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78話
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ダンジョンへ行くのでは無く【柊】にて遊ぶ事にした訳だが、元より娯楽の少ないこの場所で出来る事は限られる。
「さて何をするか…」
「あっ! だったらスゴロクは?」
「スゴロクか…全員で出来るものなのかえ?」
「私達が作ったやつだから大丈夫!」
どうやら遊ぶものが少ないなりに考えて、皆で作っていたそうだ。
茜がパタパタと急いで二階の自分の部屋へと向かい、丸められた紙を抱えて戻って来た。
「これ!」
「……随分と大きいのぅ?」
「色々詰め込んだらこうなっちゃった」
広げるとダイニングテーブルとほぼ同じ大きさの自作スゴロクは、見たところかなりのマス数がある。皆で協力するという事はそれぞれが好きな様にマスを作ったという事であり、ならばここまでのボリュームとなるのも致し方無いだろう。
それぞれが好きな色のコマを選び、スタート地点に置いてゲームを開始する。
「最初はるー姉で」
「そうか? では……奏、妾の代わりにサイコロを投げてくれんか」
「え? ……あー、そっか。分かった」
瑠華がサイコロを投げる場合、好きな目を出す事が出来てしまう。それでは公平では無い為、代わりに奏に振って貰う事にしたのだった。
「いくよー、えいっ!」
コロコロとスゴロクの上を転がったサイコロが示した数は、三。
「三か。どれどれ…『風邪を引いて一回休み』か」
「かー姉さいてー」
「これ私のせいなの!?」
何故か代わりにサイコロを振った奏が責められつつも、続いて凪沙がサイコロを振る。
「五」
「中々良い目じゃの」
コマを五個分進め、そこのマスに書かれた内容を読み上げる。
「『好きな人を言う事で三マス進む』? …瑠華お姉ちゃん」
照れること無くそう堂々と告げる凪沙に、奏は何処か負けた気がした。
マスに書かれた通りの事を行ったので追加で三マス進み、次に奏がサイコロを手にする。
「名誉挽回!」
「……別に良い目を出したとて、挽回は出来んのではないかえ?」
瑠華の言葉は敢えて無視して、奏がサイコロを投じる。出た目は、五。
「………」
「…かな姉意気地無し」
「うぐ……」
容赦無い凪沙の言葉に苦しげな声を上げる。だがそもそも“好きな人”というのは恋愛的な意味だけを含んでいる訳では無いのだから、奏が考え過ぎなだけであるが。
「…瑠華、ちゃん」
「何故そうも苦し紛れになるのじゃ…」
そして瑠華はその事がちゃんと分かっているので、そこまで言いずらくする理由が分からなかった。
「次は私!」
茜がサイコロを投げると、出た目は瑠華の一つ先である四。
「えーっと…『スタートに戻る』何でぇ!?」
「序盤にあるマスでは無いな…」
自作スゴロクなので、こんな事もある。それが四マス目にあるのは、果たして偶然なのかそれともわざとなのか。
「ところでこれって一位になったら何かあるの?」
何か景品があるとより楽しいだろうと考えた奏が、そう口にする。するとその言葉を待っていたかのように、嬉々とした様子で茜が話し出した。
「一位にはねぇ……るー姉の一日独占権!」
(…成程。元よりそれが目的か)
瑠華は茜が昨日その独占権について話していた時、何か企んでいた事には気付いていた。それが恐らくは、独占権を皆断ったとして自分だけが独占するつもりだと予想をしていたが、どうやらそこまで悪い考えをしてはいなかったようだ。……それでも、たった一人しかその権利を持ち得ないという事は変わらないが。
茜が景品の正体を明かした事で、皆の目が鋭くなる。先程までの和気藹々とした様子は消え失せ、何処と無く部屋の気温が高くなったような気がした。
「瑠華ちゃんは了承済み?」
「…まぁ、その様な提案は既に聞いておるよ。断る理由も特に無いしのぅ」
瑠華が認めた事で、その景品が本物であることが証明される。
「これは勝たねば…」
「あ、かー姉は除外で」
「何で!?」
「るー姉をダンジョンで独占してるんだし、私達に譲るべき」
「ぐぬぬ…」
凪沙であれば食い下がるが、下の子達を例に出されれば流石に弱い。
「…じゃあ私も除外?」
「凪姉は……どうだろ」
最近になって探索者として瑠華と共にダンジョンに潜るようになった凪沙だが、その時間はまだ少ない。なので判断に困った。
「私が除外なんだから凪沙も除外!」
「むぅ…まぁ良い。これから独占出来る時間は増えるし」
今は奏が一緒だが、今後三人では無く瑠華と二人で潜る機会も増えるだろう。そう考えれば、今回除外されてもさして気にはならなかった。
「…これ負けたら流石に泣くかも」
ボソッと茜が呟いたのを、瑠華の耳だけハッキリと捉えていた。
(話さなければそのまま権利を独占出来たじゃろうに……筋を通そうとするのは律儀じゃのぅ)
実際のところ、茜もそう考えなかった訳では無い。しかしそれがもし瑠華にバレた時、幻滅されるのが怖かったのだ。
まぁ瑠華としてはそれも人間の持つ欲であり仕方無い事だという理解があるので、幻滅する程の事にはならないが。
だがこうして律儀に全員に機会を与えるという行為は当然の事ながら好ましいものであり、瑠華からの好感度は上がっていたので無駄では無かったりする。
「結果がどうなる事やら…」
別にたった一人だけと言わず全員それぞれと一日過ごしても構わないのだが、それを今口にする事は無い。その理由は今の空気感を壊したくないから……だけでは無い。
(これは皆に言う事を聞かせる良い対価になりそうじゃのぅ…?)
永きを生きたドラゴンさんは、思いの外強かなのであった。
「さて何をするか…」
「あっ! だったらスゴロクは?」
「スゴロクか…全員で出来るものなのかえ?」
「私達が作ったやつだから大丈夫!」
どうやら遊ぶものが少ないなりに考えて、皆で作っていたそうだ。
茜がパタパタと急いで二階の自分の部屋へと向かい、丸められた紙を抱えて戻って来た。
「これ!」
「……随分と大きいのぅ?」
「色々詰め込んだらこうなっちゃった」
広げるとダイニングテーブルとほぼ同じ大きさの自作スゴロクは、見たところかなりのマス数がある。皆で協力するという事はそれぞれが好きな様にマスを作ったという事であり、ならばここまでのボリュームとなるのも致し方無いだろう。
それぞれが好きな色のコマを選び、スタート地点に置いてゲームを開始する。
「最初はるー姉で」
「そうか? では……奏、妾の代わりにサイコロを投げてくれんか」
「え? ……あー、そっか。分かった」
瑠華がサイコロを投げる場合、好きな目を出す事が出来てしまう。それでは公平では無い為、代わりに奏に振って貰う事にしたのだった。
「いくよー、えいっ!」
コロコロとスゴロクの上を転がったサイコロが示した数は、三。
「三か。どれどれ…『風邪を引いて一回休み』か」
「かー姉さいてー」
「これ私のせいなの!?」
何故か代わりにサイコロを振った奏が責められつつも、続いて凪沙がサイコロを振る。
「五」
「中々良い目じゃの」
コマを五個分進め、そこのマスに書かれた内容を読み上げる。
「『好きな人を言う事で三マス進む』? …瑠華お姉ちゃん」
照れること無くそう堂々と告げる凪沙に、奏は何処か負けた気がした。
マスに書かれた通りの事を行ったので追加で三マス進み、次に奏がサイコロを手にする。
「名誉挽回!」
「……別に良い目を出したとて、挽回は出来んのではないかえ?」
瑠華の言葉は敢えて無視して、奏がサイコロを投じる。出た目は、五。
「………」
「…かな姉意気地無し」
「うぐ……」
容赦無い凪沙の言葉に苦しげな声を上げる。だがそもそも“好きな人”というのは恋愛的な意味だけを含んでいる訳では無いのだから、奏が考え過ぎなだけであるが。
「…瑠華、ちゃん」
「何故そうも苦し紛れになるのじゃ…」
そして瑠華はその事がちゃんと分かっているので、そこまで言いずらくする理由が分からなかった。
「次は私!」
茜がサイコロを投げると、出た目は瑠華の一つ先である四。
「えーっと…『スタートに戻る』何でぇ!?」
「序盤にあるマスでは無いな…」
自作スゴロクなので、こんな事もある。それが四マス目にあるのは、果たして偶然なのかそれともわざとなのか。
「ところでこれって一位になったら何かあるの?」
何か景品があるとより楽しいだろうと考えた奏が、そう口にする。するとその言葉を待っていたかのように、嬉々とした様子で茜が話し出した。
「一位にはねぇ……るー姉の一日独占権!」
(…成程。元よりそれが目的か)
瑠華は茜が昨日その独占権について話していた時、何か企んでいた事には気付いていた。それが恐らくは、独占権を皆断ったとして自分だけが独占するつもりだと予想をしていたが、どうやらそこまで悪い考えをしてはいなかったようだ。……それでも、たった一人しかその権利を持ち得ないという事は変わらないが。
茜が景品の正体を明かした事で、皆の目が鋭くなる。先程までの和気藹々とした様子は消え失せ、何処と無く部屋の気温が高くなったような気がした。
「瑠華ちゃんは了承済み?」
「…まぁ、その様な提案は既に聞いておるよ。断る理由も特に無いしのぅ」
瑠華が認めた事で、その景品が本物であることが証明される。
「これは勝たねば…」
「あ、かー姉は除外で」
「何で!?」
「るー姉をダンジョンで独占してるんだし、私達に譲るべき」
「ぐぬぬ…」
凪沙であれば食い下がるが、下の子達を例に出されれば流石に弱い。
「…じゃあ私も除外?」
「凪姉は……どうだろ」
最近になって探索者として瑠華と共にダンジョンに潜るようになった凪沙だが、その時間はまだ少ない。なので判断に困った。
「私が除外なんだから凪沙も除外!」
「むぅ…まぁ良い。これから独占出来る時間は増えるし」
今は奏が一緒だが、今後三人では無く瑠華と二人で潜る機会も増えるだろう。そう考えれば、今回除外されてもさして気にはならなかった。
「…これ負けたら流石に泣くかも」
ボソッと茜が呟いたのを、瑠華の耳だけハッキリと捉えていた。
(話さなければそのまま権利を独占出来たじゃろうに……筋を通そうとするのは律儀じゃのぅ)
実際のところ、茜もそう考えなかった訳では無い。しかしそれがもし瑠華にバレた時、幻滅されるのが怖かったのだ。
まぁ瑠華としてはそれも人間の持つ欲であり仕方無い事だという理解があるので、幻滅する程の事にはならないが。
だがこうして律儀に全員に機会を与えるという行為は当然の事ながら好ましいものであり、瑠華からの好感度は上がっていたので無駄では無かったりする。
「結果がどうなる事やら…」
別にたった一人だけと言わず全員それぞれと一日過ごしても構わないのだが、それを今口にする事は無い。その理由は今の空気感を壊したくないから……だけでは無い。
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