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86話

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 今回潜る平原ダンジョンは、前回行った東京第三ダンジョンと同じくFランクのダンジョンだ。しかしながらその生態系は異なっており、出現するモンスターも当然異なる。

「東京第三ダンジョンでは一階層がスライムしか出なかったが、ここはホーンラビットと呼ばれるモンスターが出現するそうじゃ」

「……すっごい安直な名前だね?」

 その名の通り額から一本の角が生えた兎型のモンスターである。食性は草食で気性は穏やか。つまり、自分から襲い掛かる事が基本無いモンスターである。

「じゃあ倒さなくていい?」

「いや、それがのぅ……」

 ホーンラビットは温厚な性格をしているが、全員が全員温厚という訳では無いのだ。

「温厚なのは若い個体で、歳を取った個体は凶暴性が増すのじゃよ」

「わぁお…」

「見分け方は?」

「若い個体は角が白く、年老いた個体は黒ずむのが特徴じゃ」

「ん。ならそれだけ狙う」

 :初心者向けといいつつかなり面倒なモンスターなんだよな……
 :しかもそこそこ頭良いから偶に騙しに来るんだよ。

「騙す…?」

「温厚なフリをして近付いてくるそうじゃ。角の黒ずみはかなり些細な変化で、近付かなければ中々見分けが付きにくいらしいのぅ」

「うわぁ…」

 :可愛い顔してやってる事えげつないんだよな。
 :つまりる…
 :それ以上はいけない。に消されるぞ。

「メロディ……?」

「奏、そろそろスマホを仕舞うのじゃ」

「はーい」

 Fランク帯とはいえ、警戒するに越したことはない。特に今回は遠距離職である凪沙がいるのだから、近接職の二人が常に警戒しておく必要がある。

「……居た」

「目が良いのぅ」

「ふふん」

 凪沙が最初にホーンラビットを発見した。弓使いとして必要な高い視力は持ち合わせているようだ。

 :自慢げ凪沙ちゃん可愛い。
 :可愛い…
 :クールな子が自慢げにドヤ顔するの可愛すぎんか。

 コメント欄が可愛い連呼で埋まるも、それを見ていたのは瑠華だけだった。

 発見したホーンラビットは呑気に草をはんでおり、遠目から見た限りでは角は白いように思える。

「どうする?」

「基本攻撃してこないとはいえ、友好的なモンスターという訳でも無い。倒すにしても気に病む必要はないぞ」

 :初心者の怪我の原因がそこなんだよな。
 :なまじ見た目だけは可愛いから…
 :若い個体でも襲う時は襲うからな。

「駄目じゃん」

 情報収集の為にコメント欄を開いた奏が突っ込む。温厚とは一体……。

「この距離ならば凪沙の射程内じゃろう。撃ってみるかの?」

「ん。やる」

 状況的に逼迫している訳では無いので、回数制限のある[速射]は使わない。冷静に矢を番えて、キリキリと弦を引き絞る。

「キュッ!?」

 放たれた矢は風切り音を響かせながら真っ直ぐ突き進み、ホーンラビットの胴体へと突き刺さった。しかし絶命までには至っていない。

「シッ!」

 そこで透かさず奏が駆け寄り、これ以上苦しむ事がないよう刀で首を刎ねて即死させる。
 絶命したホーンラビットの身体が消滅し、そこには白い角と小さな魔核だけが残った。

「一発で仕留められなかった…」

「それは仕方あるまい。ただでさえ的が小さいのだからな」

 :実際弓で一発って上位層でもムズい。
 :急所を的確に射抜く必要があるからね。
 :その点弾速がある銃は楽だよなぁ。
 :その分扱うの面倒いけどな。

 銃や魔銃といった威力の高い武器は、実はダンジョン協会において免許を取得する必要がある。
 そして銃とその免許は紐付けられており、使用した弾薬の数に至るまで事細かに記録する事が義務付けられているのだ。
 その為威力はあれど、使う人はそこまで多くない武器の一つである。

 因みに以前瑠華が魔銃を弄ったが、あれはかなりグレーな行為に当たる。まぁあの時は緊急時と判断されるので、何かしらの罰則が発生する可能性は低いが。

「角が白いって事は若い個体?」

「いや、そうとは限らん。ドロップする角は総じて白いそうじゃからな」

「……それドロップって言うの?」

 明らかに元の存在が持っていなかった物なのに、それをドロップと呼べるのかは甚だ疑問ではある。

 :それな。
 :まぁ答えのないものを追求してもしゃーない。
 :“そういうもの”として納得した方が何かと楽なんだよな……

「まぁいっか。今日初めての収穫だねー。幾らくらいになるの?」

「魔核の買取りは一律じゃ。角は何やら魔法薬の材料となるらしいが…まぁそこまで高くは無いぞ」

 ホーンラビットの角は魔法薬と呼ばれる薬の触媒として使われる。しかしその効果はランク相応であり、基本的には試作する為などに使われるので買取りは安いのだ。

 そして魔法薬についてだが、これはダンジョン内部で発見される宝箱から取得出来る薬の総称である。現在ではその解析も進んでおり、ある程度は人工的に作成する事ができるようになった。
 魔法薬には怪我を治すものや魔力を回復させるものなどがあり、長期的にダンジョンへ潜る人を対象として売られている。

「瑠華お姉ちゃん。魔法薬って高いの?」

「ん? ……どうじゃろうな。少なくとも妾は現物を見た事が無い故、判別しかねる」

「こんな時はコメント欄!」

 :頼られてるぞお前ら! 教えてやれ!
 :他力本願なの草。という事で教えてくれください。
 :誰も知らねぇじゃねぇかwww
 :だって探索者じゃないし……

「……あんまり情報無い感じ?」

 :いや一応ある。人工魔法薬は比較的安いぞ。大体風邪薬と同じ。
 :その分効果は低いんだよ。効果が高いのは総じてダンジョン産だね。

「へぇ…ダンジョン産の方が効果高いんだ」

 :まぁ誰が作ってるのか不明だけど。
 :ダンジョン産は小瓶で一万は普通に超えるぞ。

「一万!?」

「中々じゃのう。まぁそれを買い求める者達はそれ相応の危険を犯しておるのじゃろうがな」

 :基本上位層だね。
 :ランクが高いダンジョン程デカイからね。数日間潜る事も多いし、その為に買うらしい。

「ほえぇ…で、瑠華ちゃん」

「……何を聞くつもりなのかは凡そ予想がつくが、一応聞こう。なんじゃ?」

「…魔法薬作れる?」

「………肯定だけしておこう」

 :うむ、もう驚かんぞ……いや、うん。
 :必死で納得しようとしてて草。
 :ダンジョン産超えるとか言われても……いや普通に驚くわ。
 :有り得るんんだよぁ……
 :瑠華ちゃんだもの。
 :瑠華ちゃんだからなぁ……

「さす瑠華お姉ちゃん」

「……凪沙。その様な言葉は覚えなくとも良い」

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