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第5章
怒りと鎮める者
しおりを挟む残酷描写あり。
──────────────
次の日。やっとフォルタスを出発することができた。
《今度は、今度は絶対忘れないでねっ!》
「うん、わかってるよ。本当にごめんね」
これでプレナのこと忘れたの何回目だっけ……
『おそらく4回目かと』
お、おう……そんなに忘れてたのか。そして私も学習しないなおい。
とりあえずその話は置いといて。一応向かうのは隣国、リリシア王国だ。
馬車を借りるっている手段も考えたんだけど……あれ結構乗り心地悪いのよね。私は神龍だから体力には自信があるし、サーニャさんもハーフだから常人より体力はある。だから歩きでもいいかなぁって。
「以前は1人歩き旅でしたから……こうしてマリーナ様と共に行けてとても嬉しいです」
まるで花が咲いたような笑顔をするサーニャさん。そ、そこまで嬉しいのか……まぁ、一人旅って自由だけどその分寂しいしね。
「私もサーニャさんと旅できて、嬉しいですよ」
「そうなんですねっ!」
私が同意したからなのか、さらに嬉しそうにする。……可愛い。癒しだわぁ……。っと。惚けてないで索敵しとかないと……
「日が落ちる前には休憩所に着きそうですね」
「そうですね」
休憩所とは、街道の随所に作られた休憩するための場所だ。ただの広場だったり、人通りが多い道にはちいさな宿が建っていたりする。この先にあるのは……テントとかを広げられる広場だね。
そしてしばらくの間歩き、お昼になったので、道をそれてゴザを敷き、そこに座って作っていたサンドイッチを食べることにした。
「おいひい……」
「それは良かったです」
サーニャさんがとても美味しそうに食べてくれた。やっぱり美味しいって言われると嬉しいね。
…さて、と。……さっきから気付いていたけど、周りに虫がいるね。まぁ、とりあえず様子見かな。
……そう、思ったんだけどね。
ヒュッ!
「っ!……まさかこんな手を使ってくるとはね」
風切り音を立てて飛んできたのは……ちいさな針。咄嗟の判断で針は刺さる前にキャッチした。だけど、サーニャさんの首筋には刺さってしまった。
「あ、え?マリーナ、さみゃ……?」
どうやら呂律が回らないようだ。
「……毒か」
種類としては、人を殺せるほど強い毒じゃない。弱い、動きを鈍らせる毒。だからサーニャさんの呂律が回らなくなったみたい。
「おうおう。もう一方の嬢ちゃんには刺さらなかったか」
そんなことを吹きながら、森から男が出てくる。
「どういうつもり?」
「どういうつもりだぁ?ははっ!こりゃ世間知らずな嬢ちゃんだなぁ!」
「うるさい。さっさと答えて」
ほんとうるさい。こっちは待ってあげてるんだから。
「……おい。そんな口聞いてただで済むと思うなよ。おい!」
ゾロゾロと男たちが出てくる。数は……うん。把握していた通り、先にでてきた男も含めて全員で5人。
「へへっ。エルフは高く売れるからなぁ。そっちの口の悪い嬢ちゃんも上玉だ。傷つけるなよ」
人身売買か……ただ、相手が悪かったね。
「抵抗したら?」
「出来んのか?やってみろよ」
ほらほらと挑発するように両手を広げる男。
「そう。なら──」
───遠慮なく。
「ぐはっ!」
一気に近づいて腹を思っきり殴る。すると男の体がくの字に曲がり、吹き飛ぶ。
「あら。弱っちいね」
「っ!舐めんなぁぁ!!」
別の男が剣で切りかかってくる。力任せの、ずさんな振り。
私は無限収納庫から刀を取り出し、その攻撃をいなす。そしてそのまま男の手首を切り飛ばした。
「う、うわぁぁ!?お、俺の腕がァァァァ!」
「うるさい」
膝を蹴って跪かせた後、頭を蹴って黙らせる。
グキっ!
あっ。
「やっちゃった……ま、いっか」
こいつらに人権なんてない。だから慈悲もない。
「こ、このぉぉ!!」
また別の男がナイフで突っ込んでくる。その後ろでは魔法を準備するやつと……筒を構える男がいた。
「お前か」
「っ!」
襲いかかってきた男と魔法を準備していた男は、すれ違いざまに腹を殴って気絶させ、筒を構えた男へと近づく。
男は慌てて懐からナイフを取り出すが、私は手首を切り飛ばして持てなくする。
「ひぃぃ!や、やめてくれ!」
尻もちをつき、ジリジリと後ろへと下がっていく。
「なぜ?なぜやめないといけないの?」
私は淡々と言葉を紡ぐ。
「あなたは私の大切な人を傷付けた……ただで済むとでも?」
「ひ、ひぃぃ!」
後ろを向いて逃げようとする。だから、足首を切る。
「うわぁぁ!!あ、足がァァ!」
その場へと倒れ込む。そして私のほうへと向く。
……あぁ、そうだ。その顔が見たかった。恐怖に染る顔を。
私はさらに男に近づく。男は後ろに下がろうとする。だが、背中が木にあたり、それ以上下がれなかった。
「や、やめてくれ!」
「ふふっ」
思わず笑いが零れる。なぜだろう。
……あぁ、そうか。私は怒ってるんだ。
まぁ、そんなことはどうでもいい。今は、この男を……
そう思いさらに近づこうとする。……だが、誰かに後ろから服の裾を掴まれ、進めなかった。
誰がと振り向くと……青い顔をしたサーニャさんが立っていた。
「マ、マリーナ、さま」
「……サーニャさん?どうして…」
どうして、止めようとするの?
「…怒りに、飲まれ、ないで、くだ、さい。……私が知る、マリーナさま、は、そんな方じゃ、ありません!」
途切れ途切れでも、弱々しくても、最後の言葉は、私の胸に響いた。
私は、何を、しようとしていた?
「……すいませんでした」
「…わかって、もらえたのなら、いい、です……」
そう言ってほっとしたのか、その場に座り込む。だいぶ顔色が悪い。無理に動いたせいで毒が回ってしまったようだ。すぐに魔法で解毒する。私が先に治しておけば、こんな事にはならなかったのに……。
「サーニャさん。大丈夫ですか?」
「………はい。大丈夫、です」
まだ顔色は悪いけど、解毒はできたから、もう大丈夫だろう。
……だから私は、座り込み、怯えている男へと向き直る。
「マリーナ様……」
「もう、大丈夫です」
刀の切っ先を男の喉元へと突きつける。
「……次はない」
「は、はひ……」
そのまま男は気を失った。ふぅ……
「マリーナ様……大丈夫ですか?」
「……はい。思ったよりも」
私は、今回初めて人を殺した。だけど、罪悪感とかそんなものはなくて、ただ虚無感が襲うのみ。
「とりあえず男たちは縛って転がしときましょうか」
「それでいいかと」
ロープを無限収納庫から出して、生きている人だけを縛る。死んだ人は、穴を掘って燃やして埋めた。墓石の代わりに木の棒を1本だけ突き刺しておく。
「……行きましょうか」
「はい」
まだ、日は高い。
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