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44話

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 配信のオープニングもそこそこに、遂にダンジョンの攻略を始める。

「じゃあ美影! 出て来て!」

 奏がそう呼びかけると、するりと影から美影が飛び出して奏の胸元へと飛び込んだ。

「わっ! えへへ~」

「ワウッ!」

 :美影ちゃん!
 :可愛い。
 :最早犬じゃんwww
 :懐いてるなぁ。

「美影との連携はまだ練習しておらんかったのう。最初はそれをしてみるかえ?」

「そだね。美影頑張ろ!」

「ワウッ」

 :渋谷ダンジョンの一階層って何出るん?
 :ウルフだな。

 Fランクダンジョンでは最下層に居るモンスターが、ここでは最初のモンスターとなっているのだ。

「今の奏ならば苦戦はせんじゃろう」

「瑠華ちゃんからの期待が重い…」

「嫌かえ?」

「まさか」

 腰に佩いた刀を撫でる。憧れであり目標の瑠華から期待されて、嬉しくないはずがないのだ。

「じゃあ早速行ってみよー!」

「…む。奏、そこに罠があ―――」

 ―――――カチッ。

「へっ!?」

 :あっ。
 :あwww
 :瑠華ちゃんが気付いたのにwww

 何かを踏んだ音が聞こえたと思えば、その瞬間奏の足元に青白い光を放つ魔法陣が展開された。

「瑠華ちゃぁん!」

「はぁ…」

 溜息を吐きながらカメラを手繰り寄せて腕に抱え、共に魔法陣へと飛び乗る。解除自体は出来なくは無いが、ただの転移の罠である事が分かったのでそのまま共に飛ぶ事を選択した。

 そして魔法陣が一際光を放つと、瑠華達の視界がぐにゃりと歪む。一瞬の浮遊感の後に辿り着いたのは、何処かの森の中だった。

「ここは…?」

「渋谷ダンジョンの十一階層かのぅ」

 渋谷ダンジョンは洞窟型のダンジョンだが、途中からその姿を変える。その境目となっているのが十一階層であり、そこからは一つの階層が丸々森林フロアとなっている。

 :一気にここまで飛ばされたかぁ。
 :初心者なら撤退しかないけど…
 :瑠華ちゃんが居るから安心感が凄い。

「…瑠華ちゃん。ここ私でも攻略出来る?」

「……美影との連携が出来るのであれば、善戦は可能じゃろう」

「ここは何が出るの?」

「通常種のゴブリンと、ゴブリンライダーのはずじゃ」

 通常種のゴブリンとは、第三ダンジョンに居たリトルゴブリンの上位種である。単純に体格が大きくなっているだけではなく知能も比較的向上しており、武器を持つ個体がほぼになる。それに加えて耐久性も増しており、ウルフと同等かそれ以上だと言われている。

「…頑張る。美影、先行してくれる?」

「ガウッ」

 美影が前を引き受け、瑠華は後ろを警戒しながら先へと進む。森林型フロアに関しては詳しい地図が存在せず、まして今回は何処に飛ばされたのかも不明の為手探りで進むしかない。

 そして森林型フロアは、ダンジョン内部でありながら陽の光があり風が吹く。まるで外とほぼ同じ環境となっているのが最大の特徴だ。

「ピクニック出来そう」

 その朗らかな空気感にそんな事を思うが、呑気にそんな事を出来るような場所では無いと言うように敵が現れ行く手を阻んだ。

「美影は側面から仕掛けて! 瑠華ちゃんは援護。氷で出来る?」

「愚問じゃ」

「なら奥の弓持ちをお願い。前衛は私がやる!」

 テキパキと判断を下し、瑠華が放った氷の矢と共にゴブリンへと突っ込む。
 現れたのは、武器持ちのゴブリンが四体。そのうち一体が弓持ちだったが、正確な狙いで放たれた氷の矢が眉間を貫いた。これで残りは三体。

 :奏ちゃんが成長してる!
 :にしても瑠華ちゃん必中過ぎるwww
 :氷の矢って物理的に存在するから空気抵抗モロに受けるんだけど…
 :瑠華ちゃんだもの。

「はぁぁっ!」

 身に付けた魔力タンクであるネックレスから魔力を引き出し、[身体強化]を腕に掛けつつ抜刀。その速度に対応出来なかったゴブリンの胴体が、二つに分かれた。

「硬っ…!」

 切れたはいいが、その刃から伝わる重さに顔を顰める。

「ギュゲェッ!」

 汚らしい鳴き声を上げて、ゴブリンが手にした短剣を振りかぶる。

「瑠華ちゃんっ」

「っ!」

 刀を構えるには時間が足りないと判断した奏が瑠華へと呼び掛ければ、次の瞬間飛んできた半月状の水の刃がゴブリンの腕を切り飛ばした。

 :さす瑠華。
 :水も当然使えるわな。
 :発動速ぇ…
 :氷より発動早いからね。

 腕が切られた事で怯んだゴブリンの喉元へと、側面から接近していた美影が喰らい付く。
 その隙に奏が残る一体へと意識を向けるが、その姿が確認出来なかった。
 何処に行ったのかと視線を彷徨わせると、木の上からこちらへと飛び掛ってくる姿を捉えた。
 咄嗟に左腕でガードしようとするが、ゴブリンの短剣が届く前にその身体が縦に裂かれる。

「敵の位置は常に把握しておかねばならぬぞ」

「うん…ありがと」

 振り抜いた薙刀を戻しつつ瑠華が忠告する。もし瑠華が居なければ、致命傷とはいかずとも多少の怪我はしていただろう。装備があるとはいえ、刺突に対してはそこまでの防御力は期待出来ないのだから。

 まだ奏は、瑠華の隣りには立てそうにないなと実感する。

「ガウッ!」

「あ、美影もお疲れ様。頑張ったね」

「クゥン」

 尻尾を振りながら近付いてきた美影を労る。その撫でる手に甘える姿は、最早犬である。

 :可愛い。
 :可愛い…
 :犬じゃんwww
 :この絵だけ切り取ればすっごい平和な光景なんだけどなぁ……
 :それな。瑠華ちゃんが護衛みたいに見える。

「まぁ実際瑠華ちゃんに護られてるからねぇ」

「妾の役目じゃからの」

「感謝してます、ほんと」

「……奏から感謝されると違和感があるのう」

「酷!?」

 :草。
 :身近な存在ほど感謝伝えるの忘れがちだからねぇ。
 :些細な事でも感謝すると円満に過ごせるよね。

「私いつも感謝伝えてるつもりだけど…」

「有難うなどは聞くが、改まって聞くと…のぅ?」

「酷いよぉ…」

 ちょっと落ち込んだ様子の奏にクスクスと笑いを零すと、ポンポンと頭を撫でた。

「冗談じゃ。感謝の気持ちはしかと伝わっておるよ。……それに、妾は奏が笑ってくれるだけで報われるからの」

「……バカ」

 :てぇてぇ…
 :照れ隠しのバカ可愛い。
 :奏ちゃんって攻められると弱いよねwww


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