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45話

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「さて、話は変わるが先程の戦闘について少し話そうかの。奏が最初に選択した二手に分かれるという行動は、一つの有効な戦術じゃ」

「挟撃って事だよね?」

「うむ。それ自体は間違った選択では無い。じゃがその共が美影であるのならば、極めて有効になりうる他の手も存在するのじゃよ」

「他の手?」

「美影は影に潜むことが出来る存在じゃ。つまり接敵するまで奏の影に潜む事で、鍔迫り合いになったところで飛び出し、相手の意表を突くという戦法が可能じゃ」

「成程…じゃあ美影がそのまま敵の影に移動して後ろから襲うのは?」

「出来なくは無いが……今の奏の魔力量では不可能じゃろうな」

「あれ? 私の魔力が必要なの?」

「従魔の能力は主に依存するでの。保有する魔力は別々じゃが、その上限は同じじゃ。そして主である奏の影に潜る場合は魔力消費が無い故に長時間潜れるが、他の者であればそうはいかん」

「ほえぇ~…」

 :勉強になる。
 :テイマーって結構珍しいからな。
 :影に潜るのも便利じゃないのね。
 :瑠華ちゃんがこんだけ詳しいのは、やっぱり前に契約した事あるから?

「そうじゃのう…彼奴は美影と同じ様な特性を持っておったのでな」

「あー…だから瑠華ちゃんの影に潜るのは駄目なんだね? 先客が居るから」

「いや、今は居らん」

「え…?」

「繋がりは未だ保持されておるが、今は妾の影に居らんのじゃ。今頃何処をほっつき歩いているのやら……」

「えぇ…」

 :草。
 :自由な従魔だなぁ…
 :死んでは無いんだね。

「死んでおらぬよ。それに彼奴は殺そうとしてもまず死なんじゃろ」

「?」

「美影と同じ様な特性を持っておると言ったじゃろ。彼奴には物理攻撃は効かんし、美影以上に魔法に耐性がある。生半可な攻撃ではかすり傷一つ付くまい」

「わぁ…」

 :流石瑠華ちゃんの従魔。規格外。
 :そして瑠華ちゃんはそれに一度勝ったのか…
 :さす瑠華。

「妾の話はここまでにして、先を急ぐのじゃ」

「あ、そうだね。美影、また先頭よろしく」

「ガウッ」

 反省会兼雑談を終え、同じ陣形で森を進む。瑠華から提案された戦法も試してみたいが、このフロアでは実力不足感が否めない故に手数の方が重要だと結論付けた。
 瑠華もそれに関しては何も言わないので、取り敢えずは大丈夫という事なのだろうと判断する。

 そうして少し進んでいると、ふと先行していた美影が立ち止まる。

「どうしたの?」

「グルゥ…」

 警戒感を滲ませる美影が睨むその先には、木の枝に作られた小さな蜘蛛の巣が。

「蜘蛛の巣?」

「……奏、下がっておれ」

「瑠華ちゃん?」

 何の変哲もない蜘蛛の巣かと思いきや、突然瑠華が警戒する。その事に不安になりながらも、言われた通り瑠華の後ろへと下がる。

「美影、奏を護れ」

「ガウッ!」

 :何だ何だ?
 :蜘蛛の巣?
 :普通の虫が作った…訳無いよな。
 :でも蜘蛛系のモンスターは出現しないはず…

 瑠華が静かに魔力を広げ、辺りの状況を確認する。これは瑠華の魔力制御と感知能力が極めて高いからこそ出来る芸当だ。

 魔力感知能力が高い場合、広げた自らの魔力から情報を得ることが出来る。これを利用したスキルとして[魔力探知]というものが存在するが…瑠華の場合はスキルを使うよりも自前で魔力を広げて感知した方が精度が高い。なので使った試しがないスキルの一つだ。

「……囲まれておるな」

 そうして探知した結果、既に包囲されているという事が分かった。
 瑠華が呟いた瞬間に一陣の風が吹き、木の葉が擦れる音に紛れたカチカチと硬い何かを打ち付ける音が耳に届く。

「ギャギャ…ッ」

 その時。蜘蛛の巣がある木の奥から現れたのは、一体のゴブリン。瑠華達に対して敵意は持っているように見えるものの、何処か様子がおかしい。

「ゴブリン…?」

「……最悪の相手じゃ」

 :ゴブリンが最悪?
 :瑠華ちゃんなら問題無いと思うけど…
 :いや待てこれは…
 :俺見た事あるぞ、この動き。

 カクカクとした動きで近付いてくるゴブリンに対して、瑠華が氷の矢を放つ。すると氷の矢が眉間に突き刺さった瞬間、何かがゴブリンから飛び出した。

「舐めるな」

 肉眼では目視が困難な程小さなソレに対して、瑠華が薙刀を迷い無く振るう。そして両断した破片を小規模な炎で燃やし尽くした。

「えっ、何!?」

 :さっきの瑠華ちゃんの声ゾワッてした…
 :なんも見えんかった。
 :なんでコイツがこんなとこいるの!?
 :有識者!

「…瑠華ちゃん?」

「……此奴はパペットスパイダーと呼ばれるモンスターじゃ」

「パペット…?」

 :Bモンスターじゃねぇか!
 :なんでそんな奴が渋谷ダンジョンに?

 パペットスパイダー。それはBランクに指定されているモンスターである。その特徴は、なんと言っても“操る”能力を持つ事だ。

 複数体のが吐き出す極細の糸を利用して、まるで操り人形の様に対象を意のままに操る。それがパペットスパイダーと呼ばれるモンスターであり……その操る対象には人間も含まれるというのが問題なのだ。

「今の奏では抵抗出来ん。無茶をするでないぞ?」

「う、うん…」

「その点美影は操られる心配が無いでの。この場合は護衛として最適じゃ」

 :確かに。
 :操るモンスターなんているのか…
 :洗脳系じゃないだけマシ。
 :膂力があれば引きちぎれるからね。

「さて…どうにもパペットスパイダーは十体ほど居るようじゃ」

「さっき瑠華ちゃんが倒したのに?」

「あれは本体では無い」

 :本体?
 :パペットスパイダーは分体を使って襲って来るからね。そういう所も名前の由来なんだよ。
 :本体倒すと分体も死ぬんだけど、逆に本体倒すまで無限に出てくるから……

「故に普通の対応をするのであれば、多少骨が折れる相手じゃ」

「うぇぇ…」

「……まぁ、時間を掛けるつもりなど端から無いがの」

 展開していた魔力によって、既に包囲は完了している。瑠華であれば、この魔力を通じて一網打尽にするのも難しくは無い。あとは、使う魔法をどうするかだ。

「ふむ…今回は少し意想を変えてみようかのぅ」

「瑠華ちゃん?」

「よく見ておれ、奏」

 くるりと手にした薙刀を回転させ、その刃を地面へと突き刺す。その瞬間刺さった場所を起点として、青白い光を放つ巨大な魔法陣が展開された。

「――――《我が命ず》《白き雪華の輝きよ》《その力を示せ》《死よりも静かに》《白き絶望を》《黒き殺意を》《凍れ》《凍れ》《凍れ》《拒絶する冷たさをここに》《不断に凍る獄よ》《全てを閉ざせ》」

 瑠華の口から言葉が清らかに紡がれ、音が響く度に魔法陣が輝き周囲の温度が急激に低下していく。

「さ、寒…っ」

 その気温の変わりように奏が自らの腕をさする。吐く息は白く、地面には霜が降り始める。
 そして――――………












「………――――――《絶氷地獄コキュートス》」



 全てが、止まった。









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