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89話
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「凪沙、矢の数は足りるかの?」
「んと…後十本くらい」
腰に下げた矢筒を確認すると、カラカラと寂しい音が響く。一応撃った矢は回収していたのだが、大半は歪んでしまい使い物にならなくなっていた。
:弓はそういう事あるからなぁ。
:消耗品使う武器は連戦キツイ。
「一旦帰ることも考慮するが…ふむ。ちょうど良い機会かもしれんの」
「瑠華ちゃん?」
「前々より凪沙にはあるスキルの獲得を目指してもらっておったのじゃ。それを少し見せてやろうと思うての」
「ん。見本欲しい」
:久しぶりの瑠華先生。
:やっぱり知識量凄いよね。
凪沙から弓を借りることも考えたが、万が一壊してはいけないので別の物を用意することにした。
瑠華が手を前に突き出せばそこに光が集まり、やがて弓の形が浮かび上がった。
「……また見た事ない能力を…」
「いや? これは奏も見た事があるスキルじゃぞ?」
「え?」
しかしいくら頭を捻ろうと、何も無いところから武器を生み出すスキルに関して思い当たる節はなかった。
:それって俺たちも見た事ある?
「あるな」
:んー…となると〖魔法板〗か?
「おぉ、正解じゃよ」
視聴者が見た事のある瑠華のスキルは少ないので、奏よりも簡単に正解へと辿り着いた。そう、あの空中に文字を浮かび上がらせる事が出来るスキルである。
「えっ!? あれなの!?」
「〖魔法板〗は妾が持つスキルの中でも、比較的汎用性が高いものじゃからの」
生み出す板の大きさや形は自由自在であり、その材質もある程度変質させられる。それらを組み合わせる事で、様々な物を擬似的に生み出す事が可能なのだ。
:何そのチートスキル。
:今更だな。
:それってつまり銃とかも…?
「形は作れるが弾丸の中身は無理じゃな。作れたとしても魔銃じゃろう」
:あー、そっか。火薬とかは流石にか。
:それでも作れるだけヤベェけど。
:まぁ瑠華ちゃんに魔銃が必要かと問われると……うん。
「要らんな」
「デスヨネー」
魔銃を使う事にも確かに利点はあるが、そんなものを使うくらいならば自前で魔法を使った方が楽だ。
「さて…アレを狙うか。見えるかの?」
「ん? ……あー、ウルフかな?」
「見える」
標的に定めたのは、少し離れた場所にいる小さなウルフ。東京第三ダンジョン最下層に居るウルフとは違う種類であり、その名はリトルウルフである。
「……安直な名前って多いね」
「難解な名前をつける意味もなかろう。報告する時に分かりやすいかどうかが最優先であろうからな」
:それはそう。
:名前の通りの見た目してたら分かりやすいよね。
狙いを定めた瑠華が、静かに弓を引き絞る。しかしその弦には矢が番えられていない。
「あ…」
だが奏だけは、その手に魔力が集まっているのが分かった。魔法が使えるようになった事による恩恵だろう。
「…〖魔弓・一ノ矢〗」
静かな瑠華の声に伴って、光り輝く矢が現れる。そして引き絞る手が離されると、凛とした鈴の音のような音を響かせながらその矢が放たれた。
一筋の軌跡を描きながら飛翔する一本の矢は、まるで吸い込まれるようにしてリトルウルフの頭を吹き飛ばした。
「……えっぐ」
:綺麗だなぁとか思ってたんだけどなぁ…
:綺麗なだけな訳ないのよな……
:威力えぐ…
「少し加減を見誤ったのう」
「これ少し…?」
「私これ習得するの…?」
「凪沙ならば出来るじゃろ。まぁここまでの威力は出んじゃろうがな」
「何が威力を決めるの?」
「他のスキルと同じく込める魔力じゃな。故に属性を込める事も出来るぞ」
「…だから撃つ時は、矢に魔力を流すように言ったの?」
「そうじゃな。スキルの獲得には普段の行動が密接に関わっておる。魔力の矢を撃つ、という事と、魔力を込めた矢を撃つ、というのは根底としては同じと言えるからの」
:確かにスキルは反復思考が大事だけど…
:弓って人気ないから判明してるスキルも少ないんだよなぁ。
:瑠華先生! 他には無いんですか!
「弓に関するスキルは…〖竜擊〗というものもあるぞ。獲得は不可能じゃが」
:何故に不可能?
「竜人の素材を用いて作られた弓矢が必要だからじゃよ」
そして〖竜撃〗は竜人の種族固有スキルの一つだ。元々人間には獲得する事が出来ないものである。
「他には[拡散]や[必中]、変わり種で言うと[爆散]などもあるのぅ」
:なんか最後凄い不穏なやつ出てきたんですけど。
:てか獲得不能スキル知ってるって事は……
「瑠華ちゃん全部使えるの?」
「使えなければ教える事は出来んじゃろうて」
:やばぁい。
:あれ? という事は、瑠華ちゃんは竜人の素材の弓矢を持っているという事では……
「……それに関しては黙秘しておくとしよう。知らぬ方が良い事もある」
「……まぁ深くは聞かないでおく。それ以外は凪沙でも獲得出来る?」
「出来る、と言いたいところじゃが…スキルには上限数があるでな。あまり使う用途のないスキルは覚えさせたくはないな」
:なんかとんでもない爆弾発言出てきたんですけど!?
:スキルに獲得上限あるの!?
:いやそんな膨大な量のスキル持ってる人がそもそも居ないから分からん。
:そんな上限を瑠華ちゃんは突破してそうな気がするんですがそれは。
「妾はスキルをそこまで持っとらんぞ」
「え、でも…」
「妾が持っているスキルは全部で三つだけじゃ。その内の一つのスキルの効果で、他のスキルを使えるというだけじゃよ」
瑠華が持っているスキルは〖認識阻害〗、〖魔法板〗、そして〖原初〗の三つだけである。その他多くのスキルが扱えるのは、〖原初〗の効果によるものである。
:だけとは。
:ちょいちょい感覚ズレてんだよな……
:仕方が無い。瑠華ちゃんだもの。
:それって諦めにも使えるのか……
「んと…後十本くらい」
腰に下げた矢筒を確認すると、カラカラと寂しい音が響く。一応撃った矢は回収していたのだが、大半は歪んでしまい使い物にならなくなっていた。
:弓はそういう事あるからなぁ。
:消耗品使う武器は連戦キツイ。
「一旦帰ることも考慮するが…ふむ。ちょうど良い機会かもしれんの」
「瑠華ちゃん?」
「前々より凪沙にはあるスキルの獲得を目指してもらっておったのじゃ。それを少し見せてやろうと思うての」
「ん。見本欲しい」
:久しぶりの瑠華先生。
:やっぱり知識量凄いよね。
凪沙から弓を借りることも考えたが、万が一壊してはいけないので別の物を用意することにした。
瑠華が手を前に突き出せばそこに光が集まり、やがて弓の形が浮かび上がった。
「……また見た事ない能力を…」
「いや? これは奏も見た事があるスキルじゃぞ?」
「え?」
しかしいくら頭を捻ろうと、何も無いところから武器を生み出すスキルに関して思い当たる節はなかった。
:それって俺たちも見た事ある?
「あるな」
:んー…となると〖魔法板〗か?
「おぉ、正解じゃよ」
視聴者が見た事のある瑠華のスキルは少ないので、奏よりも簡単に正解へと辿り着いた。そう、あの空中に文字を浮かび上がらせる事が出来るスキルである。
「えっ!? あれなの!?」
「〖魔法板〗は妾が持つスキルの中でも、比較的汎用性が高いものじゃからの」
生み出す板の大きさや形は自由自在であり、その材質もある程度変質させられる。それらを組み合わせる事で、様々な物を擬似的に生み出す事が可能なのだ。
:何そのチートスキル。
:今更だな。
:それってつまり銃とかも…?
「形は作れるが弾丸の中身は無理じゃな。作れたとしても魔銃じゃろう」
:あー、そっか。火薬とかは流石にか。
:それでも作れるだけヤベェけど。
:まぁ瑠華ちゃんに魔銃が必要かと問われると……うん。
「要らんな」
「デスヨネー」
魔銃を使う事にも確かに利点はあるが、そんなものを使うくらいならば自前で魔法を使った方が楽だ。
「さて…アレを狙うか。見えるかの?」
「ん? ……あー、ウルフかな?」
「見える」
標的に定めたのは、少し離れた場所にいる小さなウルフ。東京第三ダンジョン最下層に居るウルフとは違う種類であり、その名はリトルウルフである。
「……安直な名前って多いね」
「難解な名前をつける意味もなかろう。報告する時に分かりやすいかどうかが最優先であろうからな」
:それはそう。
:名前の通りの見た目してたら分かりやすいよね。
狙いを定めた瑠華が、静かに弓を引き絞る。しかしその弦には矢が番えられていない。
「あ…」
だが奏だけは、その手に魔力が集まっているのが分かった。魔法が使えるようになった事による恩恵だろう。
「…〖魔弓・一ノ矢〗」
静かな瑠華の声に伴って、光り輝く矢が現れる。そして引き絞る手が離されると、凛とした鈴の音のような音を響かせながらその矢が放たれた。
一筋の軌跡を描きながら飛翔する一本の矢は、まるで吸い込まれるようにしてリトルウルフの頭を吹き飛ばした。
「……えっぐ」
:綺麗だなぁとか思ってたんだけどなぁ…
:綺麗なだけな訳ないのよな……
:威力えぐ…
「少し加減を見誤ったのう」
「これ少し…?」
「私これ習得するの…?」
「凪沙ならば出来るじゃろ。まぁここまでの威力は出んじゃろうがな」
「何が威力を決めるの?」
「他のスキルと同じく込める魔力じゃな。故に属性を込める事も出来るぞ」
「…だから撃つ時は、矢に魔力を流すように言ったの?」
「そうじゃな。スキルの獲得には普段の行動が密接に関わっておる。魔力の矢を撃つ、という事と、魔力を込めた矢を撃つ、というのは根底としては同じと言えるからの」
:確かにスキルは反復思考が大事だけど…
:弓って人気ないから判明してるスキルも少ないんだよなぁ。
:瑠華先生! 他には無いんですか!
「弓に関するスキルは…〖竜擊〗というものもあるぞ。獲得は不可能じゃが」
:何故に不可能?
「竜人の素材を用いて作られた弓矢が必要だからじゃよ」
そして〖竜撃〗は竜人の種族固有スキルの一つだ。元々人間には獲得する事が出来ないものである。
「他には[拡散]や[必中]、変わり種で言うと[爆散]などもあるのぅ」
:なんか最後凄い不穏なやつ出てきたんですけど。
:てか獲得不能スキル知ってるって事は……
「瑠華ちゃん全部使えるの?」
「使えなければ教える事は出来んじゃろうて」
:やばぁい。
:あれ? という事は、瑠華ちゃんは竜人の素材の弓矢を持っているという事では……
「……それに関しては黙秘しておくとしよう。知らぬ方が良い事もある」
「……まぁ深くは聞かないでおく。それ以外は凪沙でも獲得出来る?」
「出来る、と言いたいところじゃが…スキルには上限数があるでな。あまり使う用途のないスキルは覚えさせたくはないな」
:なんかとんでもない爆弾発言出てきたんですけど!?
:スキルに獲得上限あるの!?
:いやそんな膨大な量のスキル持ってる人がそもそも居ないから分からん。
:そんな上限を瑠華ちゃんは突破してそうな気がするんですがそれは。
「妾はスキルをそこまで持っとらんぞ」
「え、でも…」
「妾が持っているスキルは全部で三つだけじゃ。その内の一つのスキルの効果で、他のスキルを使えるというだけじゃよ」
瑠華が持っているスキルは〖認識阻害〗、〖魔法板〗、そして〖原初〗の三つだけである。その他多くのスキルが扱えるのは、〖原初〗の効果によるものである。
:だけとは。
:ちょいちょい感覚ズレてんだよな……
:仕方が無い。瑠華ちゃんだもの。
:それって諦めにも使えるのか……
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