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第4章

龍の存在と格

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 私たちが森に転移すると、まぁ目の前に固定されたサーニャさんのお父さんがいる訳で。これにサーニャさんは驚いていたのだけれど……1つ、問題が発生していた。それは……

「人が、いますね」

 そう。森に固定されたサーニャさんのお父さんの周りに、人が集まってしまっていたのだ。まぁ確かに遠くからも見えるほどの図体のでかさだし、かなりの大きさで咆哮してたんだから、当然気付くよねって話で。
 …ただ、問題は、そこじゃない。集まっている理由だ。

「明らかにあれ狩る気ですよね……」

 そう。周りを取り囲んでいたのは、屈強な男たち。その中には、甲冑を身にまとった、明らかにどこかの兵士であることが分かる人までいた。そして、彼らに共通していること。それは……目が血走っていることだ。明らかにサーニャさんのお父さんを狩る気である。
 まぁ、格好の的だよね。私の魔法で動けないし。というかなんで動けないかとか気にならないのかな?

「おい、なんでこの龍動かねぇんだ?」

 おっと。疑問に持った人はいたみたい。あ、ちなみに私たちは彼らから見えない位置へと移動していた。見つかったら動きずらいからね。
 で、当然彼らから離れることになるから、声は聞こえない。
 ………ええ、わたし、普通じゃないですからね。地獄耳ですよ。だから聞こえる。サーニャさんは聞こえてないみたいだから、私から伝えるけどね。
 さて。彼らはどうして動かないと思っているのかな?

「多分魔法かなにかで縛り付けられてるんだろ」

 おっと。気付かれたか。まぁ私がかけたということに気付くことはないだろうけどね。

「だれが?」

「さぁな」

 ほらね。

「危険じゃないのか?確かに今は動かないが、もし攻撃して動き出したら……俺たち一瞬で消し炭だぞ?」

「確かにそうだが、冒険者たるもの、金と名誉の為ならば、どんな危険なことでもやってみせねぇとな」

 ……バカか?バカなのか?あ、バカか。そうか。はぁ……。

「(マリーナ様が口悪くなってる…)」

 私だって口ぐらい悪くなりますよーだ。ただまぁ、冒険者って大体そういうことを目指してるというか、目標にしてたりするからねぇ。……まぁ、それにも限度っていうもんがあるよね。

 この世界において、龍は最高位の生物として君臨している。少しでも機嫌を損ねれば、街一つ……いや、最悪国1つ滅ぶのだから。
 そんな怖い存在だけれど、その分素材は高い。頑丈さなどを活用して、武器防具にしたり、薬の材料にしたりと、色々と活用できるからだ。

『まぁその中でもマリーナ様の素材は飛び抜けてますけどね』

 まぁそうなんだけど…まず私の素材は売れない。効果が高過ぎるってのもあるけど、第一として、扱いきれない。それだけの代物だ。サーニャさんが扱えたのは、サーニャさんの技術が高かったからに他ならない。普通は無理だ。
 とまぁ話はそれだけど、つまりサーニャさんのお父さんの素材は、喉から手が出るほど欲しいってこと。鱗1枚で…えぇっと…

『……優に1ヶ月の生活費になります』

 あ、そう。ありがと。え、少なくない?って思うかもしれないけど、鱗1枚は実際結構小さい。だから1枚あたりはそんなくらいで、まとまった数なら高く売れる。

「よ、よし。剥がすぞ…」

 おっと。どうやら鱗だけを剥がすつもりらしい。まぁ気絶してる状態でも倒すのは大変だし、そう考えると、慎重にやって綺麗に取ったほうが楽だろう。

「なに呑気にしてるんですか!?止めないと!」

 サーニャさんが必至の形相で私に詰め寄る。あぁー…うん。

「サーニャさん、落ち着いてください」

「落ち着いてられません!いくらお父さんが死ぬことはないと言っても…」

「大丈夫ですよ。よく見てください」

 サーニャさんは頭にハテナマークを浮かべつつも、ちょっと冷静になったのか彼らの方を見る。目に映ったのは……

「なんで切れねぇ!?」

「おいどうなってる!?」

 ガンガン叩く彼らだった。いや、サーニャさんのお父さんを固定してるのって、実は結界なんだよね。体全体を覆ってるから、絶対に刃は通らない。触れることすら叶わない。

「結界、ですか…」

「はい。私の結界を、彼らごときが壊せるとでも?」

「思いません。そうでしたか……だからそんな余裕だったんですね。失礼しました」

「謝る必要ないですよ。私が言わなかったのが悪いんだし」

 だから謝られたら罪悪感が……。

「……すいません」

 だーかーらっ!あーもういいや!サーニャさんがこういう対応をするのはいつもの事。うん、私は諦めが分かる子。

『面倒になったともいいますよね』

 うるさい!

 ハクにツッコミを入れつつ、彼らを見る。未だ叩いてるよ。兵士は……あぁ、同じことしてるや。これは去りそうにないなぁ……

「仕方ない。サーニャさんはここで待っててください」

「え?何するんです?」

「……ちょっと脅かしてきます」

 私はサーニャさんから離れ、力を解放する。身体中がポカポカと温かくなり、私の姿が変化していく。

 グォォォォォンッ!!

 うん、なんでか分からないけど、吠えたくなった。そう、私がしたのは龍化だ。この姿になるのは……2回目だね。
 さっきとは視線が全く違う。いつもは見上げてるのに、今は見下ろしている。不思議な感覚だよねぇ。

 私は背中からはえた大きな翼を羽ばたかせる。軽く羽ばたいただけで周りの木々が折れてしまう。あ、後で治します!
 さて。さっきの咆哮は届いているだろう。現に少し高度を上げると、彼らが私のことを見上げていた。その顔から分かるのは……恐怖。まぁ、仕方ないよね。

 グォォォォォンッ!!

 もう一度吠える。それだけで彼らはへっぴり腰になり、散り散りに逃げていった。ふぅ、一件落着。

『前はならないって言ってましたけどね。自らやるとは』

 ……言ってたね、そんなこと。まぁ、それも今更だ。もう割り切れた。
 索敵をしてみると、もう周りに人は全く居なくなっていた。これなら大丈夫かな。サーニャさー……あ。

「マ、マリーナさま……そ、その、」

 ガタガタと体が震えている。そうか…今の姿だとここまで影響してしまうのか。だいぶ離れているのにこれじゃあ…ね。サーニャさんが死ぬって言ったのも理解できる。
 とりあえず急いで地面へと降り立ち、龍化を解除。すぐさまサーニャさんの元へ。

「大丈夫ですか!?」

 サーニャさんは地面に膝をついて、はぁはぁと荒く息を吐いていた。顔は青白い。これは不味い…!

「マ、マリーナ様…」

「喋らないで」


 状態:畏怖

 これがいまの状態。死ぬほどではないけれど、最悪精神に異常が残ってしまう。
 私はサーニャさんの額に手を当てる。そして少しだけ神力を流した。

「温かい……」

 ふぅ……良かった……ひとまずは安心かな。私の神力には、精神を落ち着かせる力もある。今回はそれを使った。

「大丈夫ですか?」

「……はい。ご迷惑をおかけしてしまいましたね」

「それは私です!私が勝手に…」

 なんで気づかなかったんだ。事前にハクに聞いていたなら…

「マリーナ様」

 突然名前を呼ばれ、俯いていた顔を上げる。すると、サーニャさんが弱々しく微笑んだ。

「ご自分を、咎めないでください。私の為にして下さったことでしょう?それなのに謝られては、私が困ります」

 ………そうだね。立場が逆転しちゃったなぁ。

「はやくお父さんに飲ませていいですか?」

「あ、はい!はやくいきましょう!」

 そして私たちは、未だ気絶したままのサーニャさんのお父さんの元へと駆け寄ったのだった。







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