74 / 105
74話
しおりを挟む
遊園地と水族館に遊びに行ってから早数日。その日瑠華と奏の姿はダンジョン協会にあった。その目的は、凪沙の探索者試験を見守る為だ。
「これで凪沙も探索者かぁ…」
「不満かえ?」
「不満というより心配。凪沙は結構無理するところあるし、瑠華ちゃんの前だと尚更その傾向が強いから…」
いがみ合う事も多い二人だが、奏は歳上として意外にも凪沙の事を良く見ていた。だからこその心配である。
そしてその奏の心配は、瑠華も理解出来るものであった。
「その点妾達がしゃんとせねばなるまいな」
「だねぇ…」
因みにまだ探索者規定の年齢に達していないはずの凪沙が、年齢を偽って試験を受ける事に問題が無いかと問われれば、勿論問題がある。しかし実際のところ二歳程度は誤差であるとも考えられており、露呈しても注意程度で済む事が多い。
そういった事情から、瑠華は試験を受ける事を凪沙に許可していた。
(まぁ万が一の場合は、妾が保護者として責任を取れば良い話じゃな)
凪沙の保護者として書類には瑠華の名が刻まれている。問題が起きれば責任はそちらに向くので、凪沙が責任を問われる事は無いだろう。
「瑠華お姉ちゃん!」
「おっと…無事合格したようじゃの」
「うんっ!」
走って飛び付いてきた凪沙をふわりと受け止めつつ、その嬉しげな様子から合格したのだと知る。…まぁそもそも落ちる確率の方が低いのだが。
「おめでと凪沙。それで武器は何にしたの?」
「瑠華お姉ちゃん達が近距離だから、弓にしたの」
「弓か…中々癖の強いものを選んだのぅ」
弓は見た目程簡単な武器では無い。矢は風の影響などで軌道が逸れる事が多く、狙った場所を射抜くのは至難の業である。更にその性質から味方の援護をする場合も誤射する可能性が高く、ソロで動くには力不足だがパーティーを組むと戦いづらいという何ともな評価を受けている武器である。
「銃も使ってみたけど、反動が強かったから…」
「ふむ…まぁ何事も慣れる事からじゃな。凪沙の武器を見て、そのままダンジョンにて慣らしを行うかの」
「うん」
「私達も遠距離支援を考えた立ち回りを練習しなきゃね」
「そうじゃな」
支援を考えず動く場合と、支援がある事を前提にして動く場合は、立ち回りや意識がかなり異なる。なので今まで通りの動きでは凪沙が上手く動けないだろう。
ダンジョン協会を後にして向かうは、瑠華達も武器を購入する時に利用したショッピングモールである。
「凪沙の武器だけじゃなくて装備もあるといいかな?」
「補助具があるならばあった方が良いじゃろうな」
弓は弦を引くという行為を繰り返す関係上、指や腕を酷使する。それらを補助する装備があれば、初心者である凪沙でも戦いやすいだろう。
「…いいの?」
「かなり稼げておるからの。資金の心配は無用じゃ」
「…ありがと」
元々【柊】の懐事情を知っていた凪沙はそんなに自分に使っても良いのかと眉を下げたが、瑠華からの言葉を聞いて安堵した表情を浮かべた。
そうして武器を販売する店舗に辿り着いた訳だが、ここで瑠華がある事に気付く。
「……スポンサー契約をしておるのに、一般販売されておる武器を使うのは有りなのかえ?」
「あっ……どうなんだろ…」
瑠華達は【八車重工業】とスポンサー契約を結んでいる。瑠華達が使っている武器も当然スポンサーから提供されたものであり、今後配信に映るであろう凪沙も同じようにすべきでは無いのかと今更ながら思い至った。
「…ちょっと聞いてみるね」
分からなければ聞いてみるの精神で、スマホ片手に奏が少し離れ雫に電話を掛ける。その間に瑠華が話があるとして凪沙を手招きして近くに呼んだ。
「弓は消耗品である矢を多く使う。じゃから凪沙にはあるスキルを獲得する事を目指してもらいたいのじゃが、構わんかえ?」
「ん? 瑠華お姉ちゃんがそう言うなら別に良いよ?」
「…そうか。ではそのスキルについてじゃが―――――」
そうして瑠華がスキルについて詳しく説明している間に、電話を終えた奏が戻って来た。
「どうじゃった?」
「一応使う分には構わないって。でも提供は早めにしたいから、凪沙の詳しい情報を後で送って欲しいってさ」
「色々と手を回してくれておるようじゃの。また雫に感謝せねばな」
「そうだねぇ…」
雫にはこれまで色々とお世話になっている為、そろそろ言葉だけではなく何かしら形として返礼を考えるべきだろうと瑠華は思う。
「じゃあ今回は初心者用の弓買おっか」
「木の弓では無く機械式の弓…コンパウンドボウと言うのじゃったか? それが初心者に適しているそうじゃが…決めるのは凪沙じゃ。どれが良い?」
「んー……」
多くの弓が並んだ商品ケースの前で思案する。瑠華の言う通り軽く扱い易いコンパウンドボウは初心者向けだ。しかしそうしたダンジョンに関する技術を用いず、現代技術のみによって作られた武器には少しばかり不味い特徴がある。
それは、そういった武器を使うとスキルを得にくいというものだ。原因は不明、というよりそもそもその様な特徴がある事すら知られていない。知っているのは“見える”瑠華だけだ。
(武器と使用者が一体化する事。それがスキルを得る条件であり、その為には武器にも魔力が宿っていなければならん。魔力を見る者でなければ、これに気付く事はなかろうな)
この事は凪沙には伝えていない。そうした余計な情報で選択を迷わせたくはなかったのだ。
「…じゃあ、これ」
じっくり吟味して凪沙が選んだのは、艶やかな木目が美しい弓だった。瑠華の“龍眼”から見ても、凪沙と波長は大分合っているように思われる。
「良い物を選んだな」
「そうなの? 結局直感だったんだけど」
「直感が最も正しい選択な時もある。今回は当たりじゃったな」
「ん…大事にする」
「あー…」
その言葉に奏が気まずげな声を零す。なにせ今回選んだ武器は数回しか使う予定がないのだから。
(……よし、しずちゃんに相談しよ)
何でもかんでも尋ねるのは迷惑だと思いつつも、結局それ以外に考えが浮かばないのだから仕方が無いと奏は思うのだった。
「これで凪沙も探索者かぁ…」
「不満かえ?」
「不満というより心配。凪沙は結構無理するところあるし、瑠華ちゃんの前だと尚更その傾向が強いから…」
いがみ合う事も多い二人だが、奏は歳上として意外にも凪沙の事を良く見ていた。だからこその心配である。
そしてその奏の心配は、瑠華も理解出来るものであった。
「その点妾達がしゃんとせねばなるまいな」
「だねぇ…」
因みにまだ探索者規定の年齢に達していないはずの凪沙が、年齢を偽って試験を受ける事に問題が無いかと問われれば、勿論問題がある。しかし実際のところ二歳程度は誤差であるとも考えられており、露呈しても注意程度で済む事が多い。
そういった事情から、瑠華は試験を受ける事を凪沙に許可していた。
(まぁ万が一の場合は、妾が保護者として責任を取れば良い話じゃな)
凪沙の保護者として書類には瑠華の名が刻まれている。問題が起きれば責任はそちらに向くので、凪沙が責任を問われる事は無いだろう。
「瑠華お姉ちゃん!」
「おっと…無事合格したようじゃの」
「うんっ!」
走って飛び付いてきた凪沙をふわりと受け止めつつ、その嬉しげな様子から合格したのだと知る。…まぁそもそも落ちる確率の方が低いのだが。
「おめでと凪沙。それで武器は何にしたの?」
「瑠華お姉ちゃん達が近距離だから、弓にしたの」
「弓か…中々癖の強いものを選んだのぅ」
弓は見た目程簡単な武器では無い。矢は風の影響などで軌道が逸れる事が多く、狙った場所を射抜くのは至難の業である。更にその性質から味方の援護をする場合も誤射する可能性が高く、ソロで動くには力不足だがパーティーを組むと戦いづらいという何ともな評価を受けている武器である。
「銃も使ってみたけど、反動が強かったから…」
「ふむ…まぁ何事も慣れる事からじゃな。凪沙の武器を見て、そのままダンジョンにて慣らしを行うかの」
「うん」
「私達も遠距離支援を考えた立ち回りを練習しなきゃね」
「そうじゃな」
支援を考えず動く場合と、支援がある事を前提にして動く場合は、立ち回りや意識がかなり異なる。なので今まで通りの動きでは凪沙が上手く動けないだろう。
ダンジョン協会を後にして向かうは、瑠華達も武器を購入する時に利用したショッピングモールである。
「凪沙の武器だけじゃなくて装備もあるといいかな?」
「補助具があるならばあった方が良いじゃろうな」
弓は弦を引くという行為を繰り返す関係上、指や腕を酷使する。それらを補助する装備があれば、初心者である凪沙でも戦いやすいだろう。
「…いいの?」
「かなり稼げておるからの。資金の心配は無用じゃ」
「…ありがと」
元々【柊】の懐事情を知っていた凪沙はそんなに自分に使っても良いのかと眉を下げたが、瑠華からの言葉を聞いて安堵した表情を浮かべた。
そうして武器を販売する店舗に辿り着いた訳だが、ここで瑠華がある事に気付く。
「……スポンサー契約をしておるのに、一般販売されておる武器を使うのは有りなのかえ?」
「あっ……どうなんだろ…」
瑠華達は【八車重工業】とスポンサー契約を結んでいる。瑠華達が使っている武器も当然スポンサーから提供されたものであり、今後配信に映るであろう凪沙も同じようにすべきでは無いのかと今更ながら思い至った。
「…ちょっと聞いてみるね」
分からなければ聞いてみるの精神で、スマホ片手に奏が少し離れ雫に電話を掛ける。その間に瑠華が話があるとして凪沙を手招きして近くに呼んだ。
「弓は消耗品である矢を多く使う。じゃから凪沙にはあるスキルを獲得する事を目指してもらいたいのじゃが、構わんかえ?」
「ん? 瑠華お姉ちゃんがそう言うなら別に良いよ?」
「…そうか。ではそのスキルについてじゃが―――――」
そうして瑠華がスキルについて詳しく説明している間に、電話を終えた奏が戻って来た。
「どうじゃった?」
「一応使う分には構わないって。でも提供は早めにしたいから、凪沙の詳しい情報を後で送って欲しいってさ」
「色々と手を回してくれておるようじゃの。また雫に感謝せねばな」
「そうだねぇ…」
雫にはこれまで色々とお世話になっている為、そろそろ言葉だけではなく何かしら形として返礼を考えるべきだろうと瑠華は思う。
「じゃあ今回は初心者用の弓買おっか」
「木の弓では無く機械式の弓…コンパウンドボウと言うのじゃったか? それが初心者に適しているそうじゃが…決めるのは凪沙じゃ。どれが良い?」
「んー……」
多くの弓が並んだ商品ケースの前で思案する。瑠華の言う通り軽く扱い易いコンパウンドボウは初心者向けだ。しかしそうしたダンジョンに関する技術を用いず、現代技術のみによって作られた武器には少しばかり不味い特徴がある。
それは、そういった武器を使うとスキルを得にくいというものだ。原因は不明、というよりそもそもその様な特徴がある事すら知られていない。知っているのは“見える”瑠華だけだ。
(武器と使用者が一体化する事。それがスキルを得る条件であり、その為には武器にも魔力が宿っていなければならん。魔力を見る者でなければ、これに気付く事はなかろうな)
この事は凪沙には伝えていない。そうした余計な情報で選択を迷わせたくはなかったのだ。
「…じゃあ、これ」
じっくり吟味して凪沙が選んだのは、艶やかな木目が美しい弓だった。瑠華の“龍眼”から見ても、凪沙と波長は大分合っているように思われる。
「良い物を選んだな」
「そうなの? 結局直感だったんだけど」
「直感が最も正しい選択な時もある。今回は当たりじゃったな」
「ん…大事にする」
「あー…」
その言葉に奏が気まずげな声を零す。なにせ今回選んだ武器は数回しか使う予定がないのだから。
(……よし、しずちゃんに相談しよ)
何でもかんでも尋ねるのは迷惑だと思いつつも、結局それ以外に考えが浮かばないのだから仕方が無いと奏は思うのだった。
14
お気に入りに追加
70
あなたにおすすめの小説
邪神だけど生贄の女の子が可哀想だったから一緒にスローライフしてみた
海夏世もみじ
ファンタジー
小さな村で凶作が起き、村人たちは「忌み子」として迫害している少女を邪神に差し出し、生贄にすることにした。
しかし邪神はなんと、その少女を食わずに共に最高のスローライフをすることを決意した。畑や牧場、理想のツリーハウスなど、生贄と一緒に楽しみまくる!
最強の邪神と生贄少女のまったりほのぼのスローライフ開幕ッ!
動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョンを探索する 配信中にレッドドラゴンを手懐けたら大バズりしました!
海夏世もみじ
ファンタジー
旧題:動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョン配信中にレッドドラゴン手懐けたら大バズりしました
動物に好かれまくる体質を持つ主人公、藍堂咲太《あいどう・さくた》は、友人にダンジョンカメラというものをもらった。
そのカメラで暇つぶしにダンジョン配信をしようということでダンジョンに向かったのだが、イレギュラーのレッドドラゴンが現れてしまう。
しかし主人公に攻撃は一切せず、喉を鳴らして好意的な様子。その様子が全て配信されており、拡散され、大バズりしてしまった!
戦闘力ミジンコ主人公が魔物や幻獣を手懐けながらダンジョンを進む配信のスタート!
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
神様のミスで女に転生したようです
結城はる
ファンタジー
34歳独身の秋本修弥はごく普通の中小企業に勤めるサラリーマンであった。
いつも通り起床し朝食を食べ、会社へ通勤中だったがマンションの上から人が落下してきて下敷きとなってしまった……。
目が覚めると、目の前には絶世の美女が立っていた。
美女の話を聞くと、どうやら目の前にいる美女は神様であり私は死んでしまったということらしい
死んだことにより私の魂は地球とは別の世界に迷い込んだみたいなので、こっちの世界に転生させてくれるそうだ。
気がついたら、洞窟の中にいて転生されたことを確認する。
ん……、なんか違和感がある。股を触ってみるとあるべきものがない。
え……。
神様、私女になってるんですけどーーーー!!!
小説家になろうでも掲載しています。
URLはこちら→「https://ncode.syosetu.com/n7001ht/」
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる