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第2章

宿

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 商業ギルドからでると、もう既に辺りは暗くなっていた。

「今日のとこはここまでだな。宿にいくぞ」

「あれ?ギルさんたちはここに住んでるんじゃないんですか?」

「ああ。ここには長く滞在してるが、本当はいろんなとこを巡ってんだよ」

 へー!それなら私もこの世界旅してみよかな?どうせ帰れないし。

「じゃあ行くぞ。マリーナの分は払ってやるよ」

「え?!そんなお構いなく!お金ももらいましたし」

「子供が遠慮すんじゃねぇよ。ほら、いくぞ」

 そう言ってギルさんは歩き出してしまった。慌てて後をついて行く。

「ごめんね、マリーナちゃん。ギルはああ言うと聞かないのよ」

「大丈夫です。むしろありがとうございます!」

 日本人として、泊まらせてもらうことは遠慮したいとこだけど、せっかくの好意を無駄にする訳にもいかないしね。

 歩き続けていると、突然ギルさんが立ち止まった。

「ここだ。入るぞ」

 そう言って入っていったのは、入口に[宿り木亭]という看板が掲げられたこじんまりとした二階建ての建物だった。

「さぁ、入りましょ?」

「はーい」

 扉を開けて中に入る。中には沢山のテーブルと椅子。そしてそのテーブルで食事を食べている沢山の人がいた。どうやら宿と食堂を併設しているみたい。

「こっちよ」

 リナさんに招かれ、奥の方にあった小さなカウンターへ向かう。

「部屋が無くて私とフィーナの部屋で寝ることになるけど、大丈夫?」

「大丈夫です!」

 むしろそっちの方がいい!1人だけで部屋にいるなんて寂しいもん。

「そう。それじゃあ早速部屋に行きましょう」

「はーい」

 部屋は二階にあるらしく、階段を上がっていく。

「ここよ」

 着いたのは角部屋。中に入ると、1人用のベッドが3台並んでいた。その他には小さな丸テーブルと椅子、それとクローゼットがあるくらいの、シンプルな部屋だった。

「どのベッドがいい?」

「うーん…どれでもいいです」

「そうねぇ…それじゃくっつけちゃいましょうか」

「いいですね!あ、フィーナさんもそれでいいですか?」

 危うく存在忘れるとこだったよ。

「…ん。それでいい」

「じゃあこのベットを真ん中にして…マリーナちゃん運べる?」

「大丈夫です!このベッドをそっちに動かせばいいですか?」

「ええ、そうよ」

 引きずるのはどうかと思ったので、少し浮かして運ぶ。5歳児が持てるような重さじゃないんだけどねぇ…軽々持てるよ。

「マリーナちゃん?!重くない?」

「全然大丈夫です!ここでいいですか?」

「え、ええ(引きずるかと思ったんだけど…マリーナちゃんって一体…?)」

 ええ、それは私も思ってます。あ、そう言えば教会に行かないといけないんだっけ?

『はい。ただ、それは明日でもいいと思います』

 そうだね。もう暗いし。

「よし!じゃあ下に降りて食事をしましょうか」

「わーい」

 わーい…ここも塩味だけなのかなぁ…

 下に降りると、もうすでにギルさんとバケットさんは席に着いていた。

「おーい、こっちだ!」

 呼ばれたので、ギルさんが座っているテーブルまで向かう。

「マリーナちゃん、これメニューね」

 リナさんに渡されたメニューに目を通すと、昼間行ったお店とほぼ同じだった。違いがあるとすれば、スープがあることだろうか?あとパン。こっちのパンってどんな感じなのか気になるし、頼んでみよっと!

「じゃあスープとパンで」

「え?マリーナちゃん、パン食べるの?」

「食べたことないので、食べてみたいんです!」

「そ、そう。あんまり期待しないほうがいいわよ?」

 リナさんがそういうけど、正直私もあまり期待していない。フワフワのパンは、それなりに食文化が発展していないと作れないものだと思うしね。

「じゃあ注文するか」

 ギルさんが店員さんに注文してくれた。しばらくして料理が運ばれてきた。

「じゃあ食べるか」

「いただきます」

 私は手を合わせてそう言った。

「そのいただきますって、なに?」

 そう言えばこの世界にこの概念はないね。

「えっと…食べ物と作ってくれた人に感謝を込めて言う言葉です」

「へぇー…いい意味ね。じゃあ私もいただきます」

 リナさんがやると、他の人もやってくれた。なんか嬉しい。

 私はスプーンでスープを掬い、口に運ぶ。

「美味しい?」

「うーん…美味しいか美味しくないかで答えるなら、美味しいです」

 塩味のスープで、具材はなにかのお肉と野菜。それが出汁を出してくれているから、まだ美味しい。けど、鶏ガラとかだったらもっと美味しくなると思う。

「そう(まぁ毎日ジリル草のスープを食べていたものね)」

 そういうことじゃないんだけど…ま、いっか。パンは黒色で、おそらく俗に言う黒パンだと思う。ものすごく硬かった。

「か、硬い…」

「やっぱりね。貴族様とかが食べる白パンはもっと柔らかいと聞いたけどね」

 なるほど…柔らかいパンはあるにはあるのか。でもこの硬いのもいいよね。スープに浸して柔らかくすればいいし。

 そう思ってスープにパンを浸すと、みんなから驚かれた。あれ?

「どうしたんです?」

「いや、スープに黒パンを浸けるなんて初めてみたから…」

「そうなんですか?美味しいですよ?」

 浸して柔らかくなったパンを口に運ぶ。うん。美味しい。スープが良ければもっとね。

「私も食べていい?」

「どうぞ」

 リナさんも同じようにして口に運ぶと、目を見開いた。

「美味しいわ!まさか、こんな食べ方があるなんて…」

「俺もいいか?」

「いいですよ。というより食べちゃってください。もうお腹いっぱいで」

 この世界ででてくる食事って、5歳児のお腹からしたらものすごく多いんだよね。

「ご馳走様でした」

「それもいただきますと同じようなもの?」

「はい。いただきますは食事の最初。ご馳走様でしたは食事の最後ですね」

「そうなの。面白いわね。ご馳走様でした」

 食事は宿の料金に入っているらしいので、またギルさんに奢ってもらっちゃったよ。明日は私が奢りたいな。

 部屋に戻り、体にクリーンをかける。

「マリーナちゃんのクリーンって、なんか違うわね」

「そうですか?」

「なんていうか…私たちより綺麗になってるような気がするのよ」

 それは一理あるかも知れない。私がイメージしたのは、古くなった角質とかを除去するイメージだからね。

「まぁ、人それぞれよね。それじゃあ寝ましょうか」

「はーい」

「マリーナちゃんは真ん中ね」

 決められちゃいました。まぁ私もそっちの方がいいけどね。
 ベッドに潜り込むと、少し固い気がした。どうやら下がただの板になっているみたい。そりゃ痛いわ。でもそれほど気にもならないから、いっかな。

「明日はどうするの?」

「明日は市場に行って、食材とかみたいです…あ、あと教会も」

「教会?」

「はい。ちょっとお祈りでもしようかと」

「そう。分かったわ」

 そう言って私の頭を撫でてくれた。すると、私は直ぐに眠りに落ちてしまった。





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