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51話
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ダンジョンとは、本来壁や床は破壊することが不可能な場所である。そんな中で瑠華が五階層分も落下する穴を空けられたのは、ダンジョンの罠を利用したからだ。
ダンジョンには様々な罠の存在が確認されているが、その中でも脅威度が比較的低い罠がある。それが落とし穴だ。
落とし穴は一階層分下に落下する罠であり、階層をスキップする為に活用する探索者もいる。今回瑠華はその罠を引き寄せ、同一の場所に設置することで連続して落とし穴に掛かり続けた。その結果がボス部屋までの直通路である。
……このドラゴン、意外とはっちゃけても大丈夫そうだなと味を占めてしまったのである。
「ところでここのボスは…」
:東京第一ダンジョン五十階層のボスは…
:クイーンアンツだな。
「クイーンアンツというモンスターがボスね。クイーンアンツはアーミーアンツの総司令。つまりボス戦は取り巻きが出てくるの」
「サナさんは戦った事があるんですか?」
「一回あるけど、その時はパーティーを組んだから…」
本来ダンジョンは高難度になればなるほど、パーティーの重要性が増す。ボス戦ならば尚更だ。
敵の注目を集めるタンク。近接のアタッカー。遠距離職にサポートのヒーラー等…それらが各々の役目を果たす事で安全に安定して戦う事が出来る。
「見たところ瑠華ちゃんも奏ちゃんも前衛職。私は魔銃使いだから遠距離職。タンクが居ないのが難点ね」
「……瑠華ちゃんタンク出来る?」
「ん? しろと言われれば出来ん事も無いが…そうなると少し火力不足感が否めんぞ?」
「だよねぇ…」
「……え、サラッと流してるけどタンク出来るの?」
:それな。
:サナが不憫www
:瑠華ちゃんに慣れてないとな……
「ふむ…サナ、と言ったな」
「え、あうん…」
「奏の事を頼めるかえ?」
「瑠華ちゃん?」
「ボスモンスターの取り巻きとして出てくるのであれば、その強さは先程のアーミーアンツよりも下であろう。ならば奏の良い経験値になると思うての」
「それは、まぁ…奏ちゃんは瑠華ちゃんより実力低いの?」
「低いですよ。圧倒的なまでに」
:確かに瑠華ちゃんより低いけど十分強い。
:うん、普通に強いぞ。
:瑠華ちゃんが化け物級なだけで、Fランクにしては凄い方なんだよな。
:怯まないし冷静にスキル使えるしな。
そう、瑠華の強さが前面に出ているが、奏もランク帯から考えれば十分な実力者なのだ。
「取り巻きは二人に任せる」
「分かった」
「……私は反対だよ」
「しかしそれ以外の選択肢は無い。案ずるな、そなたらが取り巻きを片付ける迄は持たせる自信はあるのじゃ」
:持たせる(倒さないとは言ってない)。
:否定出来ないのがなぁ…
:寧ろ見たいまである。
それでもサナは不服そうだったが、それならば出来うる限り迅速に取り巻きを自分が片付ければ済む話だと無理矢理納得させた。
瑠華がボス部屋の扉に手を掛けると、ギギィ…と音を立ててその扉が開かれる。その先に待ち構えていたのは、瑠華達が相対したアーミーアンツよりも二回りは巨大な身体を持つモンスター。
「さて。お手並み拝見といこうかの」
小手調べとばかりに瑠華が飛び出し、薙刀を構える。するとその巨体からは想像もできないほどの軽快な動きで、クイーンアンツが後ろへと跳んだ。
「あの子一人でクイーン退かせてるんだけど…」
「瑠華ちゃんなので」
:瑠華ちゃんだもの。
:草。
カチカチとクイーンアンツが顎の牙を打ち鳴らすと、地面から数体のアーミーアンツが現れる。それらはクイーンに近い瑠華へと一斉に襲い掛かったが、冷静に瑠華は奏達の方へと下がる事でそれを躱した。
「奏」
「りょーかい!」
追撃してきたアーミーアンツの最初の一体にターゲットを絞り、瑠華がその身体を薙刀で搗ち上げる。その落下地点に待ち構えていたのは、奏だ。
「――〖魔刀・断絶〗!」
納刀状態でスキルを発動。落ちてくるアーミーアンツを見据え、[身体強化]を発動しつつ抜刀。狙うは頭と胴の間。
「せいっ!」
:おおっ!
:切れた!
:…いやいやいやwww
:奏ちゃんも十分おかしいwww
:なんでタイミング合わせられるんだwww
「瑠華ちゃん切れたよっ!」
「そうか。ならば任せる」
「うんっ!」
奏の実力でも刃が通る事が確認出来た事で、瑠華が取り巻きを放置してクイーンアンツへと単身突っ込む。
「…私の仕事は?」
:それな。
:瑠華ちゃんに向かおうとする取り巻きのヘイト取りとかぐらいだろうね。
サナにはコメントが見えてはいないが、それでもこのダンジョンにソロで潜るだけの実力者。瑠華に向かおうとする取り巻きのヘイトを引き付けるというのは、ちゃんと思い付いていた。
「サナさんっ!」
「[魔弾・水撃]!」
魔銃にはそれ専用のスキルが存在している。[魔弾・~]という系統の名前が付いており、基本的な性能は属性付与だ。他には弾の形状や性質を変更するものもある。
そんなスキルによって放たれた水属性の魔弾が、奏を横から襲おうとしてきたアーミーアンツの頭を撃ち抜いた。その威力に、サナが目を見開く。
「一撃、か…アーミーアンツが弱いのか、瑠華ちゃんの魔改造がヤバいのか…」
:草。
:威力は上がってないって言ってたから…
:でもロスが減れば必然威力も上がるんじゃ…
:あ……
まぁ、そういう事である。
「かったいなぁ…っ!」
「って言いつつもちゃんと切ってるあの子ヤバくない?」
:ヤバい。
:ヤバい。
:そして流石配信者。ちゃんとカメラ目線だ。
:それな。
そうして二人がわちゃわちゃ取り巻きと戯れている間、瑠華はというと――――
「―――まぁこの程度じゃろうな」
「ギ、ギギ…」
瑠華は今回、魔法を封印して薙刀のみで立ち回っていた。これは瑠華なりの特訓の一環である。
しかし魔法を封印したとしても、その薙刀の斬れ味は変わらない。前脚で防御しようとしたその脚ごと切り裂き、受け止めようとした顎の牙も今やその役割を失っていた。クイーンアンツも瑠華が圧倒的な強者である事を認め、既に戦意を喪失した様子だ。
「瑠華ちゃん終わった!」
「む……予想より早かったのぅ」
「貴方に直してもらった魔銃のおかげね。で…そのクイーンもう瀕死よね?」
:わぁ…
:ボッコボコwww
:気付いてるか? これで魔法一切使って無かったんだぜ。
:ヤバぁい。
「宣言通り持たせたであろう?」
「そうだけどそうじゃない」
:持たせた(ボコボコにしておいた)。
:持たせた(ボスの体力を)。
:草。
:サナちゃんがツッコミに回ってるwww
「瑠華ちゃん私やっていい?」
「ん? 良いぞ」
瑠華が場所を譲り、奏がクイーンアンツの前に出る。すると本能として奏が格下である事が分かるのか、クイーンアンツが失っていたはずの戦意を取り戻す。しかし全ての脚を失っている状態な上、蟻酸も口が潰されており攻撃手段が無い。―――要するに、今のクイーンアンツはただの的でしかないのだ。
:ひでぇ…
:まじで瑠華ちゃんボコボコにしてたんやなって…
「えっと…確か…」
そんな状況だからこそ、奏も落ち着いて何かを確認する事が出来ていた。
「………『カゼ、マトウ』」
:ん?
:呪文?
日本語では無い、そもそも言語かどうかも怪しい言葉が奏の口から紡がれる。
「はぁぁっ!」
掛け声と共に抜刀。しかしその振り抜かれた刃は、クイーンアンツに届いていない。
「空振り…?」
「……いや」
息を荒くする奏が膝を着いたのと同時に、クイーンアンツの身体がズレた。
「は…っ!?」
:えぇ!?
:なぁにこれぇ…
:おい誰だ奏ちゃんが瑠華ちゃんより実力低いって言ったやつ。
「奏」
「瑠華、ちゃん…」
「良く頑張ったのぅ」
先程の攻撃による疲労からかへたり込む奏に瑠華が近付き、柔らかな笑みを浮かべてその頭を撫でる。
「えへへ……」
:あっ…
:てぇてぇ…
:もうこれ見れただけで他どうでもいいや…
:おかしいな、さっきまで時間との勝負みたいな雰囲気だったのに……
:このチャンネル温度差凄いの最早お家芸。
:それな。
ダンジョンには様々な罠の存在が確認されているが、その中でも脅威度が比較的低い罠がある。それが落とし穴だ。
落とし穴は一階層分下に落下する罠であり、階層をスキップする為に活用する探索者もいる。今回瑠華はその罠を引き寄せ、同一の場所に設置することで連続して落とし穴に掛かり続けた。その結果がボス部屋までの直通路である。
……このドラゴン、意外とはっちゃけても大丈夫そうだなと味を占めてしまったのである。
「ところでここのボスは…」
:東京第一ダンジョン五十階層のボスは…
:クイーンアンツだな。
「クイーンアンツというモンスターがボスね。クイーンアンツはアーミーアンツの総司令。つまりボス戦は取り巻きが出てくるの」
「サナさんは戦った事があるんですか?」
「一回あるけど、その時はパーティーを組んだから…」
本来ダンジョンは高難度になればなるほど、パーティーの重要性が増す。ボス戦ならば尚更だ。
敵の注目を集めるタンク。近接のアタッカー。遠距離職にサポートのヒーラー等…それらが各々の役目を果たす事で安全に安定して戦う事が出来る。
「見たところ瑠華ちゃんも奏ちゃんも前衛職。私は魔銃使いだから遠距離職。タンクが居ないのが難点ね」
「……瑠華ちゃんタンク出来る?」
「ん? しろと言われれば出来ん事も無いが…そうなると少し火力不足感が否めんぞ?」
「だよねぇ…」
「……え、サラッと流してるけどタンク出来るの?」
:それな。
:サナが不憫www
:瑠華ちゃんに慣れてないとな……
「ふむ…サナ、と言ったな」
「え、あうん…」
「奏の事を頼めるかえ?」
「瑠華ちゃん?」
「ボスモンスターの取り巻きとして出てくるのであれば、その強さは先程のアーミーアンツよりも下であろう。ならば奏の良い経験値になると思うての」
「それは、まぁ…奏ちゃんは瑠華ちゃんより実力低いの?」
「低いですよ。圧倒的なまでに」
:確かに瑠華ちゃんより低いけど十分強い。
:うん、普通に強いぞ。
:瑠華ちゃんが化け物級なだけで、Fランクにしては凄い方なんだよな。
:怯まないし冷静にスキル使えるしな。
そう、瑠華の強さが前面に出ているが、奏もランク帯から考えれば十分な実力者なのだ。
「取り巻きは二人に任せる」
「分かった」
「……私は反対だよ」
「しかしそれ以外の選択肢は無い。案ずるな、そなたらが取り巻きを片付ける迄は持たせる自信はあるのじゃ」
:持たせる(倒さないとは言ってない)。
:否定出来ないのがなぁ…
:寧ろ見たいまである。
それでもサナは不服そうだったが、それならば出来うる限り迅速に取り巻きを自分が片付ければ済む話だと無理矢理納得させた。
瑠華がボス部屋の扉に手を掛けると、ギギィ…と音を立ててその扉が開かれる。その先に待ち構えていたのは、瑠華達が相対したアーミーアンツよりも二回りは巨大な身体を持つモンスター。
「さて。お手並み拝見といこうかの」
小手調べとばかりに瑠華が飛び出し、薙刀を構える。するとその巨体からは想像もできないほどの軽快な動きで、クイーンアンツが後ろへと跳んだ。
「あの子一人でクイーン退かせてるんだけど…」
「瑠華ちゃんなので」
:瑠華ちゃんだもの。
:草。
カチカチとクイーンアンツが顎の牙を打ち鳴らすと、地面から数体のアーミーアンツが現れる。それらはクイーンに近い瑠華へと一斉に襲い掛かったが、冷静に瑠華は奏達の方へと下がる事でそれを躱した。
「奏」
「りょーかい!」
追撃してきたアーミーアンツの最初の一体にターゲットを絞り、瑠華がその身体を薙刀で搗ち上げる。その落下地点に待ち構えていたのは、奏だ。
「――〖魔刀・断絶〗!」
納刀状態でスキルを発動。落ちてくるアーミーアンツを見据え、[身体強化]を発動しつつ抜刀。狙うは頭と胴の間。
「せいっ!」
:おおっ!
:切れた!
:…いやいやいやwww
:奏ちゃんも十分おかしいwww
:なんでタイミング合わせられるんだwww
「瑠華ちゃん切れたよっ!」
「そうか。ならば任せる」
「うんっ!」
奏の実力でも刃が通る事が確認出来た事で、瑠華が取り巻きを放置してクイーンアンツへと単身突っ込む。
「…私の仕事は?」
:それな。
:瑠華ちゃんに向かおうとする取り巻きのヘイト取りとかぐらいだろうね。
サナにはコメントが見えてはいないが、それでもこのダンジョンにソロで潜るだけの実力者。瑠華に向かおうとする取り巻きのヘイトを引き付けるというのは、ちゃんと思い付いていた。
「サナさんっ!」
「[魔弾・水撃]!」
魔銃にはそれ専用のスキルが存在している。[魔弾・~]という系統の名前が付いており、基本的な性能は属性付与だ。他には弾の形状や性質を変更するものもある。
そんなスキルによって放たれた水属性の魔弾が、奏を横から襲おうとしてきたアーミーアンツの頭を撃ち抜いた。その威力に、サナが目を見開く。
「一撃、か…アーミーアンツが弱いのか、瑠華ちゃんの魔改造がヤバいのか…」
:草。
:威力は上がってないって言ってたから…
:でもロスが減れば必然威力も上がるんじゃ…
:あ……
まぁ、そういう事である。
「かったいなぁ…っ!」
「って言いつつもちゃんと切ってるあの子ヤバくない?」
:ヤバい。
:ヤバい。
:そして流石配信者。ちゃんとカメラ目線だ。
:それな。
そうして二人がわちゃわちゃ取り巻きと戯れている間、瑠華はというと――――
「―――まぁこの程度じゃろうな」
「ギ、ギギ…」
瑠華は今回、魔法を封印して薙刀のみで立ち回っていた。これは瑠華なりの特訓の一環である。
しかし魔法を封印したとしても、その薙刀の斬れ味は変わらない。前脚で防御しようとしたその脚ごと切り裂き、受け止めようとした顎の牙も今やその役割を失っていた。クイーンアンツも瑠華が圧倒的な強者である事を認め、既に戦意を喪失した様子だ。
「瑠華ちゃん終わった!」
「む……予想より早かったのぅ」
「貴方に直してもらった魔銃のおかげね。で…そのクイーンもう瀕死よね?」
:わぁ…
:ボッコボコwww
:気付いてるか? これで魔法一切使って無かったんだぜ。
:ヤバぁい。
「宣言通り持たせたであろう?」
「そうだけどそうじゃない」
:持たせた(ボコボコにしておいた)。
:持たせた(ボスの体力を)。
:草。
:サナちゃんがツッコミに回ってるwww
「瑠華ちゃん私やっていい?」
「ん? 良いぞ」
瑠華が場所を譲り、奏がクイーンアンツの前に出る。すると本能として奏が格下である事が分かるのか、クイーンアンツが失っていたはずの戦意を取り戻す。しかし全ての脚を失っている状態な上、蟻酸も口が潰されており攻撃手段が無い。―――要するに、今のクイーンアンツはただの的でしかないのだ。
:ひでぇ…
:まじで瑠華ちゃんボコボコにしてたんやなって…
「えっと…確か…」
そんな状況だからこそ、奏も落ち着いて何かを確認する事が出来ていた。
「………『カゼ、マトウ』」
:ん?
:呪文?
日本語では無い、そもそも言語かどうかも怪しい言葉が奏の口から紡がれる。
「はぁぁっ!」
掛け声と共に抜刀。しかしその振り抜かれた刃は、クイーンアンツに届いていない。
「空振り…?」
「……いや」
息を荒くする奏が膝を着いたのと同時に、クイーンアンツの身体がズレた。
「は…っ!?」
:えぇ!?
:なぁにこれぇ…
:おい誰だ奏ちゃんが瑠華ちゃんより実力低いって言ったやつ。
「奏」
「瑠華、ちゃん…」
「良く頑張ったのぅ」
先程の攻撃による疲労からかへたり込む奏に瑠華が近付き、柔らかな笑みを浮かべてその頭を撫でる。
「えへへ……」
:あっ…
:てぇてぇ…
:もうこれ見れただけで他どうでもいいや…
:おかしいな、さっきまで時間との勝負みたいな雰囲気だったのに……
:このチャンネル温度差凄いの最早お家芸。
:それな。
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