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32話
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辿り着いた安全地帯はドーム状の天井を持つ一つの部屋のようになっていた。その中心部にてレジャーシートを広げ、そこに奏が靴を脱いで寝転がる。
「…いったぁい」
:草。
:まぁ地面岩だからwww
:敷いたレジャーシート、ただのビニールだし…
「これ。寝転がっていては置けんじゃろう」
「はーい」
:瑠華ちゃんのお弁当!
:楽しみ。
「そう期待出来るようなものでも無いが…ほれ」
レジャーシートの上に乗せたのは、二段の重箱。二人分には少し多い様に思うが、余ったとしても瑠華が食べれるので特に問題は無い。
「美味しそうっ!」
蓋を開ければ卵焼きや唐揚げ、俵型のおにぎりに野菜等が所狭しと詰められていた。
:美味そう!
:やべぇ腹減ってきた…
:ザ、お弁当ってラインナップ。
「作る物が決まっている方が楽じゃからのう」
:主婦の考え方なんよ。
:でも時間無い朝に凝ったものなんて考えられないのよ…
「んー! 美味しっ!」
「奏はいつも美味しそうに食べてくれるでの。作る側のこちらとしても嬉しい限りじゃよ」
「実際美味しいからねっ! 瑠華ちゃんが作るご飯なら毎日食べたいもん!」
:おっと?
:うーん、これは…
:多分無自覚。
「みんなどうしたの?」
コメントの流れを見て奏が小首を傾げる。何かおかしな事を言っただろうか、と。
:ノーコメントで。
:てぇてぇかよ(´・ω・`)
「んー?」
「奏。これを食べ終わったら奥に進むのじゃ」
「分かった! あ、これの魔力補充は大丈夫?」
奏が服の中に仕舞っていたネックレスを取り出して瑠華に見せる。
「いや、あの程度ならば殆ど減っておらん」
「私が魔力切れになるくらいの消費は、瑠華ちゃんにとって誤差でしかない…?」
「まぁ…そうなるのう」
「うわぁ…」
:うわぁwww
:薙刀も使えて遠距離もほぼ無限って勝ち目無くない?
:奏ちゃん頑張れ。
「言われなくても頑張るよ。先ずは魔力増やさないと…」
「魔力は若いうちに増やす方が増え幅は大きい。その点魔力タンクで無理矢理魔力を消費し続けるというのは、意外と糧になるのじゃよ」
「そうなの?」
「その分身体に負担が掛かるのでの。あまり勧められた物では無いが」
:へー。
:伸び代も自己治癒能力も高い子供の間しか出来ないって事か。
:もっと早く知りたかった…
魔力タンクとは、強制的に着用者の魔力を満タンにする道具だ。
その効果を使い常にギリギリの状態を維持する事で、魔力を溜める場所を押し広げる。それが魔力タンクを用いた魔力特訓なのだが…当然の事ながら無理矢理広げる方法なので、身体に対する負担は大きい。
:俺やった事ある。
:経験者ニキ!
:マジで常に満腹状態で動く様なものだから途中で諦めたわ…
:うわ、辛そ。
「私そんなに苦しくないよ?」
「奏の場合は少し事情が異なるからの」
「……瑠華ちゃん」
「答えんぞ」
:ん?
:瑠華ちゃん何か知ってる感じ?
:異なる…教えるのも駄目?
「意味が無いからの」
「ふーん…じゃあ聞かない」
気になりはするが、瑠華が絶対に口を割らない事は知っているので聞き出すのは諦めた。どの道何時か知る事になるだろう、と。
「ご馳走様! 美味しかった!」
「お粗末様じゃ。さて、行くかの」
「うんっ!」
空になった重箱とレジャーシートを片付けて安全地帯を出る。向かう先は、決まっていた。
瑠華先導の元歩き続ける事暫く。何故か一体のウルフに会う事も無く二人は一つの巨大な扉の前で立ち止まった。
「扉…?」
「ボスモンスターの部屋じゃの」
:ボスモンスター!
:瑠華ちゃんの目的ってここか。
ボスモンスター。それはダンジョンにおいて唯一出現する場所が決まっており、何度倒しても復活するモンスターである。
基本的にボスモンスターは十階層毎に出現する事が知られており、その中でも最下層に出現するボスモンスターはダンジョンボスとも称され、極めて強力なモンスターが出現する。
:ここのダンジョンボスは……ツインウルフだっけ。
:確かそう。
「ツインウルフ?」
「頭を二つ持つウルフの事じゃよ」
「…強い?」
:まぁまぁ。
:ウルフより身体が大きいし力も強いからね。
:ただダンジョンによっては雑魚扱いで出てきたりもする。
「…まぁ、その通りであれば良いがの」
「瑠華ちゃん?」
「行くぞ」
「あっ、うん!」
何やら不穏な言葉が聞こえたような気がしたが、瑠華が扉に手を掛けたところで意識を切り替える。
(瑠華ちゃんからの試練…全力で乗り越えなきゃ意味が無い)
開かれた扉から中へと入れば、独りでに扉が閉まり部屋の明るさが増す。そしてほのかに明るくなった部屋の中心に、ソレは居た。
地面に伏せ、目を閉じる黒い姿。
:ツインウルフじゃないぞ。
しかしもう奏にコメントは届かない。
「奏」
「……うん」
道を譲った瑠華に代わって奏が前に出て、片手を刀に添える。
短く息を吐いて意識を集中。目の前の存在以外は全て排除する。
ネックレスから溢れる無尽蔵な魔力にものを言わせて、[身体強化]を全力で発動。
その魔力に気付いた存在が、目を覚ます。
:なにあれ…
:知らない…
:瑠華ちゃん…あれは…
「…あれは影狼。影そのものであり、闇に対する恐怖が具現化した存在じゃよ」
:影狼…?
:影そのものって事は、まさか…っ!
「さて奏。妾を失望させるでないぞ」
―――――――――――――
ちなみに瑠華は何もしてないです。相性悪過ぎて内心ちょっと焦ってます。
「…いったぁい」
:草。
:まぁ地面岩だからwww
:敷いたレジャーシート、ただのビニールだし…
「これ。寝転がっていては置けんじゃろう」
「はーい」
:瑠華ちゃんのお弁当!
:楽しみ。
「そう期待出来るようなものでも無いが…ほれ」
レジャーシートの上に乗せたのは、二段の重箱。二人分には少し多い様に思うが、余ったとしても瑠華が食べれるので特に問題は無い。
「美味しそうっ!」
蓋を開ければ卵焼きや唐揚げ、俵型のおにぎりに野菜等が所狭しと詰められていた。
:美味そう!
:やべぇ腹減ってきた…
:ザ、お弁当ってラインナップ。
「作る物が決まっている方が楽じゃからのう」
:主婦の考え方なんよ。
:でも時間無い朝に凝ったものなんて考えられないのよ…
「んー! 美味しっ!」
「奏はいつも美味しそうに食べてくれるでの。作る側のこちらとしても嬉しい限りじゃよ」
「実際美味しいからねっ! 瑠華ちゃんが作るご飯なら毎日食べたいもん!」
:おっと?
:うーん、これは…
:多分無自覚。
「みんなどうしたの?」
コメントの流れを見て奏が小首を傾げる。何かおかしな事を言っただろうか、と。
:ノーコメントで。
:てぇてぇかよ(´・ω・`)
「んー?」
「奏。これを食べ終わったら奥に進むのじゃ」
「分かった! あ、これの魔力補充は大丈夫?」
奏が服の中に仕舞っていたネックレスを取り出して瑠華に見せる。
「いや、あの程度ならば殆ど減っておらん」
「私が魔力切れになるくらいの消費は、瑠華ちゃんにとって誤差でしかない…?」
「まぁ…そうなるのう」
「うわぁ…」
:うわぁwww
:薙刀も使えて遠距離もほぼ無限って勝ち目無くない?
:奏ちゃん頑張れ。
「言われなくても頑張るよ。先ずは魔力増やさないと…」
「魔力は若いうちに増やす方が増え幅は大きい。その点魔力タンクで無理矢理魔力を消費し続けるというのは、意外と糧になるのじゃよ」
「そうなの?」
「その分身体に負担が掛かるのでの。あまり勧められた物では無いが」
:へー。
:伸び代も自己治癒能力も高い子供の間しか出来ないって事か。
:もっと早く知りたかった…
魔力タンクとは、強制的に着用者の魔力を満タンにする道具だ。
その効果を使い常にギリギリの状態を維持する事で、魔力を溜める場所を押し広げる。それが魔力タンクを用いた魔力特訓なのだが…当然の事ながら無理矢理広げる方法なので、身体に対する負担は大きい。
:俺やった事ある。
:経験者ニキ!
:マジで常に満腹状態で動く様なものだから途中で諦めたわ…
:うわ、辛そ。
「私そんなに苦しくないよ?」
「奏の場合は少し事情が異なるからの」
「……瑠華ちゃん」
「答えんぞ」
:ん?
:瑠華ちゃん何か知ってる感じ?
:異なる…教えるのも駄目?
「意味が無いからの」
「ふーん…じゃあ聞かない」
気になりはするが、瑠華が絶対に口を割らない事は知っているので聞き出すのは諦めた。どの道何時か知る事になるだろう、と。
「ご馳走様! 美味しかった!」
「お粗末様じゃ。さて、行くかの」
「うんっ!」
空になった重箱とレジャーシートを片付けて安全地帯を出る。向かう先は、決まっていた。
瑠華先導の元歩き続ける事暫く。何故か一体のウルフに会う事も無く二人は一つの巨大な扉の前で立ち止まった。
「扉…?」
「ボスモンスターの部屋じゃの」
:ボスモンスター!
:瑠華ちゃんの目的ってここか。
ボスモンスター。それはダンジョンにおいて唯一出現する場所が決まっており、何度倒しても復活するモンスターである。
基本的にボスモンスターは十階層毎に出現する事が知られており、その中でも最下層に出現するボスモンスターはダンジョンボスとも称され、極めて強力なモンスターが出現する。
:ここのダンジョンボスは……ツインウルフだっけ。
:確かそう。
「ツインウルフ?」
「頭を二つ持つウルフの事じゃよ」
「…強い?」
:まぁまぁ。
:ウルフより身体が大きいし力も強いからね。
:ただダンジョンによっては雑魚扱いで出てきたりもする。
「…まぁ、その通りであれば良いがの」
「瑠華ちゃん?」
「行くぞ」
「あっ、うん!」
何やら不穏な言葉が聞こえたような気がしたが、瑠華が扉に手を掛けたところで意識を切り替える。
(瑠華ちゃんからの試練…全力で乗り越えなきゃ意味が無い)
開かれた扉から中へと入れば、独りでに扉が閉まり部屋の明るさが増す。そしてほのかに明るくなった部屋の中心に、ソレは居た。
地面に伏せ、目を閉じる黒い姿。
:ツインウルフじゃないぞ。
しかしもう奏にコメントは届かない。
「奏」
「……うん」
道を譲った瑠華に代わって奏が前に出て、片手を刀に添える。
短く息を吐いて意識を集中。目の前の存在以外は全て排除する。
ネックレスから溢れる無尽蔵な魔力にものを言わせて、[身体強化]を全力で発動。
その魔力に気付いた存在が、目を覚ます。
:なにあれ…
:知らない…
:瑠華ちゃん…あれは…
「…あれは影狼。影そのものであり、闇に対する恐怖が具現化した存在じゃよ」
:影狼…?
:影そのものって事は、まさか…っ!
「さて奏。妾を失望させるでないぞ」
―――――――――――――
ちなみに瑠華は何もしてないです。相性悪過ぎて内心ちょっと焦ってます。
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