上 下
25 / 87

25話

しおりを挟む
「今回作るのは全粒粉のクッキーじゃよ」

「えと、普通のクッキーと何が違うの?」

「普通クッキーなどの菓子には薄力粉を用いるのじゃよ。全粒粉は薄力粉に比べカロリーが低く、栄養価が高いでの。普通に作るより良かろう?」

 :おぉ、カロリー低いんだ。
 :お菓子作りにも気を配るさす瑠華。

「でも美味しいの?」

「味は保証する。それに自ら作った物ならば美味しさも一入ひとしおであろう?」

 :それはあるよね。
 :初めて作った料理とかね。

「早速始めるかの。皆しっかり手は洗ったか?」

「洗ったー!」

「ではまず全粒粉を計るのじゃ。ミリ単位で調整せよとは言わんが、一、二グラム程度の誤差で済ませるようにのう」

「はーい」

「茜、皆を頼むぞ」

「任せてっ!」

 茜は瑠華から偶に料理を教えて貰っているので、食べ物を作ることには慣れている。なのでこの後の事を任せても問題は無いだろう。

 :茜ちゃん頼られてウキウキなの可愛い。
 :でもモザイク…
  
「外さないからね? 流石に小さい子達を写すのはリスクあるし」

 :それはそう。
 :奏ちゃんもしっかりしてるよね。
 :ネットリテラシーは大人でも低い人居るからな…

 茜に監督を任せ、瑠華がプリン作りに着手する。

「こちらも分量を計るかの」

「砂糖と牛乳だよね?」

「うむ。プリン液に使う分の砂糖は二百四十グラム。それと牛乳が千二百CCじゃの」

 :結構多いね。
 :分量的には…十二個くらい?

「そうじゃよ。ただ量が多すぎると失敗もしやすいのでの。半分ずつで作るのじゃ」

「りょーかい!」

 奏達がそれぞれの分量を計る傍らで、瑠華がテキパキと砂糖を用意して水と混ぜてカラメルを作り始める。

「それ何?」

「カラメルじゃよ。初心者には少し難しいからのう」

 :焦げやすいんだよね。
 :それと仕上げが危険。

「仕上げ?」

「カラメル作りは最後に水、若しくは湯を入れる必要があるのじゃが…酷く跳ねるのじゃよ」

「へぇ…なんでそんな危険な事するの?」

「温度の上昇を緩める為じゃな」

 :へーそうなんだ。
 :作った事あるけど、理由までは知らなかったな。

「料理であれ何であれ、原理を知る事はそれそのものへの理解が深まるだけでなく、楽しさも生まれる。何か気になった事があるのならば、その時に調べるのが最も良いタイミングじゃよ」

 :はーい!
 :これはママというより先生では?
 :瑠華先生…アリだな。

「まぁ呼び名はどうでも良いが……うむ。出来たぞ」

 龍眼を用いての完璧な温度管理の元、焦げも無い綺麗なカラメルが出来上がる。これぞ能力の無駄遣い。

 予め用意しておいた耐熱カップに出来上がったカラメルを均等に注ぎ入れ、次に計り終えた牛乳を鍋に入れる。

「牛乳を加熱する前に卵と砂糖をしっかり混ぜるのじゃ」

「これも半分ずつやるの?」

「そうじゃよ」

「ふむふむ。じゃあここからは私達がするね!」

「うむ。気を付けることは沸騰しないように見張る事くらいじゃよ」

「分かったっ!」

「頑張る」

 一先ず任せても大丈夫だろうと判断し、小学生組に合流する。すると既に分量は全て計り終えており、瑠華の指示待ちであった。

「ちゃんと出来たかの?」

「出来たー!」

「よし。ならば次は生地を作る作業じゃな」

 ボウルに常温に戻した無塩バターと計った砂糖を入れ、白っぽくなるまで掻き混ぜる。

「しんどいぃ…」

「交代しながら頑張るのじゃ」

 :小さい子には重労働だね。
 :常温に戻してもまぁまぁ固いからね。

 白っぽくなったら次に卵を入れて馴染ませる。

「混ぜるの多いぃ…」

「もう折り返しじゃよ。頑張れ」

 :頑張れ!
 :頑張れって言ってもこの子達見えてないけど。

「む? 確かにそうじゃの…暫し待て」

 そう言って瑠華が部屋へと戻ると、タブレットを持って下りて来た。それと奏が作ったアカウントを同期させ、子供達が見やすい位置にスタンドで立てる。

「これで見えるかの?」

「見える!」

 :ナイス瑠華ちゃん!
 :てかしれっと奏ちゃんのアカウントにアクセス出来るの草。

「奏は分かりやすいからの」

 ちなみに奏が何時も使うパスワードは『rukana』か『hiruka』である。分かり易いったらありゃしない。

 卵とバターを馴染ませると、最後に用意した全粒粉を入れて軽く泡立て器で混ぜ解し、次にゴムベラで切るように混ぜる。

「形になってきた!」

 :おおーここまでくると生地だ。
 :後は冷やし固めるの?

「そうじゃの。アイスボックスクッキーであれば棒状にして冷やすが、今回は型抜きじゃからこのまま軽く冷やしてその後に広げるぞ」

 :アイスボックスクッキー?
 :生地を棒状にして冷やし固めて、その後包丁で切って焼くクッキーだぞ。
 :簡単なんだよね、あれ。大きさも揃うし。

「本来生地を冷蔵庫で冷やすのは一時間程掛かるのじゃが…」

「えぇ~そんなに掛かるの?」

「早くやりたい!」

 待ちきれないといった様子の子供達に苦笑しつつ、纏まった生地が入ったボウルの縁に指を乗せる。

「じゃから今回は、少しばかりの狡をしようかの」

「ズル?」

 瑠華がボウルに乗せた指から魔力を流し、ボウル全体を包み込む。

「―――凍れ」

 その言葉と共に発現した魔法が一気に温度を下げ、ガラス製のボウルが白く結露した。

 :氷属性!?
 :複数属性持ちなの!?
 :マジでなんでも出来るじゃんwww

 現代において魔法というものを扱うには、その属性の“因子”が必要となる。
 因子はダンジョンに潜る事で獲得する事が出来るが、一属性の因子を獲得出来れば運が良いと言われる程に、獲得する事自体珍しいのだ。

「凄ぉぉい!」

「瑠華お姉ちゃんもっかい!」

「もう一回すれば完全に凍ってしまうからの。今回はここまでじゃ。さて、これを伸ばしていくぞ」

「瑠華ちゃぁん! 次どうするの!?」

「……茜、後を任せる」

「うんっ」

 :奏ちゃんwww
 :まぁ指示は牛乳あっためるまでだったし…

 弱火でじっくりコトコトと温めたからか時間が掛かっていたが、その甲斐あって無事沸騰させる事は無かったようだ。

「一人がプリン液を掻き混ぜながら、牛乳を注ぐのじゃ。良いか、少しずつじゃぞ」

「分かった!」

 不安はあれど瑠華が全てをやっては意味が無いので任せて、クッキーを焼くためにオーブンの余熱を始める。

 :そこはかとなく不安。
 :ま、まぁ瑠華ちゃんが見てるし…

 視聴者も何か起きるのでは無いかとヒヤヒヤしていたが、その予想を裏切り無事にプリン液を混ぜ終わった。

 その後静かに耐熱カップに均等に注ぎ入れ、深めの鍋に薄い布を敷いて、その上にカップを並べる。

「後は半分程度まで水を注ぎ火にかければ良い」

「これで放置?」

「いや、最初は中火で、湯気が出始めたら弱火に切り替える必要がある。ここは妾が見ておく故、クッキーに混ざってきてはどうじゃ?」

「じゃあそうする!」

 :マジでお母さんwww
 :見た感じ簡単だし、やってみようかな。

「む? であれば……ほれ」

 瑠華が指をスイっと振れば、突如カメラの目の前に文字が現れる。

 :ふぁっ!?
 :おぉレシピだー…ってナニコレ!?

「〖魔法板〗と呼ばれるスキルの一つじゃ」

 これは瑠華がレギノルカであった時から持っている、〖魔法板〗と呼ばれるスキルの一つだ。

(知識を与えるには、言葉だけでは不十分だったでのう…)

 このスキルは、脳内で思い描いた物全てを正確に空間に描画する事が出来る。これのおかげでレギノルカは、一切の誤解無く知識を人に齎す事が出来たのだ。

 :聞いた事ない…
 :固有スキル?

「まぁそんなところじゃな」

 :ほへぇ…
 :でもこれ結構便利だね。
 :攻撃とかには使えないけど、こうして情報を伝えるにはめちゃ使えるね。

 ……実はその板が攻城魔法をも耐えうるというのは、全くの余談である。

(そういえば、昔このスキルで人と遊んだ戦争した事があったのう…)

 ―――この龍何してんのほんとに……。








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

出会った番(つがい)は同性でした

恋愛
竜人族のカミラはある日番(つがい)に出会う。相手は旅行に来ていた人族の女の子。 美形が多い竜人族の中でも飛び抜けた容姿の持ち主で、興味のない相手には無表情が基本な竜人族の女性が人違いかと思われるくらい、人族の女の子(番)をでろっでろに甘やかすお話。 *視点の切り替えがあります。 *鬱展開はありません。 *小説家になろうからの転載です

追放されてから数年間ダンジョンに篭り続けた結果、俺は死んだことになっていたので、あいつを後悔させてやることにした

チドリ正明@不労所得発売中!!
ファンタジー
世間で高い評価を集め、未来を担っていく次世代のパーティーとして名高いAランクパーティーである【月光】に所属していたゲイルは、突如として理不尽な理由でパーティーを追放されてしまった。 これ以上何を言っても無駄だと察したゲイルはパーティーリーダーであるマクロスを見返そうと、死を覚悟してダンジョンに篭り続けることにした。 それから月日が経ち、数年後。 ゲイルは危険なダンジョン内で生と死の境界線を幾度となく彷徨うことで、この世の全てを掌握できるであろう力を手に入れることに成功した。 そしてゲイルは心に秘めた復讐心に従うがままに、数年前まで活動拠点として構えていた国へ帰還すると、そこで衝撃の事実を知ることになる。 なんとゲイルは既に死んだ扱いになっており、【月光】はガラッとメンバーを変えて世界最強のパーティーと呼ばれるまで上り詰めていたのだ。 そこでゲイルはあることを思いついた。 「あいつを後悔させてやろう」 ゲイルは冒険者として最低のランクから再び冒険を始め、マクロスへの復讐を目論むのだった。

 女を肉便器にするのに飽きた男、若返って生意気な女達を落とす悦びを求める【R18】

m t
ファンタジー
どんなに良い女でも肉便器にするとオナホと変わらない。 その真実に気付いた俺は若返って、生意気な女達を食い散らす事にする

チュートリアル場所でLv9999になっちゃいました。

ss
ファンタジー
これは、ひょんなことから異世界へと飛ばされた青年の物語である。 高校三年生の竹林 健(たけばやし たける)を含めた地球人100名がなんらかの力により異世界で過ごすことを要求される。 そんな中、安全地帯と呼ばれている最初のリスポーン地点の「チュートリアル場所」で主人公 健はあるスキルによりレベルがMAXまで到達した。 そして、チュートリアル場所で出会った一人の青年 相斗と一緒に異世界へと身を乗り出す。 弱体した異世界を救うために二人は立ち上がる。 ※基本的には毎日7時投稿です。作者は気まぐれなのであくまで目安くらいに思ってください。設定はかなりガバガバしようですので、暖かい目で見てくれたら嬉しいです。 ※コメントはあんまり見れないかもしれません。ランキングが上がっていたら、報告していただいたら嬉しいです。 Hotランキング 1位 ファンタジーランキング 1位 人気ランキング 2位 100000Pt達成!!

大好きな母と縁を切りました。

むう子
ファンタジー
7歳までは家族円満愛情たっぷりの幸せな家庭で育ったナーシャ。 領地争いで父が戦死。 それを聞いたお母様は寝込み支えてくれたカルノス・シャンドラに親子共々心を開き再婚。 けれど妹が生まれて義父からの虐待を受けることに。 毎日母を想い部屋に閉じこもるナーシャに2年後の政略結婚が決定した。 けれどこの婚約はとても酷いものだった。 そんな時、ナーシャの生まれる前に亡くなった父方のおばあさまと契約していた精霊と出会う。 そこで今までずっと近くに居てくれたメイドの裏切りを知り……

百合ゲーの悪女に転生したので破滅エンドを回避していたら、なぜかヒロインとのラブコメになっている。

白藍まこと
恋愛
 百合ゲー【Fleur de lis】  舞台は令嬢の集うヴェリテ女学院、そこは正しく男子禁制 乙女の花園。  まだ何者でもない主人公が、葛藤を抱く可憐なヒロイン達に寄り添っていく物語。  少女はかくあるべし、あたしの理想の世界がそこにはあった。  ただの一人を除いて。  ――楪柚稀(ゆずりは ゆずき)  彼女は、主人公とヒロインの間を切り裂くために登場する“悪女”だった。  あまりに登場回数が頻回で、セリフは辛辣そのもの。  最終的にはどのルートでも学院を追放されてしまうのだが、どうしても彼女だけは好きになれなかった。  そんなあたしが目を覚ますと、楪柚稀に転生していたのである。  うん、学院追放だけはマジで無理。  これは破滅エンドを回避しつつ、百合を見守るあたしの奮闘の物語……のはず。  ※他サイトでも掲載中です。

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

処理中です...