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第5章

それぞれの気持ち

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「すいませんでした……」

 ひとしきり泣いた後、ちょっと気まずげに謝罪を口にする。私の涙で、サーニャさんの服が少し濡れてしまった。

「大丈夫ですよ……以前、私にマリーナ様が言いってくれましたよね?」

「え?」

 何か言っただろうか…

「……もう、抱え込まなくていい、と」

 あぁ……確かにそんなことを言った気がする。

「だから、今度はマリーナ様の番です。耐えられない時は、泣いてください。私でよければ、何時でもそばに居ます」

「……そうですね。……じゃあ、またいつか、頼っても、いいですか?」

「はい。何時でも」

 ニッコリとサーニャさんが微笑んだ。

 《もちろん私だって!》

「ふふっ。そうだね。うん、プレナも頼りにしてるね」

『無論わたしもです』

 ……ありがと、ハク。

「…では、少し遅れてしまいましたが、朝食を食べて出発しましょうか」

「はい」

 とりあえずテント類を片付けて、軽くパンだけを食べる。
 そろそろパンの在庫も無くなってきたなぁ……また作っとかなきゃ。

 パンを食べ終えたら、昨日と同じようにして進む。索敵はちゃんとしているけれど、魔物や、前みたいな盗賊などのゴロツキはいない。実に平和だねぇ……。

「……マリーナ様、ひとつ、したいことがあるのですけれど、いいですか?」

 突然サーニャさんが立ち止まり、そんなことを言ってきた。

「はい?なんでしょうか?」

 改まってなんだろうか?

「では……絶対断らないで下さいね?」

「……え?」

 断るって……そう思っていると、サーニャさんがある言葉を紡ぎ出した。

『…我、サーニャ・バーニア・ベルムントはここに盟約を交わす』

 それは、人間の言葉ではないもの。龍だけが、使うことを許された言葉。

「サーニャさん!?」

 私は思わず声を張り上げる。なぜならそれは……決して、違えることの出来無い盟約になってしまうのだから。

『…マリーナ様にこの身を捧げ、この命尽きるまで、離れぬことを』

 私はサーニャさんにフルネームを明かしたことはない。鑑定されたことも無いから、気付きようがない。なので、この盟約は不確実なものになる。この盟約を確実なものにするには、私の承認がいるのだ。
 ………だから、断らないで、か……。

「サーニャさん、一体どういうつもりですか!?」

 私は一旦承認を保留にして、サーニャさんへと詰め寄った。

「……こうすれば、マリーナ様から決して離れないという証拠になりますから」

「でもっ!それは…」

 それは同時に、サーニャさんの自由を奪うことになる。そんなのは……

「いいのです。これでマリーナ様の気持ちが、少しでも楽になるのなら」

 ……サーニャさんは、本気なんだ。だったら、私もそれに答えなくちゃね……

『……我、マリーナ・フェル・バーニアは、その盟約を承認す』

 その言葉を紡いだ瞬間、確かにサーニャさんと繋がった感覚がした。なんだろうか……より、近くなったような気がする。
 ……でも、これではまだ、ダメなんだ。

『…ただし、サーニャ・バーニア・ベルムントの意志を尊重し、我は我の名においてそのモノを守護することを誓う』

「マリーナ様!?」

 これはちょっとした仕返しだ。勝手に盟約を結ぼうとしたサーニャさんに対しての。
 サーニャさんのフルネームを紡いだので、これはサーニャさんが承認せずとも効果を発揮する。
 ……ちなみにサーニャさんが私のフルネームを紡いだとしても、愛称でやるよりちょっと確実になるだけで、完全にするには結局私の承認が必要だったりする。
 上から下へはいけるけど、下から上には無理なんだよね。まぁ、それは当然かな。
 閑話休題。

「これで、サーニャさんを護れますから」

 守護する。その対象は、サーニャさんの意志。それと……サーニャさん自身だ。
 どうやって護るのかというと……肩代わりするのだ。降りかかる、全てのことを。
 だからサーニャさんは、私が死なない限り、永遠に傷付くことはない。
 ………あ、ちょっとした擦り傷とかは例外だよ。

「……結局、マリーナ様に迷惑をかける形になってしまいましたね」

「そうでもないですよ。忘れましたか?私は神龍ですよ?」

 最高位の生物である龍の、更に上。それが私。私を殺すことが、いや、傷付けることが出来る存在は、おそらくこの世界にはいない。だから、大して問題はないのだ。

「……それでもですよ。過信は禁物ですよ?」

「分かっていますよ」

 私だって馬鹿ではない。自分の力は、自分が1番よく分かっている。だから、過信などしない。

 《私も盟約交わす!》

 いきなりプレナがそんなことを言い出した。

「いや、プレナは一応私の眷族だからね?その意味ではサーニャさんより強い盟約を交わしてるよ?」

 《え、そうなの?》

「私の力の一部が分けられているでしょう?」

 特に魔法。プレナはもともと魔法を使えない種族の魔物だったからね。
 それにそもそも私が名付けたのだから、その時点で盟約を交わすことと近いことが行われてるんだけど……それは別に言わなくてもいいかな。

 《そう言えば……》

「だから、別に盟約はいいよ」

 そう言うとプレナが納得したように頷いた。

「では、そろそろ」

「はい」

 さてと。今日中……いや、次の街に着くのは明日になるかな。まぁ、急ぐ必要はないよね。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆

「いや……もう、いやなの……」

 ズルズル。
 ペキパキ。

 重そうなものを引きずり、木々が踏まれるような音が森に響く。
 が通った後の地面は黒く、木々は、枯れていた……











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