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95話

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 今日は瑠華ちゃんが一日中【柊】に居ない珍しい日……いや、最近は結構多いのかもしれない。
 一応瑠華ちゃんから言われている今日のノロマ分の宿題は終わらせたから、後は好きなだけ遊ぶ事が出来る。

 でもなぁ…瑠華ちゃん居ないしなぁ……。

 なんて思いながら自分の部屋でゴロゴロと寛いでいると、コンコンコンとドアをノックする音が響いた。

「かな姉今大丈夫?」

 その後に聞こえてきたのは凪沙の声。私の部屋をわざわざ訪ねる事など数少ないので、思わず首を傾げながらも「大丈夫だよ」と返事をする。

「凪沙が訪ねてくるなんて珍しいけど、どうしたの?」

「実はダンジョンに行きたくて。出来ることなら一緒に行きたいんだけど……」

 どうやらお誘いに来たようだ。ふむ……私としては、凪沙一人で向かわせるつもりは毛頭ない。可愛い妹だからね。でも少し問題というか、心配事がある。
 ……私、瑠華ちゃんが居ない状態でダンジョンに潜った事が無いんだよね。

「いやこれも経験かな…?」

「何が?」

「あ、えっとね。瑠華ちゃんが居ない状態でダンジョンに潜るのって初めてじゃない? 勿論本当は居た方が嬉しいし安心だけど、居ない状態での戦いも経験しておいた方がいいかなって」

「それはそう。何時までも瑠華お姉ちゃんに頼ってるのは良くない」

「だねぇ」

 そうと決まれば話は早い。テキパキとダンジョンへ向かう準備を整えていく。

「私もそういうの欲しい」

「そういうの…あ、装備の事?」

「そう」

 凪沙が眼差しを向けていたのは、瑠華ちゃんと対になっている巫女服。確かに今のところ凪沙は、腕とか脚に部分的な皮鎧があるだけだもんね。……これ放置してたら配信が燃えそうだね。まぁ当然そうならなくても放置なんてしないけど。

「しずちゃんに聞いてみるかな…」

 スマホを使ってポチポチと連絡。ついでに向かう予定の平原ダンジョンの予約を済ませておく。
 その後装備の確認をしていると、しずちゃんから返信があった。どうやら用意は出来るみたいだ。

「後で身体測定しようね」

「ん。楽しみ」

 さて、凪沙の装備にも目処がついたところで……あれ? 返信に続きがある。

「何何…『瑠華っちが居ないなら、商品のレビューをして欲しい』? ……瑠華ちゃんが居ないからって何故にレビューを?」

「瑠華お姉ちゃんが居たらインパクトが薄れるからとか?」

 ……ありそうだね。武器とか道具とか装備とかがあっても、瑠華ちゃんなら魔法やスキルで補っちゃうだろうから。

 しずちゃんからレビューして欲しいと言われている商品は、実は既に手元にある。雑談配信の延長でしよーって思って、結局放置してたんだ。……あれ、これ実は遠回しな催促だったりするのかな?

 準備を整え、いざ平原ダンジョンへ。電車とバスを乗り継いで大体三十分くらい掛けて、漸く到着。
 早速中に入って周りに人とモンスターが居ない事を確認してから、配信準備を整える。

「カメラ付けて…配信…おっけー! 見えてるかな? 『柊ちゃんねる』の奏と?」

「凪沙。……話し合い無しにいきなり振らないで欲しい」

 :草。
 :開幕からグダついていらっしゃるwww
 :こんちゃー!
 :あれ? 瑠華ちゃんは?

「瑠華ちゃんは今ソフトテニスの大会に行ってるよ。応援に行きたかったんだけど、駄目なんだって」

 :応援駄目なのか。
 :親とかが応援に来れない子が居るからでしょ。
 :あー、成程。

「という訳なので、今日は私と凪沙の二人で平原ダンジョンに潜ろうかなって」

「頑張る」

 :瑠華ちゃん居ないのか…安心感が…
 :言うて奏ちゃんも強いし問題無いんじゃない?
 :無茶するつもりもないんでしょ?

「当然。無茶していいのは、それをフォロー出来る人が居る時だけだよ」

 流石に私も瑠華ちゃんが居ない状態で無茶するつもりなんて無い。それで怪我でもして帰ったら、後が怖いもん。

 :でも瑠華ちゃんが看病してくれるんでしょ?

「……いや、うん。無茶しない。大丈夫」

「そっちに惹かれるのは流石に駄目だと思う」

 凪沙に呆れられてしまった。いや、ちょっと、ほんのちょっとそれも良いかなって思っただけだから! 本気じゃないからね!?

「はい! この話はここまでで…今日はね、【八車重工業】からの提供品をレビューしていきます!」

「わーぱちぱちー」

 :おぉ!
 :凪沙ちゃんwww
 :棒読みで草。
 :何提供して貰ったの?

「えっとね…まずはこれ、鋼鉄の矢!」

 ウエストポーチから取りだしたのは、鈍い色を放つ鋼鉄の矢。これは元々瑠華ちゃんが他の武器も使う想定で送られてきたものだ。今回は凪沙にうってつけだったから、最初に持ってきた。

「これは頑丈な上にそこまで重量が無くて、歪みもほぼ無いからかなりの距離を真っ直ぐ飛ばす事が出来るんだって。再利用も結構出来るみたい」

 :再利用出来る矢か。
 :便利では?
 :回収出来たらの話だがな。

 そう。結局のところ再利用するにしても回収出来ればの話だ。まぁここくらいのモンスターなら回収も問題無いだろう。
 早速凪沙に渡して、かなり離れた位置に居るリトルウルフを狙ってもらう。

 キリキリと弦が唸り、風切り音を立てながら真っ直ぐ矢が放たれる。そのまま矢は逸れる素振りすら見せず、リトルウルフの頭部を正確に射抜いた。
 何故かダンジョン内部なのに風が吹くこの場所で、ここまで真っ直ぐ飛ぶのはかなり凄い事だと思う。

「……これ欲しいかも」

「言ったら提供してくれるんじゃないかな? まだ試作品段階で販売時期は未定だそうだよ」

 :これはありか?
 :正直弓使いが少ないからな…
 :その問題があったか……

 ……確かにその問題があったね。でも弓矢ってカッコイイと思うんだけどなぁ?

 :だって魔法の方が、ね……

「あ……」

 ……うん。瑠華ちゃんの焔の矢みたいなのを見れば、確かにそうなるかもしれない。

 ……しずちゃん。瑠華ちゃんが居ない時にレビューしてっていう判断、正しかったよ……。






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