上 下
52 / 106

52話

しおりを挟む
 てんやわんやしつつも、当初の目的であるダンジョンからの脱出はボス撃破の転移陣により叶った。

 :そいやこれ発端転移罠だったわ。
 :転移罠→別ダンジョンに迷い込む→出る為に進もうとしたら救難信号受信→危なげなく救出してボス部屋直行→瞬殺して脱出←イマココ。
 :いやいやおかしいおかしい。
 :救難信号受信からの救出までは分かる。ボス部屋直行はちょっとよく分からない。
 :瑠華ちゃんだもの。
 :その言葉でいつまでも騙せると思うなwww

「という訳なんだけど、瑠華ちゃん弁明は?」

「……不発の落とし穴の罠があったのでな。それを、ちょいと利用しただけじゃよ」

「確かにTAタイムアタックでは落とし穴ショトカは利用されるけどね。普通の探索者は使わないのよ」

 サナからも追撃を受け、瑠華が言葉に詰まる。実は瑠華自身も少しやり過ぎた感覚はしていたのだ。

(いかんの…少しおるようじゃ)

「…それよりもサナに受け取って欲しい物があるのじゃが」

「露骨に話逸らしたね」

「一応元から話そうと思っていた事じゃよ。アーミーアンツからのドロップ品を受け取ってくれんかの?」

「え?」

 :あぁ成程。
 :瑠華ちゃん達が持ってても無用の長物だもんね。
 :そこら辺の法律ガチガチだからな……

「どういう事? 寧ろ私が貴方たちに渡したい物なのだけれど…」

「単純な理由じゃ。妾達では売却出来んからじゃよ」

「えっと…探索者ではあるのよね? ランクが足りないって事?」

「うむ」

「でもならなんでBランクダンジョンに…」

「別のダンジョンに潜っていた際に転移の罠に引っかかってしまっての。本来妾達はこのダンジョンに潜るつもりでは無かったのじゃよ」

「別ダンジョン転移…かなり珍しいね。でもBランクのドロップ品が売却出来ないって事はその二つ下…え、あの実力でDランク…?」

 :その反応は分かる。
 :でも実はその予想も間違ってるっていうねwww

「その様に評価して貰えるとは有難いがの。生憎妾達のランクは最も下のFランクじゃよ」

「………はぁ!?」

 瑠華から二人のランクを告げられ、その予想外のランクに開いた口が塞がらない。最早ネットのネタになりそうな程良い表情である。

 :草。
 :いやまぁそうなるわwww
 :不適当だよなぁ…
 :まぁ仕方無いんだけども。

「えっ、冗談でしょ!?」

「生憎」

「嘘じゃないんですよね」

 二人で探索者の証明証をサナへと見せる。そこに確かに刻まれたFランクの文字は、疑いようもない証拠で。

「……人材の無駄過ぎる」

 思わずサナが頭を抱えるのも、無理は無い話だった。

 :そも推薦制度すらないのはどうなん。
 :これはダンジョン黎明期に、高位の探索者に金積んだ馬鹿が居たのが原因なんだよなぁ。
 :それが協会にバレて、法律ガチガチになったのよ。

 なので現在、探索者のランクは基本飛び級が存在しない。どれだけ素質があっても、実力があっても、皆等しくFランクから一つずつ上げていくしか方法が無いのだ。

「という訳で、妾達にはこのダンジョンのドロップ品は正直必要無いのじゃよ」

「それはそうかもしれないけど…タダで受け取るなんて出来ないわよ。せめて代金は払わせて」

「ふむ……」

 至極当然な意見に、瑠華も少しばかり思考を巡らせる。金銭を得ることに対して忌避感は今更無い。だが問題はその額の大きさだ。
 Bランクダンジョンのドロップ品は、瑠華達が今まで集めてきたFランクダンジョンのドロップ品とはかなり買取価格が異なる。今回のドロップ品の数から考えて、当人同士のやり取りで受け渡すには少々大き過ぎる額になるだろう。ならば、どうするか。

「……ならば、寄付という形を取ってはくれんかの?」

「寄付?」

「うむ。妾達は【柊】という施設出身であり、今もその施設に住んでおる。そこに寄付という形を取ってもらえると有難いのじゃ」

「施設出身かぁ…分かった。じゃあそうするね。なら今度遊びに行ってもいい?」

「構わぬぞ」

 :瑠華ちゃん公認だ!
 :これは〖認識阻害〗解除対象?
 :そうじゃない? 瑠華ちゃんも信頼してそう。
 :いや一回迎え入れてから考えそう。
 :それだ。

(……この視聴者は妾の事を何だと思っているのかのぅ)

 だがそれを口には出さない瑠華である。

「じゃあ今日の配信はここまでって事で!」

「そうじゃの」

「あ、まだやってたのね。帰ったら登録しておかないと…」

「わ! ありがとうございます!」

 :サナちゃん認知か。
 :これはコラボも有りうる?
 :でもランク差あるからなぁ……

「まぁそれらはおいおいじゃな。じゃあの」

「ばいばーい!」

「……え今スマホ見てな」

 ―――――この配信は終了しました。

 :乙!
 :ばいばいwww
 :最後www

 妙な終わり方をしつつも、換金の為に東京第一ダンジョンにてドロップしたアイテムを全てサナに預け、その日は解散となった。

「では帰るかの」

「うんっ。……なんか遠くなったけど」

「まぁ仕方なかろうて」

 東京第一ダンジョンは郊外にあり、利便性が良いとは言えないダンジョンの一つだ。ここから【柊】まではバスと電車を乗り継いで一時間弱は掛かるだろう。

「あ、そうだ。帰りスーパー寄りたいな」

「ん? 何か買うものがあるのかえ?」

「うん。セロリ!」

「…………」

「瑠華ちゃん? 私実は結構怒ってるからね?」

「…………」

 凄みのある笑みで迫られ、瑠華は悟る。

 
 ――――この奏には、逆らえそうにないと。




「ふふふ…たぁっぷり用意してあげるからね♡」

「………妾明日生きておるじゃろうか」





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョンを探索する 配信中にレッドドラゴンを手懐けたら大バズりしました!

海夏世もみじ
ファンタジー
 旧題:動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョン配信中にレッドドラゴン手懐けたら大バズりしました  動物に好かれまくる体質を持つ主人公、藍堂咲太《あいどう・さくた》は、友人にダンジョンカメラというものをもらった。  そのカメラで暇つぶしにダンジョン配信をしようということでダンジョンに向かったのだが、イレギュラーのレッドドラゴンが現れてしまう。  しかし主人公に攻撃は一切せず、喉を鳴らして好意的な様子。その様子が全て配信されており、拡散され、大バズりしてしまった!  戦闘力ミジンコ主人公が魔物や幻獣を手懐けながらダンジョンを進む配信のスタート!

邪神だけど生贄の女の子が可哀想だったから一緒にスローライフしてみた

海夏世もみじ
ファンタジー
 小さな村で凶作が起き、村人たちは「忌み子」として迫害している少女を邪神に差し出し、生贄にすることにした。  しかし邪神はなんと、その少女を食わずに共に最高のスローライフをすることを決意した。畑や牧場、理想のツリーハウスなど、生贄と一緒に楽しみまくる!  最強の邪神と生贄少女のまったりほのぼのスローライフ開幕ッ!

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。 身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。 配信で明るみになる、洋一の隠された技能。 素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。 一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。 ※カクヨム様で先行公開中! ※2024年3月21で第一部完!

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

元探索者のおじいちゃん〜孫にせがまれてダンジョン配信を始めたんじゃが、軟弱な若造を叱りつけたらバズりおったわい〜

伊藤ほほほ
ファンタジー
夏休み。それは、最愛の孫『麻奈』がやって来る至福の期間。 麻奈は小学二年生。ダンジョン配信なるものがクラスで流行っているらしい。 探索者がモンスターを倒す様子を見て盛り上がるのだとか。 「おじいちゃん、元探索者なんでしょ? ダンジョン配信してよ!」 孫にせがまれては断れない。元探索者の『工藤源二』は、三十年ぶりにダンジョンへと向かう。 「これがスライムの倒し方じゃ!」 現在の常識とは異なる源二のダンジョン攻略が、探索者業界に革命を巻き起こす。 たまたま出会った迷惑系配信者への説教が注目を集め、 インターネット掲示板が源二の話題で持ちきりになる。 自由奔放なおじいちゃんらしい人柄もあってか、様々な要因が積み重なり、チャンネル登録者数が初日で七万人を超えるほどの人気配信者となってしまう。 世間を騒がせるほどにバズってしまうのだった。 今日も源二は愛車の軽トラックを走らせ、ダンジョンへと向かう。

処理中です...