上 下
85 / 117

85話

しおりを挟む
夕食パートは割愛。因みにボウリングは最後の最後でスペアを取れたそうですよ。ヨカッタネー。

――――――――――――――――――― 

 茜に一日中付き添って遊んだ次の日。流石にそろそろ配信をした方が良いだろうということで、凪沙を含めた三人はダンジョンへと赴いていた。

「これが凪沙の初めての出演になるのかな?」

「写った事はある。でも顔を出すのは初めて」

【柊】の面々は配信で一度写った事があるものの、カメラの機能によって全てモザイク処理をされていた。故に凪沙の顔出しは今回が初めてである。

「じゃ、配信始めるよー」

 手馴れた様子でカメラを起動し、配信サイトとのリンクを確認する。
 そして無事にスマホで配信が開始されているのを確認し、カメラのレンズへと目線を戻した。

「久しぶり! 『柊ちゃんねる』の奏だよー!」

 :きちゃ!
 :マジでお久では。
 :それな。てか人増えてる?

 目敏く画面端に写りこんだ凪沙を見付けた視聴者のコメントを確認し、奏が凪沙を手招きする。

「気付いた人もいるね。今回から一緒にダンジョンに潜る事になった凪沙だよー」

「ん。よろしく」

 :クール系美少女きちゃ!
 :瑠華ちゃんとは違った方面のクール系。
 :以前ちらっとお菓子作り配信で出て来た子?

「そだよー。元々探索者に興味があったみたいで、夏休みだしやってみたいって」

「かな姉ばかり狡いから」

 :おっとぉ?
 :これは…あれですな?

「…自己紹介はこれくらいにして、そろそろ本題に入らんか」

「あっ、そうだね」

 :瑠華ちゃんもお久!
 :瑠華ちゃん目立つ容姿してるのに、目撃情報全く無かったから……

「む。それに関しては最近【柊】の子らと共に出掛ける事が多かったからじゃの。流石に邪魔されたくは無かったのでな。〖認識阻害〗を強めにしておったのじゃよ」

 :なる。
 :聞けば聞くほどチートだよなそのスキル……
 :〖認識阻害〗って何ですか?
 :おや初見か。
 :本当にその言葉通りの固有スキルだよ。人の無意識に無理矢理入り込むから、認識されてるけど認知されないみたいな状態に出来る……で合ってる?

「大方それで合っておるぞ」

 視聴者がかなり正確にスキルの概要を把握している事に内心驚きつつも、それをおくびにも出さずに肯定だけしておく。

「初見さんも増えたのかな?」

 :初見です。
 :初見!
 :サナちから来ました。

 夏休みという事もあって、同接数は以前配信した時よりも増えている。それに伴い初見である人も増加した様だ。更にその中には瑠華達が助け出した配信者であるサナから来たという人もいた。

「サナさんから来たって人もいるんだね」

「有難いことじゃな」

 そんな目的で助けた訳では無いが、それで名前が少なからず売れたというのは素直に嬉しい事だった。

 :今回は何処のダンジョンなの?
 :渋谷ダンジョンじゃないっぽい。

「あ、そうだよ。凪沙は初心者だから、流石にね……。とはいえ東京第三ダンジョンは変わり映えしないから、今回は別のFランクダンジョンに来てるよ」

「その名も平原ダンジョン……なんでこんな名前なの?」

 :それな。
 :安直過ぎんかwww
 :これは制度が悪かったんじゃ……

 そもそもダンジョンの名前を付けるのは一体誰なのか。それはそのダンジョンの第一発見者である。
 これはダンジョン協会で定められた制度なのだが……そのせいか、ダンジョンの名前には時たまおかしいものがあったりする。
 例に出すとその人の趣味や好み全開の名前であったり、或いは今回の様にダンジョンの特徴から付けられたり、地名や発見された順番からだったりと、正しく多種多様である。

「ふざけた名前とかあるの……?」

 :あるぞ。
 :これが意外と多いの笑うんだwww
 :【自分家じぶんち】とかあったな……

「……ほんとの自宅?」

 :それは無いwww
 :名付けた本人曰く、『実家みたいな安心感のあるダンジョンだから』とか言ってたな。
 :実家みたいなダンジョンとは?

「……瑠華ちゃん分かる?」

「何故妾に聞くのじゃ……安心感を得るダンジョンというのは、少なからず存在してはいるそうじゃよ。それには敵が出ない、もしくは出ても少数か敵性を持たない、といった特徴が当てはまるのう」

「……駄目元で聞いたらばっちり答え返ってきて困惑」

 :草。
 :なんかデジャブだなこれwww

 雑談はこれくらいにして、いよいよダンジョンへと足を踏み入れる。その先は東京第三ダンジョンのように洞窟が広がっている訳では無く、その名の通り見通しの良い平原が広がっていた。

「相変わらず不思議空間…」

「前の瑠華お姉ちゃん達の配信でも、似たような感じだったよね」

「だねー。まぁここはあそこ程敵も強くないから安心してね」

 :奏ちゃんが意外としっかりお姉ちゃんしてる…

「どういう意味かなそれ!?」

 チラリと見えたコメントに奏が噛み付いている間に、凪沙が瑠華の元へと駆け寄る。

「瑠華お姉ちゃん。私の役目は?」

「基本は遠距離支援という形を取ってもらう事にはなるが…まぁ今回も前回と同様に敵の脅威度は低いでな。案ずる事は無い」

「ん…」

 その言葉を聞いて少し肩の力を抜きつつ、自らの得物である弓の弦を引いて調子を確かめる。

「アレはまだ掴めそうにないかの?」

「うん…流れはするんだけど、形にならなくて」

 その会話の内容は、以前瑠華が凪沙に獲得するよう頼んだスキルについてだ。初めてダンジョンに向かってからというもの、【柊】の庭でも練習を重ねていた。しかし、数日で獲得出来るほど甘くもなかった。

「一先ずは現状のスキルを伸ばす方針が良かろうな。[速射]も十分強力なスキルじゃからの」

「ん。頑張る」

「…なんか私除け者にされてるし……」

 :草。
 :これは草。
 :奏ちゃんってやっぱり不憫枠というか…
 :意外といじられキャラな気がする。
 :瑠華ちゃんが手玉に取るのが上手すぎるというのもある。
 :間違いなくそれだわ……





しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョンを探索する 配信中にレッドドラゴンを手懐けたら大バズりしました!

海夏世もみじ
ファンタジー
 旧題:動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョン配信中にレッドドラゴン手懐けたら大バズりしました  動物に好かれまくる体質を持つ主人公、藍堂咲太《あいどう・さくた》は、友人にダンジョンカメラというものをもらった。  そのカメラで暇つぶしにダンジョン配信をしようということでダンジョンに向かったのだが、イレギュラーのレッドドラゴンが現れてしまう。  しかし主人公に攻撃は一切せず、喉を鳴らして好意的な様子。その様子が全て配信されており、拡散され、大バズりしてしまった!  戦闘力ミジンコ主人公が魔物や幻獣を手懐けながらダンジョンを進む配信のスタート!

神様のミスで女に転生したようです

結城はる
ファンタジー
 34歳独身の秋本修弥はごく普通の中小企業に勤めるサラリーマンであった。  いつも通り起床し朝食を食べ、会社へ通勤中だったがマンションの上から人が落下してきて下敷きとなってしまった……。  目が覚めると、目の前には絶世の美女が立っていた。  美女の話を聞くと、どうやら目の前にいる美女は神様であり私は死んでしまったということらしい  死んだことにより私の魂は地球とは別の世界に迷い込んだみたいなので、こっちの世界に転生させてくれるそうだ。  気がついたら、洞窟の中にいて転生されたことを確認する。  ん……、なんか違和感がある。股を触ってみるとあるべきものがない。  え……。  神様、私女になってるんですけどーーーー!!!  小説家になろうでも掲載しています。  URLはこちら→「https://ncode.syosetu.com/n7001ht/」

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと
恋愛
 主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。  クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。  明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。  しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。  そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。  三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。 ※他サイトでも掲載中です。

俺が異世界帰りだと会社の後輩にバレた後の話

猫野 ジム
ファンタジー
会社員(25歳・男)は異世界帰り。現代に帰って来ても魔法が使えるままだった。 バレないようにこっそり使っていたけど、後輩の女性社員にバレてしまった。なぜなら彼女も異世界から帰って来ていて、魔法が使われたことを察知できるから。 『異世界帰り』という共通点があることが分かった二人は後輩からの誘いで仕事終わりに食事をすることに。職場以外で会うのは初めてだった。果たしてどうなるのか? ※ダンジョンやバトルは無く、現代ラブコメに少しだけファンタジー要素が入った作品です ※カクヨム・小説家になろうでも公開しています

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

配信の片隅で無双していた謎の大剣豪、最終奥義レベルを連発する美少女だと話題に

菊池 快晴
ファンタジー
配信の片隅で無双していた謎の大剣豪が美少女で、うっかり最凶剣術を披露しすぎたところ、どうやらヤバすぎると話題に 謎の大剣豪こと宮本椿姫は、叔父の死をきっかけに岡山の集落から都内に引っ越しをしてきた。 宮本流を世間に広める為、己の研鑽の為にダンジョンで籠っていると、いつのまにか掲示板で話題となる。 「配信の片隅で無双している大剣豪がいるんだが」 宮本椿姫は相棒と共に配信を始め、徐々に知名度があがり、その剣技を世に知らしめていく。 これは、謎の大剣豪こと宮本椿姫が、ダンジョンを通じて世界に衝撃を与えていく――ちょっと百合の雰囲気もあるお話です。

ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜

むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。 幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。 そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。 故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。 自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。 だが、エアルは知らない。 ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。 遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。 これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...