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67話

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 ジェットコースターを乗り終わったところで、丁度お昼を食べるのに丁度良い時間帯となった。

「ぅ……」  

「…凪沙よ、苦手ならば何故乗ろうとしたのじゃ」

 そして凪沙はまたしても瑠華の膝枕のお世話になっていた。実はあまり三半規管が強くない凪沙なのである。
 それでもなおジェットコースターに乗りたがったのは、一重に瑠華と二人乗りしたかったからでしかない。

「大丈夫ですか…?」

「ん…大丈夫じゃない」

 その言葉とは裏腹に、凪沙の顔は大分緩んでいる。凪沙にとって現状はご褒美でしかないので、酔ったとしてもそれはそれで有りだった。

「昼はどうするかのぅ?」

「んー…紫乃お姉ちゃんが決めて」

「私ですか? そう、ですね…」

「これを使うかの?」

 瑠華がバッグから取り出したのは、遊園地の入口で配られる園内マップだった。

「あ、ありがとうございます」

 マップを広げて園内のレストランを吟味する。そこにメニューに関する詳しい内容は載っていないが、どういうジャンルかは分かる。

「凪沙さんが辛そうですし、軽い物が良いですよね?」

「そうじゃのう…」

「私は大丈夫。ちゃんと食べたい」

「そうですか? なら…こちらはどうでしょうか?」

 紫乃がマップの一点を指差す。それは室内に大きな飲食スペースがあるタイプのレストランだった。凪沙が休むのであればうってつけの場所だろう。

「うむ、良いぞ」

「私もそこでいい」

「なら決まりですね」

 凪沙が起き上がると、自然な動作で瑠華の手を握る。その遠慮が取り払われた行動に対して、瑠華はただ苦笑を零した。

 そうして辿り着いたレストランにてそれぞれ食事を取った後、スマホで連絡を取り合って人が少ない場所に集まって班分けを変更する。

「さて…班分けを変える訳じゃが、一応聞いておくのじゃ。誰か希望はあるかの?」

「瑠華お姉ちゃんと一緒が良い!」

「私も!」

「…妾以外で、じゃ」

「じゃあなーい」

「………」

「好かれておりますねぇ…」

 その満場一致具合に思わず紫乃が呆れ顔になってしまう。

「…まぁ良い。好きな物を選ぶのじゃ」

 そうして【柊】でも作った呪符を配って班分けを行えば、瑠華の確率操作もあり全員がバラバラにバラける結果となった。そして当然瑠華の元には奏の姿が。

「これぞ愛のなせる技…」

「何を言っておるのか…」

 そしてもう一人に関しては紫乃で固定されていた。流石に瑠華から離して行動させるにはまだ早いという判断である。

「という訳でこの班で午後は動く事になる。午後五時になる頃に出口付近で集合するようにするのじゃよ」

「「「はーい」」」

 瑠華の班に奏が来る事に対してある程度の文句は予想していたのだが、その思惑とは裏腹に皆結果には満足しているようだった。それに奏が思わず小首を傾げてしまう。

「…皆私に文句言うかと思った」

「だって、ねぇ?」

「もう瑠華お姉ちゃんの隣が当たり前って感じだし…」

 不満が全く無い訳では無いものの、当たり前過ぎて気にする必要が無いと感じているというのが真相である。不満を一番持つであろう凪沙に至っては、午前中同じ班だったのでまぁ良いかという気持ちだった。

「じゃあまぁ…いっか」

「皆気を付けて遊ぶようにの」

「「「はーい」」」

 パタパタとそれぞれが思い思いの場所へと駆け出していくのを見届け、奏に視線を向ける。

「それで行きたいところはあるのかえ?」

「え? あー……じゃあお化け屋敷!」

「中々予想外の所じゃの?」

 瑠華としては何処に行こうと構わないのだが、奏がお化け屋敷で驚く様子が想像出来ず、何故行きたがるのか皆目見当もつかなかった。

「私だってお化けは怖いんだよ?」

「普通は怖いのであれば行かんと思うのじゃが…」

「そうでもないんじゃないかな? 怖いからこそ、そのスリルを求める人だって居る訳だし」

 お化け屋敷だけでなく、ジェットコースターなども恐怖、つまりスリルを求めるが故に作られたアトラクションである。

(……かつて妾に挑んできた人間もそういう手合いだったのじゃろうか?)

 もしそうであるならば、恐怖をわざわざ求める為に命懸けの行為に及ぶという、人間の特殊な思考回路を理解出来るようになる機会は一生訪れそうにないなと瑠華は思う。

 兎も角反対意見も無いので、奏の希望であるお化け屋敷へと向かう事にする。その流れで自然に瑠華の手を取った奏に対して、瑠華は凪沙の性格は奏に影響を受けた結果なのではないかという考えが頭をよぎった。


「流石にお化け屋敷はそこまで人居ないね」

「やはり歩くだけのアトラクションはつまらんのじゃろ」

「そういうものかなぁ」

 順番待ちする人も殆ど居らず、直ぐに瑠華達の順番が回ってきた。
 入口の扉を開けば真っ暗な空間が広がり、瑠華はそこで重大な事実に気付いた。

(……妾、全部見えてしまうのじゃが)

 見えないという事が恐怖を倍増させる訳だが、“龍眼”を持つ瑠華にとって暗闇など意味が無いのである。

「…紫乃」

「仰りたい事は分かります。私もそうですから…」

「…そうか」

「何何? どうしたの?」

「…奏は、今視界は暗いかえ?」

「え? うん。少し先も見えないくら、い……あー……」

 そこで漸く奏も何を話していたのかに気付いたようだ。

「…切れる?」

「無理じゃな」

 何かしら魔法の効果で見えているのではなく身体的能力として見えているので、敢えて切るという事はそも不可能である。そしてそれは紫乃も同じだ。

「私は鬼人術で盲目を付ければ何とか。しかし瑠華様には効きませんし…」

「……仕方あるまい。奏、妾は目を閉じて進むでの。案内を頼めるかえ?」

「! まっかせて!」

 何やらワクワクした様子の奏に疑問符を浮かべながらも、奏と固く手を握って目を閉じる。意識すればそれすら貫通するが、逆に言えば意識しない限り視界は閉ざされたままだ。

 奏の先導の元何も見えない状態で歩みを進める。……問題があるとすれば、これのどこか楽しいのかを瑠華が理解出来ていないという事だろうか。

「ひゃあっ!?」

「……大丈夫かえ?」

「う、うん…」

 突然悲鳴が聞こえたが、瑠華は動じない。そもお化け屋敷とは暗闇からいきなりお化けが出てくる事で驚かせるものなので、視覚情報が無ければほぼ何も分からないのである。

「み゛ゃっ!?」

「聞いた事が無い悲鳴じゃのぅ…」

「瑠華ちゃんなんでそんなに余裕…ぎゃっ!?」

「凡そ女性が出して良い声では無いかと…」

「驚いてるの私だけじゃん!?」

 ……結局瑠華と紫乃は最後まで悲鳴を上げる事がなく、奏だけが喉を枯らして終わったのだった。うん、知ってた。



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