸せに出来なくてすまなかった転生の前に前の人生で壊れてしまった心を一緒に治そう」 そうして神々たちとの生活が始まるのだった... もちろん転生もします 神の逆鱗は、尊を傷つけること。 神「我々の子、愛し子を傷つける者は何であろうと容赦しない!」 神々&転生先の家族から溺愛! 成長速度は遅いです。 じっくり成長させようと思います。 一年一年丁寧に書いていきます。 二年後等とはしません。 今のところ。 前世で味わえなかった幸せを! 家族との思い出を大切に。 現在転生後···· 0歳  1章物語の要点······神々との出会い  1章②物語の要点······家族&神々の愛情 現在1章③物語の要点······? 想像力が9/25日から爆発しまして増えたための変えました。 学校編&冒険編はもう少し進んでから ―――編、―――編―――編まだまだ色んなのを書く予定―――は秘密    処女作なのでお手柔らかにお願いします。文章を書くのが下手なので誤字脱字や比例していたらコメントに書いていただけたらすぐに直しますのでお願いします。(背景などの細かいところはまだ全く書けないのですいません。)主人公以外の目線は、お気に入り100になり次第別に書きますのでそちらの方もよろしくお願いします。(詳細は200) 感想お願いいたします。 ❕只今話を繋げ中なためしおりの方は注意❕ 目線、詳細は本編の間に入れました 2020年9月毎日投稿予定(何もなければ)  頑張ります (心の中で読んでくださる皆さんに物語の何か案があれば教えてほしい~~🙏)と思ってしまいました。人物、魔物、物語の流れなど何でも、皆さんの理想に追いつくために! 旧 転生したら最強だったし幸せだった

処理中です...